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第81話: ウチは田島みたいに調子よくないし、理沙ちゃんみたいにカシコないから喋るんは苦手やねんけど、なんか演説っぽいのをせなアカンねんて。

 なんかこのシチュエーション、前にもあったなぁ……あ、石舞台古墳で、大峰(おおみね)山の鬼のみんなの前で、太子のおっちゃんになんかしゃべれ、って言われてしゃべったわ。

 でもあの時は、戦いの前でちょっと熱なってたし結構ハズイこと言うたなぁ……今日はあの時のノリで言うんキビしいかも。


 どうしょうかな?なに話そ?えーと……

「あ、えーとですね。ウチは小路夏菜子って言います。淡路県民局 洲本健康福祉事務所っていうところに務めてて、ここにいる田島の同期で、大阪の太子町の農家出身です……休みの日は農家の手伝いしたり、地元の魚で料理作ったりするんが好きで、田島にもよう作ってあげたりしてて。」


 って、ウチはいったい何の話をしてんねん。緊張して考えがまとまれへん。

 なんか、商店街の人らも、神職さんたちや、武士のみんなもザワザワしてるし。


「ぜんぜん威厳ないな?美紗ちゃんみたいに狐さんの耳とか尻尾があるわけでもないし。」

「色も黒うてぽっちゃりしてて、なんかその辺の女の子みたいやで?」

 そんな感じのヒソヒソ声が聞こえて来る。


 そやねん、ウチはその辺におる女子やねん。田島みたいに可愛いわけでも、理沙ちゃんみたいにカシコでもないねん。そやのに神様とか言われて、何をどないしたらええんやろ?


 けど、そない思て(うつむ)いてたら、田島がウチの手を握って、ウチだけに聞こえるように言うた。

「大丈夫だよ。神様って言っても、あーしら普通の女子だって。姫だって、ただの食いしん坊じゃん?言いたいこと言や良いんだよ。」


 え?そうなん?でも言いたいことって……そしたら、ふと花奈ちゃんが目に留まる。

 花奈ちゃんは、目を輝かせて拳を握り、両手をブンブン振っている。どうもウチに『がんばって!』って言ってるみたいや。


 せや。花奈ちゃんみたいな子をこれ以上つくりたくないんやった。饒速日さんが処刑されそうになった時、泣きながら刀を握ってる半次郎さんを止めたんやった。

 四天王寺で、失敗しても喧嘩しても、自分で決めて生きたい!って、地蔵さんに喧嘩売ったんやった。

 ウチは、田島の手を握り返すと、立ち上がって深呼吸する。


「そのー、ウチみたいなんが『イザナミ神の血を引く闇と星空の神』って言われても、皆さんぜんぜんピンとけぇへんと思います。ウチもピンと来てません。そんなんやねんけど、八幡さんとか、ここにいる真魚(まお)さん……えーと、弘法大師様って言うた方が分かりやすいんかな?それと、そこに座ってるかりゆしのおっちゃんは実は聖徳太子で……そういう、神様と仏様と一緒に旅したり、闘ったりしてます。ほんで……」


 聖徳太子、って言った瞬間、商店街の皆さんと神職の人らがびっくりしておっちゃんを振り返った。そやなー、どう見ても新世界のジャン横で将棋打ってるオッチャンやしなぁ。


「ほんで、なんでそんなことになったんかって言うと、たまたまスーパーでしょんぼりしてるお爺ちゃんに会って、そしたらそれはイザナギっていう日本でいちばん最初の神様で、お家にいったら姫……アマテラスさんがいました。それで、次の日に行ったら、姫が悪い奴から逃げて来て、すっごく泣いてたから、どないかせなアカンって思ったんです。」


「それで、どないかせなアカンってやってるうちに、西宮(えびす)に行ったり、ここに来たり、四天王寺に行ったりして、それで、奈良の畝傍山(うねびやま)に行ったときに、ウチの死んだお祖母ちゃんが実は神様で、今も畝傍山のふもとに住んでて、それでウチもその血を引いてて神様の力を持ってるって知らされたんです。」


 どこかで声がする。どうも、八幡宮の神職の人みたいや。

「いや、たまたま神様なったんですみたいな話されても……この子ほんまに大丈夫なんか?」って聞こえた。

 いや、ホンマにそう。ウチもそう思う。せやけど……


「せやけど、四天王寺で、めっちゃ怖い話を聞きました。仏さまたちが『人類はもうアカンからリセットしようや』って言うてるらしいです。畝傍山ではロボットみたいな奴が襲ってきて、その中に、そこに座ってる花奈ちゃんがおって、生きた電池にされてることを知りました。談山神社で、中臣鎌足(なかとみのかまたり)さん、不比等さんって神様が殺されているのを見ました。それと……そこにいるアレ君、高橋アレクセイ銀次郎くんが死にかけて、それでウチは暴走して、敵の兵隊さんをたくさん殺してまうところやったし、ウチの暴走のせいで仏さんたちのリセットが始る寸前でした……」


 ウチがそういうと、さっきまでザワザワしてたのに、急にシーンってなった。


「ウチは、むずかしい話は得意やないんです。理沙ちゃんみたいに歴史とか文化に詳しないし、アレ君みたいにデジタル技術とかに詳しいわけでもありません。でも、なんやろ?このままほっといたら、花奈ちゃんみたいな思いをする子がまた出てくるし、さっきアレ君が言ったみたいに悪魔を呼び出されたら、世界中の人がお互いにいがみ合ったり、喧嘩したりして、そしたら戦争も起きると思います。ちょっと肌の色が違うだけで、拝んでる神さんが違うだけで。」


 ウチはそう言うと、花奈ちゃんが座っているところに行った。

 花奈ちゃん、敵の施設におったときのこと思い出したみたいで、身体を縮めて丸くなってた。


「か、夏菜子お姉ちゃん……」

 ウチが花奈ちゃんを抱きしめると、ちょっと安心したんか、ボロボロ泣き出した。

「なんや、なんも泣かんでもええやん。ここには花奈ちゃんに嫌なことする大人は誰もおらへんやろ?」

 ウチがそう言うと、花奈ちゃんは「うん」って言うて、ウチの胸にしがみつく。


 半次郎さんと目が会うた。

 半次郎さんは、ウチの眼を見ると、すっと立ち上がる。

「みなさん、聞きたもんせ。おいは、先日ん石清水ん戦いで、姫より饒速日様を処刑すっよう命を受けもした。

 おいは、武士であっ以上、主君ん命に従うとが当然じゃし、そうであっ以上、例え自分が神殺しで地獄に落つっことになったとしてん、そうすべきもんじゃち思うちょった。」


 そういうと、半次郎さんはウチの傍に来た。

「じゃっどん、そいがほんのこて正しかことかどうか分からんじゃった。現世では、幕末、明治と散々戦うて来っせぇ、死してんなお修羅となり、闘い続けて来っせぇ、剣を振っうことを躊躇うたことは、そいが初めてじゃった。

 夏菜子どんな、そげんおいに、止めち言うてくれた。おいだけ地獄に落つっなんて、そげんなこたぁいやじゃち言うてくれもした。」


 半次郎さんがそう言うと、ウチのことを胡散臭そうな目で見てたお侍さん(幕末の志士と新選組の人らかな?)たちが、俯いて肩を震わせる。


「おおきに、ありがとうな。半次郎さん。」ウチが言うと、半次郎さんはニッて笑う。


「皆の衆、ちょっとワシの話を聞いてくれへんか?」

 太子のおっちゃんが、八幡宮の神職の人らとか、商店街のお店の人たちとか、天津軍に武士に向かって話す。


「えーとなぁ、ホンマやったら今回のことは、仏であり、日ノ本の管理者であるワシが始末を付けなアカンことや。せやけど、起きてることがなかなかややこしいてな。姫を守り切れてない。それについてはホンマに申し訳ない。」

 おっちゃんがそう言って頭を下げると、神職の人らが慌てて「お止めを!」とか、「救世観世音菩薩が頭を下げるなど!」って言うて、おっちゃんを引き留めようとする。

 でも、おっちゃんは「まぁ聞きなさい」って言う。


「……夏菜子はな、まぁ不思議なもんで、別にめっちゃ頭が切れるとか、強いとか、口達者とか、そういうことと違うんやけど、コイツに」

 おっちゃんは、そう言ってウチの方を向いた。


「怒られたり、励まされたりするとな、力が湧いてくるっちゅうんか、前を向けるっちゅうんかな……叡福寺に行った時や。ワシ、お母はんと嫁さんに苦労掛けたん思いだしてもうてな。」

 おっちゃんは、そこで言葉を切る。


「あかんなぁ……1400年も経っとって、いちおう観音さんやっちゅうのに、今でもあの時のこと思い出したら、一歩も動けんようになってまうねんなぁ。せやけど、コイツはそんなワシのために泣いてくれてな……なんかこう、いっつも太子様とか観音様とか言われとったら、そう言うんに弱ぁてなぁ。」


 太子のおっちゃんは、そういって無理にガハハ笑いをすると、サングラスを外して目頭を拭った。

 それを見た商店街のお店の人らが、涙を浮かべて手を合わせている。


 最後に、姫がウチの傍に来て、手を握った。これには八幡さんや、護良(もりなが)親王さん、神職さんらがビックリしてもうた。

 みんな口々に、「姫!」とか「皇大神(すめらおおかみ)!」とか言うてる。

 でも、姫はそれを手で制すると、神様っぽくない、いつもの悪戯っぽい話し方で言う。


「うふふ……すごいでしょ?わたくしたちの夏菜子ちゃんは。」


「わたくし、政治家たちが変な化け物を連れて来て、わたくしの婿にさせようとしたとき、ビックリして淡路島のイザナギお父様のところに逃げたんだけど……着いた時は怖くて泣いてばかりいたの……でもね……」


 姫は、ウチの手を強く握ると、みんなの方に向かって話した。

「でもね……夏菜子ちゃん、何にも理由聞かずに、わたくしのこと抱きしめてくれて、美味しいご飯作ってくれて……西宮でも、四天王寺でも、談山神社でも、ずっと一緒にいてくれて……この子がいてくれたおかげで、わたくしは、日ノ本の皇大神として何をするべきか分かってきました。」


 そういうと、姫はウチをぎゅっと抱きしめ、みんなから驚きの声が上がる。


 しばらく、みんな黙ったままで、静まり返ってたけど、姫が最後に言うた。

「夏菜子ちゃん、あなた自身の言葉で言ってみて。」

 う、うん、分かった……ありがとう。花奈ちゃん、半次郎さん、おっちゃん、姫。


「みなさん、ウチは、この世界っていうんは大げさやけど、せめて皆さんが、明日も、明後日も、お札が配れたり、八幡宮に来たお客さんにたこ焼きを食べてもらったり……天津軍のみんなは退屈なパトロールだけで済んで、幸せに暮らしてくれたらなって思ってます。ガム新さん、今の時代のお菓子食べたいって言うてたね?赤福餅でも、面白い恋人でも買うてきたるさかい、好きなだけ食べてな?ほんで、子どもの世話したり、ご飯つくったりして、年取ったらちゃんと看取ってもらって、仏壇に線香あげてもらって……そういう風にしたいので、良かったら、チカラを貸してくれたらと思います。」

 そういって、みんなの方を向いて頭を下げた。


第81話をお読みいただき、本当にありがとうございます!


 前回のハイテンションな美紗ちゃんプレゼンから一転、夏菜子の不器用な言葉をお伝えしました。

「闇と星空の神」なんてたいそうな称号が付いちゃってますが、いうても料理と農作業が好きで、誰かの世話やくのが好きなだけの、その辺にいる子なので、そんなにペラペラしゃべれません。


 でも、周りの人たちは、彼女の優しさを、まっすぐな温かさを知ってます。

 そんな、彼女を支えたり、支えられたりしている人たちの気持ちを、表現してみました。


 36話で半次郎さんが饒速日様を斬ろうとする場面や、45話でおっちゃんのために夏菜子が泣くところ、53話で夏菜子が花奈ちゃんにココアを飲ませてあげるシーン、そんなのを回想しながら書いてます。


 そして、姫……アマテラス様。

 最初は、泣いたり、みんなに守られてばかりだった姫が、だんだんと本来の強さ、賢さを取り戻していく……彼女が本当の神さまとして目覚めるところも、このお話のテーマだったりします。


 あ、ちなみに新世界のジャン横、っていうのは、今も天王寺動物園の隣にある、なんか良く分からない商店街、ジャンジャン横丁のことです。

 立ち飲み屋があったり、串カツ屋があったり……子供のころは、お母ちゃんに「なんの肉つこてるか分からんから喰うたらアカン」と言われました。


 さて次回!いよいよ敵の本当の狙い、悪魔召喚を阻むための作戦が始まります!

 こっからは今までのオールスターでの総力戦!

 笑いと逆転の第82話、見逃したらあきまへんでぇ!

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