第十九話 消えない炎
「来る!」
司が叫んだ。
次の瞬間。
ガラクタドラゴンが大きく口を開く。
ゴゴゴゴゴ……
喉の奥が赤く輝き始めた。
まるで炉心そのものが露出したような、不気味な光だった。
「……何あれ?」
シルヴィアが足を止める。
司はドラゴンを見上げ、すぐに表情を変えた。
「武器だ!」
「全員、隠れろ!」
「火炎放射が来る!」
三人は即席要塞へ飛び込む。
その瞬間だった。
ゴォォォォォォォォッ!!
轟音とともに、灼熱の炎が吐き出される。
炎の奔流が真正面から要塞へ叩き付けられた。
ガンッ!!
分厚い鋼板が炎を受け止める。
赤熱。
火花。
猛烈な熱風が隙間から吹き込み、三人の装甲を焼く。
それでも。
炎は貫通しなかった。
司は小さく拳を握る。
「よし……!」
「防げた!」
シルヴィアも胸を撫で下ろす。
「助かった……。」
しかし。
ジュウウウウ……
妙な音が聞こえた。
炎は消えている。
それなのに。
バリケードは燃え続けていた。
赤黒い粘ついた液体が鋼板へ貼り付き、炎を上げている。
「えっ……。」
シルヴィアが目を見開く。
「まだ燃えてる……?」
アルマが即座に解析する。
「高粘度可燃性燃料。」
「付着後も燃焼を継続。」
「自然消火は期待できません。」
司の表情が険しくなる。
「なるほど。」
「炎そのものじゃない。」
「燃える液体を浴びせてるのか。」
鋼板はみるみる赤く染まっていく。
固定ボルトが焼ける。
接合部が軋む。
司は低く呟いた。
「時間切れだ。」
「この要塞は長く持たない。」
シルヴィアが司を見る。
「じゃあ……。」
「ああ。」
司は頷いた。
「炎が回り込む前に倒す。」
「アルマ!」
「奴は今、動けない!」
アルマはすぐに頷いた。
「了解。」
ウィィィィン……
ラージチェインガンの砲身が高速回転を始める。
「撃て!」
ドドドドドドドドドドドッ!!
轟音。
徹甲弾が右翼へ降り注ぐ。
スクラップ製の翼が次々と吹き飛ぶ。
穴が開き、骨組みが露出する。
それでもガラクタドラゴンは火炎放射を止めない。
空中に留まり、炎を吐き続けている。
司は目を細めた。
「今だ!」
「チャージ中は動けない!」
「シルヴィア!」
「左翼!」
「うん!」
シルヴィアが飛び出す。
青白い閃光が走る。
ビームが左翼を貫いた。
ジュウウウウッ!!
スクラップが赤熱し、溶け落ちる。
「あと少し!」
司も右側からビームガンを撃ち込む。
アルマのチェインガンが右翼を削り続ける。
三方向からの集中砲火。
バキィィィン!!
右翼が耐え切れず砕け散った。
続いて。
バキン!!
左翼も付け根から千切れ飛ぶ。
その瞬間。
火炎が止まった。
ガラクタドラゴンの巨体が大きく傾く。
「落ちるぞ!」
ドォォォォォォン!!
轟音とともに地面へ激突する。
大量のスクラップが舞い上がり、視界が土煙に包まれた。
シルヴィアが息を吐く。
「終わった……?」
司は煙の向こうを睨み続ける。
「まだだ。」
「翼を失っただけだ。」
その直後。
ギギ……
ガシャ……
何かが動く音が響いた。
三人は同時に武器を構える。
煙の向こう。
横たわった巨躯から、長い首がゆっくりと持ち上がる。
赤く輝く両眼が、三人を捉えた。
「……まだ動くのか。」
司が呟く。
ガラクタドラゴンは、再び口を開いた。
その奥で。
赤い光が、ゆっくりと灯り始める。
「……嘘だろ。」
消えたはずの炎が。
もう一度、燃え上がろうとしていた。




