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ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第一部 二章 引かれ合う星
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◆第二章1 『焚火は、静かに恋など許さぬ』

 ※シルバー視点――マクガイア王国、近隣村区の森林内、夜 

 火は静かに燃えていた。


 森の中、星の見える空の下。 王城から離れた村の近く。

 ――屋根の十字架が取れた、あの教会のそばに設営された仮設の野営地。


 訓練という名目で外に出た初任務は、今のところ平穏そのものだった。


「……訓練って言っても、これもう遠足だよなぁ」


 俺は薪を背もたれにもたれる様に、宙を舞う火の粉を見上げていた。


 焚火の中央には炎。

 周囲には簡易テント。

 警備の騎士たちは交代で見張りに立っている。


 けれどこの焚火の周囲にだけは、どこか緩やかな空気が流れていた。


「だから言ったのよ。王女がついて来た時点で訓練じゃなくなるって」


「ふふ……でも、こうしてお外で過ごすのも久しぶりです」


 火の明かりに照らされたルーシェとラスティーナ王女の横顔は、いつもと違って見える。

 旅装に包まれたその姿は、どこか普通の女の子達だった。


 三人で焚火を囲み、たわいない話が続く。

 遠くでフクロウが鳴き、火がぱちんと音を立てた。


 緩やかな時間。やがてルーシェがあくびを隠す。

 そして無言のまま立ち上がり、周囲を見渡しながら背伸びをしつつ俺に視線を向け、話しかける。


「ちょっと目覚ましがてら、少し近くを歩いてくるわ」


「おお……いってらっしゃいませ、監察殿」


「見張り交代までに戻ってくるからね。ついでに言わせて貰えば見習いよ」


 ルーシェが立ち上がり火から離れる。

 二人きりの薪の間。

 俺と王女の間に静かな沈黙が落ちた。


「……夜は、空が広いですね」


「王城からじゃあんな星も見えないもんな」


「ええ、普段は周囲の灯りで、星は遠くて……。

 でも今は近くに感じます。何だか凄く不思議です」


「ギグ・マーガの星ってのも、このどれかの星なのかね」


「……」


 沈黙は嫌じゃなかった。

 火の明かりに照らされる彼女の輪郭が、穏やかに揺れて見える。


 やがて王女が、少しだけ身を寄せてきた。


「……もう少しだけ、こうしていてもいいですか?」


「ん。火の近く温かくて良いしな」


 火を見ていた。けれど彼女の息遣いも近くにあった。

 心地よくも、気恥ずかしくもある時間が静かに流れる。


 互いに、視線を合わす事が出来ない。

 それでも何故か俺は彼女を、ラスティーナ王女へ視線向け、みつめるべきだと星が促した……そんな気がした。


 そう思い、俺は横へと視線を向ける。



「――もう少しだけこうしても、とはどうする事の話かね?」


 その時、なぜか目つきが明らかに俺を呪い殺そうとしている国王と目が合った。


「な、なぜここに……!?」


「父上!?」


 重たげな外套をまとった、アラン・マクガイア王。

 護衛騎士たちが一斉に立ち上がる。


「ラスティーナが星持ちを連れ出したと聞けば、父として動かぬわけにはいかぬ」


「そ、それは……!」


 ラスティーナ王女は顔を真っ赤にして俯く。

 その姿を凝視した王。そしてぎぎぎと首を回し、殺意の籠った視線を俺のほうへ向ける


「シルバーぁぁぁぁ……貴様ぁ……」


「いや、ちょっと待ってくださいね! 俺は何もしてないですからね!

 座ってただけですからね。見てくださいこの火! すごく安全!」


「……ぬっぎぎぎぎ、フン!」


 王が鼻息荒く、背を向けた――その瞬間。

 周囲に念のため張り巡らせていた俺の銀糸が、焚火からの上昇気流により不意に揺らぎ連動わるさするように反発する。



 ――その結果、何かに触れる銀糸。



 スパァン!


 アラン国王の……ズボンが爆ぜた。

 絢爛豪華な外套。威厳よろしく、下半身だけ縦じまパンツで。


「……シィィィルゥゥバァァァァ……」


 背中越しに聞こえる、マクガイア国王の重苦しい声。

 そして俺の背中に突如として滝の様な汗。


「……貴様ァァァァアア」


 そして振り返る王は……怒りの表情と重苦しい怨念まじりの声。

 その怒りの表情のまま、重く低い声を俺に発する。


「シルバー、貴様の糸は普段、ラスティーナのスカートばかり剝ぎ取ってるではないか!?

 何故に今回は私のズボンを切り裂くのだ……!」


 とりあえず俺は夜空を見上げつつ、こう言い放った。


「……フッ、夜の星にでも聞いてくれ」


 いや、本当にさぁ……この俺の星は、本当に見境ないのなぁ

 ちなみにここまで、そして過去の王女のスカートの件についても『俺は何もしていない』

 勝手にこの糸が何かの拍子にしでかしてしまうのだ。


「お父様! わ、私がシルバー様の都合の良い女だとでも思っているのですか!?」


 ……おぉぅ、何時もの事ながら、相変わらず王女様の反論は意味判らんぜ。

 とりあえずどうしたもんかと考えている所へ、何故か親子喧嘩が始まる。


「落ち着けラスティーナ、そもそもそんな事言ってない!」


「言ってるも同然ですわ! 父上のせいでシルバー様が困ってます!

 こっこここ、これまでの事も、シルバー様は真剣に私との事ををお考えになっておりますわ!

 そ、その証拠に……私のスカートを優しく脱がせてくれた後にいつも……きゃっ♪」


 フッ……助けてルーシェ。

 そもそも、俺は本当に何もしていない。


 というか、優しく脱がしたというよりは『糸が勝手に暴走して、ハギトール・キリサーク・メクリアゲール』なのが殆どな訳だが……。


 ちなみにルーシェは、少し離れた場所から俺を冷たい目で見つめている。

 やってくれるぜ、俺のこのギグ・マーガの星はよぉ!


「――シルバー貴様、娘に何をしたああああああああ!!」


 王女の言葉に激高するマクガイア王。

 頬を染め、キャッキャと頭を振りながら独り言を零している王女。

 周囲の護衛騎士、視線を反らしながら沈黙。



 俺はもう既に、暗い森を駆け抜けるように走っていた(逃亡)




 ◇ ◇ ◇

 ※シルバー視点――マクガイア王国、近隣村区の森林内、明け方 


 夜が明けきらぬうちに、王より帰還命令が下される。


 その命により、護衛団は即撤収の準備に取り掛かっている。

 テントがたたまれ、焚火には水がかけられた。


 その中で、ラスティーナ王女は一人、焚火跡の横に佇んでいた。


「……もう少しだけ、このままでいたかったのに」


 その声を、俺は遠くで聞いた気がした。

 馬の準備を整える護衛たちの間で、王の影がゆっくりと王女に近づく。


「……あまり、彼に心を寄せるな」


 王女の肩が小さく揺れた。しばしの沈黙。


「ギグ・マーガの星を持つ者が……どれだけ生き残れたと思う?」


 声は静かだったが、重く響いた。



「過去、幾度となく繰り返されたマーガの戦い。

 そのすべてで、ギグ・マーガの星の民が生還した例は、一つもない」



 王女は何も返せなかった。

 王もそれ以上は語らず、背を向けて歩き出す。


 その背には、威厳。そしてどうしようもない現実、それを背負う者の痛みが滲んでいた。

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