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第88話: まさか……本当の女神だって!?そんなバカな!僕がそう思ったとき、地下のラボにいる「それ」が目を覚ました。

「なんだこれは…」

 キツネの耳とシッポをつけた、いかにもギャルっぽい口調の女性と、朴訥な印象の黒髪で小柄な女性が話す内容は、いかにもありがちなオタクイベントのそれだった。


 しかし、伊勢神宮で会見したはずの巫女姿の女性はと言えば、話した内容だけでなく、迫力に満ちた声音も、全身から感じる威厳も、到底人間とは思えない。


「ね、ねぇレイジ…この子たち、自分たちのことを神だって言っていたけど…」

 メグが怯えた様子で僕の腕に縋り付く。


「ま、まさか!そんなわけないじゃないか!あんなどこにでもいるような女性が…ただのイベント上の演出だよ!」

 しかし、そういう僕自身の手も震えていて、何か絶対的な存在を目にした時のように、心を鷲掴みにされた感覚が残っている。


「レイジ、あのアマテラスと名乗った、伊勢神宮の巫女の女性、ひょっとしたら本当に神なのではないかしら…?眼の中に焔が燃えていて、それで自分の魂が焼き尽くされるような…すごく怖かった…」


「いや!気にしすぎだよ、単なるプラセボだ!だいたい、他の二人はただの女の子じゃないか!いま漫才やっているのも、ただのオッサンだし!」


 だが、メグは「そうではない」とでも言いたげに首を横に振る。


「あの子達だって、すごく変だわ…あのキツネ耳の子が話しているとき、すごく楽しくて、チケット買いそうになっちゃったし、黒髪の子が話している時も、すごく安心できて…まるでママに抱かれているみたいで、それが逆に怖かった…まぁ、このおじさん達はなんだかよくわからないけど…」


 メグはそう言って、ライブ配信中に素人漫才を繰り広げる二人の中年男たちを指さす。


『いやー、真魚くんね。ワシらも星産みの儀で加持祈祷をせなあかんわけやけど、きみ用意できとる?』

『あんな、それがな、どーもいつもやっとる加持祈祷が思い出せんのよ。なんやったかなぁ〜、』


『なんやねんなー、それ。弘法大師て言うたら不動明王の加持(かじ)て決まっとるやんか〜?なんも考えんでええのよ~!』

『いや、俺もそない思てんけどな、なんかちゃう気がすんねん。』


『なんやそれ、しっかりしんかいな〜!ほんならね、ちょっとワシが一緒に考えてあげるから、ヒントみたいなん出してみてよ〜!』

『えーとな、なんかこう、右手に剣を持って、左手にロープをもった仏さんが本尊やねん。』


『なんやそんなん簡単やがな〜!右手に剣で、左手にロープ(羂索のこと)って、そんなん不動明王しかおらんのよ〜、もう分かったやんか〜!』

『いや、そやけどな、なんか通天閣の一番上にいてはるみたいやねん。』


『ほなちゃうかぁ…お不動さんは、通天閣の上にはおらんのよ!それはビリケンさんなのよ!』

『まぁでもな、ウチの坊さんらが言うには、その仏さんは背中に炎を背負ってるんやて。』


『それは、お不動さんやないかい!……その特徴はお不動さんやろ!ほらもう決まりやんか~!』

『いや、オレもそない思うてんけどな、坊さんらが言うには、なんか、顔が11個くらいあるらしいねん。』


『ほなちゃうかぁ……?そんなお不動さん、おらへんからね!その特徴は十一面観音なのよ!なんならワシの別バージョンやから!』

『いやぁ~、オレもそうかなぁ~って思てんけど、なんか顔がグッ!って怒ってるんよ。目がギョロっとしててな。』


『ほなちゃうやないかい!……そんな、怖い顔してる観音さんっておらへんのよ!ワシかて、観音さんの仕事してるときは、優しそーな顔してるんよ!……』


「……レイジ、なんだかこの二人の漫才はダダ滑りだわ……だいたいこれ、ミルク紳士のネタじゃない?パクリよ、著作権に引っかかるわ。」

 いやメグ、反応するのはそこじゃないだろう?


 しかし……たしかに、この二人の漫才はダメだ。最低だ。だいたいネタも分かりにくいし……仏像のデザインなんて、そんなポピュラーな事柄ではないと思うんだが?


 配信を見ながらそんなことを考えていると、What Appのコールが入った。アーロンだ。


「ハイ、レイジ。『星産みの儀』のイベント案内は見ているかい?」少しばかり、声が緊張しているようだ。もちろん見ている、と答えると、彼は静かに……だが怒りを含んだ口調で応える。


「まったく……笑えない冗談じゃないか……ええ?、こんなちっぽけな島国の神話の神が世界の創造神だって?この世界をやり直すだって?……たかが、伊勢神宮の巫女のくせに!しかしまぁ、IPアドレスから大まかな場所は特定できた。直ちに回収チームを派遣する。」


「お、おい、アーロン待てよ。たかが宗教団体のイベントだぜ?そりゃ君の信仰とはバッティングするだろうが、そんなプライベートな事柄をチームとしてのアクションに持ち込むなよ。」


 しかし、僕がそういうと、アーロンは「そういうことじゃない」と言う。


「俺たちカハネ派にとって、君たちが作っている『人造の神』と、『祭壇』は極めて重要だ。人造の神と、あの伊勢神宮の巫女の血を混ぜ合わせて生まれた子供を、主への捧げものとする。しかし、それだけなら、それは単なる子供に過ぎない。それに、『祭壇』を通じて集めた人々の祈りと希望、願い……それらを注入することで、その子供は初めて主に嘉されたメシアとなるのだ!……そのときこそ、我らの悲願が成就し、大イスラエルが復活する!」


 なにを言っているんだ?コイツは……自分自身は、さも何か意味のあることを言っていると思っているのだろうが、ようは自分たちだけを贔屓(ひいき)する神が欲しい、と言っているだけじゃないか?エゴイズムもここまでいけば嗤えるな……まだあの巫女や、このダダ滑りのオッサンたちの漫才の方が遥かにマシだ。


「ま……僕は、君たちがどんな目的であれに出資していたとしても、それには関知しない。けれど良いのかい?民主共和党の阿部川さんは、人造の神を使って、あの巫女に子供を産ませて、それを日本国の王にすることをお望みだぜ?君たちと喧嘩にならなきゃ良いけどね。」

 僕がそういうと、アーロンは電話口でせせら笑った。


「子供なんて、二人でも三人でも、あの巫女にいくらでも産ませれば良いじゃないか?こっちはその中から器になるものをもらえれば問題はない。」


 スピーカーフォンにして、メグにも聞こえるようにしているのだが、アーロンのその発言は彼女を充分以上に不快にさせたらしく、汚物を見るような目でスマホを凝視した。


 僕は、メグの方を向き、唇に指を当て声を出さないようジェスチャーをすると、アーロンとの会話を続けた。

「好きなようにしてくれ。僕たちのミッションは、地下のあれを民主共和党の阿部川さんに引き渡した時点で終わりだ。『祭壇』は、プログラムや設計図面も含めて納品済みだから、後は自由にアレンジしてもらって構わない。もちろん、その時点でこちら側の責任は解除されるけどね。」


「むろん、分かってるさ……それより、『彼』はいつ目を覚ますんだい?今日か、明日にでもあの巫女を連れて来るんだから、そうしたら彼と直ぐにでもつがいにして……」

 アーロンが尚もおぞましいことを言おうとしてとき、地下のラボのアラートがなり、担当のエンジニアが僕らのオフィスに飛び込んでくる。


「アーロン済まない。どうも彼が目を覚ましたようだ。続きは後ほど……あぁ、興味があれば君も来ると良い。」

 僕がそういうと、アーロンは電話口で快哉を上げ、すぐこっちに来ると言って電話を切った。


「ようやく、あの不快な連中とサヨナラできそうだ。メグ、もうじきシスコに帰れるよ……」

 僕は、メグの方を向いて微笑んだつもりだったが、彼女の眼は何処か不安げだった。


 ◆


 エレベーターに乗って地下3階に着き、岩盤をくりぬいた空間に設置したラボに行くと、「それ」がハッキリと眼を開いて、こちらを見ていた。


 それは、僕とメグの方を向くと、ニッコリと微笑み、何か言いたそうに口をパクパクさせ、身振り手振りで何かを伝えようとする。


「知能があるみたいだね……まぁ、脳量子変換コネクターを通じて言語の学習などをさせているから、そうでないと困るんだが……とはいえ、こうも上手くいくと怖い気もするけど……」

 僕が自嘲気味に言うと、担当のエンジニアが胸を張って自慢げに答える。


「実験は大成功さ!『金烏玉兎集(きんうぎょくとしゅう)』なんていう、あんなわけのわからないオーパーツを使って、情報を人間の脳がダイレクトに受け取れる信号に変換するなんて、まったくの絵空事としか思えなかったけど……彼は見た目だけじゃなく、実際に人間の高校生なみの知能を持っている!実に画期的だ!これが出来ればゴーストダビングだって……」


 尚も自分のアイディアを語ろうとする彼を制止すると、僕は彼とのコミュニケーションの可否を尋ねた。


「すこし、彼と話してみたい。君の口ぶりからすると、可能なんだろ?ちょっと試してみてくれないか?」

 僕がそういうと、彼はさも楽しそうに、ああそうだね!やろうと言う。


 そして、キーボードに何か打ち込むと、「それ」の方を向いたディスプレイに何か表示される。そこには何か表示されていて、「それ」は嬉しそうに笑うと、大きく頷いた。


「レイジ、大丈夫だ。彼も君と話したいらしい。このマイクに向かって何か話してみてくれ。システムが彼の唇を読んで音声変換するから。」

 彼が、僕とメグの分のピンマイクを差し出し、僕らはそれを付けて会話を試みた。


「おはよう。僕の言っていることが分かるかい?僕は君を作ったもの、言わば創造主だ。」


 そういうと、彼は嬉しそうに手を叩き、僕に向かって優雅に挨拶をすると口をパクパクさせて、それを読み取った音声が流れてきた。


「おはよう!もちろん分かるよ。君が僕の創り主なんだね。あ、君たちのカルチャーではパパっていうのかな?初めまして!」


 真っ白な肌に、赤い瞳と淡い紫の髪…妖艶で美しいそれは、幼児のように愛らしい笑顔を浮かべて、僕たちに語りかけた。


「そうだね。育てた、という意味ではパパ、親といっても間違いじゃない。生物学的には違うけどね。意味はわかるかい?」

 そういうと、それは微笑んで頷く。


「もちろんさ!それは、僕に精子と卵子を提供した人たちは別にいるってことでしょ?でも、あなたが僕のパパであることは変わらないさ。あれ?そっちの人は、僕や君と見た目が違うね?もしかして、その人は女性?」

 それは、不思議そうにメグを見た。


 そして、メグはというと……うっとりした目で『それ』を見ていた……どうしたんだろう?あんなに気味悪がっていたのに……


 第88話、お読みいただきありがとうございました!

 前半の「太子&大師」による漫才……すみません、ダダ滑りです。

 なんで、この二人は漫才しちゃおうなんて思ったんでしょうね?

 勘違いしている人が多いのでしょうが、別に関西人だからって、誰でもお笑いなんてできませんから。

 しかも、オリジナルネタでもない上に、誰でもわかるようなことでもないし。ビリケンさんとお不動さんの違いとか知らんし。

 

 っていう話をしていたら、ついに出てきましたで!ラスボス的なヤツ出てきた!


 もーだいたい、アーロンの言うてることがキモすぎるわけですが、カハネ派っていうのは、実際にテロ組織扱いされている人たちです。興味のある人は、ググってみて下さい。

 

 はてさて、そんな人たちが欲しがっている人造の神ですが……

 めっちゃ可愛いショタっ子……なんやと思うけど、皆さんから見て、どんな風に見えたんでしょうね?

 次回は、引き続き礼二視点のお話が続きます……お見逃しございませんよう……


 怖いですね~、ほな、さいなら、さいなら、さいなら!!



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