表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/66

第63話: 激闘 談山神社!⑦ 万物は陰を負いて陽を抱き、沖気(ちゅうき)以て和を為す。

「ち、治療法がある?…アレクセイさん、何を言ってるの…?あとセクハラはダメだめよ…可愛いから許しそうだけど…なまはげも余計だわ…」

 姫がさめざめと泣きながら…厳しいツッコミを入れる…うーん美人セクハラかぁ、確かに。でもそれやったら可愛いって男の子に言うてもあかんねんで?


 もちろん、アレ君はダメージを受けていた。

「なして……この重たい空気変えようと思っでるオラの気遣いダメだべ……やっぱし都会さ怖いべ……」

 アレ君が何言うてんのか分からんけど、太子のおっちゃんは溜息をついて首を横に振る。


「アレ坊よ。オマエが言うてんのは、姫の光の氣とか、夏菜子の闇の氣で浄化するってヤツやろ?アカン、ここまで言ったら手遅れなんや、そもそも……」

 でも、真魚さんはぱっと手を挙げてその言葉を遮った!


「太子、今の若いモンはオレらとは比べ物にならんスピードでものを考えよる。聞いてからでも決めるんは遅ないで、ちゃうか?」


 どしたん!?真魚さんかっこええやん!いっつも「そろそろ結婚したい~」とか、「エロい女の人タイプ」とか言ってるこじらせキャラやのに!

 せやけど、真魚さんはイケメン顔のまま、冷静に鎌足さん達の状態を診断した。


「物質体が無いから外傷は残らんが…見てみい。身体中に黒い渦のようなものが憑いとる。」

 それを見て、アレ君が一言、


「弾痕みてだな。こさ、呪詛弾を全身に受げたでねが?」


「そやな…姐さん(八幡さん)ほどの強力な神霊でも跪かせるんや。こんだけ受けたら、鎌足はんではひとたまりも無いやろ。」


「だすな…だけんど、なして第2チャクラと第3チャクラ逆回転してるべ?やっぱフラットランド化の影響だべか?」

 フラットランド?なにそれ?ウチが聞くと、真魚さんが解説してくれる。


「産業革命からやと思うけどな。人類はその営みを、銭儲けの数字だけで考えるようになった。ついでに言うと、哲学も、信仰も、そのたかが銭儲けのための手段になり、人間の価値はその歯車になれるかどうかで決まった…芋虫になって最後にはリンゴぶっつけられて死ぬ男の話知らんか?」

 真魚さんがそういうと、アレ君は心底嫌そうな顔をして一言いった。


「クソだべ」

「ど、どないしたんアレ君?めっちゃ怒ってへん?」


「オラの母っちゃ、そっだらとこさ嫌になっで秋田さ来だって言ってたべ。父っちゃは、貧乏な漁師だったども、母っちゃに自分が漁っできだ魚でざっぱ汁食わしでくれだって。今でもそん時のこど、嬉しそうに話すべ。」


 アレくん…さっき見た夢の中で、「胸大きい女の子好き」とか言うてたのに、とたんにカッコよく見えてくる。

 ちょっと見惚れてると、アレ君が「分かったべ」って言うた。


「鎌足さんのチャクラ、汚染が進みすぎでら。新しく作り直すしかねべ。真魚さん、オラにひどつ考えさあるげど、真魚さんの加持祈祷いるべ。えが?」

 せやけど、真魚さんはわかってたみたいに頷く。


「言うてみ。この弘法大師空海、なんぼでも付き合うたろやないけ。」


 ◆


 ジャラ!真魚さんは、護摩壇を焚くと、数珠を出してお経を唱え出した。

観自在菩薩(かんじざいぼさ) 行深般若(ぎょうじんはんにゃ)波羅蜜多時(はらみたじ)照見五蘊(しょうけんごうん)皆空(かいくう)…」


「おい真魚、何をする気や?」おっちゃんが聞くと、真魚さんは護摩に火を焚べながら応える。


「姫と夏菜子ちゃん、陰陽の神気を束ねて、鎌足はんの霊的身体を再構築する。そやな、アレ坊?」


 すると、アレ君も頷いた。

「んだ。姫さんの光の神気、夏菜子さの中さあるイザナミの闇の神気、それでビッグバン起こすべ。汚染されたとご焼き切りながら、チャクラ再構築するべさ。」


 驚いたおっちゃんが叫び声を上げる。

「アホなこと言うな!そんなことしたら死ぬより苦しい激痛に苛まれて魂魄が虚無に消えてまうやないか!…そんなことまで言うてへんぞ!」


「おっちゃんどうしたん?さっきまで降魔(ごうま)しろって言うてたやん?降魔って殺すって意味やろ?」

 せやけど、おっちゃんは、唇を噛み締めながら首を横に振った。


「神の命は有限や……死ねば生まれ変われる……せやけど、虚無はアカン……それは存在の消失や……」

 でも、真魚さんが、おっちゃんの肩を叩いた。


「アホやな、そんなこと分かっとるっちゅうねん。ついでに、オマエが鎌足はんを降魔しようって言うたんも、姫が死なせたないて言うたんも分かっとる。どっちも叶えたる。それが天才ちゅうもんや。せやろ、アレ坊!」


「んだ。」アレ君がPCのキーボードを叩きながら、真魚さんの言葉を引き継ぐ。

「フラットランドに堕ぢた今の鎌足さんのチャクラは、数字と欲望のバグだらけだべ。だから一回、夏菜子さの闇と姫さんの光を対消滅させて、混沅(こんげん)まで初期化するべさ。」


「混沅に還すやと!?せやから、それでは魂魄が虚無に消滅……!」

「消えねぇべ!光と闇が対消滅して混沅さ還れば、そこから新しい宇宙の核、太極さ産まれるべ!それが宇宙の理だべさ!」


「自ずと産まれる……?せやけど、そんな不安定な状態、どうやって維持すんねん!」


「そこは真魚さんの出番だべ!」

 カタカタカタッ!キーボードを叩くアレ君の手が熱を帯びる。

「オラが真魚さんの供養会(くようえ)の術式を、この呪力空間に拡張するべ!人の精気も街中の電力も要らね!コンセントから100ボルトの電源さえ引ければ、保護の結界さ張れるべ!」


 真魚さんがニヤリと笑い、護摩の炎越しに印を結んだ。

「そういうこっちゃ。オレが開く金剛界曼荼羅(まんだら)供養会(くようえ)はな、姫と夏菜子ちゃんの『鎌足はんを救いたい』っちゅう祈りを仏に捧げて、その強力な『加護』をこの場に下ろすためのもんや。」


「祈りと加護の結界……!」おっちゃんが頷く。


「せや。その加護の結界が揺り籠になって、対消滅の衝撃で鎌足はんの1500年分の(カルマ)が虚無に散逸するんを防ぐ。ほんで、産まれた太極に、その(カルマ)をしっかりと定着させるんや。」


 アレ君が力強く頷く。

「んだ。記憶も罪も全部チャラにして、ただの白紙に戻すんでね。鎌足さんが必死に国さ護ろうとしたその『業』ごと、全部新しい魂魄に引き継がせるんだべ!」


 ジャラリ、と真魚さんが数珠をひときわ大きく鳴らす。

「陰(地)と陽(天)の間に沖気(ちゅうき)……姫と夏菜子ちゃん、二人の祈り(人)を注いで調和させる。天地人の三才が揃えば、あとは自然に五行が巡り、背負った(カルマ)すらも昇華したピッカピカの新しい霊的身体が再構築されるっちゅう寸法や。」


 アレ君と真魚さんの完璧なロジックに、太子のおっちゃんがワナワナと震え、言葉を失った。

「アホな……たかが100ボルトの絡繰箱からくりばこと、この子らの祈りだけで……イザナギ、イザナミの国産み・神産みを再現しようっちゅうんか……!」


「って、ちょっと待って!アレ君!!」

 ウチはたまらずツッコミを入れた。

「ここ常世やで!?そんな都合よう、100ボルトのコンセントなんかその辺にあるわけないやんか!!PCの充電すぐ切れるで!?」


 ウチの当然すぎる疑問に、アレ君はニヤッと、最高に悪党ハッカーっぽい顔で笑った。


「甘いべ夏菜子さ。オラば誰だと思ってるべ?」

 そう言うと、アレ君はPCから伸びる電源ケーブルの先……なんか注連縄(しめなわ)みたいにお札がグルグル巻きにされた特製のプラグを見せびらかす。


「こっだらこともあるど思っで、ここに来る前に現世の談山神社の境内さあった自動販売機のコンセント、オラの式神さ仕掛けといだべ。この注連縄ケーブルさ通じて、次元の壁越えて100VAC 60Hzの電気さ、常世までぶっこ抜くんだべさ!」


「か、関西電力から常世にワイヤレス送電……!?」

 開いた口が塞がらへん……考えることが変態すぎる!!


「よっしゃ!現世からの電力供給OK!真魚さん、いつでも良いべ!」

「おう!『金剛界曼荼羅供養会』展開じゃ!!夏菜子ちゃん!姫!あんじょう頼むで!」


「えっ!?ちょ、ちょっと待って!そんなん言われても、ウチ何をどないしたらええのん!?」

 ウチは慌てて真魚さんと姫を交互に見る。ビッグバンとか対消滅とか、そもそも分からんし、やり方の説明が一切無い!

 すると、姫がウチの両手をギュッと力強く握り締めた。

「夏菜子ちゃん、焦らなくて大丈夫!わたくしに合わせて、神産みの祝詞を唱えるのよ!そうよね、真魚さん!」


「せや!姫と夏菜子ちゃんで同時に唱えるんや!それで陰陽の気を重ねて、ビッグバン=混沅を産み出す!」


 姫が目を閉じ、清らかな、でもどこか力強い声で紡ぎ出す。

「ひふみ よいむなや こともちろらね しきる ゆゐつわぬ……」


 ウチも姫に手を握られたまま目を閉じて、自分の中にあるイザナミお祖母ちゃんの力を意識しながら、その祝詞を口にする。

「そをたはくめか うおえ にさりへて のますあせゑほれけ……!」


 その瞬間――ウチらの握り合った手を中心にして、身体がビリビリと震えるくらい、とんでもない力が内側から爆発的に湧き上がってきた!

 姫の背後からは太陽みたいな眩しい光が、ウチの足元からは底無しの闇が溢れ出し、それが二重螺旋の渦になって激しく混ざり合い始める!


 そして、姫とウチは声を重ねて、蘇生の言霊を放った。

布留部(ふるえ) 由良由良止(ゆらゆらと) 布留部(ふるえ)!!」

 光なのか闇なのか分からない、虹色の何かが天地を貫くと、真魚さんが叫んだ!


「よっしゃ!太極が発動した!四方を護る結界を展開するで!!」

 真魚さんがバッと立ち上がり、護摩の炎に向かって鋭く印を結び、地鳴りのような声で大日如来を囲む四人の女菩薩の真言を唱え始めた。


「東方、菩提の堅固なること金剛の如し!金剛波羅蜜(はらみつ)菩薩、『オン・サトバ・バジリ・ウン』!!」

 呪力空間の東側に、青白い光の壁が立ち上がる。


「南方、万物を潤す福徳の宝玉!宝波羅蜜菩薩、『オン・ラタナ・バジリ・タラク』!!」

 続いて南側に、炎のような紅い壁が展開される。


「西方、清浄なる真理の法!法波羅蜜菩薩、『オン・ダラマ・バジリ・キリク』!!」

 西側に、光り輝く白い壁。


「北方、一切のカルマを成し遂げる力!業波羅蜜菩薩、『オン・キャラマ・バジリ・アク』!!」

 そして北側に、濃い翠のような黒く輝く壁が現れた。


「アレ坊!器は完成や!!」

「んだ!システム、完全にロックしたべ!」


 東西南北、四色の結界が鎌足さん達を包み込む。

 その中心で、限界まで膨れ上がったウチと姫の『光と闇=太極』が爆発した!


 真魚さんが最後に、両手を高く掲げて吠える。

「金剛界曼荼羅供養会、ここに成就せり!『オン・バザラ・ダト・バン』!!」


最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!第63話、いかがだったでしょうか?


今回は、「フラットランド(唯物主義の絶望)」に対して、アレ君のルーツである「ざっぱ汁(人間の純粋な愛)」が最強のアンチテーゼとして立ち上がるという、個人的にも非常に熱の入ったエピソードになりました。


そして、今回アレ君と真魚さんたちがやってのけた「金剛界曼荼羅供養会」。

ただ派手な魔法を使ったわけではなく、実は『老子(道教)』や『密教』のガチの宇宙生成論をシステムとして完全再現していました!


お気づきになった方もいるかもしれませんが、あの儀式は以下の4つのプロセスで進行しています。


1. 無極(混沅):姫と夏菜子の祝詞で光と闇が対消滅し、宇宙誕生前のカオスが発生。

2. 太極・両儀:真魚さんが結界(曼荼羅)の器で閉じ込めることで、混沅が「太極(陰陽の渦)」に変化。

3. 三才(天地人):姫と夏菜子の「救いたい」という純粋な祈り(人=沖気)が注がれ、天・地・人の三才が揃う。

4. 五行と再構築:三才が、散逸しそうになっていた鎌足のカルマを吸収。新しい体を構成する素材(五行)として昇華し、霊体を再構築する!


鎌足さんが1500年背負ってきた重たいカルマごと、新しい命の土台にしてやりたい。そんな彼らなりの「究極の慈悲」を込めたサイバー神術でした。


……まあ、そんな神話レベルの壮大なシステムを、現世の自販機の裏(関西電力100V)からワイヤレスで引っ張ってきた電気で起動してるあたり、やっぱりアレ君はただの変態ハッカーなのですが。


さて、四色の結界の中で光と闇が弾け、ついに息を吹き返した鎌足さん。

果たして、彼は何を語るのか……!?


次回、第64話も怒涛の展開でお届けします。引き続き、応援よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ