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第69話: 新婚生活は3人で?と思ったら、西からめっちゃ危ない敵が来るらしい。

 第69話: 

(えー!?なんなん!おっちゃんまで!ええねん、ほっといてぇや!だいたいセクハラやで!)

 せやけど、おっちゃんはセクハラがしたいわけやなくて、ホンマに焦ってるみたいやった。


(鎌足がオマエ、言い出したらオマエ、それは政治的イシューになってやでオマエ…実現してまうやんか!下手したら明日にでも宮内庁のクルマがアレ坊の実家に来てまうで!!)


(え!?ウチそんなん嫌や!)

 って言ってたら、姫が耳元でひそひそ話をしてきた。


(ねえ夏菜子ちゃん。伊勢に住むのはどう?わたくし的には、アレクセイさんの人としての妻が夏菜子ちゃんで、神婚の相手がわたくしでもアリかな?って思うの。ほら、わたくしって人間じゃ無いし、そしたら重婚罪も関係ないじゃない?)


「えっ!」ウチは思わず、姫を二度見した。「ええっーー!?」

 よっぽど声が大きかったんか、その場にいた全員がビックリしてウチの方を振り返った。


「夏菜子さ、なしただ?そっだら大きな声さ出して……?」

「あ、ごめん!何でもないねん……」ウチはごまかしながら姫にヒソヒソ声で言う。


(おかしいやん!そんな奥さんが二人おるって……だ、だいたい、姫そんなアレ君のこと好きみたいな話してなかったやん!)

(え?そんなことないわよ?夏菜子ちゃんみたいにダダ洩れじゃないだけだよ。というよりも、アレクセイさん、最初に自凝島(おのころしま)神社で会ったときに「おいの嫁ごになってたんせ!」ってプロポーズしてくれたもん。あ、でも夏菜子ちゃんのことも大好きだから、一緒が良いなぁ~……ね?だから伊勢に引っ越ししようよ?それとも、自凝島神社にみんなで住む?それでもいいよ!わたくし専用の天鳥船(あめのとりふね)なら30分で伊勢まで行けるし!)


(あ、それやったら、ウチもアレ君も職場変わらへんから良いかも?せやけど田島が変なこと言いだすかもなぁ……『あーしも一緒に住む!』とか。いやいや!そうやなくて!)


「夏菜子さ、姫さん?ないただ?なに二人で内緒ばなししてるべ?っでいうが、今が泣いでる時でねぇこどぐらいわがってるべ……だども……礼二は、こっだらバかみでぇなこどに首突っ込む奴でねぇ……なんが訳があるに違いね……なんが」

 そういうと、アレ君はまた俯いた。肩が震えて、ポタポタ涙が落ちていく……それ見てたら、なんか胸が苦しくなっていく……そしたら。


「そう……ごめんね?アレクセイさん。きっと、とっても大事な友達なのね……」姫がそういって、アレ君の手を握ったまま、ウチに目配せしてくる。


(え?なに?)よく見ると、姫はアレ君のもう片方の手を見て、口をパクパクさせた。

(え?なになに……手・を・に・ぎ・れ?な、なんやて!?せ、せやけど……)ウチがまごまごしてると、姫はもう一回口をパクパクさせる。


(は・や・く!)え、えーと、えーと……もう知らん!えいっ!

「か、夏菜子さ!何するだ!?」ウチが、とにかく必死でアレ君の手を握ると、アレ君が耳まで真っ赤になる!?


「あ、あんな、アレ君……ウチ、こういう時にどない言うたらええんかよう分からへんねんけど……別に泣いてもええと思うねん……そ、そやから……」

 ウチは、ちょっとづつアレ君の傍に寄って行って、肩をくっつけて、ちょっとだけもたれかかった。


「そやから……その……」なんか恥ずかしくて、直視でけへんかったけど、アレ君の眼を見たら、彼も真剣に見返してくる。しばらくすると……


「そだな……こっだらこど、やっでる場合でねぇべ。」そういうと、アレ君はすっと立ち上がった。


「夏菜子さ、姫さん、ありがどな、目が醒めたべ。真魚さん!太子さま!どさしだらええが教えてたんせ!すぐ敵さ襲っで来るかも知れねんだ!今日の内にやれるだけのこど、するべさ!」


「ふふ!大した効き目やな!のうアレ坊よ!太陽の女神と大地の女神に挟まれたら、頑張らんわけにいかんやろ?」

 おっちゃんが言うと、姫がちょっと残念そうに笑った。


「まぁ、アレクセイさんは大地の女神さまがお気に入りみたいだけどね!」


 ◆


「太子様、夏菜子様、もう夜も遅いです。いったん部屋に戻って作戦会議と致しましょう。敵が潜んでおるやもしれませんので大浴場は使わず、移動も複数人で。」

 後鬼さんの指示に沿って、ウチらは大部屋に移動する。鬼さんたちも一緒や。


 部屋に戻ると、アレ君はすぐPCを開き、キャリーケースから小さい黒い箱を2個取り出すと、それをノートPCに接続した。

「後鬼さん、時間がねぇ。鬼さんたち全員のスマホに『しんペー』さダウンロードしてけれ。」


「アレクセイ様、ここには天津軍はおりませんよ?羅刹(らせつ)夜叉(やしゃ)は召喚できないのでしょう?」後鬼さんがそういうと、アレ君は、「大丈夫だべ」っていう。


「戦ってる間に、式鬼とAIさ使っで『しんぺー』さ改良したべ。それを高野山と四天王寺のIT坊さんたちがデバッグしてくれだがら、今出来上がったところだ。それよか……」

 アレ君が『金烏玉兎集(きんうぎょくとしゅう)Ver2』を起動してしばらく画面を見てると、真剣な顔になって振り返った。


「南西から強い敵意さ迫ってるべ…見でげれ…」

 PCの画面に、赤い点が三つ映ってる。


「アレ君、これなに?」ウチが聞くと、緊張した顔つきで彼が応えた。


「これ、式鬼が拾ってきた情報さ分析してマップに重ねたもんだべ。こいづら…さっきのパワードスーツみでなオモチャでねぇ。戦争を仕事にしでるやづらだ……まだ、距離はあるみてぇだ。たぶん、ここに着ぐのは明け方だべ。ネットが遮断されっがもしれね。さっぎ、『しんペー』さダウンロードしてけれ、って言ったなはそういう意味だべ。夏菜子さもアップデートしどいてけれ。そうすりゃ、呪力通信さ使って半径5㎞くらいならネット遮断されでも連絡取り合えるだ。」


 そしたら、おじゃるなヌイグルミ姿の法眼さんがチョコチョコ歩いてきた。

「アレクセイよ、十兵衛となるべく繋がっておくがよい。まだ今の其方では、自ら明鏡止水(めいきょうしすい)の境地に至り、『(くう)』と『縁起(えんぎ)』の(さとり)を得ることは叶わぬ(ゆえ)。」


「うん?法眼さん、それってどういう意味なん?」ウチが訊くと、代わりに猫のヌイグルミ姿の十兵衛さんが応えた。


「夏菜子殿、先ほどの県道での戦いで、銀次郎殿が皆の心に直に語り掛けたことがあったであろう?左様なことが可能であったのは、神兵召喚を通じて、それがしの剣禅一如(けんぜんいちにょ)が銀次郎殿の心に一時的に宿ったからなのだ。なればこそ、通信速度や思料する早さの限界を超えて、銀次郎殿の思いを皆に伝えることが出来たのだが……」


「どういうこと?別に呪力通信があるんやから、そんなん要らんことない?」ウチが言うと、アレ君自身が「いんや」って言う。


「敵はプロだべ。一瞬の判断のミス、相互理解の欠如が命取りになるべさ。だがら、オラだちの考え、わずかの遊びもなく伝わんねばなんね。法眼さん、そっだらこどだべな?」

 アレ君が応えると、法眼さんは一言「(しか)り」とだけ言った。


「麻呂と十兵衛が神兵として顕現いたさば、敵を蹴散らすのは容易い。しかし、敵の意図はただ我らを討つことに(あら)ず。アレクセイ、十兵衛と繋がり、敵の企みをよく観てみよ。」


「わがった…十兵衛さ、えが?」

「是非もなし…」十兵衛さんが応えると、二人はしばらく無言で目を瞑っていたけれど、


 突然アレ君と十兵衛さんが驚いたように目をいっぱい開いた!


「これが敵の狙いだべか…」アレ君が言うと、十兵衛さんも頷く。

「一切痕跡は残さぬ。そういうことの様だな……」


「アレ君、何を見たん?」ウチが言うと、アレ君は真剣な眼差しで全員を見た。


「みんな、聞いでけれ。敵は、鎌足さんと不比等さん、そしてオラと夏菜子さを何としてでも消そうとしでるけんど、それだげじゃねぇ。このホテルに泊まってる観光客も、談山神社の宮司も、土産物屋のおっちゃんやおばちゃんも、パワードスーツに乗ってた人たちも、談山神社に攻め入った兵士たちも、この辺り一帯にいる人だちさみんな殺して、ここで何かあったが、隠蔽しようとしてるべ。」


 え?……なんて?……

「敵は米軍か、それと関係のあるPMC(民間軍事会社)みてぇだども、式鬼が傍受した通信によると、どうも、パワードスーツの回収と隠蔽が目的みてぇだべ。畝火山口神社では、全部の機体が爆発したり、常世に残されたままになってるから手が出せなかっだみてぇだけんど、オラだつが県道155号線で停止させた機体や、中に捕まって呪力電池にされてた人たち、談山神社にも生き返った兵士たちがいっぱいいるべ。それをみんな回収して、目撃者は全部処分する、ってこどみてぇだな……」


 アレ君は、落ち着いて話してるけど、目が完全に座ってて、殺気立ってた。

「後鬼さん、生ける鬼……修験者のみんなは、銃とかは持ってるんだべ?」

 アレ君が尋ねると、後鬼さんは首を横に振った。


「式鬼や、死せる鬼である羅刹や夜叉を共闘することは出来ますが、それらはいずれも相手を呪って一時的に動け無くしたり、気絶させたりというもの。常世の中なら直に攻撃することも出来ますが、敵は地上の軍隊でしょう?我らが常世に潜っておれば戦う術もありましょうが、このホテルに泊まっている他の観光客や、置き去りされたパワードスーツの搭乗者も守るとなると……」


「現世で戦うしがねが……法眼さん、十兵衛さん、おめさんだつを神兵召喚して一気に倒すっでのは?」

 せやけど、法眼さんは「なるまい」って言うた。


「敵が一つ所に固まっておるならば、麻呂と十兵衛の共鳴召喚による剣技で一掃できよう。しかし、こやつらは隠密行動をするもののようじゃ。討ち漏らさば、人々に被害が及ぶぞ?」


「そうだべ……じゃあ、やるしがねが……」アレ君が、溜息をついた。

 えっ?やるって?


「太子様、真魚さん、殺しでもえが?」


 アレ君が、ものすごく落ち着いた様子で、おっちゃんと真魚さんに訊く。

 ウチ、すっごくぞっとした。


 いっつも可愛くて、ちょっとスケベで、ウチのことを……たぶん、好きでいてくれて、ウチもアレ君のことが好きで……

 その人が、「殺す」って言った……


第69話をお読みいただき、ありがとうございました!


前半の姫さんからの『伊勢での3人新婚生活』という、思わずニヤけてしまうようなフリーダムな展開から一転……。

後半、アレ君が口にした『〇〇しでもが?』という言葉。

いつもは優しくてちょっとスケベな彼が、静かな怒りに呑まれる瞬間を感じていただければと思います。


彼のこの問いかけは、単なる暴力の肯定ではなく、愛する人を守るために自ら泥を被ろうとする、あまりに悲痛な覚悟の表れでもありますが……

次回の第70話では、この決意が周囲にどのような波紋を広げるのか。そして、そんな彼を見た夏菜子ちゃんは何を言うのか……。

物語はいよいよ、誰も引き返せない運命の分岐点へと向かいます。


もし、アレ君の覚悟や夏菜子ちゃんの想いに少しでも心が動かされましたら、画面下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、執筆の大きな力になります!

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