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女A ヘンリエッタ

 アイリスとジェシカと一緒に、すごく呪文が効くと噂の、村の魔法使いのところに行った。

 先に来ていた人たちは、留守で残念、と言って帰っていったけれど、私たちは雑談をしながら待っていた。

 だって、アイリスの彼のバカッぷりに相当頭にきて、絶対縁切りしなくっちゃって思ったのよ。別に未練があるわけでもなさそうなのに、ちょーっと謝ったらすぐに許して、また浮気されて、ばっかじゃないの!

 一番いいのは、新しい恋を始めることだと思うんだけど、あのバカといる限り、義理だてて次の出会いなんて絶対考えもしないんだから。

 だからこの一週間、アイリスには彼のだめっぷりを何度も何度も何度も何度も言い聞かせ、ちゃんと別れる覚悟を植え付けた。


 魔法使いの家は古いながらも結構こぎれいで、天井にはいろんな草がつるしてあって、瓶に入ったいろんな粉薬が置いてあって、いかにも、って感じだった。

 いい匂いばかりじゃない。昔飲まされた薬のような匂いもする。だけど、それがどういうわけか不快に感じない。

 出されたお茶もおいしかった。


 誰も言い出さないから、まず手始めに私から相談した。

 まあ、私のことなんて、ほんとはついでなんだけど…。この機会だし…。

 一年前からずっと気になっているウォルター。最近、ミラベルが気になるらしく、よく目で追ってる。

 せめて、ミラベルと対等くらいだったらなあ…。

 もっと早くに告白しておけばよかったかな。ミラベルを気にする前に。

 友達でいてくれるのが嬉しくて、なかなか勇気が出なかった。

 成就??

 お、恐れ多い。いやいや、そこは私が努力する部分であって…、そこまで魔法に頼るのは…。


 二人も無事、相談を終えた。

 アイリスの縁切りの依頼も、しかと見届けた。

 書いてもらった呪文はろうそくセットで、街での相場よりリーズナブルではあったけど、お小遣いからすると、結構痛手ではあった。

 でも、ちゃんとアイリスも、ジェシカも、呪文を書いてもらえたし、今日のところは目標達成でOK。

 家に帰ると、そっと火をつけて、実現するか判らないおまじないのような呪文が灰になるのを見守った。


 あれから、ちょっと変だった。

 ウォルターが、なんとなく私を見てるような…。

 気のせいかも知れない。

 でも、変わらずミラベルも見てるのよね。

 今日も目と目が合うので、思い切って聞いてみた。

「何?」

「い、いや…。」

 呪文の効果は一週間程度って聞いたけど。なんだか、人の心をもてあそんでいるようで、チクチクと心の奥が痛んだ。

 見てるのは、私がどうこうじゃなく、呪文がかかっているから。

 無理に、こっちを向かせているだけ。

 判っているのに気になり、気になると声をかけ、そんなのって、

 …ばかみたい。

「ミラベルさあ」

 突然、ウォルターがもう一方の視線の先の人の名を出した。

「あいつ、兄さんのことが好きだから、協力しろって言うんだよ」

「は?」

 そ、それは…初耳だった。

「…そう言うのって、身内でも言いにくいだろ?」

「そ、そうかな」

「兄さんに、いきなりうちのクラスメートが好きだっていってるから、付き合ってやってよ、とか、言える?」

「うーん…。おすすめの人なら、言える、んじゃない?」

 兄を紹介しろ…。ミラベルも、酷なことを言う。それじゃあ、あまりにウォルターが可哀想だ。片思いの相手にそんなこと言われちゃうなんて。

「俺もそう思って、あいつのいいところ、何かないかなあ、って観察してたんだけど。いや、全然思いつかないんだ」

 …観察? 思いつかないって、何よ?

「兄さんの好みも知ってるけどさあ…。全然違うんだよなー。いい加減、無理って断ろうと思ってるんだけど、あいつなんか怖くてさあ…。俺あいつ苦手なんだ」

 ははぁ。なるほど。

 つまり、ミラベルが気になっていたのは、兄を紹介しろと言われて、それにふさわしい人かどうかを見定めていた、と言うことか。

 ウォルター、片思いじゃなかったんだ。 

 んなこと、判るか!

 あーあ、私のお小遣い。別に呪文いらなかったじゃない。勿体ないことしたなあ…。やっぱり恋心は、魔法の呪文なんかに頼るもんじゃないわ。

「…仕方がないわね。私からミラベルに断っといてあげる」

「ほんとか! サンキュー!」

 がっつり握手されて、期待されるまま、ミラベルにお断りの話をしたら、

「え、あいつまだそんなこと覚えてたの? あいつ頼りにならないからとうの昔に諦めて、自分で告白して、玉砕したわよ。もう1ヶ月も前のこと、今さら言われても」

と、ミラベル自身が怒りながらも驚いている始末。

 一ヶ月って、そんなに長いこと、悩んでいたのか…。

 仕方がない奴だなあ。

 思わず口元が緩んだ。

 ミラベルの潔さ、私は好きだけどな。


 次の日、ウォルターにミラベルとお兄さんのことを話し、安心するように伝えた。

 これで、ミラベルも見ない、私のことも見なくなる。

 そうなると思ったのに、今日も視線を感じて、ドキドキしている。

 もうそろそろ、呪文の効果、なくなるよね??

 その視線、呪文なの? 呪文じゃないの??


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