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第十六話 目覚め

ガレージの中央。


作業台の上には、一体のアルファドローンが横たわっていた。


胸部装甲は開かれ、量産型コアは取り外されている。


その代わりに、地下施設で見つけた自立型コアが収められていた。


司は慎重に配線を確認する。


「……問題なし」


シルヴィアは少し離れた場所でビームガンを構えていた。


部屋の四隅にはスタントラップ。


入口にはリターンゲート。


万が一に備え、できる限りの準備は済ませてある。


司は最後のケーブルを接続した。


カチリ。


その瞬間。


コアが淡い光を放つ。


【起動しますか?】


司は深く息を吸った。


「起動」


静寂。


何も起きない。


シルヴィアが息を呑む。


「……失敗?」


その時だった。


ブゥン……


小さな駆動音が響いた。


アルファドローンの赤かったセンサーが、ゆっくりと青へ変わる。


ギギ……


機体がゆっくりと身を起こした。


敵意はない。


砲口を向けることもない。


ただ、静かに周囲を見回している。


工具棚。


壁。


変換装置。


作業台。


まるで初めて見るものを、一つずつ確かめているようだった。


やがて、自分の丸い装甲へ視線を落とす。


ギコ。


短い脚が一歩動く。


ギコ。


もう一歩。


歩き方すら、まだ覚束ない。


その様子を見ていたシルヴィアが、おそるおそる声を掛ける。


「あ、あの……」


アルファドローンが振り向いた。


「はい」


落ち着いた女性の声だった。


機械的な響きを残しながらも、不思議と柔らかい。


「聞こえる?」


「……はい」


少し間を置いて、


「聞こえています」


シルヴィアはほっと息を吐いた。


「よかった」


アルファドローンが、わずかに首を傾げる。


「質問があります」


司は警戒を解かない。


「何だ」


「私は……」


言葉が途切れる。


数秒後。


「私は、誰ですか?」


ガレージが静まり返る。


司もシルヴィアも、すぐには答えられなかった。


「覚えてないの?」


シルヴィアが尋ねる。


「……分かりません」


「名前は?」


「分かりません」


「ここは?」


「分かりません」


シルヴィアが少しだけ眉を下げる。


「自分が何なのかも?」


アルファドローンは黙り込んだ。


しばらくして、


「……分かりません」


「確認できる記憶がありません」


司は地下施設を思い出す。


大量に残されていたヴァルキリーフレーム。


その中に眠っていた、たった一つのコア。


何百年もの間、起動されることなく眠っていたのだろう。


司は静かに口を開いた。


「安心しろ」


アルファドローンが司を見る。


「俺たちも、お前が何なのか分からない」


「……そうですか」


それ以上、アルファドローンは何も尋ねなかった。


やがてシルヴィアが口を開く。


「充電は必要なの?」


アルファドローンが自身の状態を確認する。


「現在のエネルギー残量、九十八パーセント」


「補給は不要です」


「よかったぁ」


シルヴィアは胸を撫で下ろす。


しかし、すぐに首を傾げた。


「でも……」


司を見る。


「名前がないと、呼べないよ」


「確かにな」


司も腕を組む。


しばらく考え込んだ。


その沈黙を破ったのは、シルヴィアだった。


「アルファドローン」


「ガーディアン・アルファ」


「みんな『アル』って付いてるよね」


「そうだな」


「じゃあ……」


シルヴィアは目の前の機体を見つめる。


そして、少しだけ笑った。


「アルマ」


司が聞き返す。


「アルマ?」


「うん」


「なんとなく」


「この子に似合う気がした」


アルマはシルヴィアを見つめた。


そして。


「……アルマ」


自分の名前を確かめるように、もう一度繰り返す。


「アルマ」


わずかな沈黙。


「……好きです」


司とシルヴィアが目を丸くする。


アルマは続けた。


「その名前で、呼んでください」


シルヴィアの表情が一気に明るくなった。


「うん!」


「よろしくね、アルマ!」


アルマは小さく頭を下げる。


「よろしくお願いします」


司はようやくビームガンを下ろした。


「俺は司」


「こっちはシルヴィアだ」


アルマは二人を交互に見つめる。


「司」


「シルヴィア」


名前を確かめるように、一つずつ繰り返す。


「覚えました」


司は小さく息を吐いた。


「今日はここまでだ」


「分からないことは、これから少しずつ知っていけばいい」


アルマは静かに頷いた。


「はい」


ガレージには、三人分の声が残った。


新しい名前を与えられた機械が、初めて世界を見ていた。


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