第二十一話 眠れるシャトル
荒野に静寂が戻った。
司は周囲を見渡す。
「回収を始めよう。」
アルマは周囲を警戒しながら報告する。
「周辺二キロ以内に高脅威反応なし。」
「戦闘終了と判断します。」
「よし。」
三人はガラクタドラゴンの残骸へ近付いた。
飛び散ったスクラップ。
砕けた装甲。
そして、吹き飛んだ飛行ユニット。
司は必要な物だけを選び、アイテムバッグへ収納していく。
シルヴィアが不思議そうに尋ねる。
「これだけ?」
「まだいっぱい残ってるよ?」
司は首を振る。
「全部は持っていけない。」
「スクラップなら、どの惑星でも手に入る。」
「ここでしか手に入らない物を優先する。」
司は高品質合金と飛行ユニットの残骸を回収する。
そして――。
黒いデバイスを取り出した。
【Penetration Tool】
静かな金属光沢。
表面には、見覚えのない文字が刻まれている。
司は数秒だけ見つめ、アイテムバッグへしまった。
「……こいつもだ。」
そして左肩へ視線を落とす。
【WARNING】
【左肩フレーム損傷】
【左腕出力 68%】
警告表示は、まだ消えていない。
シルヴィアが心配そうに覗き込む。
「お兄ちゃん、その肩……。」
「シャトルで修理する。」
司は左腕を軽く動かした。
やはり、ほとんど力が入らない。
「ここで時間を使うより、先へ進んだ方がいい。」
「解析も修理も、全部シャトルでやる。」
シルヴィアは大きく頷いた。
「うん!」
アルマも即座に応じる。
「了解しました。」
三人は宇宙港へ向かって歩き始めた。
シルヴィアは途中で一度だけ振り返る。
遠くには小さな街。
そのさらに向こうには、倒れたガラクタドラゴン。
「……終わったんだね。」
司も荒野を振り返った。
「ああ。」
「ここが、俺たちの旅の始まりだ。」
そして三人は再び前を向いた。
◇ ◇ ◇
やがて、宇宙港へ到着した。
司は目の前のシャトルを見上げる。
何百年もの風雨に晒されながら、それでも倒れることなく佇んでいる。
「……やっとここまで来た。」
司はシャトルを見上げる。
「頼むぞ。」
「まだ飛べてくれよ。」
その時。
シルヴィアがシャトルの船体を指差した。
「お兄ちゃん。」
「何?」
「これ……本当に動くの?」
司は少しだけ苦笑する。
「動くはずだ。」
「それ、答えになってないよ。」
「……まあ、試してみるしかない。」
司はハッチへ向かう。
途中で大きなガラクタを持ち上げようとした。
ガクッ。
左腕が力なく下がる。
「……くそ。」
シルヴィアがすぐに荷物を受け取った。
「私が持つよ。」
「悪い。」
やがて三人は巨大なハッチの前へ立った。
司は右手で認証端末へ触れる。
ピッ。
静かな電子音が格納庫へ響く。
一秒。
二秒。
三秒。
反応はない。
「……駄目か?」
司が端末へもう一度触れようとした、その瞬間。
ピッ。
認証ランプが点灯した。
ゴゴゴゴゴ……。
長い眠りから目覚めるように、分厚いハッチがゆっくりと開いていく。
暗闇だった船内へ照明が一つ。
また一つ。
順番に灯っていく。
ブゥン……。
止まっていた空調が動き始める。
そして。
『生命反応を確認。』
船内スピーカーから、女性の声が響いた。
『乗員認証を開始します。』
青い光が三人をゆっくりと走査する。
『認証完了。』
『乗員数……三名。』
そこで声が止まった。
数秒。
長い沈黙。
やがて。
『最後の乗員確認より――』
『四百二十七年。』
シルヴィアが目を丸くする。
「四百二十七年……?」
AIは淡々と続けた。
『ようこそ、お客様。』
『本艦へお越しいただき、ありがとうございます。』
そして、ほんの僅かに声の調子が変わった。
『長らく、お待ちしておりました。』
三人は言葉を失った。
さらに数秒。
『……申し訳ありません。』
『歓迎シーケンスの実行は、四百二十七年ぶりです。』
『正常に動作しているか、少々自信がありません。』
シルヴィアが思わず吹き出した。
「ふふっ。」
「なんだか可愛い。」
司も思わず笑った。
「よろしく頼む。」
『はい。』
『本艦船長支援AI、アストラ。』
『お客様の航行を、責任をもって補佐いたします。』
「船長、か。」
司は少しだけ苦笑した。
「昔は、こんなもの必要なかったんだけどな……。」
その時。
『……未登録の発言を確認しました。』
「え?」
AIの応答が一瞬だけ遅れる。
『いえ。』
『失礼しました。』
司は眉をひそめた。
「……?」
アルマもアストラの音声を解析している。
「今の発言に、不自然な反応がありました。」
「俺もそう思う。」
司はバッグから黒いデバイスを取り出した。
「一つ聞きたい。」
「これを知ってるか。」
『…………』
アストラの応答が止まる。
数秒。
さらに数秒。
『識別を試行します。』
船内の照明が一瞬だけ明滅した。
『……認識しました。』
司の表情が変わる。
「知ってるのか?」
『はい。』
『当該デバイスは、登録されています。』
司が一歩近付く。
「なら教えてくれ。」
『申し訳ありません。』
『現在の権限では回答できません。』
「……権限?」
『はい。』
『当該情報へのアクセスには、上位管理権限が必要です。』
司はしばらく黙っていた。
やがて、黒いデバイスをアイテムバッグへしまう。
「……ますます気になるな。」
アストラは何も答えなかった。
ただ、静かな船内には。
四百二十七年ぶりに動き始めた機械の音だけが響いていた。




