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母国で虐げられた男勝りな姫は、隣国のオネエな魔王陛下に嫁ぎ幸せになります  作者: 久遠 千暁


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12/20

11.ルネディア国王の来訪



 こちらに来て一ヶ月ほど経った頃。


 

 私は毎日の栄養たっぷりな食事のおかげで、元々の鶏ガラのような細い身体に健康的に肉がつき、騎士団での訓練に混ぜてもらい美しい筋肉がついて前よりもスタイルが良くなった気がする。

 一番の変化は胸の大きさだろうか。前より肉が着いてきた気がする。今までは胸に行くまでの栄養を摂取できていなかったのだろう。17歳にして遅めの成長期かもしれない。


 

 そして毎日効能豊かな温泉に入り、高級な香油を使った毎日の侍女たちのお手入れのお陰で、モチモチすべすべ肌と灰色のような髪が艶やかな銀髪を手に入れた。

 毎日のように騎士団に遊びに行くので、最近は動きやすい服を何着も用意してもらって申し訳ない。

 しかし侍女たちの手によって魔王陛下との夕食の時間にはドレスに着替えさせられるので、クローゼットの中の大量のドレスが肥やしになることは無かった。

 最近は毎朝リリアナを初めとした侍女達が満足そうに私の髪を撫でてはほっぺをぷにぷにと触ってくるので少し困っている。まるで本当に小動物のような扱いである。



 そして本日は政略結婚についての話し合いをするためルネディア王国の国王、一応私の父親である男が来訪することになっていた。それだけで表向き平等となっているルネディア王国とヴァルディア王国の国力の差が分かるだろう。

 そして私も魔王様の横に座り、到着を待っている。当事者ということで魔王様のご好意で話し合いの場に参加させてもらえることになった。



 

 そしてルネディア国王は私とは違い立派な馬車で休憩を挟み時間をかけてこちらに向かい、無事この城まで送り届けて貰えたようで少し恨めしくなってしまう。

 温かい衣装を身にまとった国王は椅子にドカりと座った。

 横柄な態度に魔王様は咎めるよりも先に話を始めた。

 


「ルネディアからよく来てくれたわね。

 本題に移るけれど、政略結婚をするにしてもアタシ達はもっと話し合いが必要なのではないかしら?」

「……いやぁ、それについては私が早とちりをしてしまい申し訳ない。我が娘イザベラが大変お世話になったようで。それで彼女は?」


 

 やはり魔国で死んだか、と国王の顔に書いてある。統治者としてもっとポーカーフェイスを学んだ方がいいと呆れてしまう。

 私は隣の魔王様の視線を感じて、口を開く。


 

「国王陛下、お久しぶりです。もう娘の顔も忘れましたか」

 


 私がどれだけ見た目が変わっていても声を発せばようやく気づいたようで、国王は驚いた顔をしていた。品定めするようなジロジロと嫌な目で頭の先からつま先までを見られてつい顔をしかめそうになる。


 

「ボロ雑巾のような娘がよく化けたな……これは惜しいことをした」

「この子はせっかく素材がいいのに手をかけてあげないなんて勿体無いことをしていたわね。そもそも国に一人の王女を養うほどの余裕が無いのかしら?」

「いやはや、オシャレに興味のない我儘な娘でしてね」


 

 聞こえてんぞ誰がボロ雑巾だ、と青筋たてながら私は笑みを崩さないように表情筋に力を入れる。バチバチと音がなりそうな会話をしながら、国王は気を取り直したようにコホンと咳払いをする。


 

「それで、この娘と婚姻は気に入らないという話でしたな。もっと気立ての良い娘は居るので取り替えましょうか。年頃でまだ結婚していないのはあのスミス侯爵の娘か……」

「……失礼ですが国王陛下。スミス侯爵令嬢は、私の兄と婚約しています。それに彼女は侯爵を継ぐ聡明なお方です、嫁入りは難しいかと」


 

 耐えきれなくて私はつい口を挟む。横暴な発言に思わず低い声が出た。お前の突拍子のない思いつきにアマンダ様を巻き込むな。

 

 

「別に良いでは無いか、そもそも私は女が侯爵を継ぐなど馬鹿げたことは無いと思っている。嫁入りできた方がよっぽど幸せだろうよ。

 あぁ、そういえばイアナも伯爵令嬢だったのに仕事をしたいなんて抜かす威勢のいい女だったな」



 母の名前につい肩が揺れた。目の前が怒りで真っ赤になる。しかしここは国王達の話し合いの場。私が一々突っかかっていい立場ではない。


 

「ちょっとアンタね……」

「そうそう、それとも魔王陛下はそんな格好と口調であればもしや男が好みですかな。此奴の双子の男の方も居ますが如何か」

「黙れ!!!」


 

 私は手元にあったお茶を目の前の父親でも何でもない人間のクズにぶちまける。部屋は静まり返ったが怒りは治まらずに私は目の前の男を睨みつける。


 


「魔王陛下を、お兄様を、お義姉様を、お母様を……私の大切な人たちを侮辱するのもいい加減にしろ!!!お前にそんなことを言う資格はない!!!」



「私の手元から離れた途端調子に乗りおって、よくも父親に向かってそんな態度を……っ!私は王だぞ!!此奴を今すぐ捕縛しろ!!」



 壁側に顔を青ざめさせながら命令に反して立ち尽くしたままの、見覚えのある男が目に入る。あれは私がお世話になっていた王宮騎士団の隊長のクリスさんだった。私に気にせず捕まえに来ていいのに、国王に逆らった罪で罰せられたらどうすると私が視線を送れば、悲しげな視線が返されるだけだった。

 私がそのまま他の騎士たちに捕えられそうになった、その時だった。




「やめろ」



 初めて聞くような低い声。

 息が止まるような緊張と閉塞感。今この瞬間部屋の温度がとてつもなく下がったかのように感じる。

 隣にいる彼の魔力が暴力的にも溢れ出ていたのだ。手を出すことなく威圧だけで近寄ってきていた騎士たちを下がらせる。


 


「この子はアタシが貰うわ。残念ながら貴方と価値観が合わないようね、まともな話ができないようならさっさと帰って頂戴」


 

 そう言って、私は魔王様に肩を抱き寄せられる。その力は強く、でも痛くはなかった。

 ずっと憎悪と恐怖の対象の父親に初めて刃向かって怖くないわけがなかった。守られている安心感からか、心が温かくなっていく。

 

 

 怒りで顔を真っ赤にしつつも小心者の国王が文句を吐きながら退出した。そして私は最後に残っていたクリスさんへと駆け寄り声をかけた。

 


「クリスさん!」

「イザベラ王女殿下……!」

「いつも通りでいいよ。それより何で国王の命に背いたんだ。アイツは気が短い上に、きっとこのあとも機嫌が悪いだろう。私のせいでクリスさんが罰せられたら私……」


 

 身内には横暴な態度をとる奴だ。この後今の侮辱を思い出して荒れるだろう。欠点がなくても八つ当たりで罰を求めるかもしれないのだ。

 顔を伏せる私に、クリスさんが頭を撫でそうになって、止まる気配がした。私が顔を上げれば、優しい顔をしていた。


 

「いいんだよ。私は……私たちはイザベラちゃんとイヴァンくんを実の子供のように可愛がっていたんだから。君たちを害するなんて我が隊の騎士なら誰もしないさ」

「……そっか、ありがとう。あれから元気にしてたか?他の騎士団のみんなは?」

「イザベラちゃんが隣国に行ってしまって悲しんでいるが、皆健康だよ。たまにイヴァンくんも顔を出してくれているしね」

「そうか、それは良かった」


 私は心からの笑みを零す。クリスさんの目元に涙が溜まっていく。


「イザベラちゃんはあんな扱いを受けてて良いお方じゃなかったんだ。それが今じゃこんな綺麗なドレスを着せてもらってよぉ……それが知れただけでも良かった。イザベラちゃんは幸せそうだってみんなに伝えるよ」

「あぁ、よろしく伝えてくれ」





 

「ねぇ、貴方」



 それまで黙って見守ってくれていた魔王様だが、唐突に口を開いた。視線の先は私ではなくクリスさんで、私まで緊張してしまう。ガタガタと震えながら、彼は最敬礼をした。

 


「はっ、魔王陛下の御前で私事を話すなど無礼な真似を心から謝罪致します」

「そうじゃない、別に怒ってないから大丈夫よ。

 それよりもあの国王に理不尽な仕打ちをされたら私の国に来なさい。この子の味方でいてくれてありがとうね」


 優しいその言葉に、クリスさんは盛大に泣き出してしまった。


「ありがとうございます……ありがとうございます……!!どうか、イザベラちゃんのことをよろしくお願いします」

「えぇ、任せて頂戴」


 

 そうして私への別れの言葉とともに、クリスさんは魔王陛下へ深く深く何度も頭を下げていた。

 国を出た時、あんなに良くしてもらっていた騎士団のみんなにお別れを告げられなかったのが悲しかった。もう会うことは二度とないと思っていたから、こうして出会えて嬉しい。


 魔王様への感謝の気持ちがどんどんと溜まっていくのを感じる。そして、決してそれだけではないと。



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