第70話: アレクセイだべ。「オラの命に換えでも守る」っで言っだら、その人に泣かれでしまっだべ。
「アレ坊、ワシは止めへん。そのHomines creavit corp.たらいうヤツが悪魔を召喚しようとしとるんやったら、それは仏敵、すなわち高位存在と宇宙の法理そのものへの挑戦や。そやけど、ええんか?仮にそれが「一殺多生の活人剣」としても、オマエは殺生の罪を負うんやで?」
「構わね。」僕はそれだけ言うと、夏菜子さんを見た。
「夏菜子さ殺すやつ、許さね。皆殺しだべ。それに……」
「それに……なんや?」真魚さんが、緊張した顔で僕を見返し、僕はそれに応える。
「もし、ここでオラが死んで、たくさんの人が死んだら……夏菜子さは、さっぎみでにイザナミさんの力に飲み込まれて黄泉の邪神になっで、この地上の何もがも滅ぼすべ。それ、もっど大きな罪だべ?オラそっだらこどしたくね。だども、オラただの人間だ。オラがやづら殺しでも、ただそれだけのことだべ。だからオラが……」
「アレクセイさん、夏菜子ちゃんを見て。」姫さんに言われて、僕は夏菜子さんを見た……そしてそれ以上何も言えなくなった。
「いやや……」彼女の眼から、大粒の涙がポタポタと流れ落ちる。肩が、震えていた。
「か、夏菜子さ、なしただ?」
僕が尋ねても、泣くばかりで答えてくれない。姫さんが代わりに応えた。
「アレクセイさん、好きな人が、たとえ自分を守るためでも、殺すって言って、悲しまない女の子がいると思う?」
「だ、だども……」夏菜子さんを直視できずにいると、姫さんは夏菜子さんを抱きしめながら、続けて僕に訊いた。
「アレクセイさん、どうして急に殺すなんて言い出したの?確かにこちらの戦力は少ないけど……」
「それは……『しんペー』のアップデートで、羅刹と夜叉を顕現できるようにしだからだべ……こいづら、一度召喚しだら、敵の血さ見るまで止まらね。人間の銃火器も通じね。それに、修験のみんなは、20人からいるべ。20人の羅刹と夜叉を現世に召喚しだら敵の部隊壊滅出来るべ。」
僕がそこまで言うと、真魚さんが厳しい目で僕を見た。
「アレ坊、お前、自分が何言うてるか分かっとるやんな?」僕が無言で頷くと、真魚さんは僕の肩を揺らす。
「あんな?オレさっきいうたやんな?鬼道には人間の怨念や邪念が詰まっとるって。羅刹や夜叉も一緒やぞ?神鬼召喚で召喚者と魂魄がシンクロしたら、邪気の揺り戻しを受ける。それはまだええ。せやけどそうやって召喚した羅刹が人を殺めてみぃ?強烈な悪業が降りかかって来るぞ。おまえ、それを自分に還流させようって思ってるやろ?」
「仕方のねぇことだべ……修験のみんなに呪いさ被せられね。オラの魂だけでどうにかなるなら良いでねが?」
「このアホ!おまえ、そんなん誰が喜ぶて思てんねん!!」
「そっだらこどだら、真魚さんと太子様が助けでくれだら良いべ!!仏界のルールだがらって、人間の争いには介入しねっで言っでるのは真魚さん達だべ!だったらオラの命ぐれ、好ぎなように使わせでくれだら良いでねが!」
「やめてッ!」
僕が、真魚さんの手を振りほどこうとしたとき、彼女が叫んだ。
「やめてや……なんでアレ君が真魚さんと喧嘩してんの?……」
夏菜子さんが、僕の胸にしがみつき、涙で真っ赤になった眼で僕を見上げた。
「いっつも、二人で力を合わせて、『しんぺー』アプリ作ったり、式鬼で情報集めして、みんなを助けてくれたやん?さっきも、真魚さんと助け合って、鎌足さんと不比等さんを助けてくれたやん?せやのに……」
夏菜子さんが、涙の溜った大きな目で僕に問いかける。
「なんで喧嘩せなアカンの?……なんで、アレ君だけ地獄に行こうって思ってんの?」
「そ、それは……そうせねば……」
その先を言おうとすると、彼女が強くしがみ付いてくる。
彼女の身体の柔らかな感覚と、涙が胸元を濡らす感覚で、僕の殺気立った心が徐々に萎えていくのを感じた。
「アレ君…」彼女が再び僕を見上げる。
「な、なんだべ?」
「おいてけぼりは、嫌やで。」
次の瞬間、彼女の顔が、目が、僕の目の前にあった。
そして、柔らかな彼女の唇が、僕の口に重なっていくのが分かった。
「……よっしゃ。結論は出たな?真魚、姫!ワシの仏的解決策、使わしてもらうで!!」
太子様が、ニヤリと笑って立ち上がり、僕たちは現実にたち帰る。
「ア、アレ君……嫌や、もう!」
そういって、彼女はもう一度、僕の胸の中に顔を埋めた。
◆
「ほんで太子よ、仏的解決策ってなんやねん?」真魚さんが訊くと、太子様は「いや、さっきの神鬼召喚やけど」っていう。
「たぶんあれやんな?羅刹・夜叉を召喚したら血を見るまで止まらん、ちゅんは、ムーラダーラチャクラとスヴァディシュターナチャクラでシンクロしとるからとちゃうか?どや?」
驚いた。太子様は今回のアップデートの意味をほぼ正確に理解しているようだ。
「すげぇな……なして分かっただ?その通りだべ。生存本能や仲間意識だけでシンクロするから、一度敵っで思っだもんは、見境なく攻撃するべ。だがら手加減とかできね。力任せに敵さ、引き裂くだけだべ。」
僕がそう言うと、太子様は大きく頷いた。
「ほったらアレちゃうか?なんかこう、召喚者である修験どもと、羅刹・夜叉を言祝いだったら、アナハタチャクラでもシンクロできるようになるんちゃうん?」
え?まぁ理屈の上ではそうだけど……どうやってそんなことするの?
って思ってたら、姫さんが「ムフフー!」とか言っていた。
「ようやく……ようやく!わたくしの出番キター!夏菜子ちゃん、行くわよ!ほら、いつまでもアレクセイさんに抱きついてないで!」
「え?ええっ!?ち、ちゃう!ウチそんな……抱きついてるとかとちゃうし!」
はっ!しまっだ!!オラ、さっぎがら気付がねぇで、ずっと夏菜子さんのことギュってしてたべか!?慌てて彼女を離すと、姫さんが代わりに夏菜子さんをギュっと抱きしめる。
「言祝ぐ、って言ったらわたくしたちの出番よね!夏菜子ちゃん!わたくしたち太陽の女神と、大地の女神で、鬼さんたちを言祝いであげましょう!あ、鎌足さん!ついでに談山神社の天津軍と神職も呼んできてね!ここのホテルの従業員さん達にも協力してもらいましょう!」
「ち、ちょっどまっでけれ!どういうことだべ?明け方には敵が攻めてくるべ!こっだらこどしてる場合では……」
僕が言うと、即座に真魚さんが、
「ちがうちゃう!」と言う。
「そやから、それが作戦の一部、っちゅうことやんけ!おい太子よ!あんたの『念彼観音力』、存分に発揮してもらうで!幸いここは岡寺、長谷寺(共に観音霊場)も近うて、あんたの力もMAXや。オレの加持祈祷、姫と夏菜子ちゃんの神楽、あんたのウルトラ観音パワーで、この談山神社一帯を極楽浄土にしたろやんけ!」
「ふふふ……!ようわかっとるがな!さっすが南無大師遍照金剛やの!よっしゃ、ほなこれからブリーフィングや!後鬼はん!鬼ども(修験者)を集めてくれ!」
「た、太子様、作戦ってなんだべ?」僕が尋ねると、太子様は、今まで見たこともないくらい得意げなドヤ顔をしていた。
「お?そやそや、アレ坊、お前の金烏玉兎集の呪力結界システムで、ワシらの読経と姫の神楽を増幅・広域展開できるやろ?その為のシステム調整しといてんか。おまえやったらそんなん一瞬やんな?」
え、ええ?まぁ、それだけなら少し調整するだけだけど……どういうことだ?
◆
一通りブリーフィングが終わり、僕たちは各々の準備を始めた。
まず、修験者のみんなに神兵召喚……この場合は神鬼召喚の説明をする。
「皆さん、神鬼召喚は、皆さんと羅刹・夜叉との繋がりさ通じで、現世に神鬼さ召喚するもんだべ。だども鬼っでのは瘴気さ纏ってるから、そのままだと心が怒りや憎しみに飲み込まれちまう。そうならねぇように、後鬼さんから合図があるまで召喚はしねぇでけろ。」
僕がこう言うと、一人の修験から質問が出た。
「アレクセイさん、あんた、羅刹や夜叉やっていうてるけど、あれはもともとワシらの先達が死んでホンマの鬼になったもんで、いうたらワシらの先輩や。それやのに、召喚したらワシらまでおかしなってまうんか?」
ほんとだ。なぜそんなことになるんだろう?元は人間なのに。そう思っていると、不比等さんが説明してくれた。
「まぁ……修験とは元を辿れば、天津神との戦いに敗れた国津神や、朝廷の弾圧から逃れた土蜘蛛族、または圧政から逃れた流民が起源でな……だから、どうしても死して恨みを持つことが多い。今の修験は、流石にそうした者は少なかろうが、むしろその故に召喚によって繋がってしまえば、強い怨念に捉われることもある。」
その説明で、修験者たちは一様に押し黙った。
そこに、後鬼さんと、巫女服に着替えてウキウキしてる姫さん、そしてやっぱり巫女服を着ているけど、恥ずかしそうな夏菜子さんがやってきた。
すると、修験者たちから「おおっ!」とか、「素晴らしい!」と歓声が上がる。中には目頭を抑えて泣き出すものまでいる。
「後鬼さん、みんなどしたんだべ?なんで夏菜子さが巫女服着でるの見で泣いてんだ?」
僕が尋ねると、後鬼さん自身も感慨深げに目元を拭った。
「なんでって……これが涙せずにおれますか……我ら虐げられし国津神の末裔にとって、イザナミ様の化身たる夏菜子姫がこうやって、」
そういって、後鬼さんは姫さんと夏菜子さんの方を見た。姫さんが、嬉しそうに夏菜子さんの手を取っている。
「こうやって、天津神の長たる姫様、天照大神と手を取り合い、太陽と大地の霊力でこの場を言祝ぐのですよ?この日が来るのをどれほど待ち望んだことか……」
「おーい、みんなそろそろ出番やで~。おい不比等よ、ホテルの女将さんとか、神社の神職に説明は出来とるんかいな?」
太子様が、いつもの『かりゆし』ではなく、むかーしの一万円札に描いてあったような服と、お寺とかで観音菩薩像が着ているような服の両方を持ってやってきた。
「おっちゃん、どないしたん?」夏菜子さんが声を掛けると、太子様は「いや~」と言う。
「どっちの衣装がええかって思って。ほら、聖徳太子っていうたら、この一万円札の絵の朝服やん?せやけどワシ、救世観世音菩薩でもあるわけやし、菩薩ルックの方の方がええんちゃうかって思って。悩むわぁ~……なぁ夏菜子、じぶん、どっちがカッコええと思う?」
太子さんがこう言うと、夏菜子さんが呆れた顔で叱りつけた!
「何アホなこと言うてんの!ぼちぼちサプライズイベントや言うて館内放送が入るねんで!早よ着替ぇや!」
第70話をお読みいただき、ありがとうございました!
アレ君の悲痛な自己犠牲の覚悟と、それを必死に引き留める夏菜子ちゃん。でもそれをきっかけに二人が結ばれることになりました。めでたしめでたし……
なのですが、どうして「羅刹や夜叉を現世に召喚すること」が、破滅に繋がるのでしょう?
実は、日本の歴史の中で鬼と言われた者たちの多くは、天津神に敗れた国津神や、歴史の中で虐げられ、恨みを抱いて亡くなった人々です。
桃太郎も実は、大和朝廷に恭順しない吉備の山奥の民を、征伐した話が原型です。
だからこそ、戦闘本能や敵を排除しようという思いだけで彼らとシンクロしてしまうと、深い怨念や殺意に飲み込まれ召喚者自身も鬼と化して地獄に落ちるのですね。アレ君は、それを全部自分で引き受けようとしたわけです。
しかし、それを根本から覆す方法をおっちゃん(太子様)が閃きましたが……
姫と夏菜子が神楽を舞って、真魚さんとおっちゃんが加持祈祷と読経をする?なんのこっちゃ?
次話からは、いよいよ深夜の森にサプライズイベント放送が鳴り響く!敵が迫る中で何が起きるのか!?
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