第56話: 誰かをやっつけたいんでも、この国を変えたいのでもなくて、泣いてる誰かを助けてあげたい話
「たまたま、お爺ちゃん……イザナギさんがしょぼんってしてたから、なんかしてあげなって思って、そしたら姫に出会って、次の日に会いに行ったら姫が泣いてたから、助けてあげなって思っただけで……それから、おっちゃんや真魚さんに出会ったり、西宮でヒルコさんに会って、石清水八幡宮でみんなと一緒に闘ったり、四天王寺で地蔵さんに喧嘩売って、畝火山口神社で自分の正体を知ったけど……正直、太子のおっちゃんや、真魚さん、ウチのお祖母ちゃん(石長比売)がいう『この国の偽りを糺す』っていうのは、なんか難しくて意味が分からへんし、アレ君……ここにいる 高橋・アレクセイ・銀次郎さんがいう『SNSで悪意を集めて偽りの神を人工的に作る』っていうのも、正直どないしていいのか分かりません。それでも!」
皆が一斉にこっちを向く。うまく、考えがまとまらへんかったけど、ウチは一番言いたいことを言った。
「それでも!ウチは、泣いている姫を守ってあげたい!支えてあげたいって思いました!それに、花奈ちゃん……パワードスーツに乗ってたあの子みたいな子をこれ以上、作りたくないって思いました!」
するとどこかで、「そんな理由がワシら国津神の大義と釣り合うんか……しかも天津神の首領を何で助けなあかんねん……」って言う声がした。けどウチは反射的に叫んだ。
「そんなんウチは知らん!」
「姫は泣いてた!花奈ちゃんは傷ついてた!半次郎さんも!饒速日さんも!泣いてる誰かを!傷ついてる誰かを救えん大義なんか知らん!たとえ……敵が強くても!偉い仏さんたちがウチらを滅ぼそうとするんでも!誰かに優しくしてあげたい、守ってあげたいって気持ちなかったらおしまいやん!?ちゃうか!?」
皆がシーンってなる……アカン、言い過ぎたかも……そやけど、そやから……
「そやから、ここからの道、皆さんの力を貸して下さい……何コイツ、わけわからんこと言うてんねん、って思てはるんは分ってます。それでも、皆さんの力が必要です。お願いします……」
そんで、ウチは皆に頭を下げていた。
パチパチパチ……どこからか、手を叩く音がする……それからだんだん大きくなって……歓声が上がる。
「よういうた!」「さすが武流はんの娘!」とか声が上がる。そしたらおっちゃんが、
「よういうた夏菜子!それこそが石長比売はんがつなごうとした力、イザナミ様の力、幸魂や!分かったか熊野の鬼ども!腹くくれや!行くで談山神社!準備はええか!」っていう。そして……
「おぉーーっ!」って言う歓声が上がって、ウチらは一路談山神社目指して進んでいった。
◆
「ところでな、真魚さん。」ウチが聞くと、真魚さんは「どないしてん?」っていう。
ちょっと、前から疑問に思ってたことを言うた。
「なんかな、今まで敵に追うてきて、色んなとこで戦ってきたけど……どない言うたらええんやろ?なんかこー……行き当たりばったりな気がせぇへん?普通こういうもんって、通信傍受とか、ハッキングとか、スパイとか……要は事前に相手の情報を調べたり、分析したりせぇへん?知らんけど。」
そしたらアレ君が「んだすな~たぶんだども……」っていう。
「自凝島で敵さ襲っできた時、連中どうもこっちがどんな戦力で、常世で死んだらどうなるが分かってねがったみてだべ?八幡さんと道真さんにやられて急に慌でて逃げでったべさ。あど、石清水での「しんペー」の戦闘ログさ見てでもおっがしいなーって思ったべさ。なしてオラの「しんぺー」のこど知らね?さっき畝火山口神社で襲っできたのも半端でねが。誰を狙っで襲っで来だ?そいで結局、十兵衛さの空の利剣で一撃だべ。こらオラの予想だども……」
ここで、アレ君は言葉を切った。
「あいづら、常世のことも、神様や仏様のこども、殆ど見えでねぇんでねが?」
これを聞いて、真魚さんもおっちゃんもハッとする。
「考えてみたら……そうか。常世には、ワシらが許したもんしか入れん……伊勢の宮はそもそも、姫に人間が拝謁できるように結界が張ってあるけど、他の神社にも寺にもそんなもんは無い。それに、夏菜子と美紗ちゃんは、神の化身やから、自分らの意思で接触できるけど、アレ君とか理沙ちゃんはそうやない。ワシらが会おうと思ってるから会えるだけや……っちゅうことは?」
でも、真魚さんは納得がいかない顔をしている。
「いやアレ坊、そらそうかも知れんけど、石清水で饒速日はんは「黒いスーツのやつが来た」って言うてたで?別にそんな奴に会おうって思うてへんのにや。その理屈やったらおかしないか?」
あ、そう言えばそんな話あったな……
なんか見落としてる気がする……なんか……
「あ……」そういえば、太子町の実家で寝た時の夢、お父ちゃんが出てきて……ウチになんかを渡した時?
「おっちゃん、真魚さん、ちょっと聞いてくれる?」
「なんじゃそら……」ウチが一通り夢の話を言うと、太子のおっちゃんはそう言うと、ウーンと唸って考えこんだ。
「ワシに似てる?どういうこっちゃ?」
「いやいや、おっちゃんよりか、もっとカッコええおじさまやったで?せやけど、ウチのお父ちゃんえらい怒ってて……でもその人も、お父ちゃんに済まなそうな顔してた。まぁ、夢の話やけど。」
「なんやそれ!ワシかて男前やないかい!だいたいワシに似とるんちゃうんかい!」
「おい太子よ、いまそれはええやろ。っていうか……それ、観音三十三応現身とちゃうんかい?」真魚さんがそう言うと、おっちゃんは「えー?」と言った。
「うーん……観音チームのメンバーはともかく、観音三十三応現身は、その時々で変わる変装みたいなもんやからな……ほら、このワシのいなせなかりゆしみたいなもんや!あ、怒らんといてや夏菜子……ホンマごめんって……まま、それは置いといて……変装やから、どの観音がどんな風なカッコしているかなんて知らんのよ。そやけど……」
「そやけど?」ウチが聞くとおっちゃんは、
「いやなんか、そいつのキャラ設定?饒速日はんが会うた黒スーツのやつに似てへん?夏菜子が言いたいのんはそう言うことちゃうん?」
そうそう、それなー。ウチが思ったんはそういう事や。でも、そんな話をしてたら、アレ君が手を挙げ、ウチらの車と鬼さんたちの車を停止させた。
「そろそろ敵さん出てくるべ。ご丁寧に道沿いにパワードスーツや邪霊を配置しでるな。」
アレ君がノートPCの画面を指すと、マップ上の談山神社までの一本道に、敵を示すマークがいっぱい表示されている。
そしたら、鬼さんたちの車から、すんごい美人でナイスバディのお姉さんが降りてくる。
「アレクセイさま、何かお考えありと聞き及びましたが、どのような?」
え?誰?こんなきれいなお姉さんおったら絶対覚えてるんやけど?
「あぁ、これは失礼を……これでは如何でしょう?」とつぜん、その人の肌の色が青くなり、額に角が生える。
「あ!後鬼さん!」ウチが言うと、彼女がニッコリ微笑む。
「覚えて下さいまして?時にお考えとは?」アレ君がさっき話していたことを話すと、後鬼さんは黙って頷いた。
「正に今、夕日が西の彼方に落ちる黄昏時。敵が此方の姿を良く見えないというなら重畳です。とは言え、敵も様々なカラクリで探知をしていましょうし、何しろ多勢です……はて、なんとしたものか?」
「ちっど作戦さ練るべ。敵も待ってはくれねども、策もなしに突っ込むわげにもいがね。」
◆
作戦会議を終えたウチらは、車を盾にして守備を固める。
突然アレ君が叫んだ!
「来たべ!法眼さ、手筈通りに頼むべ!」
前の方を見ると、パワードスーツが何体も降りてくる。
それを見た法眼さんが「ふん、おなじ手を使うとは芸のないことよな」と言って「おじゃる」姿のまま出ていく!?
「え!召喚せんでええの?なんぼあの人でも、あんだけの数ヤバない!?」
そやけど、法眼さんはそんなこと気にせず、するすると進んでいくと、車道に座り込んでなんかブツブツ言いだした。
「奇門遁甲 八門金鎖の陣……」法眼さんがそう言うと、パワードスーツは、あっちを向いたりこっちを向いたり、何にもない所に向かって銃を撃ったり、メチャクチャに動き出した!?そしたら、後鬼さんがニヤッて笑って前に進み出る。
「さすが、日本八天狗がお一人。見事なものですね……では、我らも……」すると、生きた人間の方の鬼さんたちが「シャン!」って錫杖を鳴らして真言を一斉に唱えだした。
「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ……去りたまえ、恐るべきものよ、オオカミよ。取り去りたまえ、bhai バーイ!」
すると、パワードスーツの影が一斉に伸びてきて、そのままコクピットの中に入っていた!
しばらくすると、一つ、また一つと動きが停まり、ひとりでにコクピットのハッチが開いて、中に捉われた人たちが投げ出され、出てきた影が角の生えた鬼の形になった。
「姐者、上手く言ったな。」鬼がそう言うと、後鬼さんがニッコリ笑う。
「まこと、そうですね。如何です、夏菜子さま。これなら中の人々を傷つけることなく、敵を止めることが出来ましょう。」
「すご……後鬼さん、これが小角さんの言うてた、鬼のみんなが得意なことっていうやつ?」
「さて?御館様は、夏菜子様は誰の死も望んでおられぬ、と仰いました。イザナミ様の玄孫たる夏菜子姫がご所望とあらば、我ら鬼が為すことは自ずと明白。」
ちょ……姫ってなんやねんな……ハズイやん……って、そんな間にも、アレ君が今の戦闘データを分析したのか、「やっぱりだべ」って言った。
「まんずこいづら、細けごと見えでね。センサーで拾ったデータさ見で、過去の戦況から予測してるだけで、オラたちが何考えてっか、どんな奴がいるかも分かってねぇんだ。これなら充分勝機あるべ。」
第56話、お読みいただきありがとうございます! 今回のサブタイトル『誰かをやっつけたいんでも、この国を変えたいのでもなくて、泣いてる誰かを助けてあげたい話』。実はこれ、この物語のテーマである、「一霊四魂」の一つ、「幸魂」というものに関係しています。
それを今言っちゃうとネタばれですが、仏様たちの壮大な思惑や、虐げられた鬼=国津神たちの大義名分、人間たちの欲望を越えたところにある、夏菜子の心からの想い。
それが、闘いを制する切り札になっています。
そして始まった、敵の命を奪わない「活人剣の制圧!」。 見えない敵を相手に、想いの力でどう切り抜けていくのか。いよいよ談山神社への怒涛の突破劇が本格化します! アレ君の秋田弁も絶好調です(笑)。次回もどうぞお楽しみに!




