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ネコ耳❤アリシアの魔王城日記  作者: 独瓈夢
第五部 アリシア大公
333/336

第333章 アリシア大公の鉱山事業視察(前編)

 ゲネンドルタウンのギルド本部訪問のあと、今回の視察で楽しみにしていた鉱山事業と製鉄事業を視察するために出発した。


 この二つの事業は、ドヴェルグ王のドンゴ・ロス王の大きな支援(資金援助)で進めていて、近い将来、ゲネンドル領の中枢産業となる事業だ。

 目下、北東部にあるエレンイチール山脈には、エレンイチール鉱山第1号、第2号、第3号と名付けられた鉄鉱石鉱山が操業中で、北部のファウニバール山脈には、金、銀、銅などの高価値金属鉱山を採掘中の鉱山二つと大きな石炭鉱山が二つある。


 さらに、アングルスト国との国境沿いに横たわるズデーネン山脈は地下資源の宝庫のらしく、すでに発見され、操業を開始している金と銀を産出する鉱山が三つ、錫と銅を採掘できる鉱山が二つ、それに鉄鉱石鉱山が四つもある。

 今後調査が進めば、さらに多くの新しい鉱山が発見されるだろうとドワーフの鉱山技師たちは言っているのでこれからが楽しみなところだ。


 新しく私の領地となった元アンドゥイン・ロレアンスロゥプ大公領にも、中央部に連なるオルドバーグ山脈に金、銀の鉱床が発見されており、これから本格的な採掘作業が始まる予定となっている。



 ゲネンドル領政府が、目下もっとも力を入れている製鉄所は、ミンモダル市、メリギリアス市、それにミンクボールン市の三ヶ所にあり、すべてが生産能力いっぱいで操業中だ。

 さらに、新しい生産能力の高い製鉄所をメリギリアス町とロレアンドゥル市に現在建設中だ。それらの鉱山や製鉄所に必要な電力は、それぞれの製鉄所の近くに建設した六ヶ所の火力発電所でまかなっている。水力発電所もすでに十六ヶ所に建設しており、現在新たに五ヶ所に建設中、あるいは建設予定だ。


 火力発電所の燃料となる石炭や鉄を生産するための原料炭は、ブレスタンネン平原にかなり大きな炭田地帯があり、ファウニバール山脈にも有望な炭田地帯が広がっているため、製鉄所を操業するための原料も燃料もまったく心配はない。何よりいいのは、すべて領内で燃料も原料も調達できるということだ。

 これが、ほかの領地や他国から輸入するとなったら、かなり高くなるため、利益も減ることになる。領地内ですべてを調達し、領地内で生産し、販売する。つまり、丸儲けというわけだ。



      石炭層が地表に出ている場所

  挿絵(By みてみん)



 ブレスタンネン平原の石炭採掘場は、想像を絶するところだった。

 炭鉱と言えば、鉱夫たちは、ほとんど照明がなく、換気も悪い狭い地下深くの坑道で、これもあまり明るくないランタンの灯りをたよりにツルハシやシャベルを使って、汗と埃にまみれて石炭を採掘する姿を思い浮かべる。


 しかし、ブレスタンネンでは、地表に石炭層が出ている。つまり、地面のどこでも石炭というわけで、それをドワーフやカニスディオス(イヌ人族)の炭鉱夫が、シャベルなどで採掘してモッコに入れ、軌道が入っているところにあるトロッコまで運ぶのだ。

 そしてトロッコが満杯になると選炭場へ運ばれ、商品になる石炭だけが選別され、自動運搬帯(ベルトコンベアー)を使って貯炭棟に運ばれ貯蔵され、そこからガバロス荷馬車を使って、輸出向けは港へ、国内消費分はそれぞれの需要地へと陸路を使って運ばれる仕組みとなっている。

 

「まったく、あっかんですね――っ、ママ!」

「まったく、あっかんべ――ですね、ママ!」


 レーヌとロッテが、先ほど初めてブレスタンネン平原に来たニーナとソレヌが、地平線の彼方まで続く、地表に露出した石炭の鉱床を見て


「圧巻ですね、隊長!」

「まさしく圧巻です!」


としきりに連発していたのをマネしているのだけど、レーヌが、正しい意味で私におどろきを伝えようとしているのに対して、ロッテは、相手をからかう時に使う言葉にひっかけて言っている。


「ロッテちゃん、あっかんべ―じゃなくて、あっかんよ!」

「だから、あっかんべ―って言っているじゃない?」

 

 マジメなレーヌが、ロッテが言い間違いをしていると思って直してあげようとしている



 石炭の埋蔵量は無限に等しく、産出量も膨大だが、需要も想像以上に大きい。領内の製鉄所には、一製鉄所あたり、2基から5基の高炉が稼働中だが、高炉は1基あたり、1日約100トンの石炭を製鉄用燃料(コークス)として消費する。


 現在、ゲネンドル領に三つある製鉄所では、10基~15基の高炉が稼働中で、これらは1日に1000トン以上の製鉄用燃料(コークス)を消費している。さらに計画では、これら三つの製鉄所は、高炉の数を次々と増やす予定となっており、それにメリギリアス町 とロレアンドゥル市に建設中の製鉄所の高炉が稼働しはじめると、最終的には100基以上の高炉が操業することになり、そうなると1日に10万トン以上の石炭が製鉄用燃料(コークス)の原料として消費されることになる。



 すでにヴァナグリー荷馬車による輸送は限界に達していた。馬を使った荷馬車も考慮されたそうだが、馬車の速度は時速5~6キロメートルと遅いし、走れる距離も1日約30キロメートルから65キロメートルと短い。馬を入れ替えれば、1日約100キロメートルから120キロメートル走れるが、手間と設備がかかりすぎる。


 ヴァナグリーは時速60キロで何時間でも走れるが、頭数が限られているし、鉱山や製鉄所が生産する石炭、鉄鉱石、鉄を何千トンも何万トンも1年十不休で運ばせるなど不可能だし、ヴァナグリーも可哀そうだ。

 輸送問題を解決するには、大量の貨物を効率的に運ぶ輸送手段がどうしても不可欠だった。

 魔王国には、マフトレーン(魔法式浮動列車)という、究極の魔法陣技術と最新科学技術を組み合わせた豪華な輸送機関がある。

 だが、さすがの魔王さまも、あのマフトレーンを石炭や鉄を運ぶ貨物輸送用に改造することも、国外に魔王国の魔法研究・科学技術の粋を集めたマフトレーンを持ち出すのも認めないだろう。


 次に思いついたのだが、ドヴェルグ国の蒸気動力を使って動く軌道列車だ。

 あれは、衣服が汚れる黒い煙を吐き出し、騒音も出すが、かなり馬力もあるので検討の結果、領地内の貨物輸送には最適だとの結論に達した。


 ゲネンドル領の鉱山・動力部門の連中の概算では、鉱山→精錬所→港湾、または炭鉱→製鉄所→港湾までを軌道列車線を繋ぐには、最低600キロメートルの軌道を作る必要だとわかった。

 そして、ドヴェルグ国の軌道列車会社の技術顧問たちは、軌道列車の軌道を建設するのにかかる費用は、1キロメートルあたり金貨200枚かかると計算した。


 つまり、軌道列車の軌道を建設費用は、600キロ×金貨200枚=金貨12万枚かかるというわけだ。

それも概算なので、川に橋を架けたり、山にトンネルを掘ったりすれば費用はさらに増えるわけだが、地図をざっと検討したところ、それほど難しい工事のところはないことがわかった。


 軌道列車導入計画は、製鉄事業だけでなく、ゲネンドル領の工業をさらに発展させるためにもは不可欠だ。

 さっそく、ドンゴ・ロス王と会って交渉した結果、ドヴェルグ国側は必要資金の30パーセント、つまり金貨3万6千枚出資してくれることになった。

 残りの70パーセントを出資する投資家を見つけることができれば、ゲネンドル領での軌道列車の導入を承認してもいいとドンゴ・ロス王は確約してくれた。





 残りの資金を調達するために、私は三人の人物と会って交渉することにした。

 一人目は、ジャバリュー・ネルヴァルン・キャルニボル公爵。ディアローム帝国の大統領であり、フローリナちゃんのお父さまだ。


 キャルニボル大統領に面会を申し込み、ディアローム帝国が、ゲネンドル領の軌道列車計画に融資してくれるなら、今後10年間、ディアローム帝国政府がゲネンドル領産の鉄鋼材を購入する場合、市場価格より3割安い価格で販売してもよいと交換条件を示した。


「えっ、市場価格より3割安い価格?」

「はい」

「それは、その購入時期の市場価格より3割安い価格と言うことですか?」

「その通りです」

「う――む...」


 さすがに交渉上手として評判の大統領だけあって、ひと押しでは陥落しない。

 ここは、もうひと押し必要だ。どっちみち、鉄鋼材は、生産原価の2倍以上の価格で販売しているので市場価格の3割引きでも確実に儲かる。


「それでは、アル―メンも3割引きの価格で提供するというのはどうでしょう?」

「ええっ?!ゲネンドル侯爵殿の領地では、鉄礬土(てつばんど)も産出するのですか?」

「はい。ファウニバール山脈にかなりの埋蔵量が発見されています」

「そして... ゲネンドル領では、どれほどの量のアル―メンを生産されているのですか?」

「それはちょっと教えることは出来ませんが、たぶん、ディアローム帝国政府が必要とされる分は供給できると思います」

「わかりました。では、それで手を打ちましょう!」



 アル―メンは、軽く、銀のような色合いの美しい金属で、高級食器、高級装飾品、美術品、高級装飾品などの材料として仕える。しかし、アルメーンは、抽出・製錬がすごく難しいため、その価格は金の倍近くもするという超高価貴金属だ。

 希少であり、入手が難しい金属なので、アルメーンを使って作られた製品は、王族や金のある貴族、金持ちなどが競って買い求めるほど価値のあるものだ。


 アルメーンは、すでに20トンほどのの精錬塊が貯蔵されている。今後ディアローム帝国政府からの需要に応じて出庫販売されることになるが、足りなければ精練する量を増やさなければならない。だが、アルメーンという“お菓子”でディアローム帝国から融資を取りつけることが出来たのは大成果だった。

 ちなみに、ディアローム帝国からは残りの70パーセントのうち、20パーセント、つまり金貨2万4千枚分を融資してもらうことになった。

 


      アングルスト国北部太守国

  挿絵(By みてみん)



 そして、二人目の交渉相手は、ザームニズ太守国のマハランディ・ザームジヤル太守だった。

 私は、アングルスト領の総督になってから、すぐにそれまで関係がギクシャクしていた太守たちとの関係を改善しようと、定期的に昼食会を兼ねた懇親会を開き、太守国への公式訪問もし始めた。


 最初は、魔王国アングルスト領との境界を接し、もっとも近い南部、東部の太守国を訪問した。そして、遠方の北部の太守国訪問をの訪問し始めたのだが、その最初の訪問国がザームニズ太守国だった。

 ザームニズ太守国はアングルスト国の最南端にあり、北部の入り口といってもいい太守国だった。


 当時のザームニズ太守国の経済状況は芳しいものではなかった。農業は、ほとんどが一毛作であるため、農作物の植付け単位面積あたりの収穫量は低く、工業もほぼ無いに等しく、さらに内陸であるため漁業も海運業もないという、以前のゲネンドル領とまったく同じ状況だった。 


 国家経営や領地経営やで苦しんでいる統治者はけっこう多い。それだけ難しいということだ。

 領主や王族が贅沢三昧で暮らしたり、とてつもなく巨大で豪華な宮殿を建てたり、戦争をしたなどすれば、財政はたちまち赤字となる。

 財政を改善しようと増税をすれば物価は高騰し、領民は苦労し、不満が広がり、領地から逃げ出したり、さらには暴動や反乱さえ起きかねない。


 その後、魔王国に対して友好的かつ協力的な太守国に対しては、魔王国が農業振興の助成金や融資、それに農業改善のための技術支援などもするようになり、ザームニズ太守国も植付け単位面積あたりの収穫量が高い多品種栽培などに切り替え、経済状態は各段に改善していると監察官の報告書に書かれていた。


 そのザームジヤル太守から、「確実に利益を得られる投資計画があれば、ぜひ参加したいと思うのでご連絡願いたい」という親書を少し前もらっていたのだ。

 そこで、大公になった直後に多忙な公務の隙を縫って、2年ぶりにザームニズ太守国を訪問した。



 ザームジヤル太守は、魔王国の大公となった私を盛大に迎えてくれた。

 

「ゲネンドル大公殿下、この度は大公ご就任、誠におめでとうございます!最初にお会いした時から、殿下は大出身をする方だと思っておりましたぞ!ワ―――ッハッハッハ!」

 巨大なエール樽のような体を揺らせて太守は豪快に笑った。


「わたくしからも、ご祝福させていただきます。魔王陛下の跡をアリシアさまが継がれたと聞いた時、最善の人選だと思いましたわ」

 美人のビルジー太守夫人もにこやかに笑っている。彼女の衣装や装飾品も前回よりも等級上昇(グレードアップ)したようで、さらに眩しく見える。


 ザームジヤル太守の後ろには、20人ほどの見目麗しいトロール美女(?)が、微笑みを浮かべて私たちを歓迎してくれた。

 彼女たちは、トロールの伝統衣装である鮮やかな色彩のチャローン(サリー)を身に付け、華やかなトルバラ(腹巻)を巻いていた。チャローンの下には、チョッテと呼ばれるオヘソ丸出しの短い上着を着ている。


“前回来た時よりも、側室の人数が倍に増えているじゃない?やはり景気が良くなっているという証拠ね”


 そして、ザームジヤル太守とビルジー太守夫人の両横には、ヒゲを生やした高官みたいな感じの、太守の息子たちが並んでいた。 


「ゲネンドル殿下、大公就任、おめでとうございます」

 口の周りとアゴの下まで濃い髭で覆われたトロールが、満面の笑みを浮かべて祝福の言葉を述べた。

 そのトロールは、ザームジヤル太守の息子にしては豪華過ぎる服装をしており、頭飾りにも燦然と輝く宝石を散らばめていた。


「え、あなたは、もしかして、ブランダラバード太守国のサヴァモール太守さま?」

「はい。パタウディール・サヴァモールでございます。ゲネンドル殿、大公就任、おめでとう...」

「ありがとうございます。こちらは、 ブラッデタール太守国のウッダジャー太守さまとガッドワール太守国のガッドワール太守さまではないですか?」

 満面の笑みを浮かべたサヴァモール太守がお祝いの言葉を言い終わるのを待たずにお礼を言って、彼の横で自分が挨拶する番を今か今かと待っている長身の太守と、その横にいる冷静そうなの顔の白髪頭の太守を見た。


「ゴワンド・ウッダジャーでございます。ゲネンドル大公殿下、ご栄進誠におめでとうございます」

 トロールにしては体が細めで長身の太守は、拳で胸を叩いて頭を下げる、トロール流の敬意の所作で挨拶をした。


 ザームジヤル太守の息子たちだと思っていたトロールたちは、何と同じ北部の有力太守だった!



現在の高炉の容積は、4,000〜5,500立方メートル級が主流だそうですが、この物語では19世紀頃のそれほど大きくない高炉― 容量200~500立法メートル程度を想定しています。

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