第66話: 姫にお説教したり義経鍋を食べてたりしてたら、えっらい胡散臭い話を聞かされました。
「おひいさま!それは……!それだけはおやめください!あなたさまが真のお力を現せば、この国……いや!この世界が!」
鎌足さんと不比等さんがびっくりして、何回も土下座して懇願する!
ウチもびっくりして、
「ちょ、ちょっと姫!それは言い過ぎちゃうん!?そんなんしたらアカンって!」って言うと、姫は、
「あ、ごめん言いすぎちゃった。でもほら、そういう言い方って流行じゃない?厨二病って言うんだっけ?」
なんや、ハッタリかいな……って思ってると、
「でも、あの作り物のキモイ神もどきは焼き払って良いでしょ?あと、悪い人間?アレ作った連中と、そのバックの政治家たちの資金源を焼き尽くすとか、法律的に焼き尽くす、とかは全然アリじゃない?あ、ダメダメな国の仕組みは焼き尽くしちゃうよ、それはいいよね?うふふ……」
って……いたずらっ子みたいに笑う……してやられた!
「はは……ははは!こら一本取られた!なぁ鎌足、不比等よ。姫は小賢しい『この国の形』とやらで無理やり担ぎ上げんかて、とっくにこの国の皇大神やって!」
「は?はぁ……とは申せ、今まで我ら親子と我が一族が、おひいさまも、太子様たち仏の皆様も欺いてきたことは事実。この責め如何様にも……」
「そういうのはもう良いです。」姫がピシャって言うた。
「は?おひいさま?」不比等さんが、唖然とした顔で訊くと、姫はもう一度言うた。
「なので、もう良いです。あなた達だけが悪いの?もし私がそう言ったら、わたくしだって、あなたたち藤原氏と、伊勢神道にこのおとぎばなしの責任を全てなすりつけているだけの、本当の意味での『作り物の太陽』になってしまうじゃない?そんなのは要りません。ね?夏菜子ちゃん。」
「え?ウチ?なんでウチなんよ?」ウチが言うと、姫はウチのほっぺたをつねった!?
「あなたは、イザナミの玄孫!直系も直系の子孫!その証拠に、イザナミ母様を降ろしてすさまじい闇の力を放つことが出来るのよ?それがいまさら『ウチ、ただの人間です、テヘペロ』ってなると思う?ならないでしょ?さっきは大変だったんだから!太陽系が滅ぶ一歩手前だったのよ!?それなのに自分だけアレクセイさんとムフフな…」
「わーっ!!分かった!分かりました!なんでも言うこと聞くから!」
ウチが慌てて姫の口を手で塞ぐと、アレ君が「?」みたいな顔してたけど、すぐ真剣な顔になると、
「なぁ姫さん。だども焼ぎ尽くすって、どうすべ? 資金源だの、法律的にだの、そっだら簡単なごとではねぇんでねが?」
って訊く。
そしたら姫は、ニヤって笑って、
「ムフフ…そう言うのが一番得意で、色んなところに顔の効く人がそこにいるでしょ?ほら。」って言いながら、おっちゃんを扇子の先で指した。
「ん?ワシか?」おっちゃんがニヤッて笑うと、姫がニコニコ顔で頷く。
「もちろん!もうここまで来たら仏案件でしょ?『こういうのは、人間と神が自力でなんとかせなアカン~』とか、言わないよね?ねっ、ウマくん♡」
「ま……そらそうやな。いま、この小っさい島国で起きとることは、太陽系全体の進化の特異点や。ここでフラットランドを克己して、次のティール段階に至れるんか、やっぱりアカンで堕天して、曼陀羅の魔神にすり潰されるんか……この救世観世音菩薩が出しゃばらんで誰が出てくるっちゅうねん?千手観音クマラのボケナスとか、普賢や文殊みたいなロクデナシのええ様にはさせへんで……」
◆
「ところで……」太子のおっちゃんが姫の方をジロッて見た。
「姫、なんで美紗ちゃんに化けてたん?っていうか、美紗ちゃんどこにおるん?」
せや!なんか立て続けに大変なことが起きたからスルーしてたけど、ウチらは石清水からこっち、田島と一緒に来たはずやで??
いつのまに姫にすり替わってるわけ?って思てると、姫が「えへへ〜」って言う…いや、ウチは誤魔化されませんよ?
「あのな、敵は姫を狙いに来てんねんで?危ないやん。せやから、八幡さんも石清水の守りを固めて、そこに姫を匿うってしてたやん?実際、敵が攻めてきたやん?それで、四天王寺と談山神社には、ウチと田島が行くってなったやん?」
って、説教したら、姫はチッチッチってドヤ顔になった!?
「ウフフ…ほら、敵を欺くにはまず味方から、とか言うじゃない?まさか、わたくしが軽自動車に乗ってウロウロしてるとか思わないわけ。それに、わたくしがいなかったら夏菜子ちゃんの暴走も止められなかったし、鎌足さんも助けられなかったんだから、これは天意なのよ!」
でも、アレ君がPCのキーボードを打ちながら「いんや」って言った。
「姫さん、敵さ、こっぢの霊力さセンサーで見で襲っで来でんだはんで、見た目だけ化げでも意味ねべ? 畝火山口神社で急に敵さ襲っで来だ時、なしてだべって思ったばって、姫のせいだべ!」
そしたら、姫が固まって、みんながシーン…ってなった…
しばらく沈黙して、姫が冷や汗を流しながら、扇子で顔を覆って「ウフフ…」って笑う。
もちろん、ウチは姫のほっぺたをつねった。
「みんなに『ごめんなさい』は?」
「い、痛い痛い!そんなに怒らなくても良いじゃない!結果オーライなんだし!」
「ちゃうねん!結果的に良かったからええやん、っていうのは一番アカンやつや!それはただのまぐれや!『神の力でラッキー起こせますねん』とか、通じませんよ!」
でもここで、今まで黙って聞いてた後鬼さんが前に出てくる。
「姫様、夏菜子様、仲が宜しいのは結構なのですが、そろそろ本題に入りませんと……多武峰観光ホテルに宿泊予約はしておりますが、先ほど女将より電話がありまして……食事の用意もあるので早くチェックインして下さい、とのことでして……」
ぐっ!ここに来てなんちゅう世知辛い話や!って思ってたら、不比等さんが「ああそれならば」って言う。
「続きはホテルで義経鍋を食してビールを飲みながらで如何にござりましょう?いえ、あちらのホテルなら麻呂も多少顔が効きますゆえ。本来なら当社で泊っていただければ良いのですが、何しろ先ほどまで戦っておりましたからな。散らかっておりますので……」
◆
ホテルに来ると、なぜか鬼のみんなもちゃっかり宿泊することになってた。
「敵が来ぇへんかな?」ウチが訊くと、後鬼さんは、常時式鬼を放ってるし、誰か一人は起きてるから大丈夫、って言うことやった。
「せやけど、神社の常世ではあんなに激しい戦いがあったっていうのに、現世ではそんな様子は全く無いな……」真魚さんが感心したように言う。
「たぶん、こういう仕事をするように訓練された連中なんとちゃうか?人間を殺したり傷つけたら大事やけど、常世に入って神さんを殺したところで、そんなん証拠も何にも残らへんし、そもそもそれを裁く法律もないからな……」と、太子のおっちゃん。
ウチらはとりあえずチェックインを済ませると、急いで食堂に全員集合した。
目の前には、焼肉と水炊きが同時にできるという変わった形の『義経鍋』が湯気を立てている。
「おっちゃん、肉焼けたで。早よ食べや。」
『お、すまんな夏菜子、おおきに……ほんで鎌足よ、食いながらでアレやけど……早い話、お前らは敵と通じとったんかいな?なんか裏切られたっぽいけど』
おっちゃんが箸で肉をひっくり返しながら言うと、鎌足さんが苦笑する。
「その連中が、姫に人造の神もどきを当てがおうとしたところは既にご存じですな?」鎌足さんが言うと、全員が頷いた。
「姫に神婚を持ち掛け『新たな神を用意する』と言ってきおったのは、『神国日本の新しい姿について考える会』とかいう、超党派の議員連盟でしてな……吾は、時々人の姿をとって人間に会っておりますが、内宮の神宮司庁でその者らに面会した時は、またバカなことを申す輩が出て来たとしか思っておりませなんだ。」
正直、びっくりした。
そら、あんな兵器を持ち込むんやから、それなりに大きな組織が関係してるって思ったけど、ガチで政治がらみ?
鎌足さんはそのまま続けた。
「何しろ、吾は飛鳥の板蓋宮の頃より、伊勢の祭祀を見ておりますからな。
我らの始祖 天児屋根命が行ったことも虚構ならば、吾ら自身が行なったことも虚構。加えてその後に出来た伊勢神道は更のその上に積み重ねた嘘であり、明治の国家神道はその嘘を使って作った嘘で塗り固めた楼閣に過ぎませぬ。ゆえに吾のところには、役に立ちそうな嘘を持ち掛けてくる輩が、それはもう飛鳥の昔よりひっきりなしに来るものでしてな。此度も、そんな騙り者の類であろうと思っておりましたが……」
「実際にそいつらは、人の手で作った神のようなものを連れてきた、ちゅうことでんな?鎌足はん。」真魚さんが言い当てると、鎌足さんと不比等さんは無言で頷いた。
「驚きましたな……安倍晴明は死者の蘇生はやって見せましたが、それは肉の身体を修復して、そこに魂を戻すこと。しかし、その人造の神は全く無から作られたもの。死者の蘇生でさえ、晴明以外のものが成功したのは見たことも聞いたこともない。まして、吾らと同じ神を人の手で作るなどと……正気の沙汰でないにしろ、それが出来るなら、この日ノ本を再び偉大な国にすることも出来るやも……ひょっとしたら、嘘を真実に出来るのかもしれない、と思ってしまいましてな。浅ましいことですが……」
「鎌足はん、その神もどきは、完全な陰、八卦にいう『坤』やったんやおまへんか?」
「え?真魚さん、それってどういうこと?」なんか意味分からん。坤ってなに?
「天地創造っちゅんは、陰陽二極の力があって初めて成るんや。イザナギとイザナミによる国産み、神産み、っちゅうんは、イザナギはんが天すなわち陽、イザナミはんが地すなわち陰。八卦ではこれを乾坤という。ここまではええな?」
うん、さっきもそんな話してたね。
「ところが、イザナミはんが死んで神産みがでけへんようになった。そこで思兼神が考えたんが『姫とスサノオをくっつける』ことやけど、これはスサノオが出雲に行ってクシイナダはんを嫁にしたことで失敗した。それから嘘を塗り固めてきたところは鎌足はんの言う通り。せやけど、誰かが気付いたんちゃうか?陽=乾の気を持つ女神である天照大神と、陰=坤の気を持つ男神が交わったら神産みを再現できる。ほんでそれを『人工的に作れる』って。」
真魚さんがそこまで言うと、鎌足さんは大きく頷いた。
「然り、議員どもが持ち掛けてきた話というのは、坤の象を持つ人造の男神による神産みの再現です。」
ここで、太子のおっちゃんが言う。
「せやけど、そいつらは完全な陰である『坤』と邪念の区別がついてへんかった。そういうこっちゃな?」
お読みいただきありがとうございます!
今回は、神話の重い話とホテルの世知辛い話が入り交じる回となりました(笑)。
作中に登場した『多武峰観光ホテル』は、藤原鎌足を祀る談山神社のすぐ目の前にある奈良県桜井市の実在のホテルです。そして、みんながつついている『義経鍋』もここの大名物!鴨・猪・牛・豚・鶏の5種類の肉を、鉄板焼きと水炊きの両方で味わえるここにしかない料理です!
気になった方はぜひ調べてみてください!
さて、後半で真魚さん(空海)が語った『八卦』について少し補足を。
八卦とはそもそも、自然界や宇宙の現象を「8つの基本的な要素=象」に分類した、中国の『易』という占術のことです。
四季の循環や自然界の生命活動(陽気)の移り変わりを表現したもので、「乾・坤・震・巽・坎・離・艮・兌」と変化しますが、この中の全ての根本となる二極が『乾』と『坤』であり、『乾』は天であり純粋なプラスのエネルギー、『坤』は地であり純粋なマイナスのエネルギーと思っていただくと良いと思います。
神産みには、この「天の陽」と「地の陰」が交わることが不可欠ですが、議員たちはイザナミに代わる『究極の陰(坤)』の象を持つ男神を人工的に創り出そうとしているのですね。
さて、おっちゃんが言う『坤と邪念の区別がついてへん』というのはどういうことでしょう?
次回、その恐ろしい謎と、なぜそれが堕天に繋がるのかが明らかになります。
お楽しみに!




