第85話: 「全国神仏習合ファウンデーション」だって?この大人たちは、それの何を怖れているんだ?
「八幡宮が他の神社と連名で抗議してきた?どういうことです?」
僕がそう言うと、阿部川議員が腹立たしそうに一枚のファックスを見せる。
正直、議員が言った内容より、そんな前世紀の遺物で連絡を取り合っている異常さに驚いた。
阿部川議員は、まだ50代半ばだ。
普通、その年代のビジネスマンなら、フォーマルならメール、それ以外ならチャットを使うのが常識だし、むしろそれがマナーというものじゃないだろうか?
こんな方法を使っているなんて、バカだと思われたいんだろうか?それともこの男の支持者はそんな時代に取り残された連中しかいないんだろうか?
(ま、だからこそ、神国日本のどうのこうのなんていうファンタジーを信じているんだろうが……)
そう言いつつ、そのファックスに書いた内容を読んで、僕は一瞬意味を取りかねる。
紙面には、『解散勧告に対する抗議ならびに被包括関係廃止の件』と書いてあり、本文には以下のことが記載されていた。
『冠省
この度、貴庁より発出された当宮に対する解散勧告につきまして、到底承服いたしかねるものであり、ここに強く抗議し遺憾の意を表明いたします。
つきましては、関係法令および当宮規則に則り、当宮は貴庁との「被包括関係を廃止」し、今後は単立の宗教法人として運営してまいる所存です。右の手続きに関する公告等につきましては、追って滞りなく進めさせていただきます。
なお、今後は貴庁が主催、あるいは関与する一切の神事・行事等につきまして、当宮としての参加および協力を全面的に辞退申し上げますので、悪しからずご了承のほどお願い申し上げます。
書中をもちまして、右ご通知申し上げます。
不一』
「これがどうかしたんですか?いくら歴史が古いと言ったところで、たかが一個の宗教法人が独立するといっているだけでしょ?何が問題なんです?」
僕がそう言うと、議員は苛立たし気に、他にもファックスを何枚か出した。
いやいや、議員のところの秘書はファックスしか使えないのか?こんなもの見せるなよ。
しかし、メグがそれに目を通すと、彼女の顔がだんだんと青くなる。
「れ、礼二。これはさすがに……」
そう言って彼女が見せたのは、同じような文面が書かれた別の神社からの通知書であり、そこには『全日本天満宮梅花会』とか、『全国お稲荷さん会』、そして『エビス商工連合』と書いていた。
突然、阿部川議員のガラケーが鳴る。
「はい阿部川です……えっ?四天王寺と高野山からも抗議文?そんなことは私らに関係ないだろう!だいたい、なんで仏教界が神社本庁内部の内輪もめに口を出すんだ!?そんなことまでこっちで責任取れん!」
そういって、彼は苛立たし気に電話を切る。
「本庁の担当者だ……四天王寺と高野山からもクレームだとか、これもあなた達の所為だとか……知ったことか!たかが拝み屋が良い気になりやがって!」
彼が声を荒げるので、メグが一瞬ビクッとする。
僕は、体の中の全ての血が沸騰するのを感じ、阿部川を睨みつけた。
「……私的な電話は外でやってくれませんか?僕は、八幡宮に対して解散命令を出せば牽制くらいにはなるかもしれないとは言ったが、石清水八幡宮で起きた出来事……『駅前の駐車場にバラバラに破壊されたトラックと、同じように破壊されたフィジカルAIのようなものが見つかった』とか言って、一部のマスコミが騒いでいることは、そもそもあなた方の不手際でしょう?
まったく……敵の正体さえ分からないのに……よくそんなことしますね?あと、女性の前で声を荒げるのはやめてもらえませんかね?
このインキュベーションセンター KANEIJには、外資系のスタートアップも多いんです。日本は遅れているんでしょうが、有害な男らしさなんて、ここではなんの共感も得られませんよ?……」
おそらく僕はそのとき、強い殺意の籠った眼をしていたのかもしれない。
阿部川議員はビクッとして、バツが悪そうに舌打ちをすると席を立った。
「べ、別にそんなことは言っとらんだろう……それより、ほれ。」
彼は、そういうと某仏教系宗教法人の機関誌を見せた。
「季刊 観音さんぽ特別号?これがどうかしましたか?」
僕がそういうと、阿部川議員は忌々し気に、ある記事を指さした。
「全国神仏習合ファウンデーション?なんですかこれは……なになに?さきごろ、西日本の仏教界を代表する四天王寺、高野山において、古来日本人が、仏と神を分かつことなく崇めていた伝統を再発見すべく、新たな試みについての意見交換が交わされました。これには、大阪天満宮、石清水八幡宮、稲荷系、戎系の諸社も多いに賛同するところであり……なんですか、これは?」
僕がそういうと、阿部川議員は首を横に振る。
「全く意味が分からん……なんで四天王寺と高野山がそんなことを言い出したのかも理解できんし、各神社が乗ってきたのかも知らん。ただ……この国は、皇大神を崇め奉り、九段の英霊に守護されし神国なのだ……なんだ、下品な関西の坊主だの、商売人風情の神社が気取りおって!」
阿部川議員は、そう吐き捨てると、僕たちのオフィスを出て行った。
「何が神国だ……バカめ……」そう吐き捨てて振り向くと、僕の腕の中に柔らかで良い香りがする何かが入り込んできた。
「メグ……」
「わたし、あの人嫌い……怖いわ……」メグが目に涙を浮かべて、僕の胸に縋りつく。
「ごめん、気が付いてあげられなかった……」
僕がそう言って彼女にハグすると、メグは少し驚き、顔を赤くして嬉しそうに微笑む。
「えっ?……ご、ごめん。今のは不適切だったかな……優越的地位に基づく性的な接触は……」
そう言い訳していると、彼女は指で僕の口を塞いだ。
「バカな人……ちがうでしょ?でも、阿部川議員には感謝しないとね。うふ、うふふ……」
「ば……バカなって、えーと……」
僕が彼女の言葉にまごついている間に、メグは自分のデスクに戻り仕事をし始めたが、ふと手が停まって、マウスをカチカチとクリックしたかと思うと、何かのページにくぎ付けになった。
「どうしたの?何か問題でもあった?」
僕が尋ねると彼女は首を横に振ったが、なにか気づいたことがあったようで、手招きする。
そして……
「え……?『太神楽加持 大八嶋 星産みの儀 チケット 絶賛発売中、人気アーティスト多数参加……なんだこれは?」
僕がそういうと、メグが「そこじゃなくて」と言い、サイトの下の方を指さす。
「なんだって?……主催 全国神仏習合ファウンデーション……メグ、これって……」
僕がそういうと、彼女は腕を組んでしばらく考え込んだ。
「ねぇ、レイジ。わたしたちって、クライアント……阿部川議員たちや、Homines creavit corp.のアーロンからのリクエストで、量子AI・ワイヤレス通信システムの開発や、バイオコンピューティングAI、脳量子発電システムの開発・運用のサポートをしているわけだけど……」
「彼らって、いったい何のためにあんなことをしているのかしら?」
え?……彼女のこの質問は、まったく意外だった。
「いや、だからそれは……彼ら自身の問題であって、僕らは彼らの要望に見合う製品やビジネスを生み出す能力があって……それだけじゃないか?もちろん、アーロンたちの陸戦用二足歩行ドローンのように、明らかに軍事目的のものもあるけれど、量子コンピューティングや、脳量子発電システム自体は、省エネ・脱炭素や、エネルギー問題の解決に繋がる一般的な技術だろう?普通にニーズのある話だと思うけど……?」
僕がそういうと、メグが「うーん」と首をひねる。
「それはそうだけれど……じゃあ、それだけやっていればいいじゃない?なのになぜ、伊勢神宮の、いきなり消息を絶った巫女の捜索に、阿部川さんやアーロンが執着しているのかしら?そんなの警察に任せておけばいいだけなのに……しかも、あんな特級の軍事技術を用いて……訳が分からないわ。それに……」
「それに?他にも何かあるのかい?」僕がそういうと、彼女は地下のラボにある監視カメラの画像を僕に見せる。
「あれは結局、なんなの?デザイナーチャイルドに脳量子変換コネクターを付けて、大量の情報を送り込んで、人型AIを作る、っていうあの計画は?あんな違法行為を国の予算でやっているなんて、それだけで正気とは思えないし……」
「いや、だからそれは、今国会で法改正されたから今は違法行為ではないし……」しかし、メグは首を横に振る。
「レイジ、いいこと?そんなことって、中国やイスラエルでさえやっていないのよ?」
「メグ!君は何が言いたいんだ!だったら日本に来なきゃよかったじゃないか!?」バシッ!……気が付くと、彼女に頬を叩かれていて、次の瞬間、彼女が僕の腕の中に飛び込んでくる……
「レイジ、アメリカに帰ろう?わたし、この国は嫌よ……薄気味が悪いわ……なんなの?中間領域って……始終、訳の分からないログが流れ込んできて、時系列が無茶苦茶で……アーロンのところ、Homines creavit corp.のスタッフが何人も行方不明になっているのよ?……それに、あんな人型AIを伊勢神宮の巫女の夫にするって、そんなことして何の意味があるの?阿部川さんたち、ハッキリ言って異常よ……」
それはそうだけど……僕がメグにどう応えていいか分からないでいると、メグのPCの通知がなる。動画サイトの様だが、僕たち二人はそれを見ると、唖然として言葉を失う。
そこには、黒髪で小柄で少しふっくらした可愛らしい女性と、ネコだかキツネだかのコスプレをしたギャルっぽい女性、そして……
「ねぇレイジ……これって、わたしたちが伊勢神宮で会った、阿部川さんが探している巫女の女性じゃない?」
明るい栗色の髪を俗に言う姫カットにした、神々しいばかりに美しい女性が映っていた。
女性たちは全員巫女服を着ていて、ナレーションだろうか?ガラの悪そうな男性の関西弁が聞こえる。
『ちょっと姫―!いつまで回転焼き食べてんねんな!もう撮影始っとんねんから、そのトレーを置きなさい!ホンマにもう……食いもんに卑しいんやから……!』
『えーやんおっちゃん!姫、昨日の晩から朝の奉納神楽まで、なんも食べてへんねんで!せっかくウチがスペシャルなフムス味の回転焼つくってあげたのに!』
『ちょっとカナ~、もうその話いーじゃんよ~!南都新聞のインタビューまであと1時間しかないんだからさ、さっさと動画とって投稿しようよ!あっ!やべこれライブだった!……は~い♬美紗っちでぇーす!!』
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
いや……メグのね、好き好きオーラがすげぇなと。
あと、それに気が付いていないのか、分かっているのに受け止められないのか分からない日枝礼二、なんなの?非リアかよって思った方は多いだろうなって思います……
まぁ、アレ君のマブダチですから、恋愛に器用なわけがありません。
さてさて、そんな中で因縁つけてくる『神国日本の新しい姿について考える会』阿部川議員。
いやもー、人間小っちゃいなぁー、良い歳して。
……って思ったら、まさかの八幡宮から反撃されただけや無くて、天神さんやらお稲荷さんやらえべっさんからも、おまけに四天王寺と高野山からの抗議文。
もちろん、84話を読んでくれはった読者の皆さんからしたら、「そらそうやで」っていう話ではありますが、阿部川さん、なんでか意味が分かりません。
しかしそもそも、日枝やメグは、自分たちがしていることがどんな意味を持っているのか分かってへん様子、地下のラボで育成している「神様」の正体も分かってない、敵対しているのがどんな存在なのかもわかっていない……それが、メグが言った「薄気味悪い」の意味です。
せやけどそんなこと言うてる間に、「あれ?僕らが捜してる女の子(つまりアマテラス様)、動画に出てるやん!」っていう話で?
「なにがいったいどないなっとんねん!?」っということで、86話に続きます!
少しでも「礼二、早く気づいてやれよ(笑)」「神様の配信事故ウケる!」と思っていただけましたら、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】から評価やブックマークで応援いただけますと、今後の執筆の大きな励みになります!
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