第73話: いくで四天王召喚!みんなワシのことをただのオッサンやと思ってるけど、昔の一万円札に描いとった偉いさんなんやで!
真魚……弘法大師 空海が不動明王加持の終わりを宣言すると、光の巫女と闇の巫女(姫と夏菜子のことやで!)が壇上に上がる。
修験が法螺貝を吹き鳴らすと、それを合図に談山神社の神職たちが一斉に笙、篳篥、龍笛を吹き鳴らし始めた。
四天王供の始まりや……
「唵(A-U-M)」ワシが、低く響く様に声明を謡うと、修験たちも一斉に謡いだす。
そして、この世界の始まりから終わりを現す音に合わせるかのように、光の女神 アマテラス(姫)と、闇の女神 イザナミの孫娘である夏菜子が舞い始めた。
「おおーーーっつ!!」参列者たちから歓声が上がる。
アマテラス=姫が鈴を鳴らして舞うたびに、金色の光が流れ出て壇上で光の渦を創り、夏菜子が朗らかに微笑んで廻るたびに、星々の煌めきが散りばめられた紫色の闇が流れ出て、やはり渦を創る。
「唵(A-U-M)」二人が声明を謡いながら花びらを壇上に散華すると、光と闇の渦が絡まりあいながら一つの渦となって天を上り、五色の光(青・黄・赤・白・黒)に分かれ、光の粒子となって降り注いだ。
それを見た観光客たちは、人も妖魔も一斉に手を合わせ、あるものは南無阿弥陀仏と、またある者は般若心経を朗して一心に祈る。
東の空が徐々に白んできて朝日が差し込むと、五色の光の粒子と合わさって、境内を色鮮やかに照らしだす。
「わぁっ!!」観客たちから、ふたたび歓声が上がった。
そこには、夏の盛りの今の時期には、本来咲くはずのない四季の花々が咲き乱れていた。
桜、シャクナゲ、藤、牡丹、アジサイ、蓮、ヒガンバナ、コスモス……その場にいた全ての人々が、その美しさに圧倒されている。
真魚が話しかけてきた。
「はは!正に極楽浄土やな!これが仏的解決策の真髄か!?」
「どうやろ?せやけど、見てみいや。」
辺りを見廻すと、その場にいた全ての人々……人間の観光客、PMCの軍人、百鬼夜行の妖魔たち……皆がうっとりした表情で美しい風景に魅入っている。
姫も、夏菜子も、その美しい風景に心を奪われたように、艶やかな笑顔で舞い踊っていた。
「もし諸々の衆生が、この瞬間の幸せを忘れんでいてくれたら、ワシらの仕事も無くなるんやけどな……」
ワシがそない言うと、真魚が笑いよった。
「いつかはそうなる。せやけど、ほんの一瞬でもそうなるんやったら、まぁまぁ悪いことやないやろ。それより、ほれ!本番やぞ!」
そうや!正にこれからワシが導師として表白(四天王供を行う目的の朗読)を読み上げなアカン。
ワシは誓詞を広げると、厳かに唱え始めた。
「謹み敬ひて、大日大聖の尊容、ならびに東西南北を鎮護し給う四方の王、また一切の八百万の神々、諸尊の御前に、恐み恐みも白して言さく――」
その場にいた全員……真魚が、姫が、夏菜子が、そして観光客も、PMCの兵士たちも、百鬼夜行の妖魔どもさえも、何かに打たれたように、一斉に手を合わせる。
「抑、この『豊葦原中津国』は、皇大神の厳しき国、言霊の幸はふ国なり。祖神なる夫婦神の契りより八嶋産まれ、神産まれ、万物みな五色の光に満ちたる霊域なり。然るに今、末法の濁り深く、諸人『形代』を崇めて『神』を喪い、神仏の冥加を夢幻と思ひたり。そも万物に表裏有り。表のみ見て裏見ざれば即ち病にて申し候。病を得らば、うつりゆきし万象の奴婢となりて直霊ほろびたり。」
咲き乱れる四季の花々を朝日の光が突き抜け、ワシが掲げる誓詞を黄金色に染め上げていく。ワシは高らかに声を上げ、この国の、この世界の物語を書き換える古の聖賢の言葉を謳いあげた。
「吾、謹み恐みて白さく、人は天下の神物なり。神物なれば、篤く三宝を敬ひて離るること非じ。三宝とは太霊なり、天道なり、君子なり。これに帰せずしては何をか枉れるを糺さんや!」
言霊が多武峰の山々を木霊し、大気がビリビリと爆ぜるような鳴動を始める。
「旧邦と雖もその命は惟れ新たなり!まことに日に新たに、日日に新たに、また日に新たなれ!今まさに、その命を結び直さん!是に吾ら、光と闇の舞を奉り、秘法を修す。
仰ぎ願わくば、東方持国天、南方増長天、西方広目天、北方多聞天。速やかにその厳しき御姿を現し給いて、四方の境界を護り清め、浄土の安寧へと導き給えと、恐み恐み白す……」
ワシが表白を読み切ったその時、
「爾の時に世尊、四天王の金光明経を恭敬し供養し……」
真魚と修験者たちが一斉に、『金光明最勝王経 四天王護国品』読謡する。
その声は時に荒々しく、時に高く、参列者が唱える般若心経と響きあって、徐々に皆の祈りを高めていく。
そしてそれが最高潮に高まったとき、
「唵 賛巴拉 蓮達拉夜 娑婆訶!!」
ワシは四天王根本印を結ぶと、渾身の気迫を込めて四天王総呪を唱えた!
「ーーーードンッ!!!」
神社の境内、いや、御破裂山全体が、底からひっくり返るような凄まじい地鳴りを立てて激しく揺れる!
「な、なんだべこれ!?」
システムチェックをしとるアレ坊がスマホ越しに声を上げた。
ワシが唱えた真言に応じるかのように、境内を埋め尽くしていた五色の光の粒子が、東西南北の四方へと猛烈な勢いで飛び散っていく。
そして、咲き乱れる花々の、その花びらを巻き上げながら、四方の地平から、天をも衝く極彩色の巨大なエネルギーの柱がズン!!と轟音を立てて立ち上がった。
東からは、世界を育む新緑の如き、青く渦巻く奔流。
南からは、万物を焼き尽くす烈火の如き、天を覆う赤き炎。
西からは、境界を峻厳に切り取る白金の如き、氷雪の銀嶺。
北からは、すべてを包み込む帳の如き、玄き星空。
四本の巨大な光の柱の中で、巨大な神々のシルエットが、オーロラのように揺らめきながら傲然と立ち現れる。
その姿は、ある者には鎧をまとった武神のように見え、ある者には六枚の翼を広げ輝く剣をかざした天使のようで、また妖魔たちには世界の理そのものである青龍・朱雀・白虎・玄武のように見えた。
巨大な四つの幻影が、朗々と歌声を上げると、天上で四色の光が交わり、御破裂山一帯を祓っていく。
いかなる兵器も、ハッキングも、邪悪な欲望も一切通さない、宇宙創生期の純度を持った、完全なる聖域、これこそが四天王供や!
その凄まじい神気の奔流の真ん中で、光の渦と紫の闇の渦を纏った姫と夏菜子が、ただただ微笑みながら、日々に新しく生まれ変わる世界を祝すように、艶やかに舞い踊り続けていた。
◆
「上手いこと言ったもんやな……」ワシと真魚は、軽口をたたきながら、参拝者に配るための「四天王札」に霊力を込めていく。
いや~、今日これもらった人はホンマにラッキーやで!
これで家内安全、夫婦和合、受験必勝、商売繁盛間違いなし!
まぁでも、こんなしんどい加持祈祷はあんまりしたないな。1300年分どっと疲れたし。
ワシが回向文を唱えて四天王に帰ってもらおうかな~って思ったその時、
「真魚さ、太子様!こっちに超音速でなにが向がってるべ!これさ……極超音速滑空体!戦術核だべ!」
アレ坊から緊迫した連絡が入る!
「No――っ!ここには俺たちもいるのに!」なんかアメリカさんが叫んでいた。
まぁ、そらそうか。PMC(民間軍事会社)に頼むんて、こういう時のシッポ切りが目的やもんな。
「太子様!今からでは避難が間に合いません!皆様だけでも常世に退避を!如何にご神体といえども、核の火で焼かれてはご無事ではいられませぬ!」
後鬼さんも必死で叫んでいた。しかしーー
姫と夏菜子は、相も変わらず、にこやかに微笑みながら舞い踊っていた。
なーんや♬二人とも分かってるやん!そうそう!そういうことやから!
「真魚、どうよ?」ワシが言うと、
「え?そんなんええから、はよ札に霊力込めていけや。百鬼夜行の妖魔どもにも札あげなアカンねんで?」
そやそや、ミサイルがヘチマとか言うてる場合や無かった。
ワシは声を張りあげて皆に呼びかける。
「札は充分あるさかい、慌てんでもよろしおまっせ~!!お隣の人を押さんように、子どもらがケガせえへんようにしたってやー!あと、外国の人にも教えたるんやでー!!」
「な!?太子様、なにしてるだ!いますぐそこから逃げねば!」
「そ、そうですよ!太子様!この辺り一帯が焼け野原に!」
アレ坊と後鬼さんが言うてるけど……
ちがうちゃう!これがワシらの身を護るいちばんの方法や!
「わーい♬」
年長さんくらいの小さい子供らが壇上に上がってきて、姫、夏菜子と一緒に踊る。
その子らのお母さんやろか?「あかんあかん!」っていうけれど、ワシは「かまへんかまへん!」って答えた。
「7歳までは神さんの子や!女神さんに遊んでもらい!」
夏菜子が嬉しそうに子供をおんぶして踊り、姫がおっかなびっくりで小さい子供を抱っこする。
その時やった。
はるか、はるか上空で、黄色い光がまばゆく輝き、それから七色のオーロラが現れ、空を覆っていった。
「わぁ!キレイ!新しい花火かなぁっ!」夏菜子が子供たちと一緒に手を叩いて喜ぶ。
「すごーい!今の花火って、あんな高い所でも飛ばせるんだね~!すごいでちゅね~!」姫がニコニコしながら小さい子をあやす。
それを見て、子どもの母親たちが嬉しそうに頬を赤らめた。
「Jesus……」その傍らで、PMCの兵士たちが跪いて祈りを捧げている。上手いこといったようやな。
「信じらんね……ミサイル消えたべ……」アレ君から、呆然とした声で通信が入る。
いやいや、そうやなかったら、この救世観世音菩薩と南無大師遍照金剛のダブルで加持祈祷とかしないからね?
「太子!そろそろ回向文よんで終わりにしようや!腹減ったわ!焼きそばでもタコ焼きでもええから食わしてくれ!」
はは!そうやな!ワシは回向文を唱え、四天王に帰ってもらうと、儀式を結願(終了)して、皆に「四天王のお札」を配った。
あ~疲れた!ちょっとワシも寝かしもらうで!なんせ夜通しやからな!
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
第73話、いかがだったでしょうか。アロハのおっちゃん(聖徳太子)が1300年ぶりに本気を出した『四天王供』の全貌をお届けしました。
なるべくリアリティを追及して迫力を出そうとしましたが……
もう、おっちゃんが唱える「表白(ひょうびゃく:神仏への宣言文)」を考えるのが激ムズで( ;∀;)
神道の祝詞と、仏典と、中国の古典『大学』を研究して、飛鳥時代の神仏習合した信仰の在り方……聖徳太子にしか唱えられない「究極の神仏習合スタイル」にしてみました!
そして後半……まさかの「戦術核(極超音速滑空体)」の飛来!
唯物主義の極致とも言える物理兵器に対して、太子や真魚さんが取った究極の防衛手段は……どう描くか悩みましたが、「仏的解決策」というからには、このくらいチートでもいいかなと。いいですよね?たぶん。
さて、これで夜通しの作戦も終わりました。
どうぞ、二人の仏さまには、タコ焼きと焼きそばと食べてもらって、ゆっくり寝かせてあげましょう!
ここからさらに深まっていく神話と奇跡の物語、次回もどうぞお楽しみに!




