第84話: 「アルコーンと悪魔が一緒になる」ですって!?それだけは何としてでも回避しないといけませんわ!って思ってたら、えっ、本当に開催するの?その超特大イベント。
「あの、太子様……ひょっとしてですが、そのアルコーンって……まさか主……」
わたしがそう言おうとすると、太子様がわたしの方をじっと見て、首を横に振る。
「理沙ちゃん、そこから先は言わんほうがええ。その『空中の司』とも呼ばれるものを信じている人々がな、この地上にはたくさんおるんや。」
そ、そうね……この話題は避けた方が無難だわ……
「ですが太子様、そうなると私たちは、悪魔を呼びだそうとしている連中と、このアルコーンの両方を相手にしないといけないってことですの?」
しかし、その問いに対して、太子様は「そやない」と言う。
「理沙ちゃん、アルコーンは神とちゃう。飽くまで邪神の一柱に過ぎん。そんなもんより、夏菜子や美紗ちゃんみたいな、覚醒したての神の方がよほど圧倒的な力をもっとる。むろん、八幡姐さんや道真の敵やないし、ワシら仏から見たらゴミみたいなもんや。しかし……」
太子様が、サングラスを外して、わたしをじっと見る……その眼差しは、明らかにいつもの太子様とは異なるものだった。
「アルコーンが言うことはな。ものすごく魅力的なんや……ちょっと考えてみようか?どっちがええ?『苦しみは貪瞋痴から生まれる。己を見つめよ。』と、『お前たちは選ばれた民だ。我を崇めるならば楽園に連れて行ってやろう。』
太子様がいうと、夏菜子さんと美紗さん、つまり、なりたてホヤホヤ神様である二人が、即座に否定する。
「なんなん、おっちゃん。ウチらのことアホやて思うてる?そんなインチキに引っかかるわけないやん!怒るでしかし!」
「そーだよ!だいたいさ、どんなマンガでも小さいことからコツコツと!ってのが王道パターンじゃん!だいたいそれ、魔王城で勇者が魔王に言われるやつじゃん!」
二人がそう言うと、太子様はカラカラと楽しそうに笑った。
「ははは!さすがにイザナミはんと豊受姫の化身やな!そうそう!そういうことっちゃ!自分らみたいに、思いやりと真っすぐな気持ちをコツコツ積んでいったもんが天道に輪廻するんがこの世界のルールやからな!それ以外のもんはたいがいパチモンや!まぁ自分らには引っ掛け問題にもなってなかったか!」
「だども、そっだらへでなしなこど、信じるバカがいるっでことだべ?そうでねが?太子さま、真魚さん」
いつのまにか、アレクセイさんと花奈ちゃんまでやってきて、太子様の話に聞き入っているわ。
「その通り。夏菜子、美紗ちゃん、それに理沙ちゃん、アレ坊、花奈ちゃん。自分らはな、そんなインチキには引っかからん。そやからこそ、姫のような神、それにワシらのような仏がシャープに見えとる。
せやけどな、この世界には、自分自身に対する責任を逃れるためなら、メザシの頭でも拝むようなアホもおる。そういうんをアルコーンはよう知っとるんや。
ようあるやろ?なんやよう分からんオッサンが、『我こそはメシアである!』とか言うとんの。まぁ、八割がたはただの金儲けやけど、まれにホンマに信じ込んどるアホがおる。宗教だけやない。『この国は素晴らしい!』とか、『この政治思想は素晴らしい!』とか。つまり、排他的で、つまらん幻想で自分が特別になったように感じさせるもんの背景には、たいがいアルコーンがおるんや。」
「と、いうことは、太子様、それは特定の宗教の神のことを言っているわけではないのですか?」わたしがそういうと、太子様は無言で頷いた。
「あー、その話な。確かに、それ(アルコーン)絡みの連中がケッタイな教義を広めとるから誤解されやすいけど、そもそもあの宗教はそういうもんやない。『生命の樹』ちゅうのは、もっと広遠な人間存在に対する洞察や。むろん、そういう人々はアルコーンによる支配を受けとらん。そやから、さっき言いかけたけど、要はアレ坊が言うた通りで『自分を信じたら楽園に連れてったる』っていう取引、これこそがアルコーンの本質なんやけど……」
「待ってげれ!そっだらもんが、『逆さまの樹』の連中がやろうどしてる悪魔召喚と一緒になっでまっだら最悪でねが!?」
確かに、それはそうかも……でも、美紗さんが首を傾げてアレ君に質問する。
「ねねアレ君、あーしそれイミフなんでけどさ、なんでなん?」
すると代わりに、真魚様が応えた。
「貪瞋痴、三つ数えたらアホになる、っていう話したやろ?あれは、誤った考え方、貪欲さ、怒りっちゅうもんが三つ揃ったらアホになる、って言う話とちゃうんや。そもそもこの三つは、お互いのシッポを追いかける獣みたいなもんでな。豚が無知、鶏が貪欲、蛇が怒りなんやけど、そいつらはそれぞれ、豚の後ろを鶏が追いかけ、鶏の後ろを蛇が追いかけ、さらに蛇の後ろを豚が追いかける、ってなっとんねん。」
「豚さんとニワトリさんとヘビが追いかけあってる?なんでそんなことするんですか?」
花奈ちゃんが不思議そうに言うと、真魚さんが続けて説明した。
「チベット仏教とかでよう出てくる図柄なんやけど、こういうことや。
人間には誰しも自我がある。これが自分やって思う自己認識とか、ある種の出来事に対して決まった反応を示すとか、そういうんが積み重なったもんがエゴなんやけど、これは積み重なったもんで出来てるから常に変化する。
そやけどな、人間はだいたい、それを永遠不変の自分やって勘違いしてまうんや。すると、それを守ろうと思てアレコレ欲しなる。しゃーけど、何もかもが得られるわけやない。例えば、若い時分は肌が白うてシミ一つなかったもんが、年取ったらそうでなくなる。生老病死の『老い』のことやが、典型なもんやな。ま、自分らまだ若いからピンとけぇへんやろけど。
そやなー……花奈ちゃん、例えば、ガチャガチャとか買うとするやん?自分が欲しいヤツがなんべん回しても出て来ぇへん。そんなとき、どない思う?」
「それは…『なんでだよー!』って思ってイライラしちゃいます…」
そう言いながら、花奈ちゃんが恥ずかしそうに上目遣いで真魚さんを見る。
可愛い!!あぁもう、そんなの気にしなくて良いのよ、って言ってあげたい!
あぁ、ダメダメ。なるべく顔に出ない様にしないと…
「ふふ…まぁ、花奈ちゃんはまだ子供や。そないに気にせんかてええし、そない思てモヤモヤするときは、夏菜子ちゃんでも美紗ちゃんでも周りの大人に話してみなさい。まあでも、そういうこっちゃ。手に入らへん、イライラする、そしたら余計に冷静さを失って正しい判断できんようになる…これが、お互いのシッポを追いかけるケモノの意味や。」
「なーる…でも真魚さんさ、それ分かったんだけど、なんでその、アルコールってヤツと組み合わせたらダメなん?」
美紗さん、アルコーンね?
すると、真魚さんがズッコケながら答えた。
「み、美紗ちゃん…それやと酔っぱろうてその辺でクダまいてるオッサンになってまうやろ…えーとな、アレ坊はもう分かっとるみたいやけど、自分の内面を理解せんと、誰かを、何かを信じたら救われる、得られる、特別になれる、っていうのはな、限りないエゴの肥大そのものなんや。しかしな、そんなもん信じたところで、苦しみは消えへんし、何にも得られへん。そしたら欲望はますます肥え太って、『もっと!もっと!』になる。そっから先は、さっき言うた通りや。」
そこで、今までじっと目をつむって話を聞いていた夏菜子さんが、ぱっと目を開いた。
「真魚さん、おっちゃん、分かった。ほんならウチらのせなあかんことはただ一つ、そんなもんが無うても、いつでも幸せになれるんや、って言うことやな?」
そういうと、全員が一斉に彼女を見る。
「ちょっと、ちょっと、夏菜まちなよ。それ話飛びすぎじゃね?」
美紗さんがそういうと、夏菜子さんは「なんでや」と言う。
「さっきおっちゃんが言うとったやんか?神事法要ロックフェスやったらええんちゃうかって。そういう話やろ?」
夏菜子さんがそういうと、太子様が微笑んで大きく頷く。え?ホントに?太子様、さっきのって、ものの例えじゃなかったのですか?
「夏菜子、その通りや。八幡宮、天満宮、えべっさん、お稲荷さん、四天王寺、高野山の合同で新しい団体作る。その記念イベントとして、カミナリロックフェスみたいな大規模イベントをやって全世界中に配信するんや。これは一つの作戦で、『神国日本の新しい姿について考える会』の企みも、邪神アルコーンの浸食も、『逆さまの樹』による悪魔召喚も、すべてを打ち砕く激流となる。それだけやない。このことが成功すると、姫、自分が言うたイザナミ女神の復活も叶うやろう。」
すると、姫様もニッコリ頷いて、宣言した。
「うふふ……結論は出たようですね……では始めましょう!新たなる天地人と神仏習合の大団円!『大八嶋 星産みの儀』を!!」
◆
「ち、ちょっと!お待ちくださいませ姫様!フェスと簡単に仰いますが、千手観音クマラ様の作戦開始まであと4日しかございませんのよ!会場を抑えて、自治体に許可とって、アーティストとスケジュールの交渉をして……フツーに間に合いません!だいたいカミナリロックフェスって……そんな次期滋賀県知事のイベントみたいなヤツ、ポンポンするわけには……って、え?なんですか菅原先生!?」
姫様の、典型的なカリスマ経営者のプレゼンみたいな話にパニックを起こしていると、菅原先生がわたしの脇腹をツンツンしてくる……なんなの!だいじな話してるのに!セクハラで訴えますよ!!
「ち、ちがうやん!僕やなくて、ヒルコさんから提案があるって!!……」
振り返って見ると、、ヒルコ様がピョンピョン飛び跳ねていた……ごめんなさいね、先生。でも先生っていつも余計なんだもの。誤解されるようなことを日ごろからしている先生が悪いんですわ。それはそうと……
「ふっふっふ……理沙ちゃん!!そんな勝算の無いもんに、ぼくら商人が付き合うわけないやん!これ見なさい!」
そしたら!突然プロジェクターのスイッチが入って、本殿の襖にイベント告知みたいなウェブサイトが投影される!
「ごらんあれ!名付けて『祝!全国 神仏習合ファウンデーション設立記念 太神楽加持 『大八嶋 星産みの儀』!絶賛チケット発売中!人気アーティストもぎょうさん参加しまっせぇ~!!」
え?……みんなが一斉に口をあけてポカーンとする。
「なんやてぇーーーー!!」
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!
今回は、アルコーンの恐ろしい本質と、「貪瞋痴」という少し難しいお話でした。
でも、真魚様の「ガチャガチャで欲しいもん出ぇへんかったらイライラするやろ?」で、ちょっと分かった感ありません?え?花奈ちゃん可愛いけど理沙キモイ?
まぁまぁ、そう言わないであげて下さい……理沙ちゃんだって美人さんなんだから……
「自分を信じれば楽園に行ける」という甘い罠ではなく、日々の小さな思いやりをコツコツと積み重ねること。
美紗ちゃんと夏菜子ちゃんの「某伝説の漫才師」ばりの見事なツッコミも炸裂し、神仏たちのブレない強さが光る熱い展開……からの!!
まさかの、フェス開催告知!(笑)
理沙ちゃんが「あと4日でフェスなんて物理的に無理!」と、ごく当たり前に苦情を言っているところで、ヒルコ様の「大丈夫! 我に新兵器あり!」的なヤツ!
実は、ちゃっかりイベントの準備して、チケットも絶賛発売中でした、という如何にもビジネスマンのヒルコ様、仕事が早すぎる……!
次期滋賀県知事のイベント(イ〇ズ〇ロックフェス?)ばりの超大型神事イベント。果たしてどんなヤバいアーティストが出演するのか!?
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皆様からの温かい応援(熱気)が、4日後の「大八嶋 星産みの儀」を大成功させるための、何よりのエネルギーになります!




