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Cicada 3301 〜 紡がれた最後の記録 〜  作者: LALA
第1章 Cicada 3301
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11/13

Ep.10 ワルシャワの異変

読んでくださってありがとうございます。

Cicada 3301はインターネット上で最大のミステリーで、実在する未解決ミステリーでもあります。

とにかく面白いので小説にしたくて、なんとかして小説にしています。

楽しんでくれてる方は星評価、ブクマで応援していただけると幸いです!

フィクションと史実を織り交ぜて面白い物語を書こうと思いますので、ぜひ応援してください!


 2012年1月16日、午後9時12分。


 僕はモニターに並べた2枚の写真を、交互に見比べていた。

 どちらもワルシャワで撮影されたものだ。歩道脇の街灯にはCicada 3301のポスターが貼られ、その後ろに古い建物が並んでいる。撮影位置が少し違うため、最初は同じ場所なのかも判断しづらかった。

 気になっているのは、街灯の後ろにある建物だった。

 1枚目には3階の窓が4つ写っている。ところが、2枚目では同じ場所に3つしかない。

 「……どういうことだ?」

 僕は画像を拡大した。

 窓の数が違うだけなら、撮影角度の問題かもしれない。手前の街灯に隠れていたり、隣の建物との境目を勘違いしていたり。そういうことは珍しくない。

 ただ、今回は建物の両端がどちらの写真にも写っていた。

 僕は2枚の画像を解析用のプログラムに読み込み、共通する部分を指定した。街灯の根元、道路標識、歩道の縁石。それぞれの位置を合わせると、写真全体のずれをある程度補正できる。

 数分後、補正した画像が表示された。

 歩道や街灯はほぼ一致していたのに、窓の数だけは違ったままだ。

 「……うーん」

 僕はチャットを開いた。

 

 NIL:Ewa, can you send me the original files? Not the resized copies.

 ――エヴァ、元の画像を送ってくれる? 縮小されたものじゃなくて。


 返事はすぐに届いた。


 EWA_N:I have one original. I'm asking the other photographer for theirs.

 ――片方の元データはあるわ。もう1人にも確認してみる。


 NIL:Thanks. Do we know when they were taken?

 ――ありがとう。撮影日時は分かる?


 EWA_N:Both on January 10th. A few hours apart, according to the photographers.

 ――どちらも1月10日よ。撮影した人たちによると、数時間しか離れていないそう。


 僕は時計を見てから、もう一度写真を開いた。

 数時間で窓が増えたり減ったりするはずはない。どちらかの写真が加工されているか、撮影場所の情報が間違っていると考えるのが普通だろう。

 撮影者がわざと嘘をついている可能性もある。

 僕はノートに、その3つを書き出した。

 ほかに考えられるのは、撮影日時の誤りか。デジタルカメラの時計が正しく設定されていないことは、案外ある。

 そこへアレックスがチャットに入ってきた。


 WALKER:Still working on the poster photos?

 ――まだポスターの写真を調べているのか?


 NIL:Yeah. The building behind the poster looks different in the two photos.

 ――うん。ポスターの後ろにある建物が、2枚で違って見えるんだ。


 WALKER:Could be image manipulation.

 ――画像が加工されているんじゃないか。


 NIL:That's what I'm checking.

 ――今それを調べてる。


 アレックスの意見はもっともだった。

 そもそも、世界中から注目されている暗号だ。偽物のポスターを作る人間がいても不思議ではないし、写真を加工して参加者を混乱させることだってできる。

 それにしても、なぜ建物の窓なのだろう。

 ポスターのQRコードを変えるなら、悪戯としては分かりやすい。建物の窓を1つ増やしたところで、気づかれずに終わる可能性の方が高そうだった。

 もっとも、悪戯をする人間の動機まで分かるわけではない。

 僕は画像の違いが分かる部分を切り出し、アレックスにも送った。

 しばらくして階下から母さんの声がした。

 「透ー! ご飯できてるよ!」

 「はーい!」

 保存していなかった解析結果をファイルに書き出し、僕は椅子から立ち上がった。


✳︎ ✳︎ ✳︎


 2012年1月17日、午前8時27分。


 教室へ入ると、何人かの男子が携帯ゲーム機を囲んでいた。画面を覗き込んで笑っているのを横目に、僕は自分の席へ向かう。

 「相沢くん」

 「……は、はいっ!」

 顔を上げると、桐生玲奈さんが立っていた。

 昨日の現代社会で同じ班になった桐生さんだ。

 手には授業で使った資料がある。

 「ごめん、びっくりした?」

 「あ、いえ……だ、大丈夫です」

 「また敬語になってる」

 桐生さんは少し笑った。

 僕も笑おうとしたが、どうにも顔が引きつってしまう。

 「昨日の資料なんだけど、ちょっと聞いてもいい?」

 「えっ。あ、うん!」

 彼女はプリントの一部分を指さした。

 海外の報道機関が、同じ災害について異なる数字を発表しているという記事だ。

 「これさ、数字が違うのに、どっちも間違いじゃないってこと?」

 「ああ、うん。発表した時間が違うんだよ」

 僕は資料を見ながら答えた。

 「こっちは発生から6時間後で、こっちは24時間後。最初は確認できてなかった被害が、あとから分かることもあるから」

 「なるほど。じゃあ、新しい方が正しいの?」

 「えっと……必ずそうとは限らないけど、少なくとも同じ条件の数字じゃないから、比べるならそこを確認した方がいいと思う」

 桐生さんはもう一度プリントを見て、頷いた。

 「ああ、そういうことか。分かった、ありがとう!」

 「……う、うん」

 彼女は資料に何かを書き込み、そのまま友達のところへ戻っていった。

 僕はしばらくプリントの置かれていた場所を見ていた。

 昨日よりは、ちゃんと話せたと思う。

 途中で変なことも言わなかったし、説明も伝わった。

 少し安心していると、近くの男子に声をかけられた。

 「相沢、桐生と仲よかったっけ?」

 「……えっ? いや、昨日同じ班だっただけだけど」

 「へえ」

 男子はそれだけ言って、友達の方へ戻っていった。

 僕は何となく気まずくなり、文庫本を開いた。

 ただ勉強のことを聞かれただけなのに。

 まあ、僕が女子と話しているところなんて、確かに珍しいのだろうけど。

 4時間目の数学では、少し難しい応用問題が出された。

 先生が黒板に式を書き、分かった人間に手を挙げるよう促す。教室は静かなままだった。

 僕はノートに数行の計算を書いてから、手を挙げた。

 「お、相沢。分かったか?」

 「……はい」

 「じゃあ、前でやってみろ」

 立ち上がって黒板の前へ向かうと、後ろの席から「また相沢か」という小声が聞こえた。

 僕は聞こえないふりをして、チョークを取った。

 式は見た目ほど複雑ではない。対称になっている部分をまとめれば、計算はずっと短くなる。

 途中まで書いたところで、先生が「なるほど、こういう解き方もあるのか」と呟いた。

 最後の答えまで書き終えると、先生は僕の式を見ながら頷いた。

 「いい解き方だな。みんな、今のところ見ておけよ」

 席へ戻る途中、近くの男子に「お前ほんと数学得意だな」と言われた。

 「あ、ありがとう」

 そう返すと、男子はすぐ黒板へ目を戻した。

 僕も席につき、ノートを開いた。

 こういうときは、少しだけ気分がいい。

 ただ、休み時間になっても何かが変わるわけではなかった。周りはいつもどおり友達同士で集まり、僕は早瀬が来るまでは本を読んでいた。


✳︎ ✳︎ ✳︎


 午後8時51分。


 「……来てる」

 夕飯を済ませてパソコンを開くと、エヴァからファイルが届いていた。


 EWA_N:NIL, I got both original files.

 ――NIL、2枚とも元の画像ファイルを入手できたわ。


 僕は早速ダウンロードし、昨日のプログラムに読み込ませた。

 今度は画像投稿サイトで縮小されたものではなく、撮影者が保存していたファイルだった。機器の情報や画像の寸法、撮影日時なども確認できる。

 2枚は別々のカメラで撮影されていた。どちらもJPEG形式で、付随情報に明らかな矛盾は見当たらない。

 僕はまず、見た目の違いを詳しく調べることにした。

 昨日使った街灯や道路標識に加え、今度は建物の壁面も比較してみる。

 拡大すると、外壁には雨水が流れたような黒い筋がいくつかあった。

 そのうちの1本を基準に、写真を重ねる。

 「……あれ?」

 窓が4つある写真では、その筋が窓の下を通っている。

 しかし、窓が3つの写真では、同じ位置に窓がない。黒い筋は、そのまま壁を伝って下へ伸びていた。

 単に窓を1つ消したのではなく、その周りの壁まで作り直したように見えた。

 「……手が込んでるな」

 もし加工だとしたら、かなり丁寧な作業だ。

 

 NIL:Have either of the photographers gone back to the location?

 ――撮影した人たちは、もう一度現地に行ってみた?


 EWA_N:Not yet. I can ask.

 ――まだよ。聞いてみるわ。


 NIL:Could you ask them to photograph the building itself?

 ――建物そのものを撮ってもらえないかな?


 EWA_N:I'll ask.

 ――頼んでみる。

 

✳︎ ✳︎ ✳︎


 2012年1月18日、午後9時26分。

 エヴァから新しい写真が届いたのは、僕がちょうどパソコンを開いたところだった。

 撮影されたのは、例のワルシャワの街角。

 僕は画像を開き、建物の3階を確認した。

 窓は3つだった。

 「……なるほど」

 少なくとも現在の建物は、3つの窓がある状態らしい。

 だとすれば、4つの写真に何らかの問題がある可能性が高い。


 EWA_N:There's a problem.

 ――問題があるの。


 NIL:What kind of problem?

 ――どういう問題?


 EWA_N:The photographer who took the four-window picture went back today. He says the building looks different now.

 ――窓が4つある写真を撮った人が、今日もう一度現地へ行ったの。建物の様子が変わっていると言っているわ。


 僕はメッセージを読み返した。

 エヴァはさらに続けた。


 EWA_N:He insists there were four windows when he took the photo. He remembers counting them while framing the shot.

 ――撮影したときには確かに窓が4つあったと言っているの。構図を決めるときに数えたから、覚えているそうよ。


 「……ほんとかな」

 その証言をそのまま信じるわけにはいかなかった。

 人間の記憶は当てにならないことがある。数日前の光景を正確に覚えているつもりでも、実際には勘違いしているかもしれない。

 そもそも、画像を加工した本人なら何とでも言える。


 NIL:Could he be mistaken? Or could someone have edited the photo?

 ――記憶違いの可能性は? それか、誰かが写真を加工したとか。


 EWA_N:That's what I thought. But he seems genuinely confused.

 ――私もそう考えたわ。でも、本人は本当に困惑しているみたい。

 僕は机の上に置いたノートを開いた。

 撮影者が嘘をついていないと仮定しても、まだ撮影場所を間違えた可能性が残っている。ただ、それも2枚の画像を比較した限りでは考えにくい。

 「……過去の写真があればな」

 独り言を言ってから、ふと手を止めた。

 あるじゃないか。

 ワルシャワの街並みなら、旅行者が撮った写真や、地元の紹介サイトに載っている可能性がある。

 僕は建物の所在地を検索し、画像を探し始めた。

 旅行記、地域の紹介ページ、建物の外観が写っている写真。撮影年が確認できるものを中心に調べていく。

 しばらくして、2009年に公開された旅行記が見つかった。

 そこには、例の街角を写した写真があった。

 街灯の位置も、道路標識も同じ。

 僕は建物の3階を拡大した。

 「……4つ?」

 窓は4つだった。

 僕は掲載日を確認した。

 2009年、3年前だ。

 ならば、途中で建物が改修されたのかもしれない。古い建物の外壁を直し、窓を塞いだ可能性はある。

 そう考え、今度は2010年から2011年ごろの写真を探した。

 建物の名前と通りの名前で検索すると、2010年に撮影されたという写真が見つかった。

 僕は画像を開く。

 窓は3つだった。

 「……あれ?」

 2009年には4つ。2010年には3つ。

 それだけなら、改修工事で説明できる。

 しかし、2012年1月10日に撮影された写真には、3つのものと4つのものが混ざっていた。

 工事が何度も行われたのだろうか。

 僕は建物の改修履歴を調べ始めたが、少なくともすぐに見つかる範囲では、それらしい記録は出てこなかった。

 僕は2009年と2010年の写真を保存し、エヴァとアレックスへ送った。


 NIL:I found older photos of the same building. They don't agree either.

 ――同じ建物の古い写真を見つけた。でも、こっちも一致していない。


 アレックスから返事が届いた。

 WALKER:What do you mean?

 ――どういうことだ?


 僕は写真の年代と窓の数を説明した。

 すぐには返事が来なかった。

 その間に、僕はノートの新しいページを開いた。

 『ワルシャワ・建物の外観』という見出しを書き、今まで確認した写真を年代順に並べる。

 2009年、窓4つ。

 2010年、窓3つ。

 2012年1月10日、窓3つと4つ。

 2012年1月18日、窓3つ。

 その下に、確認できていないことを書き足した。

 撮影日時は正しいか。建物の改修履歴はあるか。元の写真は加工されていないか。

 こうして整理すると、まだ調べていないことが結構ある。

 僕はペンを置き、画面の4枚の写真を見た。

 1つの建物の窓が、写真によって増えたり減ったりしている。

 ただそれだけの話だが、その写真がCicada 3301のポスターを調べている途中で見つかったことも、どうにも引っかかっていた。

 チャットに通知が届く。

 アレックスだった。


 WALKER:That's strange. Keep the original files. We may need them.

 ーー妙だな。元のファイルは残しておこう。あとで必要になるかもしれない。


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