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第十二話 レベル30の壁

ヴァルキリーフレームを倒した後、司は残骸の前へしゃがみ込んだ。


「コアは……。」


胸部に露出したコアへ手を伸ばした瞬間、乾いた音と共に亀裂が走る。


漏電していた光が消え、完全に沈黙した。


「壊れたか……。」


元から限界だったらしい。


解析はできそうになかった。


代わりに周囲へ散らばった装甲片を拾い集める。


【Valkyrie Scrap】


見慣れない素材名が表示された。


「ただのスクラップじゃない。」


司は慎重にアイテムバッグへしまう。


「最高レア素材だ。」


「使わないの?」


シルヴィアが尋ねる。


「使わない。」


司は即答した。


「輪ゴムでも最高レア素材でも、Quality MAXなら性能は同じ。」


「だったら、この素材を今使う理由がない。」


もし専用素材だったら。


変換してしまえば二度と戻らない。


「分からない物ほど残しておく。」


「ゲームでも、それが基本だった。」


シルヴィアも頷いた。


帰る前に司は地下階段へ偵察ドローンを配置する。


アルファドローンそっくりの小さな機械が、静かに地下を見つめ続ける。


「見張り番だ。」


「何か動きがあればすぐ分かる。」


通信を確認すると、二人は地下を後にした。


◇ ◇ ◇


それから数日。


二人は再びガーディアン・アルファの討伐を繰り返した。


追加メモリーは次々と集まり、能力へ注ぎ込まれていく。


繰り返しすぎて、シルヴィアは欠伸を噛み殺しながら引き金を引くようになっていた。


「ねえ、これいつまで続けるの?」


「出るまで。」


「出なかったら?」


「出るまで。」


シルヴィアは呆れたように笑うと、それでも次の宝箱へ手を伸ばした。


【デビルブーツ】


【エネルギー消費50%軽減】


「これは欲しかった。」


司は迷わず装備した。


続いて現れたのは白いニーハイソックス。


【デバフ無効】


「かわいい!」


シルヴィアは嬉しそうに履き替える。


さらに。


【不思議の国のブーツ】


【敵から発見されにくくなる】


「これもかわいい!」


ラビットケープとの相性も抜群だった。


一方。


【カーボンファイバーマント】


【全ダメージ50%軽減】


「シルヴィア、使うか?」


渡された黒いマントを見つめる。


「……かわいくない。」


即答だった。


「ラビットケープの方が好き。」


司は苦笑する。


「アクセサリーは一部位一つ。」


「ウサケを外さなきゃ装備できない。」


「じゃあ無理。」


迷いはない。


性能より、お気に入りだった。


最後に出た装備を見て、二人は同時に固まる。


【異臭を放つパンツ】


【半径3mの敵を近付けない】


【※味方にも有効】


「…………。」


「…………。」


「臭パンか。」


司が吹き出す。


「その略し方やだ。」


シルヴィアは思い切り距離を取った。


結局、一応持ち帰ることにはしたものの、最後まで誰も装備しなかった。


◇ ◇ ◇


三百周。


最後まで、二つ目のラビットケープは出なかった。


司は最後の宝箱を閉じ、小さく息を吐く。


「……諦めるか。」


「いいの?」


「欲しい。」


司は苦笑する。


「でも、ここで何百周続けても出る保証はない。」


ガレージのモニターには、地下への階段を監視する偵察ドローンが映っている。


「あの地下には何かがいる。」


「先へ進まなきゃ意味がない。」


シルヴィアはラビットケープを撫でた。


「一つあるだけでも十分だよ。」


「ああ。」


司も頷く。


「欲張りすぎるのは良くない。」


二人はステータス画面を開いた。


【Attack/Defense/HP/Accuracy/Reaction/Memory Capacity:ALL MAX】


全能力は限界まで強化された。


だが。


【LEVEL 30/30】


その数字だけは変わらない。


「全部MAXなのに、レベルだけ上がらないの?」


シルヴィアが首を傾げる。


司は画面の端を指差した。


【Limit Locked】


「レベル上限を解除するアイテムがある。」


「リミットキーだ。」


「それを使えば三十から六十。」


「さらに百まで上げられる。」


「そんな便利なのがあるんだ。」


「ああ。」


司は頷く。


「でも、この惑星には存在しない。」


デソラは初心者惑星。


ゲームでもレベル三十までしか育成できず、リミットキーは第二惑星以降でしか入手できなかった。


「だから地下を調べ終えたら、すぐ次の惑星へ向かう。」


「この街の人たちは知らないの?」


「市民ロボはレベル三くらい。」


「修理屋でも七あれば十分優秀だ。」


「一生この惑星で暮らすロボットは、レベル三十へ届くことすらほとんどない。」


「だからリミットキーを知る必要もない。」


シルヴィアは静かに頷いた。


「じゃあ私たちって、この星では強いんだね。」


「この星ではな。」


司は苦笑する。


「でも宇宙全体じゃ、まだ初心者を卒業した程度だ。」


ヴァルキリーにはダメージが通った。


単体なら倒せる。


しかし。


「あの地下に何体いるか分からない。」


それに。


「ここは、本当に俺の知ってるゲームの世界なのか……?」


11話で口にした疑問が、まだ頭の中で燻っていた。


ガレージのモニターには、今日も偵察ドローンが静かに地下への階段を見張り続けている。


未知は、すぐそこまで迫っていた。

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