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女C ジェシカ

 街で噂の凄腕魔法使いが森の外れの小さな村にいる、と聞いて、ヘンリエッタとアイリスと一緒に魔法使いの家を訪ねた。

 魔法使いは留守で、アイリスは帰りたそうにしていたけれど、ヘンリエッタは自分のため、と言うよりアイリスのために断固魔法使いに会う、と気合いが入ってる。

 私だって、どうしても魔法の呪文が欲しかった。

 帰る前に魔法使いが戻ってきて、ほんとラッキーだった。


 一番に手を挙げるとガツガツしていると思われるのも嫌だったので、ちょっと控え目なふりをしていると、まずヘンリエッタが手を挙げた。

 案の定、ウォルターの話。アイリスをここに連れてくることこそが狙いだったとは判ってるけど、ウォルター程度に呪文を使っちゃうなんて。まあ、1年越しの恋だから、そろそろ実るなり、諦めるなりする頃だとは思ってたけど。


 アイリスは切実よね。

 アラン…あほな男と付き合って、あほだと判ってるくせに別れることもできない、しょーもない女。

 でもま、ああいう男はちゃんと別れないと面倒よね。

 いいんじゃない? 魔法の呪文で縁切りって、お嬢様らしくって。


 最後は私の番。欲しい魔法は、出会いの呪文。そして必ず恋に落ちる結果が欲しい。

 魔法で恋なんて、って言う人もいるけど、きれい事に過ぎないわ。魔法でも何でもいいのよ、始まらない恋なんて、恋じゃない。


 相手の名前は…秘密。

 ヘンリエッタやアイリスに言ってた人とは違うもの。あの人はもう冷めちゃった。

 二人には、実は自分用じゃなくて友達に頼まれたの、と言ったら、それでかあ、と納得してもらえた。


 あの魔法使いが、王都の魔法使いのじいさんの一派だってことは調べ上げた。

 うちの出入りの魔法使いに見せたけど、魔法の流派が違うから、なんとなく読めはするけど復元はできない、と言われた。…やっぱりね。

 こんなこともあろうかと、以前から王都の魔法使いのじいさんの弟子に何度か声をかけて、気のある振りをしておいた。これを書き写して欲しいのだけど、と言うと、にへらーっと笑って「いいよ、君の頼みなら」って、すぐに書き写してくれた。

 でも、ずいぶん汚い。あちこちインクがついてるし。オリジナルは読めないけれど、文字としても、デザインとしても見ていて本当にきれい。これで同じ呪文なんだから、魔法って、訳わかんない。所詮は下っ端の弟子、書けてこの程度なのかしら。

 有効期限は、書いてから三日。

 三日目の今日、オリジナルを使い、うまくいかなかったら書き写してもらったのを使ってもう一度、別の人で試せる。我ながら、何て名案!

 名前を書く欄に「エルドレッド」と書き、一緒にもらったろうそくで呪文の紙を燃やした。


 魔法使いにお願いしたのは、『白馬の王子は天空の城に住む』の世界。

 夕立の中、雨宿りの出会い。

 王子様が話しかけてくる。

 雷が怖い、なんてしがみついて、大丈夫だよ、なんて言われて、通りすがりなんだけど、また会えるかなって。

 …早く明日にならないかな。


 翌日の夕方、急に雨が降り出した。

 校舎の片隅で雨宿りをしていたら、走って屋根の下に入ってきたのは、憧れのエルドレッド王子だった。…と、!!

 お付きのアンドリューとニコラスまで!!

 な、何よ。四人で雨宿りなの?

 まあ、王子様が一人でうろついてることなんて、そうないわね。はあぁ。

「君も雨宿りか」

 エルドレッド王子がにこやかに話しかけてきた。

 髪からしたたる水滴も、男前度を上げている。超かっこいい…。

「急な雨でしたね」

 ハンカチを差し出すと、

「いや、持っているから大丈夫だ」

 そう言って、誰かの手で刺繍を施されたハンカチをポケットから出してきた。

 王子様には幼い時から婚約者がいた筈。その人かしら。

 いいえ、魔法の力で私は王子様と恋仲になるのよ!

 タイミング良く落ちてきた雷に

「きゃああああ、怖い!」

 そう言ってしがみついたら、

「大丈夫ですよ」

 愛想も何もない声で答えてきたのは、アンドリューだった。

 見上げると、しがみついてる相手、アンドリューじゃない!

 私と王子様の間に立ち、まるで私から王子様を守るように…。

 王子様は、怖がる私をふふふ、と笑っていた。

 私を見て、と言うより、事務処理のように女の子を押さえつけたアンドリューの手際のよさにこぼれた笑みのようだ。

 悔しくて見上げると、王子様を睨みながらアンドリューが顔を赤らめていた。

 雨が弱まり、王子様が

「ああ…」

と声を漏らした。

 見つめる目の先には、天を繋ぐほどの大きくて見事な虹が出ていた。それも、二重で。

「きれい…」

 思わずつぶやいた私に、

「本当だ。あのような激しい夕立の後も、このような美しい虹を見ることができるのだな。…このように穏やかに暮らせることを嬉しく思う」

 そう言い残すと、お付きの二人を連れて王子様は去って行った。

 王子様は、人ではなく、虹に恋したかのようだった…。


 小説のように、出会いがあれば王子様だって自分のものになるかと思ったけれど、世の中そんなに甘くはないわね。あんなに優秀な婚約者を差し置いて私を見初めるなんて、そんな展開、現実の世界ではあるわけがない。

 本当にきれいな虹だった。

 そして王子様も素敵だった。そばにいられただけで充分。

 王子様はやっぱり王子様だった。憧れのまま、この思い出は胸にしまっておこう。


 家に戻り、もう一枚の呪文の複製を見た。

 よく見ると、名前を書く欄がない。

 呪文を受ける人は誰になっているんだろう…。呪文だって、勝手に変えられているかも知れない。

 受け取った時は、そんなことにも気がつかなかった。

 ばかだなあ…、私。

 そのまま引き出しに隠しておいたら、一週間後には文字はきれいに消えていた。


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