第72話: 光と闇の神楽、ちょっと思った以上に効果抜群で、やっぱりこの俺様、弘法大師 空海は天才やって思うねん!
(おっ!なんか上手いこといったんちゃう!?太子!どうよ!?)
俺は、いまだに観音さんの服がええんか、厩戸皇子時代の朝服がええんか気にしてる太子に念話した。
(毒竜諸鬼等 念彼観音力……え?なんやねん……ワシ読経中なんやから声かけてくんなや……っていうか、自分もちゃんと真言唱えてや?……にしても、気になるわぁ~なんかこう、我ながら観音さんルック似合うてへんわ~。)
(ちょ、お前何いうてんねん。このへん西国巡りしてる観光客もおるから観音さんっぽいとこ見したるいうたんお前やんけ。いや、そうやのうて、作戦が上手いこといったみたいや、って言うとんねん。)
(え?ほんまに?おっ!確かに迷彩服来たアメリカさんがいっぱいおるわ!なんや、あの兄ちゃん焼きそば喰うとるやん。)
太子がいう方向を見ると、確かに30人からいる迷彩服を着た歴戦の軍人が、「ブラボー!」とか言いながら、姫と夏菜子ちゃんの神楽に見入っている。
すると、アレ坊から通信が入った。っていうか、念話で話して来いよ。十兵衛とリンクしとんねんから使えるやろ。
俺はなるべく真面目に真言を唱えているふりをしながら……いや、唱えてんねんで!真面目に!……こっそり木魚の隣に置いたスマホを見た。
『敵は作戦の失敗を司令部に報告したみたいだべ。これでオラだつの勝ちだべな!』
ふふ……やるやんけ……太子が仏的解決策とか言いだしよった時には、コイツまた俺に無茶ぶりするんちゃうかった思たけど、今回はマジで太子の凄腕プロデューサーっぽいとこ、見せてもろうたで。
まず最初に、法眼が石兵八陣を展開し、アレ坊がナイトビジョンに投影された情報をかく乱し、更にGPSからの信号も書き換える。これで、敵はまっすぐ進んでいるように思って、実際は右に曲がったり左に曲がったりすることになる。
まあ一本道やし、そないに上手いこといくわけないけど、まごついてる間に神鬼召喚した鬼で脅して、混乱状態を作ったったら案の定なんも考えんとバックしよった。
要は詭道やけど、まぁまぁの出来や。さすが六韜マスターの法眼、アレ坊もハッキングの専門家やしな。
電力と携帯電波が切れたんはちょっと焦ったけど、事前に神楽と加持祈祷でこの一帯の境界を曖昧にしといたんも良かった。
お陰で、鬼火を街灯代わりにできたし、女将の館内放送も、念話でこの辺で寝泊まりしてる宿泊客全員に送れたし!なんちゅうても夢の中でも聞こえるからな!
ところで、あの百鬼夜行はなんや?あんなん呼ぶプランあった?俺が不思議に思ってると、太子が話しかけてきた。
(おい真魚、あの愉快な連中はなんやねん?自分が呼んだんか?)
(いや、俺知らんで?おまえが呼んだって思ってたけど?)
せやけど、太子は首を横に振る。
(いやー、ワシ、妖怪にはあんまりコネないねん。その辺はだいたい道真(天神さん)経由やから。後鬼さんかいな?)
え?ほんまに?すると、またしてもスマホがピロピロなる。後鬼さんやった。
『おそらくですが、この辺りは地獄の入り口である室生寺に近いので、術の影響で境界が曖昧になったために、あれらの者がやってきたのだと思います。あ!あの黄色と黒の縞々ちゃんちゃんこに下駄の美少年は……キャー!サインもらいに行こ!』
な、なんやねん……後鬼さんも案外ミーハーやな……にしても。
結果的には正解や。
ただのイベントっちゅうだけで、ぐっすり眠りこけてる観光客が出てきてくれるかどうか分からへん。
せやけど、目を醒ました瞬間に、花が咲き乱れて鬼火が色鮮やかに辺りを照らしとるところに、このおもろい連中がおったら、だれでも写真撮ってインスタに載せたいって思うやろ!
お陰で、観光客もみんな飛び起きて、百鬼夜行が参道を登って、たこ焼き買うたりおみくじ買うたりしとる様子を写真に撮ってるもんやから、敵兵は戦闘行動が継続出来へんようになった。
っていうか、なんやアイツ?一つ目小僧と写真とっとるやん。
まぁ、いきなり屋台の用意はきつかったなぁー、鎌足はんとこの神職と天津軍、総動員したけど。
実はあのタコ焼きとか焼きそばの原材料って、御饌なんよね。
まあ食うても、2-3日ラッキーが続くぐらいやしええやろ。
そんなことを考えてるうちに第一部の神楽奉納が終わって、姫と夏菜子ちゃんが壇上から降りてくる。
「真魚さん、どうだった?神楽なんていつもは奉納される側だから、踊るの久しぶりだったけど良かったんじゃない?やっと太陽神らしいことしたかも!」
みょーにテンションの高い姫の隣で、夏菜子ちゃんが顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに俯いてる。
「あ、ああ……いや!すごかったで!なんちゅうかなぁー、姫の光の氣と、夏菜子ちゃんの闇の気が対消滅を起こして虹色の光が溢れとったわ!俺もこんなん見んの初めてやなぁ、って。夏菜子ちゃんどないしたん?なんかずっと俯いてへん?」
「恥ずかしいねん!……ウチ、踊ったんなんか子どもの頃の盆踊り以来やし……しかもこんなにいっぱい観光客が来るとか聞いてないし!おっちゃんと真魚さんに騙された!だいいち、なんか明らかに人間やない子らも混じってるやん!」
夏菜子ちゃんが太子をポカポカ殴ってるけど、まぁええことにしとこ。結果オーライや。
それにしても……
「なぁ太子よ、これ、効きすぎちゃう?」俺が言うと、太子も「そやなー」といって頷いた。
「こらワシの想像やけど、陰陽の対消滅で生じるんは、この宇宙の創世のエネルギー、いうたら愛そのもんや。二人の神楽で生じたエネルギーがこの辺一帯に流れていったおかげで、あのアメリカさんらの戦意が削がれたんやと思うが……」
「それに加えて、オレが光明真言を修して、おまえが観音経を唱えたから、この空間の邪気が浄化されて、神楽の作用が倍化した、っちゅうことかいな?」
俺がこういうと太子は、
「あとは、アレ坊が式鬼を使って展開した九字護身法の効果かな?談山神社がある御破裂山一帯に結界を張ることで、神楽で生成したエネルギーと、ワシらが修した浄化の効果が結界内に凝集される。それでこれだけの奇跡が起きたんかも知れん。せやけど……」
「せやけど、なんや?」俺が訊くと、太子はしばらく考え込んだ。
「いや、こんだけの奇跡が起こせるんやったら……案外敵の企みも、千手観音クマラの作戦も阻止できるんちゃうかって思ってな……」
なんや、どういうことやねん……って聞こうと思ったら、夏菜子ちゃんが背中を叩いてきた。
「真魚さん、おっちゃん、そろそろ第二部、二人が主役の特別法会やで?準備してや!」
「あ、ああ……そうやな……」
俺は、太子に聞こうとしてことをいったん脇において、壇上に上がった。
俺は、隣を歩く太子に訊く。
「太子よ、何をするんや?」すると、奴はニヤッと笑った。
「さっきのを見てな、ちょっとやってみたい修法があんねん。丁未の乱以来やけどな。こらビジュアル的には目立つでぇ~」
「丁未の乱?お前がガキンチョの時に物部を討ったやつか?」俺がそう言うと、太子は「そや」っていう。
「光明真言とか、観音経と違って、あれば現世の事象に直接作用するからあんまり使うもんや無いけど、今のこの雰囲気やったらアリやろ?ほんで自分は何すんねん?」
「オレか?まぁ、この作戦の総仕上げやからな。オーソドックスに不動明王や……やっぱり、空海いうたらこれやろ!」
「ふっ、まぁそうやな!ほなやろか!今日談山神社に来たお客さんはめっちゃラッキーやで!」
俺らはそういって、護摩壇の前に座った。
◆
「さてと……ほんなら先ず……」
俺は、数えきれないほどやってきた不動明王の修法を行うため、不動根本印を結んで定すなわち瞑想状態に入った。
真言を唱え通力を集中すると護摩壇に火が点き、炎が天を突くほどに高く燃え上がる。
「ドンッ!ドンドンドン……」
修験が太鼓を打ちならすのに合わせて、俺は静かに真言を唱え始めた……
「曩莫 三満多 縛日羅 耽 戦拏 摩訶路沙拏 娑婆咤野 吽 怛羅咤 憾 漫……」
「はーい!ご参拝のみなさーん!護摩木のお焚き上げはこっちですよぉー!」
「はいはい!押したらあかんで~!ちゃんと並んで順番は守ってや~!」
さっきまで壇上で踊ってた姫と夏菜子ちゃんが、参列者を誘導していた。
「うっわぁ~!!あの髪の長い姫カットの子、めっちゃ可愛い~!超美人~!」
「こっちのボーイッシュな黒髪の子もスゲーかわいい!ほっぺたプニプニやぁ~!」
ふふ……まさかここにいる観光客は、目の前におるんが伊勢の内宮に坐ましますこの国の最高神で、もう片方が黄泉の女神の化身やって思わんやろ。
ただ、百鬼夜行の妖魔どもは二人がなにもんか直感的に分かるようで、二人の前に跪いては祈りを捧げてから護摩木を入れ、行儀よくその場に座っていく。
その姿が珍しいのか、またしても観光客やPMCの兵士たちが熱心に写真を撮っていた。
人々が願い事を書いた護摩木を投げ込むたび、炎が激しく燃え上がる。
「曩莫 三満多……」俺が不動明王 慈救咒を唱えるごとに、護摩木に染み付いた悪業を燃料として炎は更に天高く舞い上がり、今や炎の竜巻のようになって、爆ぜる火の粉が星々のように明け方の空に吸い込まれていく。
その美しさと迫力に、観衆たちが感嘆の歓声を上げた。
「摩訶般若波羅蜜多心経……」
すべての参列者が護摩木を投げ入れ終わるころ、太子が厳かに般若心経を唱え始め、それを合図に修験たちと、姫、夏菜子ちゃんも読経を始める。
中には、手を合わせて自ら読経する参列者もいた。
「以無所得故 菩提薩埵 依般若波羅蜜多故 心無罣礙 無罣礙故 無有恐怖 遠離一切顛倒夢想……」
いつしか、般若心経の読経が大合唱となり、談山神社全体を包んでいくと、この場にいる皆の顔から、不安や恐れが消えていき安らかになっていく……
迷彩服を着たアメリカさん……PMCの兵士たちも、いつしか跪いて手を合わせ、祈りを捧げていた。
東の空が白みはじめ、夜の闇が静かに去っていく。
荒々しく燃え盛っていた護摩壇の炎が、まるで役目を終えたようにスゥッと落ち着き、冷たく澄んだ朝の空気が辺りを包み込んだ。
もうじき夜明けや。俺は太子の方を向いた。
「よっしゃ、客席は温めといたったで!ほんなら、こっからは本番の四天王供と行こうやないか!」
【あとがき】
お読みいただきありがとうございます!
さて、もともとは敵のPMC(民間軍事会社)を無力化するために考えた今回の作戦、思った以上の効果があったようです。
鬼一法眼さんの幻術やアレ君のハッキングで敵の行動をかく乱している間に、観光客を叩き起こして隠密裏に作戦が実行できなくしてしまう。
加えて神楽と、真魚さん・太子のおっちゃんの修法で戦意そのものを失わせるわけですが……おっちゃんの言い方だと、どうもそれだけではないようで。
おっちゃん曰く、「こんだけの奇跡が起こせるんやったら敵の企みも、千手観音クマラの作戦も阻止できる」どういうことでしょう?
そのために始まったサプライズイベント第2部!
まさか、集まった観光客も空海本人が加持祈祷をしているとは思わずに護摩木を放り込んでいるわけですが、まずはこの作戦の総仕上げとして真魚さんが不動明王の慈救咒によって、この一帯の煩悩や悪業を完全に焼き尽くします。
そしていよいよ次回!おっちゃん即ち聖徳太子=救世観世音菩薩みずからによる加持祈祷!
おっちゃんは一体何を狙っているのか!?
夜明けの空の下、聖徳太子が1300年ぶりに仕掛ける『四天王供』。ここから始まる究極の神仏習合を、ぜひ見届けてください!




