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第二十二話 星海への旅立ち

司の呟きに応えるように、アストラが静かに続けた。


「詳しい機能については、追ってご説明します。」


「まずは船内をご案内します。」


その直後。


通路の奥から、小さな駆動音が近付いてきた。


コロコロ、という軽い音。


やがて姿を現したのは、一体の小型ロボットだった。


全高はシルヴィアの胸ほど。


丸みを帯びた白い装甲。


大きな青い単眼カメラ。


細い両腕の先には、工具や端末操作に適した繊細な指が備わっている。


腰には小型プロジェクターや点検用ツール。


武器らしきものは一つもない。


明らかに戦闘用ではなかった。


ロボットは三人の前で停止すると、小さく一礼する。


「改めまして。」


「本艦のご案内を担当する端末です。」


「アストラの管理下で、艦内案内、設備管理、保守点検、およびマスター補佐を行っております。」


シルヴィアが目を丸くする。


「かわいい……。」


「戦うロボットじゃないんだね。」


「本機に戦闘能力は搭載されておりません。」


ロボットは淡々と答えた。


「戦闘以外の艦内業務を主任務としております。」


「そっか。」


シルヴィアは安心したように笑った。


眠っていた照明が、一つずつ灯っていく。


司たちはアストラの案内に従い、静かな通路を歩き始めた。


四百二十七年も放置されていたとは思えないほど、船内は綺麗だった。


「埃一つないな。」


「本艦の自律保守システムが稼働を継続しておりました。」


「四百年以上も?」


「はい。」


「電力は?」


「休眠状態では消費を最小限に抑えておりました。」


司は感心したように船内を見回す。


「……想像していたより、ずっと高性能だな。」


◇ ◇ ◇


やがて大きな食堂へ出た。


長いテーブル。


整然と並んだ椅子。


だが、人の姿はどこにもない。


シルヴィアは静かな空間を見回した。


「……ここに人がいたんだね。」


司は答えず、テーブルへそっと手を置いた。


最後に乗員がここを使ったのは、四百二十七年前。


そう考えると、この静けさが妙に重く感じられた。


「続いて医療区画へご案内します。」


白い扉が開く。


中央には、一基の医療ポッドがあった。


「左肩の修復を推奨します。」


「頼む。」


司は迷わず中へ入った。


透明なカバーが閉じる。


淡い光が左肩を包み込んだ。


【フレーム修復中】


静かな機械音が続く。


数分後。


【修復完了】


カバーが開いた。


司はゆっくり左腕を動かす。


今度は何の違和感もない。


「……完全に戻った。」


「ありがとうございます。」


「こちらが礼を言う側だよ。」


司は左肩を軽く回した。


「助かった。」


その時。


司はアイテムバッグから黒いデバイスを取り出した。


「アストラ。」


「これについて聞きたい。」


黒い金属製の小型デバイス。


【Penetration Tool】


「どうすれば、こいつの情報へアクセスできる?」


アストラが沈黙する。


数秒後。


「回答します。」


「当該情報の閲覧には、レベル五十以上の権限が必要です。」


司の眉が動く。


「レベル五十?」


「はい。」


「現在のマスターのレベルは三十。」


「この惑星における上限へ到達しています。」


「上限を超えるには、リミットキーによる制限解除が必要です。」


司は小さく息を吐いた。


「やっぱりか。」


レベル三十から先へ進むには、リミットキーが必要。


だが。


「リミットキーは、誰でも使えるのか?」


「いいえ。」


「天使軍の幹部権限保持者へ支給される認証装置です。」


「レベル五十へ到達した者は、軍事システム上で幹部権限保持者として認定されます。」


「極めて重要な軍用資産です。」


司は腕を組んだ。


必要なのは、リミットキー。


そして、そのためには天使軍の権限が必要になる。


「……まずはガレージを確認する。」


それで作れなければ。


次の候補は自然と決まる。


アルカディア。


天使軍の軍事施設が多く残っている惑星だ。


「アルカディアへ行く。」


「そこでリミットキーを探す。」


「了解しました。」


アストラが答える。


司はデバイスをしまった。


「よし。」


「出発しよう。」


◇ ◇ ◇


シャトルが低く唸り始める。


長い眠りから目覚めた船体が、ゆっくりと浮上した。


格納庫を抜ける。


高度が上がる。


やがて大気圏を突破した。


青空が消える。


漆黒の宇宙が広がった。


「お兄ちゃん、見て!」


シルヴィアが窓へ駆け寄る。


「すごい……。」


無数の星が、視界いっぱいに広がっている。


アルマも静かに窓の外を見つめていた。


「……アルマ?」


シルヴィアが声をかける。


アルマはしばらく黙っていた。


「この星に、記憶はありません。」


「ですが……。」


胸へ手を当てる。


「何か、小さな信号のようなものを感じます。」


司が振り向く。


「信号?」


「はい。」


「具体的な情報として認識できません。」


「ただ……。」


アルマは遠ざかっていくデソラを見つめる。


「名残惜しい、という感覚に近いのかもしれません。」


「……不思議ですね。」


シルヴィアはアルマの隣へ立った。


「初めて目覚めた場所だからかな。」


「……そうかもしれません。」


アルマは小さく頷いた。


「まだ、うまく定義できません。」


司も窓の外へ目を向けた。


遠ざかっていくデソラ。


鉄屑に覆われた荒廃惑星。


何もないと思っていた星。


だが、そこでヴァルキリーフレームを見つけ。


アルマと出会い。


そして、正体不明のデバイスまで手に入れた。


「……結局、何だったんだろうな。」


司は黒いデバイスを思い出す。


答えは、まだない。


その時。


前方の暗闇に、一つの巨大な惑星が姿を現した。


青と白に彩られた惑星。


司は目を細める。


「……アルカディアか。」


アストラが淡々と告げる。


「目的地、アルカディア。」


「到着予定時刻、四時間三十二分後。」


シャトルは静かに加速していく。


デソラが、ゆっくりと遠ざかっていった。


こうして司たちの旅は、惑星の外へと踏み出した。


そして次に待つアルカディアには――。


まだ誰も知らない現実が、彼らを待っていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、【ポイント評価(★★★★★)】やブックマークで応援していただけると嬉しいです。


それでは、次の話もよろしくお願いします!

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