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第二十六話 ゲームの抜け道

隊長は小さく頷いた。


「ある。」


「ついて来い。」


歩き出しかけた隊長が、ふと思い出したように振り返る。


「そういえば、まだ名乗っていなかったな。」


「俺はレオン。」


「アルカディア防衛隊第三中隊の隊長をしている。」


司も軽く頭を下げた。


「司です。」


「よろしくお願いします、レオン隊長。」


レオンは小さく笑った。


「ああ。」


「改めて案内しよう。」


司たちはレオンの後を歩き始めた。


ガレージを出ようとした時。


司はふと壁へ目を向けた。


そこには、大きな翼を模した紋章が描かれていた。


「……」


見覚えがある。


だが、今まで気にしたことはなかった。


装備を作り、機体を整備する。


司にとってガレージとは、それだけの場所だった。


けれど、今は違う。


ここでは人が働き、生活し、戦争を支えている。


あの紋章も、単なるマークではない。


この街で暮らす人々にとっては、自分たちが属する組織そのものなのだ。


司はしばらく紋章を見つめた。


「……随分、見え方が変わったな」


「何か言ったか?」


レオンが振り返る。


「いや。」


「行きましょう。」


司は歩き出した。


◇ ◇ ◇


アルカディア中央商業区。


広い通りの両脇には、様々な店が並んでいた。


レオンに案内され、一行はホームセンターを思わせる大型店舗へ入る。


店内を歩いていると、シルヴィアが足を止めた。


「お兄ちゃん、これ!」


棚には様々な武器スキンが並んでいる。


『セプターワンド』


『クラシックライフル』


『レーザーブレード』


どれも見た目だけを変更する装飾品だ。


説明欄には一行。


【性能は変化しません】


司は一目見て興味を失った。


「見た目だけか。」


アルマも確認する。


「戦闘能力に変化なし。」


「不要です。」


しかし、シルヴィアは目を輝かせていた。


「可愛い……」


レオンはその様子を見て笑う。


「そのくらいなら構わん。」


「先程は銃を向けてしまったからな。」


「詫びとして受け取ってくれ。」


「え?」


シルヴィアが慌てる。


「いいの?」


「ああ。」


シルヴィアは嬉しそうにセプターワンドを抱えた。


司は苦笑する。


「性能は変わらないぞ。」


「うん!」


「でも可愛いもん!」


レオンも思わず笑った。


「その笑顔なら安い買い物だ。」


◇ ◇ ◇


店の奥へ進んだところで、司は足を止めた。


壁一面に、木馬が並んでいる。


小さな子供用から、大人が跨れる大型のものまで。


その数は百を超えていた。


シルヴィアが首を傾げる。


「木馬?」


「ああ。」


司は一台を手に取る。


木製。


四本脚。


車輪すら付いていない。


どう見ても玩具だ。


「これ……何に使うの?」


「さあな。」


司は木馬をひっくり返した。


底面。


脚部。


胴体。


特に変わったところはない。


だが、司は何かを思いついたように目を細めた。


「……一つ、試してみるか。」


◇ ◇ ◇


大量の木馬がガレージへ運び込まれる。


ガコン。


ガコン。


ガコン。


作業場へ積み上げられていく木馬の山を見て、整備兵たちは次々と振り返った。


「……木馬?」


「何を始める気だ?」


レオンも眉をひそめる。


「司。」


「一つ聞いていいか。」


「はい。」


「本当に、これを使うのか?」


「ああ。」


司は迷いなく頷いた。


レオンは額へ手を当てる。


「普通は鉄材や合金を持ち込む。」


「木馬を大量に持ち込む者など、俺は見たことがない。」


周囲の整備兵たちからも苦笑が漏れる。


「何に使うんだ?」


「燃料にもならないだろ。」


「そもそも百台も何に使うんだよ……」


司は答えず、製造端末へ向かった。


「まず、一台。」


木馬を素材投入口へ入れる。


ガコン。


端末が反応した。


【素材を確認】


【Vehicle Frame】


司の目が見開かれる。


「……通った。」


アルマが表示を確認する。


「ビークルフレームとして認識されています。」


シルヴィアも目を丸くする。


「本当に?」


「ああ。」


司は木馬を見つめた。


まさか、本当に通るとは思っていなかった。


だが、ここまで来れば確信できる。


この世界には、装備や素材を分類する独自の基準がある。


ならば。


「素材として使えるなら、形なんて関係ない。」


司は笑った。


「重要なのは、何に見えるかじゃない。」


「どう認識されるかだ。」


レオンが木馬と端末を交互に見る。


「……つまり?」


「こいつは玩具として売られてる。」


司は木馬を指差す。


「でも、製造システムはビークルとして認識した。」


「だったら――」


司は製造端末の一覧を開く。


装甲車。


戦車。


輸送車。


様々な車両の設計データが並んでいる。


その中から装甲車を選択する。


【Vehicle Frame】


【装甲材】


【動力部】


【武装】


必要素材が表示された。


司は木馬をもう一度見る。


「……面白い。」


シルヴィアが苦笑する。


「何をする気?」


司は口元を吊り上げた。


「こいつを装甲車にする。」


「…………」


ガレージに沈黙が落ちる。


レオンがゆっくりと木馬を見た。


「これが?」


「ああ。」


「装甲車に?」


「やってみる価値はある。」


アルマが淡々と尋ねる。


「成功する確率は?」


「知らん。」


司は即答した。


「でも、試さない理由もない。」


これまで司は、知っている知識の中から答えを探していた。


だが、それでは足りない。


ならば。


知らない仕組みそのものを試せばいい。


司は製造端末へ手を伸ばした。


「さて。」


「どこまで通用するか、試してみよう。」


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