第十四話 眠っていたコア
部屋の奥。
司は、壁際に並んだ保管ケースへ目を向けた。
「お兄ちゃん」
シルヴィアが指差す。
透明なケースが、十数個並んでいる。
「保管庫か……」
司は慎重に、一つ目のケースを開けた。
【スクラップ】
中に残っていたのは、粉々になった金属片だけだった。
二つ目。
【スクラップ】
三つ目。
【スクラップ】
「全部壊れてる……」
シルヴィアが肩を落とす。
司も黙って確認を続ける。
スクラップ。
スクラップ。
またスクラップ。
何百年もの時間には、さすがの機械も耐えられなかったらしい。
「残ってる方が奇跡だな」
そして。
最後のケースを開いた瞬間。
司の手が止まった。
「……これは」
中には、一つのコアが収められていた。
ひび割れ。
傷だらけの表面。
一部は黒く変色している。
それでも、原形だけは保っていた。
視界へ表示が浮かぶ。
【壊れた自立型コア】
「……あった」
シルヴィアも覗き込む。
「スクラップじゃない」
「ああ」
司は慎重にコアを持ち上げた。
そして表示を確認する。
「まだアイテムとして認識されてる」
これなら、修復できる可能性がある。
シルヴィアが首を傾げる。
「自立型コアって、普通のコアと違うの?」
「大きく分けて二種類ある」
司はコアを見つめながら答えた。
「量産型と、自立型だ」
「アルファドローンやガーディアン・アルファに使われていたのは量産型。決められた命令を、決められた通りに実行する」
「だから、行動も単純なんだ」
「うん」
シルヴィアが頷く。
「じゃあ、自立型は?」
「自分で判断する」
司は答えた。
「経験から学習して、状況に合わせて行動を変えられる」
そして。
「自分の意思を持つこともできる」
シルヴィアは黙った。
やがて、自分の胸へそっと手を当てる。
「じゃあ……私も?」
「ああ」
司は迷わず頷いた。
「お前も俺も、自立型コアだ」
シルヴィアの表情が緩む。
「……よかった」
「私、ちゃんと私なんだね」
「ああ」
司は笑った。
「間違いない」
しばらくコアを見つめていたシルヴィアが、ふと尋ねる。
「これ、直せるの?」
「試してみる価値はある」
司は答えた。
「変換装置なら、破損した素材を修復できる可能性がある」
「ただし、失敗すれば元には戻せない」
「じゃあ……」
シルヴィアが心配そうにコアを見る。
「使わない方がいい?」
「いや」
司は首を振った。
「ここまで無傷で残っていたんだ。試す価値はある」
司はコアをアイテムバッグへ収納した。
「ただ、すぐには使わない」
「まずは帰って、設備を確認する」
◇ ◇ ◇
二人は格納庫へ戻った。
そこには、まだ大量のヴァルキリーフレームが眠っている。
司はその中から状態の良さそうなものを数体選び、アイテムバッグへ収納していく。
「持っていくの?」
「ああ」
「使えるかもしれないからな」
ヴァルキリーは未知の機体だ。
だからこそ、残されたパーツは貴重だった。
「ただし、今すぐ使うつもりはない」
司は損傷したフレームを見つめる。
「まずは正体を調べる」
シルヴィアも頷いた。
「分からないものを、いきなり使うのは危ないもんね」
「ああ」
司は格納庫を見回す。
この場所には、まだ何かが残っている。
そう感じていた。
だが、すべてを調べるには時間がかかりすぎる。
「今日は一度戻ろう」
二人は地下施設の出口へ向かって歩き始めた。
その時だった。
ピッ。
背後から電子音が鳴った。
司が振り返る。
先ほどまで停止していた端末の一つに、文字が表示されていた。
【Valkyrie Project】
【Core Status】
【ACTIVE:1】
「……ACTIVE?」
シルヴィアも画面を見る。
「一ってことは……」
「一つだけ、動いているってことだろうな」
司の表情が険しくなる。
「でも、ここにあるヴァルキリーは全部壊れてる」
「じゃあ、どこに……?」
司はゆっくりと周囲を見回した。
積み上げられたフレーム。
暗い通路。
停止した機械。
どこにも動くものはない。
「分からない」
司は端末を見つめる。
「だから、今は探さない」
「え?」
「この施設は広すぎる」
司は入口へ視線を向けた。
「情報も装備も足りない状態で奥へ進むのは危険だ」
「まずはコアを調べる」
「それから、もう一度来ればいい」
シルヴィアは少しだけ不安そうに頷いた。
「……うん」
二人は地下施設を後にした。
階段を上り、崩れた壁を抜ける。
地上の光が見えた。
司は一度だけ振り返る。
暗い地下への入口。
その奥には、まだ誰も知らないものが眠っている。
そして。
【ACTIVE:1】
あの表示だけが、頭から離れなかった。
「……一体、何が動いてるんだ」
答えは分からない。
だからこそ、まずは準備をする。
二人は遺跡を後にし、ガレージへ戻っていった。




