第三部六章1 『何時だって男はガキ臭い』
※ルーシェ視点――ハルメリオス騎士国、山間の広場
少しだけ盆地状となっている、闘技場。
その闘技場は観客席の縄で仕切られ、簡易の席が設けられている。
その席の更に後方、石段の隅。
私とラスティーナ王女は黙ったまま、闘技場を見下ろしていた。
篝火の火粉がふわりと舞い、私とラスティーナ王女の間をゆっくりと漂う。
その背後から、鎧の金属音を響かせてセリア王女が現れた。
「……二人とも、随分と落ち着いた雰囲気であ奴を見つめているのだな」
そんな事をセリア王女に言われ、私はラスティーナ王女と目を合わせ、小さく肩を竦めた。
たしかにあの闘技場では、あのカイルとシルバーが本格的に交錯し始めようとしている。
「……まあ、その何というか」
はにかむ様に笑みを零しながら、そんな言い淀む言葉を紡ぐラスティーナ王女。
それに続いて私はつい、ため息交じりに言葉を続ける
「今回の事は先ず、あのシルバーの『口下手』が原因なので。
あのバカ……気取った語呂だけはポンポン出す癖に、肝心要はまっっったく説明しないのよね」
「……さっぱり判らん。というか、お前ら二人も大概だ」
セリア王女の直球に、私は思わず笑いそうになる。
そんな会話の最中、ラスティーナ王女は指で闘技場をさし、話を戻していく。
「ともあれ、見ていれば分かるますわ。ほら——」
闘技場の地面の上、銀糸が指をほどく。
薄紅を帯びた銀糸が夜気を拾い、輪郭のない網がふわりと広がっていく。
風が一段静かになり、観客のハルメリオスの騎士たちの息が揃う。
「いよいよ、ね」
私は石段の縁へ半歩出て、夜空に張り巡らされる銀糸の煌めきを、ただ静かに見据え始めた。
◇ ◇ ◇
※リアナ視点――リヴェローナ神楽郷辺境
祖国の山の冷気が、私の頬を撫でていく。
カイルとバラッドさんを、彼ら『星の港』の方々に預け、私は船を乗り替えを行い二週間、そこから私の祖国の大地を踏みしめ、徒歩移動と合同馬車で二週間。
そして今、私はリヴェローナ神楽郷辺境の林に、一人下り立つ。
焚火の前にひとり座る。闇の奥は静かだ。
「ぱちり」と火の音だけが、妙に耳に近い。
「カイル。……また変なことしてないかな」
口に出してから気づく。
どうにもこうして一人旅をしていると、自然と独り言が増える。
少し気恥ずかしくなって、私は一人軽く頭を振った。
朝まで火が途絶えないように薪の配置を調整する。
何事もなければ、明日には目的地へ到着する予定だ。
祖国リヴェローナ神楽郷。
そのリヴェローナ王城、星局建物の更に奥。
そこに、かつて自分の自室として使っていた、部屋がある。
そこには、この世界で調べうる限りの、ありとあらゆる『毒』について私なりに集めた資料があり、カイルと旅立つ前に、そっと誰も見ないであろう場所に隠しておいた。
「……もう、必要ないと思ってたのだけどな」
あの日、ノバル・ハンの港。
カイルとバラッドが、帝国の『マーガの星』に目の前で傷つけられたあの日。
――私はただ見ているだけで、何もできなかった。
そしてあの銀髪のシルバーという人に助けられた後、キャンディさんの治療の最中に別のマーガの星の民、ミルカという女性が吐き捨てた言葉が刺さる。
『守られているだけの女』
否定するように、ふるふると頭を振る。
でも今の私にはそれを否定する根拠が何も無い。
夜空を見上げる。木々の隙間に、星が瞬いている。
――星は、綺麗なのに。
星を掴むように両手を掲げる。
その手に握られたのは、この山で自生する、とある草。
その草を、私は焚火へ放り込む。
その草が火により熱を帯び、煙が立ち込めると共に、次第に周囲に甘い匂いが立ち上がる。
そしてそのまま私は、別の同じ葉を一枚だけ口へ運んだ。
「……私は毒の星。セーネ・マーガの星」
舌の上に、苦味が広がり喉が、身体が熱くなっていく。
呼吸を整えようとした、その瞬間。
林の闇の中で野犬の群れらしき、獣の影がいくつも揺れ始める。
いつの間にかこちらをうかがう目が、いくつも静かに光っていた。
その群れに火を掲げるべく、私は立ち上がる。
けれどそこから一歩踏み出す前に、草の気済む音が森に静かに響き渡り、影が一つ、また一つと崩れ落ちていく。
泡を零し、喉を鳴らし――野犬たちは、地面に伏したまま動かなくなっていた。
私は毒の星、セーネ・マーガの星の民。
空に掲げたこの手には、ただ夜の森の肌寒い気温だけが残っていた。
あとがき
ここまで読んで下さってありがとうございます。
更新再開でございます。
良かったらコメント、フォローしてくれたら、星の恩恵により、今年一年良い年になると思われます。
※今話登場キャラ一覧
◇ ◇ ◇
ルーシェ・カランディール
年齢:16歳
身長:165cm
髪型:明るい茶色、上げ目のハーフアップ、
瞳の色:茶色(太陽のような明るさ)
体型:グラマーな女性らしさを強調した体格
備考:シルバーの幼馴染であり、お世話係ポジション。
内心では好意あり。だけど基本的に素直じゃない為、本人もなかなか認めない。
ラスティーナ・マクガイア ※マクガイア王国王女
年齢:16歳
身長:160cm
髪型:紅(肩甲骨くらいまでのロングヘア、後部で編み込み)
瞳の色:藤色・藍色
体型:細身
備考:マクガイア王国王女。
セリア・ハルメリオス ※ハルメリオス騎士国王女
年齢:15歳
身長:168cm
髪の色:金髪ウェーブ
瞳の色:灰金色
体型:長身・鍛えられた身体
備考:ディオンの元婚約者
名前:リアナ・フィーネス
所属国:リヴェローナ神楽郷
年齢:16歳
髪の色:青紫のロング
体型:150cmの小柄体型
一人称:わたし/ぼそぼそ喋るタイプ
星の名:セーネ・マーガ
性格:おどおどしているが芯は強い。基本は大人しいが、カイルに対しては非常に許容度が高く甘える傾向も。カイルへのツッコミが追い付かず、あわあわする事も。
ダメンズウォーカー属性。
恩恵の内容:自身の血液等体液が毒となり、他者にとって極めて有害なものとなる。この毒は粘膜(目、口、傷口など)に触れることで効果を発揮する。
感覚を徐々に喪失させ、その後数分〜数十分で死に至らせる。




