第十三話 誰も知らない地下
翌朝。
司とシルヴィアは再びスクラップ遺跡を訪れていた。
崩れた壁の向こう。
地下へ続く階段の前で、司はアイテムバッグから一体のアルファドローンを取り出す。
もちろん本物ではない。
昨夜作った偵察用ドローンだ。
「まずはこいつから。」
司が床へ降ろすと、小さなアルファドローンはギコ、ギコ、と頼りない足音を立てながら階段を下り始めた。
端末へ映像が映る。
錆び付いた階段。
崩れた手すり。
暗い通路。
昨日と違い、動くものは何も見えない。
「反応なし。」
司は小さく呟く。
「でも油断はしない。」
シルヴィアも真剣に頷いた。
二人は少し距離を空け、偵察ドローンの後を追って地下へ降りていく。
階段は思っていた以上に長かった。
冷たい空気。
湿った鉄の匂い。
やがて視界が開ける。
「……広い。」
シルヴィアが思わず息を呑んだ。
地下には巨大な施設が広がっていた。
作業台。
搬送レーン。
壁一面に並ぶ工具。
そして、無数のフレーム。
腕だけ。
脚だけ。
胴体だけ。
まるで組み立て途中で時間だけが止まってしまったような光景だった。
司はゆっくり周囲を見回す。
「ガレージじゃない。」
「工場だ。」
しかも量産工場ではない。
一機ずつ調整しながら組み立てるための試作施設。
そんな印象だった。
さらに奥へ進む。
すると、一角だけ景色が変わる。
「……!」
そこには人型フレームが山積みになっていた。
細身の装甲。
女性型のシルエット。
どれも激しく損傷している。
司はその一体を持ち上げた。
視界へ表示が浮かぶ。
【Valkyrie Frame】
【状態:破損】
「ヴァルキリーフレーム……。」
思わず声が漏れる。
ゲームでは一度も実装されなかった幻の機体。
αテストで存在を見たという証言だけが残り、βテストでは削除。
正式サービスではゲームデータの中に未使用モデルだけが残っていた。
そのデータも色すら設定されておらず、未完成のポリゴンだった。
だから完成した姿を知る者はいない。
「本当にあったんだ……。」
司は静かに呟く。
二人はさらに施設の奥へ歩き始めた。
ヴァルキリーフレームが積み上げられた格納庫を抜けると、その奥には一室だけ損傷の少ない部屋が残っていた。
半開きになった自動ドア。
壁には無数の工具。
中央には一台の古びた装置が静かに佇んでいる。
「……変換装置?」
シルヴィアが近付く。
司も慎重に画面へ触れた。
古いモニターがゆっくりと起動する。
【Prototype Converter β】
「β版……。」
思わず声が漏れる。
正式サービスで使われていた変換装置とは画面が違う。
試しにメニューを開く。
表示されたのは、
【Head/Body/Arm/Leg】
の四項目だけだった。
「武器は?」
「ない。」
司は首を振る。
「完成品も作れない。」
「パーツ専用の試作品だ。」
「つまり……。」
司は周囲を見回した。
「ここは正式サービスより前。」
「βテスト時代の開発施設だったのか。」
シルヴィアは損傷したフレームの山を静かに見つめる。
「なんか……かわいそうだね。」
司は何も答えなかった。
かわいそうという言葉が、どこか胸に引っかかった。
ゲームでは語られなかった場所。
ゲームでは実装されなかった機体。
ここには、日の目を見ることのなかったものたちが静かに眠っていた。




