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母国で虐げられた男勝りな姫は、隣国のオネエな魔王陛下に嫁ぎ幸せになります  作者: 久遠 千暁


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15.魔王は何を想う


《魔王視点》




 魔物たちが多く住まう漆黒の森。


 

 この森は朝も昼も夜のように真っ暗で夜行性の動物が数多く生息している。その中でも一番数が多いのが魔物である。

 魔族であるアタシ達は人間とは違って夜目がきくので怖くも不便もなんともないが、ここは魔物が多く危ないので全面立ち入り禁止区域となっている。


 

 漆黒の森とヴァルディア王国と接している面にアタシが巨大な結界を張っているのだが、魔物の物理的な力が強く多大な魔力も有しているため、時々突き破って国に侵入してしまう。

 結界の周りに見回りの人員を置き、アタシも出来るだけ期間を空けずに結界の張り直しをしているのだがそれでも抜け道を見つけ出し度々魔物が入り込むのだ。

 我が国の田畑の作物への被害や、建物の損壊、魔族の人々の危害が確認されるため、この国に入った魔物は全て討伐対象となる。



 今回アタシが討伐するのは、街に現れた魔物軍のリーダー的存在だ。その魔物は街には降りずに森の近くで他の魔物に司令を下して潜伏しているらしい。

 魔物達を統率する能力と潜伏する頭脳を見るに、それなりの大きさの脳を持ち、それに比例して身体も他の個体に比べて大きいのではと推測する。潜伏は厄介だが、街に降りて来なくてよかったとも思う。変に知能がある魔物は人を再来年人質にするケースもあると聞いた。


 

「意外だったなーもうアレ渡しちゃって良かったのー?」

「魔王陛下も案外ベタ惚れだったんだろ」


 

 アタシが森までのルートを確認しつつ飛んでいれば、リンとスズがアタシに聞こえるように後ろでそんな話をしている。アタシは聞こえないふりをして速度を上げる。

 魔物討伐は中々難易度が高く普通の者は緊張するものだが、いつでもコイツらは楽観的で余裕綽々なのが少し腹が立つ。それだけ実力があるという事なのだが、それはそれ。

 この子達が小さい時にアタシが拾って育て上げて、今では秘書として働いてもらっている。二人とも昔はずっと無表情ダンマリで何を考えているか全然わからなかったのに、今ではすっかり表情豊かなお喋りになっちゃって。



「あのブレスレットはヴァルディア王族の秘宝も秘宝。悪意を持った魔族なら、魔王陛下の魔力に恐れ逃げ出すようなものですもんね」

「うわー牽制だー束縛だー」

「もう、うるさいわね!非常事態の時に悪さを企む連中も居るから、いざって時に役立つかと思って渡しただけよ」


 

 リンとスズは速度を上げた私に軽々と追いつき、先程までアタシのは後ろを走行していたが今では両脇に来てはまだやいのやいの騒いでいる。


 

 アタシがイザベラに渡したブレスレットは、代々受け継がれる国宝だ。魔王が魔力を込めることで、真ん中にある無色透明な石が色付く。

 このブレスレットは前の魔王……母から受け継いだもので、母の魔力が込められていた時には石は紫色に輝いていた。その色は魔力を込めた人物が亡くなるまで色づき、亡くなった後は元の無色透明な石に戻ってしまうのだ。



 前魔王である母は明るく豪快な人だった。

 アタシが可愛いものが好きだと言えば笑い飛ばした。


 

「はっはっはっ、そうかそうか!お前らしさを突き通せよ!ありのままのお前を馬鹿にするやつは拳で分からせろ!」


 

 その頃のアタシは体を鍛えることから逃げてるヒョロガリで、戦うことが怖かった。この国では強さが全てで、アタシはいつも虐められていた。


 

「可愛いものが好きならこれをやろう!私から貰ったとなれば付けていても誰も文句はいえまい!」


 

 そうして泣いていた弱いアタシは母からブレスレットを貰ったのだ。綺麗な紫色が私にとって凄く魅力的で、宝物になった。当然兄弟たちは羨み、アタシから取り上げようとした。アタシはこの宝物を奪われないように必死に力をつけていったのだった。

 

 

 母が亡くなってから、下々を奴隷とでも思っていそうな屑の性格の兄弟を蹴散らして魔王の座についた。

 そしてアタシが魔力を込めれば無色透明の石は、鮮血のような赤色に染まった。

 母の魔力で出来たあの綺麗な紫色はもう二度と見れないのかと悲しんだ思い出があって、手放したかっただけなのだ。


 

 特別な力は大してない、そんなただのブレスレットだ。



 そんなことを思い出していれば目的地の上空にたどり着き、漆黒の森の結界のそばに降り立つ。

 魔物の討伐も大事だが、結界の穴を修復をしなければ更なる魔物が出てくるかもしれないから最優先にやらなければならない。その間に、潜伏している魔物の場所の調査を二人に任せる。



 結界の揺らぐ場所を探り当て、穴の空いた場所に魔力を込める。全体の結界を張るとかなりの魔力が持っていかれるので、この後も働く予定がある今はこれぐらいにしておく。

 


「魔王様、ターゲットがいましたよー」

「奥の大きな木の後ろに隠れてます」

「ご苦労様。今行くわ」

 


 報告通り、そこにいたのは普通の魔物よりも二回り三回りも大きい魔物だ。牙と爪が鋭く太い。ギョロりと黒い瞳がアタシを捉えると、その魔物はすぐさま逃げ出そうとする。

 賢い判断だと、アタシは隠していた魔力を放出する。


 

 魔物はスピードを上げて駆け出したが、すぐに透明な壁に行く手を阻まれる。そしてその魔物は一転、アタシに追い込まれる形となっていた。


 

 事前にリンとスズには二人で協力して小型のドーム状の結界を張ってもらっていた。こうして知能ある魔物の逃亡を防ぐためだ。二人の魔力を込めているのでちょっとやそっとでは壊れない優れものだ。


 

 アタシは剣を取り出し、深く息を吐く。

 覚悟を決めて、カッと目を見開き剣を振り上げる。


 

 このヴァルディア王国では強さが全てだ。その頂点である魔王のアタシがこの程度で手こずるはずも無く、難なく討伐を終えた。むしろ城からここまで向かうのと結界の修復の方が時間がかかった気がするわ。

 顔にかかった血を拭い、手を合わせる。


 

 コロン、ととびきり大きい魔石が排出されたのでそれを拾い上げる。魔物の身体はリンとスズに持って帰ってもらうことにする。しばらくすれば簡易結界が破れて、二人が私の方へ駆け寄ってきた。

 


「おつおつー、今日も仕事が早かったねー」

「でも前の魔物討伐より12秒多くかかってましたね」

「アンタらはもっと労いの心を示しなさいよ」



 アタシは自由な二人にこめかみを抑えながら、いつもの事だと思い直す。怒るのも疲れるのだ。

 そうだ、と何かを思い出したなのようにリンはポンと手をうつ。

 

 

「そいや魔王様、今さっき騎士団から連絡があったよー。もう街の魔物討伐は全部終わったってー」

「え、もう終わったの?」

 


 今回の騎士団の人員不足を見るに街の方の魔物討伐は苦戦するだろうと、魔王であるアタシもリーダーを処理した後は街に降りて騎士達に混じり魔物たちの討伐に参加しようと思っていた。

 しかし、時計を見てもまだあれから二時間程しか経っておらず元の人員でもまだ終わっていないであろう時間帯だ。想定していたより魔物の数が少なかったのかしら。



 

「偽の情報伝達の可能性は?」

「いえ、報告の声は確実にフラン団長のものでした」

「……そう。本当に終わったならいいのだけど」

「ただ、フラン団長の様子が少しおかしかったかもー」

「それはちょっと気になるわね。とりあえず戻りましょうか」


 

 本当に終わったならじきに騎士たちが城に戻ってきているでしょう。もし誤報であれば直ぐにアタシも街に降りればいいし、ここに留まる理由はなにもなかった。

 あの子……イザベラはもう城に帰ってきているかしら。




 そうしてまた二人のやかましいお喋りを聞き流しながら、アタシは少し急いで飛んで帰ることになったのだった。




誤字報告してくださった方ありがとうございました!

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