第90話: 星産みの儀、はじまりやで!と思ったら、敵が攻めて来るとか、わるもんの悪魔合体とか走り込みとか。
「あっかんわ〜ダダ滑りやったわ〜やっぱし慣れへんことはしたらアカンなぁ……真魚よ、どないやった?」
おっちゃんが聞くと、真魚さんは意外な顔をする。
「えぇ?そんなことないやろ?たぶん今頃画面の向こうではドッカンドッカン…」
言いかけて、真魚さんが固まる。
あ、コメント欄みてもうたんやな…遠くを見る目ぇになってるわ。
「やっぱり…この天才、弘法大師 空海のネタは高尚すぎて分からへんかったんか…オレもまだまだ方便が出来てへんな…反省やわ…」
えぇ〜!?ごっつい前向きちゃうそれ!?ぜんっぜん面白なかったで!?
だいだいからして、お不動さんや、ビリケンさんやて言うてる以外、ただのパクリやん!
なんのオリジナリティもないやん!
なんなん!この人ら関西人のクセして恥ずかしないのん!
腹立つわぁ〜ホンマに!
「あ…夏菜子ごめん…なんか怒ってる?そやんな〜…あそこでワシらが締めなアカンかったのに…わしはな、エンタツ・アチャコでいきたかったんやけど、真魚が令和のネタで勝負かけよ、とか言うさかい…」
あ、太子のおっちゃん、めっちゃショボンヌやな。
まぁ、反省するんはええことやけど…そこちゃうねん!
パクリあかんやん!
日本の歴史のビッグなお二人がパクリネタあかんやん!
「おっちゃん、ウチは情けない!聖徳太子と弘法大師やで!?オリジナルネタの一個や二個ないのん!?そんなんもう……叡福寺の檀家さんも、法隆寺や四天王寺の檀家さんもガッカリやで!」
ウチがそう言うと、あれ?…おっちゃんがワナワナ震えて、目の端に光るもんが…
「そ、そこまで言わんかてええやないか…!ワシかて出来ることと出来へんことがあんねん!だいたいきょうびの若いもんはお笑いに厳しすぎるんや!ワシの若い頃は…って、アレ?姐さん、どないしましてん?」
振り返ると、八幡さんがごっつ睨みつけるみたいな感じで、ズンズンおっちゃんの方に歩いてくる。
「えっ?ええっ!?姐さんどないしたん?めっちゃ怖いんやけど。三木ブラザーズのネタの方が良かった?いや、そやけどコーセーとアーセーはどつき漫才やから…」
おっちゃんが妙な言い訳をしようとすると、八幡さんがおっちゃんの前に跪く。
「救世観世音菩薩、戦のお許しをいただきに参りました。これなるは、御仏の名において為さるるべき降魔の聖戦。何卒ご裁可を。」
どないしたん?いっつもは、「ウマちゃん」やのに……
すると、ウチの気持ちが分かったんか、八幡さんはウチの方を向いてこない言うた。
「夏菜子姫さま、いよいよ敵が総がかりで攻めて参りました。
御身は我ら天津軍がお護りいたしまする故、いまは姫様と共に星産みの太神楽に向けて斎戒なされませ。」
「姐さん、エライ急やな。」おっちゃんがそういうと、八幡さんの後ろにおった道真さんが、
「兄さん、どうやらHomines creavit corp.のエージェントが、インキュベーションセンターKANEIJIにおるみたいでっせ。うちの会員(妖怪のことやで!)の情報によると、表向きは関わってへんように見せてるけど、石清水を襲ってきたんも、畝火山口神社や談山神社で襲ってきたんもこの連中で間違いおまへんわ。」
って言うた。
「なるほど……Homines creavit corp.か。しゃあけど、こいつらはいったい何もんやねん?前にアレ坊が調べた時は、イスラエルのユニコーン企業っちゅうことやったが?」
おっちゃんがそういうと、道真さんは「いやいや」っていう。
「そら飽くまで表向きのもんですわ。兄さん、こいつらはどうもカハネ派らしいって。イスラエルの学者仲間に訊いたらそない言うてましたで。」
それを聞くと、おっちゃんは合点がいったみたいに大きく頷いた。
「そうかぁ…かつてテロ組織指定されたあの連中が、今は政権内部にまで食い込んどるとは聞いたったが、それならこの強引なやり口もわからんことはない。」
けど、真魚さんは不思議そうに首を傾げてる。
「道真、そら確かに日本国内に軍用のパワードスーツを何機も持ち込んだり、日本人を大量に拉致して生体電池にするやり口はカハネ派らしいけど、ほんならなんであいつらはクリフォトをシンボルにしてるんや?おかしいやろ?むしろ、あいつらはそれを他民族を差別する正当性の根拠にしとるんちゃうんかい?」
真魚さんがそういうと、道真さんの目が鋭く光る。
「真魚先輩、理屈上はそやけど、あの手の連中が、行儀ようそんな道理を守ると思います?…ちょっと理沙ちゃん、これ見てくれへん?」
道真さんがそういうと、ヒルコさんのデスマーチが終わってぐったりしてる理沙ちゃんが面倒くさそうにA4のレポートを受け取る。
「なんですか先生…わたくし、夜通しヒルコ様のブラック労働のお手伝いをしてましたのよ…全く、こんなことは霞ヶ関にいた時の国会質問以来…って、なんですの?これは。」
相変わらず道真さんに厳しい理沙ちゃんやけど、レポートの内容を見ると、顔がみるみる真っ青になっていく。
「先生、これは?……『我らの主は異教徒の血を求める』ですって?……まさか、アレクセイさんが言っていた、デジタル蟲毒で抽出した悪意を悪魔に捧げることと何か関係が?」
理沙ちゃんがそういうと、道真さんが「これは僕の予想やけど、」って前置きした。
「ゴエティア……ソロモンの72柱の魔神のことと、ゴチャゴチャになっとると思うんや……アイツらの中で、やけどね。この文書は、どうも3年くらい前に当時のカハネ派の導師が書いたらしくて、それによると『異教徒の血で器を満たし、それを祭壇に捧げるとき、メシアが復活する』ってなってんねん。」
「ちょっと……意味が分かりませんわ……血の意味は、ネットを媒介にして集めた、人の怒り、憎しみ、悲しみと欲望であるとして、器って?それに、メシアというのも……悪魔を復活させたいのでは?……」
「いや、理沙ちゃん、たぶんそうやない。」って、これはおっちゃんやで。
「たぶんやけど……そのカハネ派の連中、誰ぞに唆されたんちゃうか?……『器に血を満たしたらアンタらのメシアが復活しまっせ』って……饒速日はんみたいに。
ほんでその器っちゅうんが、インキュベーションセンターKANEIJIにおるアルコーンやろ?どや道真よ、おまえが言いたいんは、そういうこっちゃろ?」
真魚さんが、ワナワナ震えておっちゃんの肩を掴む……
「おい……太子、ちょっと待てや……それ昨日言うとった、アルコーンと悪魔が一緒になるいう話やんけ?……あれはたとえ話やのうて、ホンマにその二つが融合するって話か!?」
おっちゃんは、それには答えず、代わりに理沙ちゃんが応える。
「真魚様、昨日のお話の中で、アルコーンの力は姫さまや夏菜子さんはおろか、美紗さんにも及ばないって言っておられませんでした?ですが、もしそれに悪魔の力を注ぎ込んだら如何でしょう?……
このレポートにはそのような趣旨のことが書いています。」
「なんやて……」真魚さんが絶句すると、理沙ちゃんがそれの続きを読み上げた。
「こうあります……『下なるものは上なるもののごとく、上なるものは下なるもののごとし。悪しきものをして、聖なるものの供物とせよ。その時、メシア降臨し、約束の地へ導き給う。』と。」
そっかー……うん、もうだいたいどういうことか分かった。ウチは理沙ちゃんの肩に手を掛けた。
「理沙ちゃん、疲れてんのにありがとう。姫、やろうや。もうアレコレ言うてる場合ちゃうわ。」
ウチがそう言って振り返ると、フムス味の回転焼を頬張りながら、姫がピースサインする。
「んふふー、そうね!……じゃあ~ちょっと頑張っちゃおうか!星産みの太神楽で、この地球丸ごとキレイに掃除しちゃおう!」
「よっしゃ!そうと決まったら……えーと八幡さん、その斎戒っていうんは何をしたらええのん?」
ウチがそういうと、八幡さんがズッコケる。
「か、夏菜子ちゃん……知らんのかいな!あんたなぁ、もうただの公務員さんとちゃうんやで!?斎戒いうたら滝行や!この下の杉谷不動尊に行場があるからしておいで!あっ、ちゃんと常世に入ってするんやで!神さんとしてのお清めなんやから、現世でやっても意味無いで!」
「わ、分かったって……そんなやいやい言わんでもええやん……なんか八幡さんって、ウチのお母ちゃんみたいや……なんかやかましいし。」
っていうたら、八幡さんが真っ赤になった。
「なっ!……あんたホンマ!……うちかて女の子産みたかったわ!……なんやのホンマにもう!可愛い顔してから云うこといっちょ前やで!……」
な、なんやなんや?なんか八幡さん、悶えてるねんけど?じゃっかん理沙ちゃんみたいでキモイ。
◆
八幡宮を出て、ケーブルカーの駅である八幡宮山上駅から少し降りると、そこそこ立派なお堂があった。これが杉谷不動尊らしい。
ほんで、そこからちょっとだけ下ったところに、小さな滝があって、そこが行場になってた。
「じゃあ……夏菜子ちゃん、これに着替えてね。」って、姫から白い作務衣みたいなやつを渡される。
えっ?これに着替えんの?いきなり?脱衣場とか無いねんけど?
ウチが固まってると、姫が目をパチパチさせる。
「タラちゃん(八幡さん)が言ってたでしょ?常世で行をするって。常世に入っちゃえば誰も見てる人なんていないから大丈夫なんじゃない?あ、そうだ。夏菜子ちゃん、茅乃輪を開けてみてよ。もう神なんだし、出来ないといろいろ不便でしょ?」
不便って……なんなんその『どこでもドア』みたいなポジション。ウチは試しに柏手を打ってみた。
「パンパンっ!ってあれ?……」なんか、くろーいマルが開いてんけど……ウチが茅乃輪の中をのぞくと……
「うっわー……なんかうすぐらーい道が続いてて……な、なんか鬼みたいな、こわーいお姉さんたちがおるんやけど……」
「ん?んん~?……夏菜子ちゃん、これたぶん黄泉平坂じゃないかな?……これじゃ茅乃輪じゃなくて、血の輪だよ……あ、お姉さんたちがこっちに向かってくるよ!」
ええっ!?うそや~ん、ウチちゃんと頑張ってんのに!
「しょうがないなぁ……」 姫がそういって、リュックから『タケノコの村』を出して投げると、お姉さんたちはそれを拾い始めて、姫はその間に茅乃輪を閉じた。
「う~ん、夏菜子ちゃんはまず、神様としての基礎練が必要だね!ちょっと滝行の前に走り込みしようか!?そしたら滝も気持ちいいし!」
えっ?ウチそんなん嫌や。もと帰宅部やし。だいたい滝行はトレーニングした後のシャワーちゃうやろ。
今回も最後までお読みいただいてありがとうございます!
おっちゃんと真魚さんのダダ滑り漫才の反省会……
いや、真魚さん反省しましょうよ?自分で天才とかいうてどないやねん?
おっちゃんも、エンタツ・アチャコは古すぎるでしょ、誰もリアルで知らんし。
かと思ったら、明らかになる敵の恐ろしい計画!
つまりここで、前話でアーロンがいうてたメシア計画と、おっちゃんらが突き止めた悪魔召喚が一つになるわけですね!まぁ怖い怖い!
さてさて、ほんでここからは夏菜子と姫がお清めするわけですが……え?黒い茅乃輪ひらいてもうたやて?
ちょっとしっかりしいやー、その特徴は常世と違うんよ、黄泉平坂なんよって思ったら、姫の解決策がランニングでした。
いやもう、夏のさなかに熱中症なりまっせ!
ちょっとね、今日も暑いし温度差つけてお届けしましたが、第90話、いかがだったでしょうか?
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