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母国で虐げられた男勝りな姫は、隣国のオネエな魔王陛下に嫁ぎ幸せになります  作者: 久遠 千暁


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16.魔王の秘めた想い

 

 そうしてアタシ達が無事に城に降り立てば、周りの安堵の声がする。魔物のリーダーが討伐されたということだからだ。使用人にクリーン魔法をかけて貰い血だらけの清潔にしてもらう。


 

 相変わらず城の中は慌ただしい。避難場所となっているホールでは、使用人たちが動き回り一人一人に食事と毛布を運んでいた。

 魔物討伐が終わっても、彼らの安全のために一日は様子を見てここで寝泊まりをしてもらう。そしてその間、騎士たちが交代で討伐漏れがないか確認するのだ。



 様子を見てみれば確かに城に戻ってきている騎士の人数が多いようで、連絡通り本当に終わったのかと安堵する。

 人を探すようにキョロキョロと辺りを見渡していれば、ニヤニヤとした二人の視線が突き刺さったので、アタシが報告書を書き上げるように指示をする。リンとスズはアタシへの文句の言葉を投げつけながら渋々執務室へと向かった。



 様子のおかしかったらしいフラン団長からの報告も聞きたい。そう思い廊下を歩いていると、褐色肌の女性騎士が歩いているのが見えて歩み寄る。



「副団長、お疲れ様。いきなりあの子を任せて悪かったわね」

「魔王陛下……」



 私の声掛けにマリアンヌ副団長は振り返る。

 その顔はどこか青ざめていた。そしてイザベラの姿が居ないことに気がつく。てっきり仲のいい二人は一緒にいると思っていたのに。

 もしかしてフラン団長の方に居るのだろうか。イザベラは彼にも大分懐いていたようだし。


 

 元々二人には単独で先に街で動いてもらう予定だったが、イザベラが懐いていて実力も申し分ないので、イザベラが討伐に参加するとなって急遽面倒を見てもらうようにお願いしたのである。そして二人ともすぐに了承してくれたのだ。



 それとももう終わったから別行動で、沢山動いたからとお腹を空かせて食堂で山盛りのステーキでも食べているのかもしれない。あんなに肉が食べたいと行く前にも言っていたのだから。


 

 そう色々考えても、何故か冷や汗と動悸が止まらなかった。


 


「……あの子は?」

「そ、それが……」


 

 アタシの問いかけにマリアンヌは口篭り、目線を逸らして窓の外を見やる。彼女はメンタルが強く、こんなに分かりやすく青ざめるのは珍しかった。



「彼女は、イザベラは……街で逃げ遅れていた一般市民を魔物から守り…………」


 


 私はその言葉の先を察してしまい、息を飲む。


 

 御守りなんて意味がなかった。どうして行かせてしまったのだろう。やっぱりあの時無理やりにでも拒否して、安全な部屋に閉じ込めておけば良かったのだ。

 いくら騎士団に混じって訓練しているといっても、まだ若い人間の女の子なのだから。普通の女の子みたいに美味しいものを食べて、温泉に入って、お洒落をして。

 彼女が例え望まなくても、周りから守られて幸せでいていい存在だったのに。

 



 感情の制御がつかず、魔力が溢れそうになる。

 





 








「魔物討伐の才能を開花させてしまって」





 

「……は?」


 

 思っていなかった言葉に私は魔力が引っ込む。一体どういうこと?


 

「あれを見てほしい」



 そう言ってマリアンヌは窓の方を指さした。困惑のままアタシが目を向ける。

 そこにいたのは立っているのが不思議なぐらい全身血まみれになった、イザベラだった。


 

「は、ちょっと、あの子大丈夫なの!?」

「大丈夫大丈夫、あれ全部返り血。ちゃんと見てよ、今も元気に魔物の身体運んでるでしょう」



 確かに窓の外から「そいやーっ!!」と声が聞こえてくる。小柄な彼女よりずっと大きく重いであろう魔物の身体を軽々と持ち上げて、城へ運んでいる。それを何体も何体も繰り返している。


 

「……ええと、あの子に魔物回収係とかやらせてるわけ?」

「ううん、あの子が自分が斬った子達は命を取った責任をとってちゃんと運びたいって言うから、一時間ぐらいずっとああしてる」

「全部で何匹よ……」

「アタシが聞きたい」



 そう言って彼女は青ざめた顔のまま、窓の外のイザベラを見つめていた。

 そしてようやく運び終えたらしい彼女が引きずっていた袋には、魔物数十匹分にはなりそうな魔石が溢れんばかりに入っていた。

 魔石というものは魔物を倒した時に現れる魔力の結晶体だ。しかし絶対に取れるものではなく、その魔物が持っている魔力量によって確率が左右されるため、集めるのはとても大変なのだ。


 

「……一応聞くけど、あれ、アンタと団長の分も合わせてかしら?」

「いいや、イザベラ一人での功績だよ。それにアタシとフランのを合わせてもあそこまで取れないよ。今回は三個だ」



 マリアンヌはそう言って魔石を見せつける。

 三個でも討伐が二時間程で終わったと聞いていたので多い方だ。今回一個も取れなかった騎士も多く居るだろう。

 そもそも魔物を討ち取った者が持つ資格がある魔石であるので、基本的に譲渡は認められていない。しかもあれだけの数となるなら尚更だ。


 マリアンヌはため息を深い吐いて説明を始めた。



「街でアタシ達は逃げ遅れた市民を見つけて保護し、彼女が魔物を見たと言うんでアタシが魔物の捜索、イザベラが市民の避難誘導をしていた。


 

 そこで一匹の魔物が現れて、目の前にいたアタシを通り過ぎて、猛スピードでイザベラの方へ一直線に向かった。

 私の声に気づいたイザベラは一瞬で状況を理解して、隣にいた市民の子を押し出して守った。


 そしてこれは比喩じゃなく、目と鼻の先の魔物を、光の速さで切り裂いたんだ」



 今のアタシと魔王陛下の距離よりも近かったね、と彼女は笑う。しかし冗談っぽく言っていてもそれは真実なのだろうと、それなりに長い付き合いであるマリアンヌの雰囲気から察することが出来た。


 

「アタシも彼女と手合わせをしていてその俊敏さは買っていた。それでも、魔物に対して一瞬の迷いもないんだよ。

 もしそこにいたのがアタシだったら、あの距離の魔物に食われちまってただろう」



 私達魔族は、魔物と相対した時に少なからず本能が拒絶するのだ。突然魔物が目の前に現れたら、身体が固まるのが一般的である。騎士や魔王であるアタシ達は、それでも民を守るために己を奮い立たせて対峙している。

 アタシでも、深呼吸をしないと魔物に斬りかかるのは難しい。ノータイムで斬りかかることが出来る騎士など存在しないだろう。



「それからどっかの誰かさんの魔力のブレスレットのおかげでイザベラに元々怯えていた市民の子は、目の前の光景に更に怯えちまって、仕方なくアタシが彼女を馬車まで連れていくことになったんだ。

 

 そして、そう時間もかからずにアタシがイザベラのところに戻ってきたら、彼女は既に十匹ぐらいの魔物を狩りとっていたんだ」

 

「短期間で十匹も……? 普通の騎士は一晩で五匹ほどが限界よね」


「あぁ、それなのにその後も彼女は絶え間なくと 魔物倒していった。

 ……それにしても異様なんだ。魔物たちがイザベラに集まってくるようでね。いくら彼女の腕があっても、魔物一匹一匹をいちいち探していたらとてつもない時間がかかっていただろう。

 それで、あっという間に事前に確認されていた数の魔物討伐が終わったんだよ」



 なるほどねぇ……と私は考え込む。イザベラが数十体ほど魔物を倒したなら、いくら人員不足の騎士団でも早めに収束したのは頷ける。未だににわかには信じ難いが。


 


「これはあくまで考察だけど、人間は魔力を持っていないから恐怖はあれど剣を向ける抵抗感が少なく、それでいて魔物は何らかの理由で人間に惹き寄せられるのではないかな。

 それでいないと説明がつかない。もしくは、イザベラが特別なのか」

「その辺りもまた研究しなくてはいけなそうね……」


 

 この国には人間はほぼ居ない。稀に人間の子どもがこの国に捨てられていて、教会で引き取り面倒を見る程度だ。

 その子たちは魔物が出た時は守られる立場であり、討伐に出たなどと酔狂なことは聞いた事がないので今まで発覚しなかったのだろう。もし魔物が人間に吸い寄せられる習性があるのならなお一層のこと注意しないと。



 そうしてアタシ達が話していれば、窓の外にいたイザベラがこちらに気づいたようで満面の笑みを浮かべて大きく腕を振っていた。

 マリアンヌがそれに答えるように笑みを浮かべながら手を振っている。アタシは彼女と目線を合わせるだけで留まる。

 それからイザベラが何か身振り手振りをしていた。おそらく今からそっちへ向かうと言いたいのだろう。入れ違いなるのもあれなので、暫くはここで立ち止まっていた方が良さそうだ。


 


「それより魔王陛下、アンタ王家のブレスレットを何も言わずに渡したのかい? イザベラは御守りだとか何か言ってたけど」

「……捉え方によっては御守りみたいなもんでしょ」

「あの子の気持ちに答えずに外堀だけ埋めるのはどうかと思うよ」



「じゃあ、おじゃま虫は退散するけど、あんまりイザベラを待たせるようなら騎士団が引き取るからね」

「余計なお世話よ。アタシが面倒を見るんだから必要ないわ」

「ならさっさと素直になるんだよ」



 そう言葉を吐き捨てて、マリアンヌは立ち去って言った。

 そして入れ替わりのように、廊下を軽やかに駆けてくる足音が聞こえる。視線を向ければ、予想通り廊下の先でイザベラがアタシに向かって手を振っている。

 


「魔王陛下!!!見てくれ!!!この魔石!!!」



 そうして自慢げに見せられた袋の中の魔石の数にやはり圧倒される。

 しかし、褒めて褒めてと言わんばかりに私に袋の中身を見せつける姿は可愛らしくて思わず笑ってしまう。やっぱりアンタはどちらかというと犬ね。


 

「えぇ凄いわ。よくやったわね。怪我はないかしら」

「この通り無事だ!」

「良かった」

 


 イザベラはそう言って握りこぶしを作る。どうやら本当に全て返り血らしい。わしゃわしゃと髪を撫でてやる。

 そうだ、言い忘れていた。



「おかえり、心配したわよ馬鹿」


 

 血まみれの彼女を抱き締めれば、ボンッと顔まで真っ赤になる。顔に着いた血を拭ってやれば、彼女はくすぐったそうに笑った。


 

「魔王陛下、ただいま!」

 

 

 そうしてアタシの心配をものともせず、イザベラは戦功をたててアタシの腕の中に帰ってきてくれたのであった。

 それからイザベラはよく魔物討伐に参加していくことが増えていった。そのおかげでまた人脈も増えて、人間の女だと舐めてかかっていた人たちも認めていくようになる。


 

 この国では強さが全てなのだから。

 



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