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第61話: 激闘 談山神社!⑤ よもつへぐい?なんだそれ?旨いんだべ?

「なんだこご?オラさっきまで談山神社さいたでねぇのか?」

 気が付くと、僕は不思議なところにいた。


 空が、ずっと夕焼けのように赤いのに、太陽がどこにも見えなくて、そして夜になるでもなく、ずっと夕焼けのままだった。

 不思議なことに、西の空に金星だけが赤々と輝いていて、後には何もない。

 そこはどうも、僕が淡路島に来る前に仕事をしていた東京の街のようだった。


「確かに……こごさ、オラが通勤してだ勝鬨(かちどき)のトリトンタワーだども……なんが誰もいねぇし、車も走っでね。どういうことだべ?」

 すると、黎明橋を勝鬨の駅の方からこちらに向かって歩いてくる人影がある。


「すんませーん!ここさどこだが教えてくんねぇえですか!?」

 その人は、濡れたように光沢のある黒髪が美しい女の人だった。その人は俯いて赤いコートを着ていたが、顔を上げると僕はギョッとした。


「すげぇ美人だべ……なんか、口が大きいけど、こっだら綺麗な人、オラ見たことでねぇべ……すんません、ここさどこだが教えてくれねすか?オラ、ども道さ迷っだみてぇで。」


「わたし……キレイ?」何言ってるだ?この人。そら綺麗に決まってるべ。

「え?そういうの、言っで良いんだべ?セクハラでねが?まぁ……あんまり言っではいげねぇことだども、キレイだべ!えれぇキレイだと思うべ!あど!お姉さん、乳でけぇ~!!オラの好みだ……あ、いやいや!すみません、調子に乗ってしまって……」

 僕が慌てて謝ると、その女性はやけに困惑した様子で、恥ずかしそうに顔を赤らめた。


 しまっだ……警察さ呼ばれるべ……オラ、早ぐ奈良まで帰らねといけねのに……何日くらい逮捕されるべ?

 そのとき、ぐぅ~っとお腹が鳴る。

「あっ!そうだべ!晩飯喰っでねぇべさ!たしが豚まんさ喰ぇっで、夏菜子さ言ってだども、結局食えずじまいだべ!あのーまんず済まねぇことだども、どこが飯さ食ぇるとご知らねすが?」


「あ、あの……あたしのことが怖くないの……?あたし、いちおう怪異なのだけど?……」

 あっ!そういうことだべか!常世(とこよ)さ、神さんいんだべ!ってこどは、妖怪とかもいるに決まってるべ!それで口さ大きんだな!にしても、えれぇめんけぇなぁ!乳さでけぇのが良いべ!夏菜子さん並みだべ!

 僕は……あまり褒められたことではないが、つい彼女の胸のあたりをじろじろ見てしまい、すると彼女は顔を真っ赤にして胸を手で覆う…しまった……こら警察さ呼ばれるやつだ……


「ア……あの……あたしに興味があるの?……」彼女は恥ずかしそうに、しかし、何か期待感のこもった眼で僕を見た。なんだべ?

「いやその……すまねす……だども……そ、そうだべ!飯さ食いにいがねが?ここのこど、色々教えて欲しいべさ!」


「え?え?ほんとに?……なんかうれし……あの、もんじゃさんで良かったら、知り合いのお店があるんだけど……行く?」

 最後まで聞くまでもなく、僕はヘッドバンキングのように頭を縦に何回も振っていた。

 いや~!こら楽しいべ~!なんが忘れてる気がすっけど、こんな美人とデートなんでねぇこどだべ!


「いらっしゃーい。あらサキちゃん、今日はなんかえっらい男前連れてきたやん……って、あれ? あんた……」

 鉄板の向こうから、割烹着(かっぽうぎ)を着た女将さんが目を丸くして僕を指さした。


「え? 女将さん、オラのこと知ってんだべか?」

「いや、知ってるも何も……あんた、うちの孫のコレ(なんで小指立ててるべ?)やろ? なんで黄泉よみにおんねん?たしか、生き返るようにしたつもりなんやけどなぁ……」


 そんな話をしてる間に、なんか、ごっつくて、すごい殺気を放つおじさんが注文を取りに来た。

「兄ちゃん、何()うねん?」うわ……なんだこの人……めっちゃ怖い。でも、誰かに似てるな?誰だっけ?僕にとって、とても大事な人だった気が……いや、こんなゴツイおじさんの知り合いいないし。


「えーど……じゃ、じゃあ、この明太もちチーズもんじゃで……」僕が言うと、おじさんはフンと言って、

「えらい小食やの?マグロの鉄板焼きも食え。あとビールや。生でええか?ああ、これはオレのおごりや……」


 しばらくして、もんじゃとビールが運ばれてくる……

「ほらよ!焼くんはそこのベッピンさんにでもしてもらえ!……お前、だいぶチャラチャラしとんな?女やったら誰でもええクチか?」

 おじさんは、そういってもう一回恐ろしい形相で睨むと、去っていった。


 いつの間にか赤いコートのお姉さん……サキさんだったか?……が、もんじゃを焼いてくれていた。

 それを、小さなヘラで掬い、ハフハフと口に運ぶ。うん、こいつは!

「えれぇ美味いべ!前にももんじゃさ食っだことあっけど、そん時のやつより全然うまいべ!!」

 腹が空いていた僕はそれを一気に書き込み、生ビールも飲んだ。なんだこの『黄昏(たそがれ)ビール』って?知らねぇ銘柄だども超うまいべ!


 しかし、それを見た女将さんが顔面蒼白になって飛んでくる。

「あぁぁあっ!! ちょう、アンタ何してんねんっ!! それ黄泉の食べ物、黄泉戸喫よもつへぐいや!! 食べたら現世(うつしよ)に帰れんように……って、あーもう二人前くらい食べてもうてるやん!! しかも生中2杯も頼んでるやん!ペース速いねん!!」


「え?……いや、さっきゴツイおじさんが持ってきてくれて……あれ?おじさんは?」僕がそういうと、女将さんは怪訝な表情を浮かべる。

「アンタ何言うてんの?この店におるんはウチだけやで?ごっついオッサンって?」


 僕がおじさんについて説明すると、女将さんは少し考えこんだ。

「えーとな、ウチ、さっき夏菜子に『玄孫(やしゃご)のワガママ聞いたる、コイツの命は助けたるわ』ってドヤ顔で帰ってきたとこやねん。そやのに、あんたがそれ食うてもうたから……困ったなぁ~……ちゅうか、そのオッサンなんや??」

 え?女将さん知らないの?……って、アレ?夏菜子って誰だべ?大事な人?


 そんな時だった。店の引き戸が大きな音を立てて開き、ビックリして振り向くと、くりくりした大きな目が可愛い、ショートカットで日焼けした、胸の大きい女の子が仁王立ちになっていた。


「アレ君……なにしてんの?こんなとこで……?だいたいそのコスプレはなんなん?ほんで、なんでそないなベッピンさんと楽しいもんじゃ食うてんねん……?」

 その女の子は、ものすごーく怒っていた。もう、ブチ切れ寸前だった。


 な、なんでブチ切れ寸前なんだろう……と思ったが、なんだかものすごーく彼女を怒らせるようなことをやっている気がして、僕は思わず頭を下げていた。


 っていうか、コスプレってなんだべ……と思ってよく見ると、いつの間にか腕が青色になっている……!?びっくりしてトイレで鏡を見ると、顔も青色で、目の白目のとこが黒くて、角が生えていた!

 なんだコレ!?すっげぇーカッコいいべ!魔族だべ!いやいや、そうじゃなくて!どうなってるんだ!?


 そう思っていたら、女将さんが、

「あんたはな、黄泉のもんを食うてもうたから、この世界の住人になってもうたんや。もう現世には帰られへん。」

 ん?現世……現世ってなんだべ?


 しかし、女将さんが言うことを無視するかのように、ショートカットの女の子はズカズカと僕に歩み寄り、僕の腕をガシッと掴む。

「アレ君、帰るで。」


「ちょ、ちょっと待っでけれ。アンタ誰だ?それにオラ、サキさんにもんじゃのお礼もせねばなんねぇだ……」

 しかしそのとき、

 バシっ!……その女の子に、思いっきり頬を引っぱたかれ……彼女の眼には涙が浮いていた。


「ウチは夏菜子や!いつまでボーっとしてんの!」気が付くと、その子が僕に抱きつき、唇を重ねていた。


「あ、あれ?オラ今まで何してただ?……夏菜子さ!なしてこっだらとこさいるだ!」僕が言うと、彼女はもう一度僕に抱きつく。

「心配したんやで!全然目ぇ醒まさへんし!ほら、一緒に帰ろ!みんな待ってるで!」


 ところが女将さんが、「無理や、もう黄泉戸喫よもつへぐいを食うてもうてるから、その兄ちゃんは現世に帰れへん……」という。だが、

「誰がそんなん決めたん?この人はウチのもんや。誰にも渡さん。」って、夏菜子さんが言う。えっ!ウチのもん!?


「いや、そやからそれが黄泉の決まりやし……」と女将さん、そしてサキさんが涙目でこちらを見つめている。

「ま!待ってください!あたしの彼氏に何するんですか!……」

 だども、夏菜子さんは、サキさんをギロって睨みつけてるべ……


「誰が、誰の彼氏やって?……もういっぺん言うてみ?」

 なんか、夏菜子さんの身体の廻りさ、赤黒いオーラが立ち上って、稲妻が迸ってるべ……


 とたんに、サキさんや、廻りのお客さんが、ビックリして悲鳴を上げる中、さっきのおじさんが立っていた。

「小僧、ハッキリしろ。舐めた真似したら許さん。」


 い、いや……そんなこと言われても……決まりなんだよね……と思ったが、夏菜子さんを見ると……

「うすっ……えるだ……」僕は、一言だけ言うと、夏菜子さんを抱きしめて、キスした。とたんに彼女が真っ赤になる。


「女将さん、おいだば、黄泉の決まりっでなよぐわがんね。だども、夏菜子さんが泣くべ?おらそっだらこどできね。」


 でも、女将さんは首を横に振る。

「現世の人間が一回黄泉の食べ物を口にしたら、現世には戻られへん。あんた、もんじゃ2人前喰うて、生ビールも2杯飲んでん。ちょっと正直……」


「そっだらこどでね!」女将さんの言葉を遮ると、僕は夏菜子さんの腕を掴み、女将さんと、サキさんが呆然とする中、夏菜子さんに一言だけ言った。


「行くべ。」

「う……うん……帰ろ!アレ君!」夏菜子さんが満面の笑みで僕の手を握り返すと、僕らはもんじゃ屋を出た。


 ◆


 目が醒めると、僕は、談山神社の境内の、休憩所の上で寝ていて、傍らでは夏菜子さんが、僕の手を握って寝ていた。彼女の眼には涙が浮かんでいた……

「ここは?」辺りを見廻すと、なんでわからないが、姫さん(アマテラス)がいた。なぜか、彼女の顔は真っ赤だった。


「ア!アレ君!目を醒ましたのね!……すごい、眠れる森のアレ君だ……」

 なんだべそれ?っていうか、なして姫さんは恥ずかしそうにモジモジしてるだ??


 すると、そこに太子様と真魚さんもやってきた。

「お!起きよったでホンマ!いや~、愛の力やのぉ!もう、アレやね~、こういうことは若いお二人に任せといて……ヌフフ……」

 太子様、何言ってるだ?するとそこで、夏菜子さんがパチッと目を醒まして……僕を見るなり真っ赤になった!?


【あとがき】

第61話、お読みいただきありがとうございました! 前回の感動と絶望はどこへやら、黄泉の国で巨乳のお姉さんともんじゃデートを満喫していたアレ君です(笑)。


日本神話最大の悲劇である「イザナギの黄泉下り」と、絶対の呪い「黄泉戸喫よもつへぐい」。それを、まさかの「関東の粉モン」と「大阪女子のヤキモチ」で完全粉砕する夏菜子!

加えてそれに、普段はスケベなアレ君が秋田男子の男気で突破するわけです!


それにしても……なぜ、黄泉=死者の世界が、東京の街なんでしょう?


また、女将さん(イザナミ)にも見えていなかった、あの「謎のゴツイおっさん」は?

彼がもんじゃとビールを勧めさえしなければ、すんなり帰れたはずなのに?


ともかく、アレ君は現世に戻って来れました。

でも、なんで姫は真っ赤で、太子のおっさんと真魚さんはニヤニヤしているのか?ほんまにやらしいオッサンたちですが……?


次回 「激闘 談山神社!⑥ この人が黒幕!?っていうかウチはチューなんかしてません!」ご期待ください!

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