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前回までの話でジーンの名前をジンと表記していました!自分でもビックリしてますΣ(□`;)本当に申し訳ありません!
ご指摘ありがとうございます!
何か変な部分があれば今後もご指摘お願いいたします!
その日ブロイダンスは晴れていた。雲ひとつない、きれいな青空が広がっていた。
後に聞いた話ではあるがこの日、クラークの家で世話になっているモリーはとても落ち着きがなかったという。そしてブロイダンス中で、滅多に見ることのない精霊獣を見たという目撃情報が多数あったらしい。
アドリナが産気付いたのは夜が明けてすぐのことだった。
「アドリナ、がんばれ!」
アドリナの手を握り必死に鼓舞する。その隣でジャスミンが、ドキドキと胸を高鳴らせていた。
「奥様、もう少しですよ。あとひと踏ん張りです」
医師が落ち着いて声をかける。侍女や執事が見守る中、その時は訪れた。
「おぎゃーーーーーーー!」
産まれた赤子が大きな産声を上げた。男の子だ。皆が無事に生まれたことに肩の力を抜いた瞬間だった。
ぎゃぁあああああああああああ
悍ましい悲鳴のような音が響き渡り、背筋を凍らせる様な寒気と憎悪が走る。黒い靄のようなものが部屋中に広がり、そしてそれは屋敷中にも広がった。この時離れた王都からも、ブロイダンスの方角、マーキュリー家から真っ直ぐ天に向かって伸びる、黒々とした人の恐怖を煽る靄が見られたという。
すぐさま正気に戻り、水魔法で屋敷中を洗い流し、天へと伸びるそれも水で流した。だが、ひどい寒気と憎悪が消えることはなかった。
左手でアドリナの手を握りしめ、右手で尋常じゃないくらい震えるジャスミンを抱いた。しっかりと自分の息子を見て、そしてその目を伏せ、医師の名を呼んだ。
「ヘクター、その子に異変は?」
ヘクターは声が震えるのを必死に抑え、ありません、と答えた。
「その子を別館に隔離しろ。部屋に結界を張り、一切を遮断しろ。急げ」
アデルが赤子をタオルに包み、別館に走る。アデルが部屋を出てすぐ、見習いの執事が部屋に走りこんできた。
「だ、旦那様!王都から魔官の方々がっ!」
「すぐに行く!
ジャスミン、今日はもう部屋に戻りなさい。アドリナ、君も疲れただろう、ゆっくり休んでくれ」
大きな貴族の家にはある、転送の魔法陣。その部屋を転送の間と呼ぶ。オーウェンは、早足でそこに向かった。
魔官とは、武官、文官と並ぶ三官の内のひとつ。魔法、精霊獣の管理や研究などを担っている。そこの人間がわざわざ来たのだ。
オーウェンは焦る気持ちを抑え、扉の前でひとつ深呼吸をして、部屋に入る。
「お待たせしました」
そこにはローブを羽織った2人の男が立っていた。2人は軽く会釈をして、
「突然の訪問申し訳ありません、マーキュリー殿。早速ですが、先ほどのは?」
焦る様に聞いてきた。
「それが原因がわからないのです。丁度息子が生まれた直後、悍ましい悲鳴のような音が聞こえ、気付けばあの状態で」
「息子さんは?」
「今は別館の一室に結界を張りそこに」
「会わせていただいても?」
「もちろんです、案内します」
オーウェンは、心の中に広がる不安を押し殺していた。マーキュリー家に産まれた男の子。私の息子。将来、私の後を継ぐであろう子。愛おしいはずなのに、あの時感じたのは、憎悪だった。そして何よりの恐怖だ。今しなければならない決断は父親としてのものではなく、マーキュリー家の当主としてのものだ。あれがあの子の力だとすれば、ブロイダンスになにをもたらすであろうか。
唇を噛み締め、強く拳を握り締めつつも、足を止めなかった。後ろについてくる2人が息子にどのような判断を下すかなんとなしに分かっていても。
部屋に着くとアデルが部屋の前に立っていた。結界の中では、息子の周りをうぞうぞと先ほどと同じ黒い靄が渦巻いている。
魔官の1人が結界に触れた。バチバチと音を立て、稲妻を走らせながらより強固な結界へと変えていく。もう1人がその結界の中へと入っていく。足を踏み入れた瞬間、踏ん張れなかった様にしゃがみ込み、震え出した。
彼は直ぐに自分の周りに風を纏わせると、立ち上がってこちらを振り向いた。
「マーキュリー殿、残念ですが、このままにすることはできません。酷なことを言う様ですが、ダスカイダ王国の為、諦めてください」
ひくりと鳴る喉を抑えることができなかった。
彼は息子の方へと向き直った。風で纏ってはいても影響がないわけではないのだろう。足が笑っている様で、ゆっくりと少しずつ近付いて行く。結界を張る彼もカタカタと肩を震わせて、荒く呼吸している。
息子に手をかざし、その手に魔力を込めているのが分かった。逸らしたくなる目を歯を食いしばって抑え、見続ける。
風が舞い、息子を傷つけようとした。
どがぁっ!
彼は何かに弾かれた様に結界を突き抜け、私の直ぐそばの壁に叩きつけられた。
「がはっ、ごほっごほっ」
結界の中の黒の靄が量を増し、より黒々とする。息子の姿が見えなくなり、結界がミシミシとなり始めた。
「援護する。私があれを抑える。その間に結界を安定させてくれ。アデル、お前は彼と共に結界を頼む」
「かしこまりました!」
「助かります!」
3人でなんとか結界を張った時にはぐっしょりと汗をかいていた。
「マーキュリー殿、すみませんが、この件は私たちの手には負えません。1度王都へと戻り魔官長に指示を仰いできます」
彼はそう言うと気絶したもう1人を背負い、王都へと戻っていった。
大きなため息が零れ落ちた。頭を掻きむしりたい気持ちを抑えると、今度は涙が出そうだ。