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第62話: 激闘 談山神社!⑥ この人が黒幕!?っていうかウチはチューなんかしてません!

「夏菜子さ、どしただ?なんか顔真っ赤でねが?風邪ひいただすか?」

 アレ君が真剣な顔でウチの方を向いて、心配してくれてんねんけど……いやいや違うよね?


「みんなもおかしいべ?オラさ、たぶんちょっと寝てだみてぇだども……あれ?姫さんなんでいんだ?石清水でねぇのけ?美紗さんは?っていうか、なして姫さん顔真っ赤だ?神さんも風邪ひくべ?」


 そしたら、太子のおっちゃんが、なんかやらしい顔してアレ君の肩を叩く。

「モテる男は辛いのぉ~!わかる!分かるで!ワシも若いころはモテモテやったしなぁ~!」

 ちょっと、要らんことは言わんでええねん……バシっ!!


「うがっ!痛ったぁ~!……夏菜子なにすんねん!きょうびチューくらい普通やんけ!グーパンチはやりすぎやろ!?」

「おっちゃん……今な、令和やねん。昭和ちゃうねん。まして、おっちゃんが生きてた時代でも無いねん……わかる?セクハラはアカンのや!!だいたいウチはチューなんかしてません!後鬼さんが言うてた『アレクセイ様は、おそらく魂魄が抜け落ちたんでしょう。こういう時は息吹(いぶき)を吹き込むのです』っていうんをやっただけや!


 そやけど、後鬼さんは、ウチとアレ君をみて、嬉しそうに微笑んではる……美人やなぁ~ってそうやなくて。

「まぁ!まぁまぁ!これで大峰修験も安泰ですわ!夏菜子様と若様が晴れて結ばれて……夏菜子様、祝言はいつになさいます?あ!ぜひ式は仏式にして下さいましね!もう、最近の若い人は、伴天連(ばてれん)(キリスト教式)のやり方ばっかりだから……」


「ち、ちがう!息吹やろっ!?ウチの霊力をアレ君に吹き込んでって言うたやん!」

「間違いではございませんし、それが若様を黄泉から連れ戻す上で妙案ゆえ申しましたが、接吻(せっぷん)は接吻でございましょう?わたくし、お二人をみていると、なんだかもうヤキモキしてしまって……こうでも致しませんと。」


 え?なにそれ?わざと?ウチ騙された?

「アレ君が悪いんや!早よ起きへんから!」ウチはとりあえずアレ君に八つ当たりした。グーパンチした。

「いでぇ!夏菜子さ何するだ!オラがなんがしたが!?わげわがんねだ!」


 ほんだら、姫が顔を真っ赤にして……

「あのね、アレクセイさん。あなた、さっきまで死んでいたの……それで、夏菜子ちゃんにイザナミ様が憑依して大変だったんだけど……でね、イザナミ様の霊力をあなたに吹き込めば、命が蘇るだろうってなって……あとはまぁ、そのほら、霊力って、普通は口移しに吹き込むものじゃない?……ごめんなさい、これ以上は恥ずかしくて言えない……」

 解説せんでええ!しかもそんな可愛いく恥じらいながら!


 っていうか、姫の言い方一番サイアク、変態的や。

 なんか姫って、俗っぽ過ぎへん?レディコミ読み過ぎちゃう?伊勢神宮って暇なんかな~?

 って、そしたら、おじゃる姿の法眼さんが、扇子で本殿の方を指した。

「年頃ゆえ、乳繰り合うのも構わぬが……先ずは、この社の主に会いに行かねばなるまい?」

 分かってますー!そんなん分かってますから!って言うか、乳繰り合うとか……もうこの人におやつあげんとこ。


 ◆


「う~ん……」ものすごーく納得がいかへんのを堪えながら、本殿に続く階段を上っていったら、そこにも起き上がったばっかりでぼぅっとした人たちがいた。


「どうも、人間どもばっかりやないみたいやな……見てみぃ。あれはここの武士もののふや。」

 おっちゃんが指す方向を見ると、黒い戦闘服みたいなヤツを来た人間たち以外に、ハニワの王子様が着てるような、すっごく古い鎧を着た人たちが、やっぱりいま目が醒めたみたいな感じで、座ってボーっとしてた。


「あれって……藤原家の私兵よね?まるで、死んで生き返ったみたいだけど……誰と戦ったのかしら?法眼さん達?」

 姫が、法眼さんと十兵衛さんに聞いたら、二人とも首を横に振った。


「鬼神になっていた時の記憶は消えておらぬが、あのようなものと戦ってはおらんな……我らが叩き潰したのは、御仏に仇なす人間どもとその兵器のみ…夜叉(やしゃ)羅刹(らせつ)は、飽くまで御仏より賜りしお役目を果たすもの…同じく神仏に使える天津軍とは闘わぬ。」


 うそ…そしたらあのハニワ兵士さんたちを殺したんって…

「夏菜子、いまさら何いうてんねん?自凝島(おのころしま)でも石清水でも、あいつらは平気で神に銃口を向けたやんけ。きょうびの奴らは神仏なんか畏れへん。仮にそれが阿鼻(あび)地獄行きやっちゅうてもな。」


「そ、そやけど…でも!あの人らも花奈ちゃんみたいに無理やり!」

 せやけど、うちの言葉におっちゃんは苦笑する。


「なぁ夏菜子、ほんでアレ坊よ。世の中の者が、皆んなお前らみたいにちゃんとしとったら、こないに乱れへんやろ?見てみい、今のアメリカの大統領。ほんでそれにへつらう連中。何が神の国や。笑かしよんな。サナンダに聞いた時、あいつ嘲笑(わら)っとったで?『いや〜、僕の名前で悪事を企む連中が一番よく燃えるんですよ、ゲヘナ(焦熱地獄のようなところ)で。』ってな。それやめときや、って言うんが黙示録やのにな。」


 そのおっちゃんの言葉に、みんなが沈黙する。

 本殿に入ると、ハニワ兵士とか、平安貴族っぽい服を着た人らが、何人も倒れてた。


「どういうことだべ?この人だち、生き返らねが?」

 アレ君が聞くと、倒れた兵士さんを見た真魚さんが「いや」って言うた。


「死んでるわけやない。そもそも、人間どもの呪詛くらいでは、神霊も修羅も殺せん。死んでないんやから、死を司るイザナミ様の力が働かんかったんやろ。多分そのうち目を覚ます…あっ…あれもそうちゃうか?」


 真魚さんが指差す方を見ると、すだれ?(御簾(みす)でした…ウチそんな難しい単語しらん!)の向こうに、豪華な感じの服をきた年配の男の人と、若い男の人が倒れてて…姫がびっくりして駆け寄った。


鎌足(かまたり)さん!不比等(ふひと)さん!どうして!?」

 え!?この人らが鎌足さん達って!?悪もんちゃうん?


「やっぱりそうか…なんとのう、想像はしとったけど…」

「想像?どういうこと?ウマくん。」

 おっちゃんの言葉に、姫が鎌足さんを抱き起こしながら、反応した。


「ようある話やんけ…これはやらなアカンことや…この国のためや…少数の犠牲でこの国が護れるなら…そない思うてる内に、いつのまにか自分が狩られる側になる…『狡兎(こうと)死して走狗(そうく)煮らるる』ってヤツや。ああ、まさにコイツが入鹿を殺した後に、コイツの主君にさせられたことやな…サナンダの手下が言うとったわ。『コイツら人類の愛は壊れている』って。」


 そしたら、姫が真っ赤な顔をして怒った。

「ウマくん!そんな言い方はやめて!この人だって…この人だって必死でこの国を守ってきたんでしょ!1,500年も悪役を押し付けられても!」

 姫が泣きながら訴える。どういうことなん?


 当惑してると、真魚さんが教えてくれた。

「この御仁は、天児屋命あめのこねやのみこと、つまりこの国のデタラメを最初に作った天津神の子孫で、自身もデタラメづくりを生業にしとったお方…ちゅうことになるんやろうな、畝傍で石長比売(いわながひめ)はんに聞いた話の通りやったら。」


真魚(まお)さんまで…!彼らに…藤原氏にだけ責任を押し付けるの!?」

 こんなに怒ってる姫は初めて見た……ちょっと、このままやと……


「おっちゃん、姫、とにかく今はこの二人を助けるんが先ちゃう?どうしよ…」

 すると、アレ君が素早くPCを立ちあげて、式神みたいなんを飛ばす……それは、鎌足さんと不比等さんに取り憑くと、しばらくたってPCに何か表示された。


「衰弱してるだけじゃねな…ここさ見れ。」アレ君が示したPCの画面には、人間の絵がかいてて、七色の光る輪っかが表示されてた。

 その輪っかの内、下から2番目のオレンジ色のやつと、下から3番目の黄色いやつが猛烈な勢いで左回転してる。

 それを見た瞬間、真魚さんの顔が青ざめた……


「堕天や……」真魚さんがひとこと言うと、太子のおっちゃんが厳しい表情になり、姫が泣きだした。

「こらアカン……法眼、降魔ごうませよ……」その言葉で、法眼さんが金色に輝く巨大な天狗になり、やはり巨大な剣を抜く。


「なんで!?神兵召喚してへんのに!」うちが驚いて叫ぶと、後鬼さんが悲しそうに首を横に振る。

「太子様は、この地上世界の裁定者……観音のお一人です……太子様が下知なされば、この日ノ本の全ての武神・修羅は天竜八部衆となって仏が遣わす降魔の執行者となるのです。さ、夏菜子さま、こちらに……惨いものゆえ、見てはなりません……」


「後鬼さんまで!そんなに……そんなにこの人が憎いの!?確かに、このひとは国家鎮護の名のもとに、多くの命を奪いました!天智帝に仕えたかと思えば、その息子は天武帝に仕え、中には保身のために主さえ利用したという人もいるでしょう!でも、この国がバラバラにならないように伊勢の宮を守ってきたのはこの人なのよ!……この人を、この人だけを斬るというなら、わたくしも殺しなさい!!それで夏菜子ちゃんをこの国の新しい女王にすればいいのだわ!」


「姫さん……落ち着いてくれ……これは中台八葉院が定めた法理なんや……ここで見逃しても、千手観音クマラの戦士団、あの冷酷な樫原真琴がコイツを殺すやろ……そのくらいやったらいっそ……」

 なんとかおっちゃんが(なだ)めようとするけど、姫は号泣して首を横に振り、鎌足さんに負い被さって必死で庇おうとする。


 困ったおっちゃんが言う。

「十兵衛、姫を離して差し上げよ……無体なことはせぬように……」すると、十兵衛さんも一つ目の巨大な鬼(夜叉大将)になったけど、十兵衛さんは躊躇してた。

「太子様、皇大神(すめらおおかみ)斯様(かよう)にお泣きあそばされているものを、無理にとは……」

 うちは、思わず、十兵衛さんと姫の間に入った。


「おっちゃん、もうちょっと考えよ。それはたぶん、さっきウチがイザナミ祖母ちゃんに呑まれてやろうとしたことといっしょや。真魚さん、アレ君、なんか方法無いん?ほら、得意の加持祈祷とか、サイバーなんちゃらとか?」

 っていうと、アレ君と真魚さんが、キラッと!目を輝かせニヤッて笑った!?


「姫さ、治療法があんのに、そっだら泣がなくでいいべ!せっかくの美人が台無しだべ!なまはげが来るべさ!」

 え?なまはげ?なに言うてんの?アレ君。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

さて今回は、終盤でアレ君のPC画面に映し出された「七色の光る輪っか」について、少し解説させてください。

オカルトやヨガの世界では、人間の背骨に沿って7つの主要なエネルギーセンターがあると考えられていて、それらはチャクラ(車輪)と呼ばれています。

PCの画面で「猛烈な勢いで左回転していた」というのは、マイナス方向へ異常な暴走をしていることを表していました。では、どんな風に暴走していたのでしょう?


■ 下から2番目(オレンジ色): スヴァディシュターナチャクラ

他者との絆を結ぶもので、キリスト教では「フィーリア(友愛)」、神道は「和魂にぎみたま」と言われます。また、自分自身を愛する「自己肯定感」を生み出す、とても大事なエネルギーの座です。

しかし、これがマイナス方向に暴走すると、「自分のテリトリーを侵されたくない」「あいつらを排除しろ」という、執着や排他性を持った【偽りの愛】へと変貌してしまいます。


■ 下から3番目(黄色): マニプーラチャクラ

「論理的な知性」や「自己を認識する自我」、そして現実を生き抜く「力(活力)の感覚」を司るエネルギーセンターです。しかし、このバランスが崩れると、他者をコントロールしようとする【権力欲や支配欲】へと変質してしまいます。


鎌足や不比等は、1500年もの間、この国を形作るためにこれらの力を用い続けていました。

しかし、国家鎮護の裏で積み重ねてきた犠牲や大義名分、そして何より、現代社会のネット空間に渦巻く「エゴと排他性の塊(デジタル蠱毒)」を帯びた呪詛の弾丸を大量に受けたことで、どうにか善なる方向にとどまり続けていた彼らのチャクラが限界を超え、ドス黒く逆回転(堕天)し始めてしまったのです。

ひとたび堕天すると、救う方法はただ一つ。「降魔=命を絶つ」ことによって、輪廻転生させ、魂だけでも救うしかありません。神ではあっても、有限の命をもつ姫=アマテラスはそれが耐えられなくて泣いているのです。

でも、アレ君と真魚さんには何か秘策があるようですね。なんでしょう?

次回、平安と令和の天才による「サイバー加持祈祷」!どうぞご期待ください!


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