第68話: 『メシウマ』は逆さまの樹に供える悪魔への捧げもん、何それ?やば過ぎへん?
「イスラエルはユダヤ教の国や。ほんで、ユダヤ教にはカバラっちゅうもんがあってな。いうたら密教みたいなもんや。その中には、悟りに至るための『生命の樹木』っちゅうツールがあるんや。
まぁ、オレら的にいうところの曼陀羅みたいなもんやけどな……せやけど、ユダヤ教やキリスト教の中にはな、魔道を行う連中がおるんや……これはそいつらが使う悪魔を呼ぶための道具、『逆さまの樹』や。」
これを聞いたウチは、唖然としてアツアツのしゃぶしゃぶのお肉を自分の手の上に落とす。
「うわぁ!熱っつ!……痛たた……」
「もう、夏菜子ちゃん、何してるのよ……すみませーん!氷下さい!」
ウチが手を抑えてると、姫が仲居さんを呼んで氷をもらってくれて、それでおしぼりを濡らして冷やしてくれた。
それを、鎌足さんと不比等さんが、驚きの表情でじーっと見てる。
「あの、どないかしました?」ウチが訊くと、二人は「あ、いや……」と言って首を横に振る。
「いえその……おひいさまは随分変わられたなと……先ほどもそうですが、なんというかその……まるで普通の娘御のような。」
「ん?そうなん?姫は、最初にあった時からこんな感じやったけどな?ちゃいますのん?」
ウチが言うと、姫がクスクス笑う。
「ま、伊勢にいるときは、わたくし御簾の中で神様っぽくしてるだけだしね……実はマンガ読んでるけど……」
「は?おひいさま、いま何と言われました?」不比等さんがポカンって見る。
「えー?だから、御簾の中だと何してるか分からないし、マンガ読んだり、ゲームしたりしてるんだけど……いけなかった?」
そしたら、鎌足さんが……あれ?なんか怒ってへん?
「おひいさま……日ノ本の民がわざわざ遠方より参拝に来ているのですぞ?新幹線もない伊勢まで。ちゃんとお祓いをするよう、この鎌足、お願い致しましたでしょう?」
「えー?大丈夫だよ、マンガ読みながらでも、ちゃんと鈴を鳴らして穢れを祓ってるもの。ね、それより真魚さんの話を聞こうよ?脱線良くないよ!ね?ね?」
太子のおっちゃんと、真魚さんがこれを見て噴き出す。
「ぷはっ!イヤー…なんか、深刻に話してるオレ、アホみたいやな……ま、このアホを終わらすためにみんなで集まっとんねんから、パッパと話そか。えーと、どこまで言うたっけ?あ、『逆さまの樹』な。夏菜子ちゃん、アレ坊、悪魔ってなんやと思う?」
悪魔?悪魔くん?あ、なんか『ダンジョンご飯』に出て来たな。ヤギみたいな顔してて、人間の欲望を食べる的なヤツ?ウチがそう言うと、真魚さんはニヤッて笑った。
「なかなかええとこ突いとるやん。せや、ゲーテはんの戯曲『ファウスト』にも出てくるけど、物語に出てくる悪魔っちゅうんは、たいがい願いを叶える報酬として魂を欲しがる。
せやけど、あれは比喩やない。実際にそうなんや。悪魔の正体っていうんはな、有史以来の人間の欲望、邪念、負の感情……そう言うドロドロしたもんが、積み重なったできた巨大なエーテル体……まぁ、オレら的には生霊って言うけどな……そやけどそれは、もっと肥え太ろうとして、自ら人間の心に付け込もうとする。ほんで、オレらの負の感情、三毒を刺激してそれを吸い上げるんや……アレ坊、この話どっかで聞いたことないか?」
アレ君はハッとして、畝火山口神社でパワードスーツから抜いたUSBメモリのデータを確認し、しばらく考えこんで、ひとこと言った。
「……真魚さん……似でるべな?……」
「アレ君? どないしたん?」 ウチが訊くと、アレ君は「うーん」と言って説明しくれた。
「オラたちが普段使ってるSNSや動画サイト……あれの『アルゴリズム』のことだべ。あれは、ユーザーの滞在時間……エンゲージメントを最大化するため、人間が関心さ持づものば意図的に反復するようになっでっけど……」
「意図的に反復?アレクセイ殿、それはどういう意味です?」 不比等さんが身を乗り出すと、アレ君はフーって息を吐きながら言うた。
「なんでもいいべ。戦争のニュースでも、地震や台風みたいな災害、芸能人のゴシップ。もっど分かりやすいものだど、エロサイトでもショッピングとかあるべ?あれっで、自分が欲しいとか見たいど思ったもんが出てくるでねが?」
アレ君がそう言うと、姫が「あー」っていう。
「分かる!わたくし、この間『ダンジョンご飯』全巻買ったんだけど、そしたら似たような漫画のおすすめばっかり……」
「おひいさま?あのカードの引き落としは漫画だったのですか?たしか吾には、『勉強のために正法眼蔵を買った』と仰せであったような気が?」
か、鎌足さん……厳しい。姫、冷や汗かいてるで……
「姫さん……そういうことだべが……ちょっと仕事サボりすぎでねが?あど、ダンジョンご飯の話さ多すぎるべ。まぁでも、そうやっで人間さ画面に釘付けにして、時間を、精神のエネルギーを削り取っていく……真魚さん、そういうことだべか?」
けど、真魚さんは「いやー」っていう。
「まぁ、だいたい合うてるねんけどな、それってええ方にも使えるわけやん?例えばやで、姫がホンマに『正法眼蔵』とか『歎異抄』とか買うて読み漁ってるとするやん?いや、そんなことないで!知ってるで!そやけど、仮にそうやとしたら、他にも『論語』とか『ソクラテスの弁明』とか表示されてくるわけよ。それはええやんかー!カシコが余計にカシコになるっちゅう話やろ?そやけど実際にはちょっとちゃうねん。」
「え?それってどういうことなん?」ウチが言うと、アレ君は「確かに……」って応える。
「夏菜子さ、ネットの広告とかニュースってな、みんなが一番関心さ持ってるものがいっとう最初に出てくるべ。だがらもし、その関心もっでることが良いことだっだら良がべけど……」
「ま、人間なんてだいたいろくなこと考えへんわな?」おっちゃんが横から言う。
「見てみ?あの芸人気に入らん、あの政治家アホや、外国人出てけ、自分らだけファースト……そういう怒りや憎しみに、みんな心が飲まれてもうてるから、そういうもん見たらクリックしてまう、っちゅう話や……」
「なにそれ……それやったら、その敵?『逆さまの樹』使うてる悪い奴がおらんかて、人類滅んでまうやん?」
「まーまー、夏菜子ちゃん、慌てたらアカン。実際大衆の意識っちゅうのはそんなもんやけど、現実には善意を持った人間もおるから、何とか踏みとどまれとる。要は、ネットそのもんは人間の心を反映してる鏡でしかないっちゅう話よ。そんでな、『人間の意思が集まって出来たエーテル体、または生霊』って言うんも、常に邪悪なわけやない。善良なものもいて、ふつうそれらは『精霊』とか『天使』と呼ばれたりする。そして、そいつらは、人間たちが善良な信仰を持てば大きくなって、神や仏の使い、神獣になったりするんやが……」
「こっからが問題や。」真魚さんが身を乗り出して、ウチやアレ君、鬼さんたち(修験道の行者)みんなに聞こえるようにいう。
「悪魔っちゅうんは、さっき言うたように、そもそもが『欲望、邪念、負の感情』で凝り固まったもんや……そやから悪意に満ちた霊波動を発散して、人間の意識の奥底にそういうもんを呼び起こそうとする。そこがネット上のアルゴリズムと違うとこやな……」
真魚さんがここまで言うた時、アレ君がハッとした。
「待っでけれ、真魚さん!ひょっとして、デジタル蟲毒さ……ただ偽もんの神さんつぐるだけじゃねぇな!?」
「そうやな……これはオレの予想やけど、たぶん、ホンマの敵がやろうとしてることっちゅうんは、デジタル蟲毒で抽出した悪意を悪魔に捧げるんとちゃうか?悪魔への捧げもんっちゅうんは、今も昔も相場が決まっとってな……生贄の悲鳴と怒り、憎しみや。ホンマは血なんか要らん。
いうたら最新のIT技術を使うて、日本中、いや世界中の人間から、24時間365日 『憎しみ、怒り、絶望、貪欲』を自動で捧げさせる……超効率化された祭壇ちゅうことやな。……呪いの藁人形を作るとか、そないに生易しいもんとちゃうで。」
真魚さんがそこまで言うと、アレ君は自分の友達の、日枝って人の名刺を、ギリッと強く握りしめた。
「なんだべ……アイヅも、政治家連中も、新しい神さんつぐってるつもりで良い気になっで……悪魔に生贄さ捧げる道具にされでるだけでねが……バカだべ……礼二……なして……」
そういうアレ君の眼から、涙が零れる……よっぽど悔しいんや。
(夏菜子様、夏菜子様?)なんか、ここで後鬼さんが、ウチの横っ腹を肘でツンツン突く。
(え?どしたん?いまアレ君泣いてんねん。ちょっと要らん話は……)
(今です、今!アレクセイ様のような、日ごろひょうきんで、いざとなったら頼りになる男ほど!こういうことに弱いんです!ほら、『強敵と書いて友と呼ぶ!』というのをご存じありませんか!?)
え?ええ?後鬼さん、何言うてんの?
(ですから!抱きしめて頭をナデナデするとか!手を握ってあげるとか!まぁ、せめて優しい言葉を掛けるとか!)
(え!?そんなん嫌や!みんなの前で恥ずかしいやん!)
(何を情けないことを!イザナミ様に憑依されていた時、思いっきり仰っておられたではありませんか!?『ウチの大事な人を!ウチのアレ君、大好きなアレ君』って!もうみんな分かっておりますよ!)
(いや、あれはイザナミ祖母ちゃんに憑依された影響で……)
(何を仰って!……あっ!あーあ……)
後鬼さんがハッと振り返ると、何気に姫がアレ君の手をしっかり握ってるんですけど……
「アレクセイさん!男の人が、友達のことを思って流す涙は美しいわ……(グフフ、特に可愛いアレクセイさんが流す涙は)……でも、今はその時ではない……そうじゃない?」
「ひ、姫さん……」アレ君が……なんか子犬みたいな顔で、姫を見てる……え?えぇ―――!?
「だから、申しましたのに……」後鬼さんが、呆れ顔でウチを見た。
かたや、なんか知らんけど、鎌足さんが「ほほう」とか言って、なんか満足そうな顔をしてる。
「おお……一見すると幼く見えるが、なかなかの益荒男ぶりではございませんか……おひいさま、アレクセイ殿なら、この爺、大いに結構ですぞ!そうですなぁ太子様!」
「え?ええっ?いやワシは……」おっちゃんはそういって誤魔化すと、ウチに耳打ちした。
(おい夏菜子、何しとんねん!オマエ忘れとるみたいやけど、アレ坊をええって思てんのはお前だけちゃうねんぞ!ハッキリせんと横から取られてまうぞ!)
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます! 今回は少し情報量が多かったので、敵の恐ろしい「悪魔召喚システム」の骨子を簡単に整理しておきますね!
① ネット上から、「デジタル蟲毒システム」を使って膨大な量の悪意(三毒=貪瞋痴)を抽出する。
② それを触媒に、電力から「呪力」へと変換する。
③ 呪力を『逆さまの樹』という祭壇に捧げる。
④ 悪意を喰らって肥え太った「悪魔」を現世に召喚する!
インキュベーションセンターKANEIJIに集まった日枝たちIT起業家や、偽物の神様を作ろうとしている『神国日本の新しい姿について考える会』の議員たちは、自分たちがこの「悪魔の祭壇」の歯車として利用されていることすら気づいていない……というお話です。
かつての友を利用されて涙するアレ君。
しかし、そんな彼の手を真っ先に握ったのは……まさかの姫様!? 完全に出遅れてしまった夏菜子に「頑張れ!」「うじうじしてる場合ちゃうで!」とツッコミを入れたくなった方は、ぜひ下部の【☆☆☆☆☆】をポチッと【★★★★★】にして、夏菜子にエールを送ってやってください!(笑)
皆様の評価とブックマークが、絶望的なシステムに立ち向かう太子のおっちゃんや夏菜子たちの最大の力になります! 次回、第69話もお楽しみに!




