第二十四話 裏切られた常識(前半)
フォージ・アーカイブ。
アルカディア地下へ続く巨大な搬入口は、今も静かに口を開けていた。
半壊した鋼鉄製の扉。その隙間から、冷たい風が吹き抜けている。
司は入口の前で足を止めた。
「ここだ。」
かつて何度も攻略した場所。
だが、実際に目の前にすると、その巨大さは画面越しとは比べものにならない。
「暗いね……。」
シルヴィアが司のすぐ後ろへ寄る。
アルマが周囲を走査する。
「生命反応なし。」
「機械反応を二つ確認。」
司は頷いた。
「入口から慎重に行くぞ。」
三人は遺跡へ足を踏み入れた。
静まり返った通路。
床には古いコンベア。
砕けたクレーン。
錆びた製造ライン。
何百年も止まった工場が、地下深くに眠っている。
その時。
カサッ。
通路の奥から、一体の小型機械が姿を現した。
丸い胴体。
長い耳。
愛嬌のある赤い目。
「ラビーか。」
司は一瞬、警戒を緩めかけた。
だが、デソラでの経験が脳裏をよぎる。
「……待て。」
ビームガンを構える。
その瞬間。
ガコン。
ラビーの背中が開いた。
「……え?」
内部から大型兵装がせり上がる。
六本の砲身。
高速回転する銃身。
司の表情が凍った。
「シルヴィア!」
「伏せろ!」
ガガガガガガガガガッ!!
凄まじい銃声が遺跡中へ響き渡る。
壁が弾け、床へ無数の火花が散る。
司とシルヴィアは、近くのスクラップへ飛び込んだ。
アルマだけが取り残される。
遮蔽物まで距離がある。
アルマは逃げなかった。
「大盾、展開。」
腕部フレームが変形し、大型シールドが展開される。
ガガガガガガガガガッ!!
弾丸が次々と盾へ突き刺さる。
貫通はしない。
だが、衝撃までは殺し切れない。
ジョイントへ負荷が蓄積していく。
「アルマ!」
「防御を継続します。」
司はスクラップの隙間からラビーを睨む。
「ゲームに、あんな装備はなかった……!」
ラビーは無表情のまま撃ち続ける。
やがて。
砲身の回転が止まった。
「リロードか……?」
「今だ!」
司が飛び出す。
青白いビームが一直線に走り、ラビーの頭部を撃ち抜いた。
小型機は火花を散らし、その場へ崩れ落ちる。
アルマも盾を下ろした。
「損傷を確認。」
「腕部出力、九十二パーセント。」
司は息を吐く。
「よく耐えた。」
「ありがとうございます。」
その時だった。
ピッ。
ピッ。
通路の奥から電子音が聞こえてくる。
一つ。
二つ。
三つ。
そして――。
「……ボムボム。」
丸い球体が、次々と転がってきた。
司の顔から血の気が引く。
「下がれ!」
一体。
また一体。
やがて通路を埋め尽くすほどの数になる。
「……多すぎる。」
本来なら、ここまでの数ではない。
ラビーも変わっていた。
なら、こいつらも同じだ。
「逃げるぞ!」
三人は一斉に入口へ走り出した。
背後で爆発が連続する。
ドォン!
ドォン!
ドォォォン!!
爆風が通路を駆け抜ける。
司は何度も振り返りながら走る。
「止まるな!」
「入口まで行けば――!」
最後の爆発が背後で弾けた。
ドゴォォォン!!
三人は吹き飛ばされながら、どうにか遺跡の外へ転がり出た。
しばらく誰も動かなかった。
やがて司が身体を起こす。
「……全員、生きてるか?」
「私は大丈夫。」
シルヴィアが答える。
アルマも立ち上がった。
「軽微な損傷のみです。」
司は三人の装備を確認する。
傷。
弾痕。
焼け焦げ。
それでも動ける。
司はフォージ・アーカイブの入口を睨んだ。
「……駄目だ。」
「このままじゃ攻略できない。」
シルヴィアが不安そうに尋ねる。
「ゲームの知識は……?」
司は一度答えかけ、首を横に振った。
「通用する。」
「……いや。」
「正確には、通用する部分もある。」
ラビーもボムボムも、名前も姿も同じだった。
だからこそ厄介だった。
「敵そのものは同じだ。」
「でも、装備も行動も違う。」
司は拳を握る。
「俺が知ってる攻略法は、敵が決められた動きをすることが前提だった。」
「その前提が崩れた。」
アルマが尋ねる。
「再突入しますか?」
「……しない。」
司は即答した。
「今の装備じゃ無理だ。」
「まず強化する。」
「敵の情報も集める。」
「それから攻略方法を考える。」
司は立ち上がった。
「知識を捨てる必要はない。」
「ただ――」
フォージ・アーカイブを睨む。
「ゲームの常識だけを信じるのは、もうやめる。」
三人はアルカディアの街へ向かって歩き始めた。
その背後。
暗い搬入口の奥では、無数の機械音が鳴り続けていた。




