第92話: 花奈だよ。なんだか、アレクセイ兄さんウキウキしてるんだよ……え?なんで兄さんかって?だって夏菜子ねえちゃんとさぁー…
プロモ用の動画配信が終わって本殿に戻ってきたら、アレクセイ兄さんと真魚おじさんが、ウキウキしながらあっち行ったりこっち行ったりしてる。
どうしたの?ってボクが訊くと、アレクセイ兄さんが、
「お!花奈っこでねが!もうちょっどしだら、スゲ〜新兵器さ来るべ!見だいべ?」
だって。
兄さん、ボクのこと『花奈っこ』って言うんだよね。秋田弁だとそうなるんだって。
ときどき何言ってるかわかんないけど、優しいし、夏菜子ねえちゃんのこと大事にしてるから、まーまー合格点かなって思う。
で、なんでそんなにハイテンションなの?って思ったら、
「まいどー!!シロネコナガトでーす!」って宅配便の人が来て、本殿に段ボールを何個か運ぶと、アレクセイ兄さんが受け取り票にサインする。
「いやぁ~!コイツがやっと日の目を見ることになったなぁ!」って真魚おじさん。二人は嬉しそうに段ボール箱を開け始めた。
「NVIDIA DGX Spark……?真魚おじさん、これなに?」
「ああ、花奈ちゃんか。ふふふ……よう聞いてくれた!これはな……たった15センチ四方の箱の中に、『Blackwell』っていう超最新かつバケモンみたいなAI頭脳が詰まっとるんや!お値段たったの100万円!どや!安いやろ!ワシなぁー……これ買うために奥の院の予算ちょっとづつくすねてヘソクリしとってん……」
「ええっ?それドロボウじゃん。真魚おじさんって、高野山で一番えらい弘法大師なんでしょ?『ボクのおこづかいちょーだい』って言ったら良いんじゃないの?」
あれ?真魚おじさん、なんか困ってる?
「い、いや……そういう話やのうてやね……俺がそのへん自由に歩き回ってる、っていうんは高野山の超機密事項やからね。そやから『これは空海様の給料です』ちゅうわけにいかんねん……そやから、知り合いの坊主に頼んでちょっとづつ回してもらったり、太子とか姐さん(八幡さん)の仕事手伝って積み立てたり……」
「えー?なにそれ、ショボいなー……でさ、100万円って安いの?ボクよくわかんない。すっごく大金じゃん?」
でも、ボクがそういったら、真魚おじさん、死にそうな顔になったよ。どうしたのかな?
「花奈っこ……やめれ、それ以上言っではなんね……大人には、花奈っこにはわがんね事情あるべ……」
そうなの?……アレクセイ兄さんがいうなら良いけど。
っていうか、これなに?ボクが訊くと、
「お、そだそだ!こいだば、奥の院にある真魚さんのプラモ部屋で置きっぱになっでだべ。真魚さん、買っだはえが、何に使っで良いがよぐわがんねって云うだはんで、オラが金烏玉兎集とデジタル技術の真髄を結晶した、超々AIつぐってみたべさ!」
えっ?なんかすごそう……アレクセイ兄さんって、いっつも夏菜子おねえちゃんとイチャイチャしてるからよくわかんないけど、『ウィザード級』っていうすんごいハッカーなんだって。
「名付けて、アーカシック演算AIシステム 『こくぞーくん』だべ!いや~、高野山と四天王寺のITチームのみんなで開発したはんで、この名前もスゲー感慨深いべ……仏法の真髄だべ……ん?どしただ、花奈っこ?」
こくぞーくんって……なんかさ、アレクセイ兄さんのネーミングセンスおかしいよ。だってさ、天津軍のみんなをスマホで現世に召喚できちゃうものすごいアプリの名前が『しんぺー』だよ。おかしくない?なんで夏菜子ねえちゃんも美紗ねえちゃんも馴染んじゃってるのかな?おかしいっておもうのボクだけ?
「ねえ、アレクセイ兄さん、こくぞーくんって変だよ。そんなのどっかのゆるキャラだよ。しかも超マイナーな誰も知らないヤツだよ。」
「なっ!?なんだべ!こさ、記憶媒体として、アーカシックレコード使うだ!アーカシックレコードってな日本語で虚空蔵だべ!密教の真髄だべ!そっだらごと言っだら真魚さんにも太子様にも失礼だべ!」
「なに揉めてるねんな……アレ君、花奈ちゃんにそないにきつう言うたらアカン。子どもやんか。優しい言うてあげて。」
あっ、夏菜子ねえちゃんだ。美紗ねえちゃんと姫様もいる。あれ?夏菜子ねえちゃんと美紗ねえちゃん、なんかグッタリしてない?姫様はやけにスッキリした顔して楽しそうだけど。
「すーげー大変な目にあったよ……八幡さん、あんな特大の滝行しなきゃだったら最初から言っといてよ!ウチら死ぬかって思ったし!」
「ほんまや……姫に滝つぼに蹴り落されたんやで?八幡さん、姫って最近アグレッシブ過ぎへん?」
夏菜子ねぇちゃんがそう言うと、エプロン姿でお好み焼きを焼いてた八幡かあさんが、ハッて振り返った。
「姫が……アンタらを蹴り落したやて……?」
あれ?なんか八幡かあさん、ワナワナしてるよ?
「そやでー、姫ひどいんやでー。あれっ?」
「ひ、姫!あんたがそないに自分の思てることをハッキリ言えるようになったやなんて!……うちは嬉しい!……1600年間もこの国を護ってきた甲斐があったわ!」
あっ、八幡かあさん、姫様をハグした。なんか泣いてるし。
「ウフフ……タラちゃん、心配かけたね。談山神社で夏菜子ちゃんがイザナミ様に憑依された時からかな……なんだかこう、わたくし、この世界にいて良いんだって思えるようになって。」
姫様がそういったら、いつの間にか身体をタオルで拭いた夏菜子ねえちゃんと美紗ねえちゃんも、姫様のことハグしてる。あっ!いいなぁ!ボクもおねえちゃんにギュってしてほしい!
「なに言うてんのんな。姫はウチらのツレやん。いてもらわな困るねん」。
「そーだよ!もうマブダチだかんねっ!あーしら二人だけじゃないよ!アレ君も太子のオジサンや真魚さん、理沙っちや花奈っちょも、八幡さんも道真さんも、みんな姫のこと大好きなんだから!」
「あれ?……蹴り落とされた話どこいったんやろ?…まあええか」
◆
なんか夏菜子ねえちゃんにギュってしてもらってる間に、スパコンの話、聞きそびれちゃった。
アレクセイ兄さんと真魚おじさん、すんごい熱中して画面とにらめっこしてるし。
「おいアレ坊、なんぼスパコン言うたかて、こんなん1個で敵のAIシステムハッキングしたり、パワードスーツを無力化したりできるんか?」
「真魚さん、アンダがそっだらこど言っではいげね。オラもだども、高野山のIT坊さんだちのこど、信じねばなんねだ!」
「いや、オマエがウチの坊主どものこと信頼してくれるんは嬉しいけども、言うてこんな弁当箱1個やん?インキュベーションセンターKANEIJIには、ごっついスパコンが何個も置いとるんちゃうんかい?」
真魚おじさんがそういうと、「そうでね!」って力説しだした。なんか、こういう話になったらアレクセイ兄さん、すっごいムキになるよ。
「えが?真魚さん、このNVIDIA GB10 Grace Blackwell は、操作するオラや坊さんだつの阿頼耶識をゲートウェイにして虚空蔵にアクセスするためのインターフェースに過ぎね。ほんどうの意味の記憶媒体は虚空蔵、CPU/GPUは無数の式鬼だべ!それで構築しだ量子コンピュータもビックリの超々AIが、アーカシック演算AIシステム 『こくぞーくん』だべさ!」
「おいちょっとまて。虚空蔵にアクセスって、俺の許可いるんちゃうん?」
「なに言っでるだ?オラ真魚さんにハンコもらったでねが?真魚さん、ビール飲んで加持祈祷しながらハンコ押してたべ。もらったもん勝ちだべ!」
…なんか、アレクセイ兄さんって、イケメンだけど悪い人だよね。こういう大人は修正されちゃうって、なんかのアニメで見たよ。
「ま、まぁええわ…悪いことに使うんちゃうし…それよか早よ起動しようや。」
「ふふふ…焦っではなんね…もうすぐOSが立ち上がるべさ…おっ、きだきだ!金烏玉兎集ver3.0!見れ!オラだつITオタクの狂気の結晶!」
アレクセイ兄さんがそう言って叫ぶと、ディスプレイに魔法陣みたいなヤツが投影されて、よくわかんない呪文がスピーカーから流れる。
「ねーねー真魚おじさん。この呪文とか魔法陣ってなに?」
ボクが聴くと、おじさんが冷や汗を流してじっと画面を見つめたまま答えた。
「五大虚空蔵曼荼羅と、その真言や。よう見とき…ホンマにアイツは天才では済まへんやっちゃな…」
スピーカーから流れる真言が繰り返されるうちに、アレクセイ兄さんの身体が五色の光に包まれる。
『オン バザラ アラタンノウ オンタラク ソワカ』
『オン バザラ ギヤラバヤ ウン ソワカ』
『オン バザラ ラトナヤ タラク ソワカ』
『オン バザラ ドルマヤ キリク ソワカ』
『オン バザラ カルマヤ アク ソワカ』
白、黄色、青、赤、黒…目紛しく光が変わり、最後に虹色になると、アレクセイ兄さんがカッ!て感じで目を開く。
「うっしゃあ!システム起動、オールグリーン!そいだばいくべさ!」
アレクセイ兄さんがガッツポーズしながら言うと、メイン画面に可愛い仏様の絵が出てきて、「なんでも訊いたってや!」って表示される。
「よっし…まず最初は『敵はどのように攻めてくるか?』からいってみるべか!?」
そう言って勢いよくエンターキーを弾くと、5個ぐらいある拡張ディスプレイに、一斉に無数の画像やドキュメントが現れては消えて、最後にレポートと動画が出てくる。
動画には、ボクが載せられていたロボットと、変わった形のライフル銃を持った兵士っぽい人が沢山出てきて、そらからはカーキ色のヘリコプターがいっぱい飛んできて…い、いや!怖い!
「どないしたんや花奈ちゃん!なんぞあったんか!?」
気がついたら、太子のおじさんがボクの肩を抱いてて、でも動画を見たら固まってワナワナ震えてた。
「こ、これはなんや…」
太子のおじさんが言うと、アレクセイ兄さんが、
「たぶん、敵方の情報を分析して導き出された、敵の作戦たべ…おらだつは、商店街のおっちゃんやおばちゃんも含めて皆殺し。太子様や真魚さん、八幡さんは呪力兵器で消滅、姫様は連れ帰って、偽の神の子供さ産ませる…夏菜子さと、美紗さんは、生体実験に使うづもりみでだな……ゆるせね。皆殺しだべ…」
え?……スパコンの画面が全部真っ赤になって、そこから無数の蛇みたいなのが出てきて、アレクセイ兄さんの身体に巻き付いていくよ…
「待ちなさい!」
急に大きな声がした。
そっちの方を見ると、本殿の前のお庭に、黒い大きな翼を持った鳥?…鳥じゃない!鎧と兜をつけた人が降り立った!
「クンダリニーを暴走させたらアカン!君は邪龍になるつもりか!?」
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回は視点を変えて、工業高校に通う女の子、花奈ちゃんの目線からお届けしました。
真魚さんのヘソクリ事情、なかなかつらい……何と予算はもらってなくて、八幡さんと太子のおっちゃんにバイトさせてもらってるとか (>_<)
八幡さんが姫の成長に感動したり、花奈ちゃんが夏菜子にギュってしてもらったり、ほのぼのした雰囲気でえ~感じやんと思ったら!
超々AI 『こくぞーくん』が弾き出したのは、敵の皆殺し作戦と、夏菜子と美紗への生体実験やて!?目ぇ噛んで○ね!ちゅうねん!
そして、怒りのあまりクンダリニー暴走させ「邪龍」に変化するアレ君……!
そんなところにやって来た、またまた関西弁のあんちゃん!誰やねんコイツは!?
次回、緊迫の第93話へ続きます!
※ちなみに、クンダリニーっていうんは、骨盤の下の方にある根元的な生命エネルギーで、これがちゃんと上昇すると悟りを得て、暴走すると悪鬼になるとかならんとか。
「こくぞーくんのネーミングセンス、クソダサ!」「花奈ちゃん意外と毒舌!」など、少しでも楽しんでいただけましたら、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】から応援評価や、ブックマーク、ご感想をいただけますと、毎日の執筆の大きな励みになります!




