第二十話 首を落とせ
土煙がゆっくりと晴れていく。
ガラクタドラゴンは倒れていた。
両翼は完全に失われている。
巨体は腹這いとなり、長い首だけがゆっくりと持ち上がった。
ギギ……
ガリ……
腹部の装甲を地面へ擦り付けながら、一歩ずつこちらへ近付いてくる。
飛ぶことは、もうできない。
それでも止まらない。
シルヴィアが小さく呟く。
「まだ動く……。」
司も油断しなかった。
「近付くな。」
「まだ終わってない。」
ガラクタドラゴンが再び口を開く。
喉の奥が赤く染まり始めた。
「また来る!」
「全員、隠れろ!」
ゴォォォォォォォッ!!
炎が再び要塞へ叩き付けられた。
轟音。
熱風。
鋼板が軋みを上げる。
そして。
ジュウウウウ……
最初の火炎で付着していた燃料へ、新たな炎が重なった。
赤黒い炎が一気に勢いを増す。
鋼板の一枚が真っ赤に焼け、ゆっくりと歪み始める。
「司!」
シルヴィアが叫ぶ。
「壁が!」
ガコンッ。
焼けた固定ボルトが弾け飛ぶ。
一枚のバリケードが前方へ倒れた。
司は舌打ちする。
「もう保たない!」
「次で突破される!」
火炎が止む。
司が身を乗り出す。
「撃て!」
三人は同時に攻撃を開始した。
アルマのラージチェインガン。
シルヴィアのビームガン。
そして司のビームガン。
狙うのは胴体。
ドドドドドドドドッ!!
砲弾が装甲を削る。
ビームが赤熱したスクラップを吹き飛ばす。
しかし。
ガラクタドラゴンは止まらない。
腹這いのまま、ゆっくりと前進を続けている。
司は眉をひそめた。
「硬い……。」
「スクラップの寄せ集めなのに、妙に頑丈だ。」
その時だった。
アルマが短く告げる。
「解析完了。」
「内部動力の大半が頸部へ集中しています。」
司がドラゴンを見る。
長い首。
そこだけが他より太い。
首元には何本もの太いケーブルが束になって走っている。
「……そういうことか。」
司の目が鋭くなる。
「首だ。」
「動力が全部そこを通ってる。」
シルヴィアが聞き返す。
「急所ってこと?」
「ああ。」
「胴体を撃っても意味がない。」
「あそこを壊せば、全部止まる。」
ガラクタドラゴンが再び口を開く。
赤い光が灯る。
「来るぞ!」
ゴォォォォォッ!!
三度目の火炎放射。
炎が要塞を飲み込む。
ジュウウウウ……
ゲル燃料がさらに積み重なる。
焼けた鋼板が赤く輝き始める。
ミシ……
ミシミシ……
「限界だ!」
司が叫ぶ。
「次で勝負を決める!」
火炎が止む。
「アルマ!」
「首へ一点集中!」
「了解。」
ウィィィィン……
チェインガンの砲身が唸る。
ドドドドドドドドドドドドッ!!
徹甲弾が首へ集中する。
火花。
装甲片。
少しずつ装甲が削れていく。
しかし、その瞬間だった。
バキィィッ!!
ガラクタドラゴンの肩装甲が、自重に耐え切れず弾け飛んだ。
ガン!!
巨大なボルトが弾丸のような速度で飛ぶ。
鋼板を貫通。
一直線に司へ迫る。
「しまっ――」
ドゴッ!!
左肩へ直撃した。
「ぐっ!!」
司の身体が吹き飛ぶ。
何度も転がり、ようやく止まった。
【WARNING】
【左肩フレーム損傷】
【左腕出力 68%】
赤い警告表示が視界を埋め尽くした。
左腕が動かない。
握っていたビームガンも、地面へ転がっている。
「司!」
シルヴィアが駆け寄ろうとする。
「来るな!」
司は右手だけで身体を起こした。
肩から鈍い痛みが伝わってくる。
「前を見ろ!」
「まだ撃てる!」
アルマは動揺することなく、チェインガンを撃ち続ける。
ドドドドドドドドッ!!
首の装甲へ、同じ場所を集中攻撃する。
やがて。
バキッ。
厚い装甲が割れた。
中から青白いケーブルが露出する。
司はそれを見逃さなかった。
「見えた!」
「あそこだ!」
「そこが急所だ!」
シルヴィアは大きく頷く。
「任せて!」
ビームガンを構える。
深呼吸。
照準を合わせる。
「外さない!」
引き金を引いた。
青白い閃光が一直線に走る。
ジュウウウウッ!!
露出した動力ケーブルを焼き切った。
ブツン。
その瞬間だった。
ガラクタドラゴンの赤い瞳から光が消える。
口の奥で燃えていた炎も消えた。
巨体がゆっくりと崩れ落ちる。
ズゥゥゥン……
長い首が地面へ倒れ伏す。
スクラップが崩れる音だけが、荒野へ響いた。
司は荒い息を吐く。
「……終わった。」
その直後。
三人の視界へシステムウィンドウが浮かび上がる。
【FIELD BOSS CLEAR】
【経験値を獲得しました】
【ダラー×5000】
【スクラップ×200】
【飛行ユニット残骸】
司は表示を確認する。
「ここまでは、知っている範囲だ。」
だが。
もう一つの表示に目が止まった。
【Penetration Tool】
司の表情が消える。
「……何だ、それ。」
黒い金属製の小型デバイス。
表面には読めない文字が刻まれている。
見覚えがない。
シルヴィアが興味深そうに近付く。
「お兄ちゃん、これ触って大丈夫?」
好奇心を抑えきれない様子で、じりじりと手を伸ばす。
パシッ。
司は反射的にその手首を掴んでいた。
「触るな。」
思わず強い口調になった。
シルヴィアが驚いて司を見る。
「え……?」
司自身も少し戸惑う。
「……悪い。」
「正体が分からない物に、素手で触る理由はない。」
「ただ……。」
司はデバイスを見つめる。
胸の奥で警鐘が鳴っていた。
ガラクタドラゴン。
想定外の攻撃。
そして、この未知のアイテム。
「もしかしたら……。」
「全部、繋がってるのかもしれない。」
司はデバイスをアイテムバッグへしまう。
「これは俺が預かる。」
「解析も修理もシャトルの中だ。」
「ここで時間は使えない。」
左肩の警告表示が、まだ赤く点滅していた。
【左肩フレーム損傷】
【左腕出力 68%】
司は左腕を動かそうとする。
だが、肘から先はほとんど反応しない。
「……これは、早めに修理した方がいいな。」
シルヴィアが心配そうに覗き込む。
「歩ける?」
「ああ。」
司は立ち上がる。
「右腕は使える。」
「それなら十分だ。」
強がりだった。
だが、立ち止まっている余裕はない。
第一惑星デソラ。
ガラクタドラゴンは倒れた。
しかし、司は初めて明確な損傷を負った。
そして。
未知のデバイスも正体不明のままだ。
理解できないものが、少しずつ増えている。
司は倒れたドラゴンの残骸を見渡した。
「……回収してから行こう。」
シャトルは、すぐそこにある。
次の惑星へ進む時が来ていた。




