第82話: 「みんな夏菜のこと好きすぎじゃね?いっちばんのマブダチはあーしだから!」って美紗さんが言ってるけど、ちょっと独占欲強すぎじゃないかしら?
夏菜子さんが、そう言って皆に頭を下げると、どこからともなく拍手が聞こえて来る。
最初は一人、二人……でも、だんだんと大きくなり……
「めっちゃええ子やん!」小さな子供を抱えたお母さんたちが、涙ぐみながら手を叩き、年少さんくらいの小さな子たちが夏菜子さんのところに寄っていく。
「あの半次郎殿に頼まれては、引き受けんわけにはいかぬのう!」
こんどは、天津軍に加わる武士たちが、皆立ち上がり拳を突き上げる。
「太子様があないに言わはんに、アタシらがあかんて云うんもおかしいなぁ。」
商店街の皆さんが、照れたように笑う。
そして……
神職の皆さんと、神功皇后様、護良親王はじめとする、天津軍の諸将が一斉に夏菜子さんに平伏する。
「我ら八幡宮は、只今より夏菜子殿を伊弉冉女神の後裔と認め、皇大神に並ぶお方として帰依つかまつりまする……」
最後に、拍手が割れんばかりに大きくなり、夏菜子さんが困ったような笑顔を浮かべていた。
「よーし!じゃなみんな、何となくイイ感じになってきたところで、八幡宮解体とかよく分かんないこと言っちゃってる悪い奴らをやっつけちゃおうか!?準備は良いかなー!?」
そういって、美紗さんが拳を突き上げると、みんなが揃って「おーっ!」とばかりに歓声を上げる。
っていうか、さっきまで夏菜子さんや太子様が、感動的なお話をしていたのに、なんでこの人こういうノリに持って行けちゃうのかしら?ホントに陽キャ過ぎて謎だわ。
そしたら、夏菜子さんもそう思ったのか、小声でわたしに話かけてきた。
「なぁなぁ理沙ちゃん。田島のヤツ、なんか知らんけど、えらい八幡宮の人たちに大人気やな?いったいウチらがおらん間に何があったん?」
近っか!夏菜子さん、近っかい!うわ!こんな間近で『理沙ちゃん』呼びされたことないかも!可愛いーー!!マジで可愛い!なんていうのかしら?姫様とか、美紗さんみたいに、ありがちな美人じゃないのよね!
ちょっとぽっちゃりして、プニプニしてて、可愛らしい声なのに河内弁とか!神かよ!あ、興奮してはいけないわ。彼女は女神なのだし……しかも!ちょっと口悪かったりするのに、泣き虫で、お料理上手で、小さい子が好きで、優しくって、ちょっと照れ屋さんで、日焼けしてボーイッシュでって……
萌える要素しかない!!
「理沙ちゃん、どないしたん、顔真っ赤やで?あ、鼻血出てる。大丈夫なん?あんたちゃんと寝てるか?」
あ!いけない、変態と思われてしまうわ!
わたしは咳払いをして平静を装うと、夏菜子さんにこの3日ほどのことを説明した。
「夏菜子さん達がいなくなった後、わたしたちは太子様のご指示にあった通り、八幡宮の神職の皆さんに事情を説明して、宮司様からバイトの巫女の女の子に至るまで、神兵召喚を出来るようにしたのです。また、商店街の皆さんや京阪電鉄 石清水八幡宮駅の駅員さんにも協力をお願いしまして……総勢100名ほどの神兵は召喚できるようにしました。実際、すぐに敵方の別動隊の急襲があったのです。パワードスーツは1-2体でしたが、呪力弾を使う歩兵が結構いまして……それでも、太子様のご助言のお陰で、難なく退けることが出来たのです。」
私がそういうと、夏菜子さんは心底驚いた様子で、わたしの手を掴んだ!?キャー!
「え!?嘘やん!ごめんな!それが分かってたら、すぐ戻って来たのに!」
もうやめて!そんな可愛い顔で泣かないで!わたし、アホになりそう。
あ、ちがうちがう……
「夏菜子さん、大丈夫ですよ、そんなに泣かないで……」私が彼女の手を握り返してそう言うと、夏菜子さんが顔を赤くする。あら?どうしたのかしら?
「な……なんなん?理沙ちゃん、前みたいにただのカシコの方が話しやすいねん……なんか、今の理沙ちゃん、美人過ぎてドキドキするやん……」
え?なに?今何が起きてるのかしら??
「こら理沙ちゃん!わたくしの夏菜子ちゃんに手を出すんじゃありません!」
いきなり背中に柔らかいものがのしかかって来て、ビックリして振りかえると……
え!?姫様!なんで酔っぱらってるの!?
「なんかねー、美紗ちゃんが『作戦会議の前に乾杯っしょ!』とか言ってぇ~、そしたら商店街の人たちが、いっぱいビールとか、ハイボールとか持ってきてくれてぇ~」
ダメだわ、既に姫様はアホな子になっているわ……ここはわたしがしっかりしないと……って!姫様!夏菜子ちゃんに抱きつかないで!
「おいこら理沙っち!あーしの夏菜と姫を独り占めとかおかしーだろ!あーしにも……」
あ、一番ややこしい人が出て来た。っていうか司会なのにベロベロとか意味が分からない。
このたった数分の間に何があったのかしら……
でも、わたしが困っていると、花奈ちゃんがすっと立ち上がる。
「ちょっとみなさーん!!」
花奈ちゃんがそう言うと、酒を飲んでいるバカな大人たち……あ、自戒を込めてね……アルコールが入って、ちょっと気持ちが大きくなっているお兄さん、お姉さんたちに語りかけた。
「大事なお話をしているのに、お酒を飲んで楽しそうにしているのはちょっとおかしいんじゃないかって思います!!特に姫様は一番酔っぱらっていて、すごく変です!!」
固まる姫様と、美紗さん、困ったように苦笑する夏菜子さんと、お腹を抱えて笑う真魚様と太子様!ちょっと!分かっているなら止めてくださいませんこと!
「いやぁ……ごっつ笑かしてもろうたわ……たぶん、今この場におる連中は、日ノ本でいちばん幸福な連中なんかも知れんな……にしても姫、花奈ちゃんに怒られるとか、ワシ久しぶりに笑かしてもろたわ~」
そう仰ると、太子様は真剣な表情でわたしの方を向いた。
「夏菜子や姫、ワシらへの説明も含めてやけど、今一度理沙ちゃんの口から、この3日ほどにあったことを教えてもらおうか?」
◆
「……それで、私たちが神兵召喚を出来る体制を作ったところまでは話したと思うんですが……」
わたしが立って説明すると、みんな一斉にこっちをみる。
「先ほど夏菜子さんにもお話しした通り、その後の敵の急襲じたいは難なく退けることができたのです。……ですが、実は昨日の夕方ごろに、突然神社本庁より数名がやってきて、解散するよう勧告をしてきた、ということです…」
そこまで言うと、商店街の人たちがうんうんと頷く。
「もちろん、神社本庁にそんなことを命じる権限はありませんし、石清水八幡宮の影響力は非常に大きいので、理由もなくそんなことをすれば、他の神社も本庁への不信感を強めます。そして何より、歳入が減ってしまいます。実際、鶴岡八幡宮は脱退してしまいましたし…つまり…」
私がそこまで言った後で、太子様が言葉を添えた。
「本庁は自分らにとって全く利益にならんことを言うてきた、そんでそれは、本庁自身の意思やのうて、『神国日本の新しい姿について考える会』の議員どもの仕業やろう、っていうところまではわかったわけやけど…」
太子様がそういうと、皆がどよめく。とくに、神職の皆さんや、商店街の人たちは、とても憤慨していた。
「太子さま!そらどういうことですねん!東京におるなんやケッタイな政治屋ふぜいが、ワテらの八幡さんにチョッカイだしてけつかる言いまんのか!?」
駅前の和菓子屋のご主人がそういうと、みな口々に「せや!」とか、「バチ当たりなやっちゃで!」なんて言う。
この感覚…神奈川出身のわたしにはよく分からないけど…たぶん関西って、神さまとか仏様がもの凄く色濃いのよね。
そんな様子を見ていると、太子さまが「まぁまぁ」と言った。
「自分らが姐さんのことを心底大事に思うてくれるんは、ごっつありがたい。けどな、右や左でワーワーとプロレスしとるような政治家どもにとって、神や仏ちゅうんはただの遊び道具や。そんなんやのうて、さっきアレ坊が言うたように、悪魔を呼び出そうとするとんでもない悪もんがおるっちゅんが本丸やし、大事なんはそれを抑えるいうことやとワシは思とる。美紗ちゃん、さっき言いかけたやろ?この解散命令自体が突破口になるて…」
太子様がそう言うと、それまでベロベロだった美紗さんが、なぜかシャッキリして話しだす。
「あ!そうだよおじさん!ねぇみんな!ちょっとあーし思ったんだけどさ、なんか、神社本庁ぬけたいなーって思ってる神社ワンチャンあるかもだよね!?あーしんとこ、お稲荷さんじゃん?そもそも入ってないわけ!でねー、太子のおじさんの友達で、出雲の神様と、勉強の神様いるわけ!そーゆー神様とかさ、太子のおじさんの四天王寺とかさ、真魚さんとこと組んで、新しい団体つくっちゃったらオモロくない!?」
え!?なに言ってるの、っていうか、なに言っちゃってるの美紗さん!!そんなのオモロイで済まないでしょ!?
明治から続く国家神道的ナラティブの完全崩壊よ!
わたしは思わず、美紗さんを羽交い絞めにした。
「ちょっと!美紗さんアホみたいなこと言わないで!そ……そんなことしちゃったら日本が無くなってしまいますわ!」
でも、真魚さんは「いや」と言った。
「理沙さん……その考えは案外悪くない……もとより今回のことは、悪魔を召喚しようとする外国勢力の陰謀によるもんやが、『神国日本の新しい姿について考える会』っていうんは、たぶん明治以来の国家的ナラティブを再興したい、って思とる奴らや……そやからこそ、人造の神を作って伊勢を乗っ取り、完全に自分らの歪な国家観で日本を再統合するんや!って息まいとるんやろ……それが悪魔の罠やとも知らずに……せやけどな、日ノ本の民は、そんな浅はかなモンを信じとる連中だけやないし、だいたい俺ら仏教徒がアホほどおる。そんな舐めた真似は通じへんが……どや太子、美紗ちゃんの案、やってみぃへんか?」
真魚さんがそう言うと、太子様が不敵な笑いを浮かべる……
「ふ……ふふふ……たぶんそいつら政治屋は、苦し紛れで神社本庁を使うて八幡宮を潰そうと思うたんやろうが……よもやそれが自分たちをすり潰す激流になるとは思わんやろうな……よっしゃ!美紗ちゃん、さっきフェスやろうとか言うとったな!それや!伏見・八幡宮・四天王寺・高野山で、神事法要ロックフェスやったろやないか!!」
「なんやオモロイ話してまんな~僕らも混ぜてくれまへんか~」
あら?なんだかとっても可愛い声がするわね?……と思って振り返ると、そこには飛び跳ねる青いゼリーとメガネのサラリーマンが……
ヒルコ様、菅原先生!いったいどうなさったの!?
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!
前回の、夏菜子による感動の演説から一転……エリート官僚・理沙の激オタぶりからの、楽しかったらなんでもいいギャル、美紗ちゃんによる怒涛の展開!
そして!一番年下の花奈ちゃんが、一番しっかりしているというオチでした……
さてさて、美紗ちゃんが言い出した「オモロクなーい!?」の話が、実はもっとも敵に痛撃を食らわせる一手となるという、真魚さんの分析。
そして!そこに出て来た、俺たちのオッチャン!太子様のファイナルアンサーが、まさかの『神事法要ロックフェス』! 神様も仏様も市井の人々も、全部ごちゃ混ぜにした、なんだか良く分からないイベント、いったい何をするんやら?
そして、最後にひょっこり現れた、青いスライム……もとい西宮のヒルコ様と、メガネのサラリーマン風学問の神様、菅原道真先生!あらまぁ、なにしに来ましてん?
次回!フェスの開催に向けて、更にカオスになっていきまっせ!
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次回もどうぞお楽しみに!




