第78話: ふたたびウチなんやけど、田島の解説でみんな分かった?アイツの喋りって勢いとノリだけやから、ちょくちょく何言うてるか分からんねん。
ウチらは、鎌足さん、不比等さんと別れて、天鳥船に乗って一路、石清水八幡宮に向かった。
「わっ!わわっ!めっちゃ高いとこ飛んでる!ウ、ウチ……高いところ怖いねん……」
ウチは思わず、傍にあった何かにしがみつく。そしたら田島が冷たーい目でジロって見た。
「夏菜さー……アレ君と付き合いだしたんは良いけど、それってどうなん?」
え?どないしてん田島。なに怒ってねんな。
「す、すまね、夏菜子さ……こっだらこど、あんましみんなの前でしねぇでけろ?」
振り返ると、すぐそばにアレ君の顔があって……ウチがしがみついてたんはアレ君の腕やった……ち、ちがうねん!!ウチは高い所が怖いだけやねん!!
ウチが慌ててアレ君から離れると、なんか柔らかくていい匂いがするものが背中にあたった。
「た、田島……」
「ちょっと夏菜さー……」
柔らかいものは田島の身体で、ウチのことを背中越しにハグしてた。
「なっ!なんやのんな、田島ぁ!」
ウチがいうと、田島はウチのお腹にしっかり腕を廻してきて、顔をすりすりしてくる。
「さみしいじゃんよ……」
「田島……どないしたんな……」
「なんかさ、夏菜が遠いとこいった気がする……うちら、友達じゃんね?」
「当り前やん……アホなこと言いな……八幡宮に着いたら、また魚すき作ったるからな……」
「やった……約束だよ?」
「わかってるちゅうねん……」
ウチらがそんな話をしてると、船室から理沙ちゃんと花奈ちゃんがやって来て、ウチに抱きつく。
「美紗ねえちゃんずるい!夏菜子ねぇちゃんに甘えてる~!」
「こっ!これは……!だめっ!萌え死にそうだわ……」
ちょっとちょっと!理沙ちゃん、ちょっとおかしいんちゃうか!?美人でカシコなんはええとして、ときどきこういう変態みたいなこと言うんはアカン!花奈ちゃんの教育上すごく悪い!
「ちょっと理沙ちゃん!あんた花奈ちゃんに変なこと教えんといてや!なんや田島がふじょし?とか言うてたけど!」
「な!花奈ちゃんに変なことですって?……あっダメ、考えただけで……だいたい腐女子って何ですか!貴腐人と呼んで下さらない!?って、そんなこと聞きに来たのではありませんでしたわ。アレクセイさん、ちょっとよろしいかしら?」
「うん?なんだべ、滝沢さん。」
アレ君がそういうと、理沙ちゃんは優し気に微笑む。美人や~ん……こないしてるとすごく綺麗で、ウチまでメロメロなりそうやのに、ときどき出てくるキッショい(気持ち悪い)あれは、いったいなんなんやろう?
「理沙で結構ですわ……みんなそう呼ぶのですし……お聞きしたいと思ったのは、先ほど談山神社で仰った原発5基分のお話です。『電力を呪力に変換』とはなんでしょう?そんなことが可能ですの?」
理沙ちゃんがそう言うと、アレ君が首をひねる。
「まぁ、本当のところなんで出来るのがわがんね。出来る、ていうより、たまたま出来た、って言った方が良いべ。」
「たまたま出来た?どういうことですの?」理沙ちゃんが訊くと、アレ君はメモ帳にマンガみたいなんを描いてウチらに見せる。
「オラ、夏菜子さから『金烏玉兎集』受け取ったとぎ、人が印を描いたり呪文を発音しなくでも術を発動しだり、式鬼を使えるんでねがと思ったべ。それ半分あたってで、簡単な術や式鬼を飛ばすぐれなら出来たども……」
「え?人の精神を媒介とせずにそんなことが可能なんですか?」
理沙ちゃんの言ってることがイマイチわからんけど、アレ君は「うーん」という。
「図形をディスプレイやプロジェクターで再現しで、呪をボーカロイドに発声させるだども、それで通信や情報収集用に式鬼を飛ばすぐれぇは出来たべ。ただ、それでアニメみてぇに火の玉うつとか、雷おとすとか、そっだらこどは全然ダメだったべ。マッチぐれぇの大きさの火、術で起こしでみたども、やってみだら1kWh = 3.6MJぐれぇの電気使っで危うく奥の院のブレーカー落ちるとこだったべさ。そんで逆に……」
アレ君がまた別のマンガをメモ帳に描く。それは『なーむくん』の廻りに電線が巻き付いたような絵やった。
「真魚さんに術、発動しでもらっで、その周りにプロジェクタで呪印を投影しで、発音した真言さ、マイクで拾っでみだら、電力消費がマイナス……ようは、プロジェクターやマイクを通過した後の方が、電力が増えるって現象が起きたべ。そん時はポータブルバッテリーで実験したども、すんげぇ電圧がかかったみてぇで、すぐ落ちただ。これがコンセントに繋いでたらっで思うと、ぞっとするべ。」
「ご、ごめん……アレ君、ウチ文系やから全然分からん!」
「あ、夏菜子さん、こういうことですわ。それにしても……仲がよろしいのですね?そんなにいちいちアレクセイさんの手を握らなくても……」
え?理沙ちゃんに言われて手元を見ると、いつの間にかウチはしっかりアレ君の手を握っていて、なんか知らんけど、田島がムスッとした顔でウチの腕にしがみついてる……ち、ちがうねん。これは、その……
「ふふ、夏菜子さんは可愛らしいのですね。まぁそれはさておき、いわゆる、太陽光発電などで生じるような逆潮流が起きているのですね?本来電力を消費するはずの機器が、発電機のようになってしまっていると?」
「驚れぇただ……理沙さん、あんだ文化財とかお寺のことだけでなぐて、太陽光発電のこども分かるんだべ?」
アレくんが訊くと、理沙ちゃんは照れくさそうに笑う。うーん……
「いえいえ、先日お訪ねしたお寺の境内で太陽光発電をしていましてね、そこのご住職の受け売りです。私自身は電気のことなんてそんなに詳しくありませんわ。」
すると、今まで黙って聞いてた花奈ちゃんが「ねぇねぇアレ兄ちゃん」っていう。えっ!アレ兄ちゃん!?花奈ちゃん!そんなん言うたらアカン!可愛すぎるから!
「なんかそれおかしいんだよ?電気で術を起こそうとして、マッチの火くらいしか起こせないのは変換効率の問題じゃないの?なのに、真魚おじさんが呪文となえたらバッテリーの保護回路が落ちちゃうって、なんかサージが入ったみたいなんだよ?音が圧電素子振動させただけでそんなに発電するの?」
は、花奈ちゃん……そんな可愛い顔して、いったい何をいうてんねん……お姉ちゃんは全然わからへん!
「おっ!花奈っこは電気 勉強しでるみてだな!えれぇぞ!」 アレ君がニコニコ顔で花奈ちゃんの頭を撫でると、花奈ちゃんは嬉しそうにニンマリ笑ってドヤ顔になった。
「えへへー♪実はボク、工業高校の電気科なんです!」
「ちょ……夏菜、ウチらヤバくね?理沙っちはともかく、花奈っちょまで難しい話わかっちゃってるよ?なんか、うちらだけアホみたいっつーか?」
「こ、これはやばい……せめてお姉ちゃんとしての威厳を示さんことには……いや、別に花奈ちゃんの姉とちゃうけど……」
するとそこに、真魚さんがやってくる。
「おお、若いもんばっかり集まってエライたのしそうやないか……んっ?夏菜子ちゃん、美紗ちゃん、どないしたんや?なんかケッタイな顔してからに。」
「ケッタイって……ちゃうやん。皆がカシコそうな話ばっかりしてるから……」
「そーだよ!でんきがどーのこーのとか、でんあつだとかさ!それに夏菜、なんかっつったらアレ君にしがみついてるし!」
おいっ!そこまでしがみついてへんやろ!なんなら、オマエがウチにしがみついてんねやろ!
「はは…青春やの~。まぁそれはそれとして、アレ坊よ。さっき花奈ちゃんが言うた話はアレか?エネルギーを媒介する粒子が微細になればなるほどエネルギーが大きなるってやつか?」
真魚さんが言うと、アレ君は「たぶん」っていうたけど……なにいうてんの?この人ら。
「電気 入力しても大した呪術さ発動でぎね。最初は変換効率の問題かと思ったども、真魚さんの画像を映したカメラとか、真言を録音するマイクにものすげぇ電圧かかったべ。もし変換効率の問題だっだら、そっだらこど起ぎね。原理はわがんねけど量子レベルのエネルギーが電気に変換されでるんでねが?」
アレ君が言うと、理沙ちゃんが大きく頷く。
「つまり、アレクセイさんがおっしゃる『微細なものほど』というのは、化学反応より原子核反応、原子核反応より、クォークと反クォークの対消滅のように、スケールが小さいほど巨大なエネルギーを産む、と言うことですね?でもそれと真魚様の真言にどんな関係があるのですか?」
「たぶんだけんど……真魚さんや太子様、小角のおっちゃんが唱える真言ってな、それ自体がもんのすげーエネルギー持ってんでねぇべさ。もしそっだらこどなら、ボカロで再現しても同じだべ。だども、実際にはそうはなんねぐて、マッチぐれの火しかおこせね。逆に、真魚さんが真言唱えただけで、もんのスゲーエネルギーが発生するべ。それはつまり、真言 唱えることで真魚さんの精神状態が変化しで、余剰次元のエネルギーさ、この世界に呼び込むんでねが?」
あ、あかん!何いうてんのかサッパリついていかれへん!もちろん、隣におる田島も目が回ってる!でも……えっ!花奈ちゃんが嬉しそうにピョンピョン跳ねてるで!?
「あっ!僕それなんか分かる!トランジスターだよね!このあいだ授業で習ったよ!小っちゃい信号でおっきい電流が流れるんだよ!」
そしたら、真魚さんが花奈ちゃんを見て優しく微笑んだ。
「ふふ……リケ女ってヤツやな?たいしたもんや……まぁでも花奈ちゃん、たぶんそやろ。オレらはな、唵(AUM)って音で自分自身の意と神を大日如来……まぁいうたら、この宇宙の根源に繋ぐ。その状態で祈りとか、したいこととか、こうありたいって心の状態を投げ込むと、それが実際の現象となって現れる。これが加持祈祷の本質やが、そうはいってもオレの場合は霊的な守りとか、複数の人間の意識に働きけるとか、そんなレベルや。けど、小角はんとか安倍晴明はすごいぞ!空飛んだり、岩飛ばしたり、果ては人を生き返らせたりするからな。」
「真魚様、それはつまり、聖音(唵)によって変容した真魚様の意識が、余剰次元の膨大な力を現世に呼び込んだ、ということになるのでしょうか?」
理沙ちゃんが訊くと、真魚さんは「そうやと思う。」っていう。
「今まではなんでそんなことが出来るんか分からんかったけど、アレ坊と理沙ちゃんの言う理屈を聞いてなんとのう分かった。ほんでアレ坊よ、敵のパワードスーツが人の呪いで動いている、っていうんもそれに似てへんけ?」
真魚さんがそう言うと、アレ君の眼がギラっと鋭く光った。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
アレ君の実験結果に表れた真魚さんの術の謎……それを理沙ちゃんが解き明かしていくわけですが、そこにまさかの花奈ちゃん参戦!
なんと、可愛い妹枠の花奈ちゃんは、工業高校の電気科だったんですね!
ところで、余剰次元とは、原子核を構成する陽子や中性子を構成するクォークより更に元になる状態のことを言います。
物質というのは、理沙ちゃんの説明にあったように、小さなスケールで起きる反応ほど大きなエネルギーが出るのですが、余剰次元から生じるエネルギーというのは、もっと莫大である……ということですね。
ところで、最後に真魚さんが投げかけた不気味な一言……。
次回は、いよいよ「敵のパワードスーツとはなにか?」が判明します!
果たして敵は一体何をしようとしているのか?
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