第59話: 激闘 談山神社!③ 真魚さんはやっぱりすげぇ仏さんだべ!(そいで今回も解説は銀次郎だべ!)
「なして、ハッチさ開かね?……この道さ登る前にあったやつは、鬼さ忍び込ませて気を失わせたら開いたでねが?……」
僕は、パワードスーツのシステムをハッキングし、解除を試みたが……
「駄目だべ……激しい作戦行動で呪力さ吸い上げられ過ぎで、完全に負の感情に飲み込まれてるみてぇだべ……それでシステムがダウンしねぇべ……」
法眼さんが剣を抜いた。
「このカラクリ人形を破壊して、強制的にシステムとやらを止めれば良いのではないか?」
しかし、僕は首を横に振る。
「それはいげね……搭乗者の意識と、このパワードスーツのOSが同調して、コイツさ壊せば、搭乗者の意識も死ぬべ……」
「そんな…‥‥ほんなら、ウチらがやったことは無駄やったん?……」
夏菜子さんが、悲痛な声を漏らす。
何か方法が無いのか……どうすれば?その時だった。
「――そういうんはな、三毒を浄化したらええんや。」
今まで黙っていた真魚さんが、ニヤリと笑って立ち上がる。
「三毒さ浄化するっで……どういうことだべ……」僕が訊こうとすると、真魚さんは「まぁまぁ」と言って僕の肩を叩く。
「アレ坊、ようやった! カラクリ人形は止めた。敵のシステムもハッキングした。……あとは、人事を尽くして天命を俟つ、ってヤツや。ま、言うたらこのグレートな、南無大師遍照金剛に任せなさい!ってことやな!なぁ太子よ!こんだけの事をやり遂げよったんや!ちょっとぐらいえこひいきしたってかまへんやろ!オレら神仏的に!」
すると、太子様も笑って答える。
「知らーん♪ワシ見てへーん♬まぁええんちゃう?ターラ(多羅菩薩)ちゃんに言うといたるわ!真魚はごっついカッコええって!」
「よっしゃOK!観音さんの黙認も出たこっちゃし、仏教界のスーパースター、弘法大師のウルトラ加持祈祷、アホな人間どもに見せたろやんけ! そんな電子回路で作ったパチモン呪術で、仏の慈悲は破れへんのじゃ!」
真魚さんは威勢よく言うと、パワードスーツ群の前に進み出て、素早く印を結び、真言を唱え始めた!
オン ソンバ ニソンバ ウン ギャリカンダ ギャリカンダ ウン ギャリカンダハヤ ウン アノウヤ コク バギャバン バザラ ウン ハッタ……創造の根源よ、弱き者たちの想い束ねて顕現せし明王よ……神々を降伏せし征服者よ。三毒を破壊せよ、捕縛せよ、真理において引き入れよ。囚われし衆生を救済せよ、救済し曼陀羅に招き入れよ。釈尊よ、金剛サッタよ、悪なる意思を打ち砕け!!
途端に、県道155号線の闇夜を切り裂くように、まばゆい光の幾何学模様――『曼荼羅』が空中に展開されていく!
「おっ!?えらい出血大サービスやな!」太子様が楽しそうに大笑いすると、真魚さんもそれに応える。
「せやろ!?たまには本物を見しとかんとな!ほな行くでぇ……!」
それは、過去・現在・未来のすべての悪と傲慢を打ち砕く究極の陣――『金剛界曼荼羅 降三世会』!!
「フーム (hūṃ / हूं)!!」
真魚さんの、咆哮のような種字の詠唱で完成する曼陀羅、そこから放たれた清浄な光の奔流が、この県道を含む御破裂山全体を駆け抜ける!
その光は、パワードスーツを一切傷つけることなく、内部に巣食う負の感情と悪意のOSだけを焼き尽くしていく。
「うおお……なんちゅう光だべ……」
「アレ君、見て! ハッチが開いていくで!」
夏菜子さんの声で我に返り、パワードスーツを見ると、プシュゥゥ……という排気音と共に、50体のパワードスーツのコクピットハッチが次々と開いていく。
そこから現れたのは、呪縛から解き放たれ、安らかな寝息を立てる人々の姿だった。
「すげぇ……これが本当の神仏の力だべか……」僕が感嘆の声を漏らすと、真魚さんはイヤイヤといって手を振る。
「アレ坊が、ハッキングで敵の通信ネットワークと戦術AIを無力化しとったから出来たんや。せや無かったらこうも鮮やかに御破裂山全体を浄化するんは難しかったやろ。さっき言うたやろ?「人事を尽くして天命を俟つ」って。オマエと夏菜子ちゃんが人としてやれるだけのことをしてこその結果や。胸を張れ。ま、それはさておき……」
真魚さんは、そう言って太子様の方を向く。
「せやな、とりあえず、この一帯は制圧したみたいや。まずは談山神社に行こうやないか。」
太子様の言葉に僕たちは皆頷き、談山神社に向かうことにした。
◆
県道155号線を登り切って峠を下っていくと、妙にしんとしていて敵の気配が全くない。夏菜子さんが、「あれは?」と声を上げる。
「なぁアレ君……あれって敵のパワードスーツやんな?全部コクピットが開いて、中の人が投げ出されてるで?県道の登りで戦ったやつは、中の人を助けるのにあんなに苦労したのに……どういうことやろ?」
それに対して、真魚さんは「そらそうやろ。」という。
「アレ坊の呪詛ウィルスで、呪力通信網とAIをハッキングされとるんやから、当然それに制御されてるパワードスーツも機能を停止する。加えて、オレの加持祈祷で、この御破裂山全体の邪念を浄化した。恐怖や不安、怒り、憎しみ、邪な欲望……そういうものが無いと、このカラクリは搭乗者から呪力を抽出できへん。」
すると、夏菜子さんが、ほっとしたように息を吐いた。
「なんや……それやったら、今後は全部、アレ君のハッキングと真魚さんの加持祈祷で敵を倒せるやん!楽勝やで!」
でも、僕は首を横に振る。
「夏菜子さん、それは違うべ。正直ここまでハッキングさ、上手ぐ行ぐと思っでながったべさ。せいぜい、一時的に敵の通信さ混乱させで、あのパワードスーツ止められだら上出来、ぐらいのことだっただ。それで搭乗しでいる人、助けられるって思ってだべ。でも、実際にはパワードスーツのOSと、呪力吸収回路が暴走して、止められながったし。それに、敵の攻性防壁さ、今後はもっど強力になるだ。油断はいげね。」
そういうと、夏菜子さんはハッとして僕を見た。
「ごめん……アレ君必死で頑張ってくれてんのに、なんか簡単に勝てるやん、みたいなこと言うて……」
怒られた子供のような、シュンとした顔で俯いて……目の端に涙が浮いている……
(可愛い!夏菜子さん、可愛い!!大事なことだからもう一回言う!可愛い!!!)
え!?どういうことだべ?いづも勝ち気な夏菜子さが、なしてこんたにションボリしてるだ!?童顔の彼女が、ちょっと半べそになっているところが、死ぬほど可愛い!いや、僕は萌え死ぬ!!!
「お、おい、アレ坊……何を悶えとんねん?変なもんでも食うたか?」
「まぁ、うふふ……太子様、無粋なことを仰るのはおやめ下さいましな……若様は、将来の奥方様が愛おしくてたまらないのですわ……まぁ、ほんとに、若いっていいわねぇ……」
ハッ!僕は何をしているんだ!?太子様と後鬼さんのことばで僕は現実に帰る。
ん?っていうか、後鬼さんは、どうしてちょくちょく、僕が夏菜子さんの婿、みたいなことを言うんだろう??……でも、それも良いべ……グフフ……夏菜子さん、ボーイッシュなのに、胸すげーでかくて柔らかそうだべ……
い、いやイカン!今はそんなこと言ってる場合じゃない!っていうか、今でなくても言ってる場合じゃない!共に戦う仲間をそんな目で見るなんて!
「夏菜子さ、そっだらこと気にしなくて良いべ……オラが夏菜子さのためさ、頑張るのは当たり前だべ……」そう言って彼女に声を掛けようとすると、
「アレ君……ウチ、ウチ……」って!?夏菜子さんが僕の手を握って、じっと見つめてくる!?僕は直視できなくて、思わず目を逸らした。
「だっ!大事ねぇ!どもね(なんでもない)!さ、談山神社さ行くべ!あーはははー♬」
◆
談山神社の門前町に入ると、普通に観光客で賑わっていた。
「あんな激しい戦いさあっで、敵の兵器も配置されでるってのに?」僕が疑問を言うと、真魚さんが「いや」という。
「たぶん、認識を阻害する呪術か幻術を掛けとるんやろ。ここにおる連中は、今だれかが死んでも気が付かんやろな。」
「さて、どうする?」太子様が言うと、夏菜子さんが即座に手を挙げる。
「行こう。どない言うてええんか分からへんけど、今すぐその、鎌足さんとか言う人と話を付けた方が良いと思う。」
「なんでや夏菜子、ビビりのお前がエライ積極的やな?まだ敵がおるかもしれんぞ?」
太子様が言うと、夏菜子さんは首を振る。
「ウチかて怖いんは嫌や…戦いとかでけんくて、十兵衛さんやアレ君に守ってもらうしか出来へんし。せやけど…なんか嫌な予感がする……おっちゃんは、その鎌足さんのこと、敵やて思ってるやろ?そしたら、スサノオさんも、八幡さんも、その人のこと、助けようって思わへんのちゃう?」
「お前何言うて……まさか!おいアレ坊!完全武装や!今すぐ神社に突入するぞ!」
「え?どういうことだべ?……!法眼さん、十兵衛さん!どしたべ!?」
「オン・ア・ウン・ラ・ケン・ソワカ! 開け!下天の扉!」太子様が真言を唱えると、談山神社の鳥居に茅乃輪が開き、僕が応えるより早く、法眼さんと十兵衛さんが談山神社の常世に突入する!
「な……なにこれ?……神社が、神社が燃えてる!」茅乃輪をくぐって、談山神社の神域-常世に入った夏菜子さんが絶句する。
夜になっても観光客であふれている談山神社が、ひとたび常世に入ると、赤い炎に包まれていた。
「危ない!夏菜子殿!」十兵衛さんの声がして、僕はとっさに彼女を庇った。
「痛っ!なんだべこれ!?うっ!」腕を銃弾が掠め、平衡感覚がなくなり身体が痺れていくのを感じた。精神を直接攻撃する呪力弾だ。
「ア……アレ君!!よくも!……よくもっ!!ウチの大事なアレ君に……なにさらすんじゃあ!!!」
僕は、赤黒い五芒星が十兵衛さんと法眼さん、それだけじゃない、死者の鬼たちをも包むのを見た。
そして、彼らが全身に雷を纏った鬼神のような姿に変化するのを……夏菜子さんの眼が、真っ赤に血走っていくのを。そして、意識がだんだんと、黒い穴の中に落ちていくような気がした……
【あとがき・用語解説】
今回は、仏の奇跡から始まり、日常の癒やし(?)、そして最後はとんでもない急展開を迎えました。少しだけ用語と裏設定の解説をば!
金剛界曼荼羅 降三世会
真魚さん(弘法大師)が展開した加持祈祷。金剛界曼荼羅というのは、悟りに至るメソッドなのですが、降三世会というのは、「降三世明王」を観想することで過去・現在・未来の三世にはびこる「三毒(貪・瞋・癡=煩悩や悪意)」を打ち砕くものです。アレ君がハッキングした呪術ネットワークに、真魚さんの加持祈祷をのせることで、パワードスーツの中でループさせられていた邪念と、周囲の空間に蔓延する悪意だけを焼き尽くすという、まさに「仏教界のスーパースター」の面目躍如たる奇跡でした。
アレ君・むっつりスケベ説(裏設定)
今回、ついに露呈してしまった主人公の裏設定です(笑)。
「ロシアンハーフの金髪美少年」にして「ウィザード級の天才ハッカー」、そして「料理も得意でジェントルマン」……という完璧すぎるスペックの皮を被っていますが、その中身は「胸の大きい女の子や綺麗なお姉さん、果ては美しい女神様を前にすると、脳内で煩悩(三毒)が暴走してしまう、重度の中二病をこじらせた童貞男子」です。真魚さんの超絶浄化でも、彼の煩悩だけは祓えませんでした。今後も彼の脳内モノローグにご期待ください。
談山神社と中臣鎌足
奈良県の御破裂山(多武峰)に鎮座する神社。中臣鎌足(後の藤原氏の祖)と中大兄皇子が「大化の改新」の密談(談合)を行った山であることが名前の由来です。
この国の形を作り上げた「歴史上最大のフィクサー」の神霊と、言葉と歴史を武器にした究極の『心理戦』に挑むはずだったアレ君たちですが……常世(神域)の神社はなぜか赤蓮華の炎に包まれ、最悪の悲劇の引き金となってしまいました。
一体どうなるのでしょう!そして夏菜子は!次回、怒涛の上にも怒涛の展開!続きが気になる方、是非応援のほどよろしくお願いします!




