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第二十五話 裏切られた常識(後半)

司たちは宇宙港へ戻ると、その足でガレージへ向かった。


アルマの右腕は、整備兵の手で修理を受けている。


「盾で防いだのは間違ってません」


整備兵は装甲を外しながら苦笑した。


「ただ、衝撃までは殺しきれなかったみたいだな」


「ジョイントに細かい負荷が溜まってる」


「これくらいなら、すぐ直る」


アルマは修理されていく自分の腕を見つめた。


「……次は、距離も考慮します」


「それでいい」


やがて修理が終わる。


医療ポッドで傷を治療し終えた頃には、三人ともようやく落ち着きを取り戻していた。


司は椅子へ腰を下ろし、大きく息を吐く。


「参ったな……」


シルヴィアも苦笑する。


「あんなラビー、反則だよ」


「最初は可愛いって思ったのに……」


アルマが戦闘記録を表示する。


「ラビーの兵装は高火力・長射程」


「現在の装備による突破成功率、二・七パーセント」


「推奨しません」


「だよな……」


司は腕を組む。


一体の敵を相手に、こちらが逃げるしかなかった。


数を増やしたところで、あの火力ではまとめて薙ぎ払われる。


ビームガンも射程が足りない。


正面から撃ち合えば、こちらが先に削られる。


「……正面から行くのは無理だな」


司は製造端末を眺めた。


そして。


「……あ」


小さく声が漏れた。


シルヴィアが首を傾げる。


「お兄ちゃん?」


司は勢いよく立ち上がった。


「そうだ」


「ビークルだ」


アルマが司を見る。


「車両兵器、ですか?」


「ああ」


司の表情が明るくなる。


「入口は広かった」


「車が入れる」


「装甲車なら、あのガトリングを受けながらでも前進できる可能性がある」


「砲塔があれば、こちらから反撃もできる」


司は拳を握った。


「人間が歩いて突破する必要なんてないんだ」


これまで、敵を倒すことばかり考えていた。


だが、目的は殲滅ではない。


最深部へ到達することだ。


「……問題は」


司の表情が曇る。


「金だな」


軍用ビークルは高価だ。


中古でも簡単に手が出せる代物ではない。


「ですよね……」


司は考え込む。


何か、金になる物はないか。


そこで。


アイテムバッグの中身を思い出した。


「……そうだ」


サファイア。


デソラで大量に拾ったものだ。


七百個。


もっとも、全部を売るつもりはない。


司は慎重に考える。


(三十個だけ売る)


(残りは交渉材料として残す)


そして。


クリスタルとダイヤモンドの存在は伏せておく。


まだ、この世界での価値が分からない。


司はアイテムバッグへ手を入れた。


作業台へ、三十個のサファイアを並べる。


コト。


コト。


コト。


隊長は何気なく視線を向けた。


そして。


表情が固まった。


「……それは?」


「サファイアですけど」


隊長は一つを手に取る。


光へかざす。


角度を変える。


何度も確認する。


やがて、周囲の整備兵たちも異変に気付いた。


「嘘だろ……」


「これ、本物か?」


「鑑定器を持ってこい!」


ざわめきが広がる。


司は戸惑った。


「そんなに珍しいのか?」


隊長は真剣な顔で頷いた。


「珍しいなんてものじゃない」


「アルカディアでも宝石そのものは採れる」


「だが、これほど高純度の結晶は何十年も確認されていない」


司は目を瞬かせる。


「……何十年も?」


「ああ」


隊長はサファイアを見つめる。


「もし本当にデソラで採れたものなら、話が変わる」


「デソラは資源価値の低い惑星だと考えられている」


「だが、これが大量に存在するなら――」


隊長の表情が変わる。


「惑星そのものの資源評価を見直す必要がある」


司は黙り込んだ。


思っていた以上に、話が大きい。


隊長は低い声で続ける。


「頼む」


「間違っても市場へ大量に流さないでくれ」


「価格が崩れるだけじゃない」


「デソラの資源権を巡って、軍も企業も動き出す」


司はシルヴィアと顔を見合わせた。


確かに。


これは単なる換金材料ではない。


資源そのものだ。


隊長はしばらく考えた後、口を開く。


「軍が買い取ろう」


「一個、百万ダラーでどうだ」


「…………」


司は固まった。


「……は?」


隊長は淡々と続ける。


「この純度なら、百万でも安いくらいだ」


「軍としても、出せる範囲では最大限の評価になる」


司は三十個のサファイアを見る。


三千万ダラー。


桁が大きすぎて、すぐには実感できない。


「……売ります」


「分かった」


数分後。


司の端末へ入金通知が表示された。


【入金額:30,000,000ダラー】


司はしばらく数字を眺める。


「……三千万」


思わず乾いた笑いが漏れた。


想像以上の大金だった。


これなら、装備の調達にも困らない。


だが。


同時に、司は別のことを考えていた。


自分が知っている価値と、この世界での価値は一致しない。


装備も。


敵も。


資源も。


知識だけを頼りにしていたら、また痛い目を見る。


「……ちゃんと、この世界を見ないとな」


司は小さく呟いた。


隊長が首を傾げる。


「どうした?」


「いや」


司は顔を上げる。


「一つ、お願いがあります」


「何だ?」


「この近くに、おもちゃ屋はありますか?」


「……おもちゃ屋?」


隊長が目を瞬かせる。


司は製造端末へ視線を向けた。


「はい」


「ちょっと試したいことがあります」


シルヴィアも不思議そうに司を見る。


「お兄ちゃん、何を買うの?」


司は答えなかった。


ただ、口元には小さな笑みが浮かんでいた。


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