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ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第三部 序章 星の港
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◆第三部 序章1『星の港』

 この世界には、幾つもの国と文化があり、夜空には数えきれぬほどの星が瞬いている。

 その星は時に、選ばれた者のもとへ舞い降り、恩恵と代償を与える。


 マーガの星の民――授かる力はひとつとして同じではない。


 不死

 破壊

 喪失による成長

 因果操作

 病

 思考加速


 視線、呼吸拘束

 毒

 複製

 罠

 火毒

 幻影


 祝福と呪いをあわせ持つその存在は、国境も立場も越えて互いを引き寄せ、時に出会いを運命に、そして宿命へと変えていく。


 港で交錯した五つの星。


 星断ちの剣を掲げる者。

 そしてその剣に寄り添う者

 復讐のみに命を灯す者。

 夜空を乱す仇の者。

 守るべき者の為に、心を凍らせた者。


 それぞれの想いが夜の海でぶつかり、剣戟の火花と共に、物語は次の局面へと移ろい始める。



 天上から舞い降りる、一輪の銀。



 確かに、物語は動き出していた。

 星々はまだ語らない。


 けれどその光は、誰も知らぬところで新たな縁を結び始めている。


 第三幕――


 それは、銀糸の軌跡が織りなす『星の港』に集う者達の、祈りと交わりが紡ぐ、新たな群像劇である。




 ◇ ◇ ◇

 ※シルバー視点――ノバル・ハン国港


 ド ガ ア ァ ァ ァ ァ ン !


 地面への激突、おのれギグ・マーガのクソ星め。

 今度あのハゲに会ったら、こっぴどく説教してくれる。


「せ、せめて美女の前では格好良く行きたかった……」


 俺は呻くように呟き、ゆっくりと立ち上がる。


 何とか間に合った。

 だがしかし颯爽と登場して美女を救い、ドキがムネムネ計画――そんな華々しい未来予想図は、見事に木っ端みじん。


 原因は簡単だ。

 落下のどさくさで、自分の銀糸に絡まって……爆ぜた。

 落下の衝撃で、ついでにズボンも爆ぜた。



 間違いない、全部ギグ・マーガの星の、あのハゲ神が悪い。



 結果、港の夜を照らす銀月の下。

 この俺、美男子、人呼んで。


 『銀月に唄う夢一輪、シルバー・ヴィンセント』


 月に栄える銀髪、美男子にのみ許された黒いロングコートに黒い服、そして黒いマント。糸を繰り出す赤い手袋、母より受け継いだ銀糸に、姫より貰った紅銀糸。



 ――そして下半身だけパンツいっちょ。



 落下の衝撃で殴打した頭部、そこより流れる血が徐々に止まる。

 肩の骨折も、裂傷も身体から噴き出る蒸気と共に、自然に癒えるこの星。


 全身から蒸気を吹き上げ、傷が癒えていく最中という、異常事態フルコース。

 傍から見ればただの怪しい生物だろう。


 ……二枚目の肉まんとは、まさに俺のこと。


 シルバー・ヴィンセント。ギグ・マーガの星。

 つまりこの俺の星。


 それでも手は止めなかった。

 銀糸を繰り出し、帝国の少年の様な見てくれの剣士の、剣ごと全身を縛り上げる。

 ぎりぎりと音を立てて糸が食い込み、相手の筋肉が隆起し、食い破らんと膨れ上がる。


 顔は歪み、今にも飛び掛かりそうな獣の表情の小柄な剣士。


 後方では、金髪の兄さんが息絶え絶えに倒れ、紺色の髪の美女が震える腕で抱きしめていた。彼女の声はか細いが、その眼差しの切実さは痛いほど伝わってくる。


 俺の格好良さ計画なんて、塵あくた。

 守るべき優先順位は明白だな。


「帝国のマーガの星の民よ、最早決着はついた。

 ここまでで良いんじゃないか?」


 声を張り、糸をさらに締め上げる。

 しかし返ってきたのは冷たい声だった。


「……ふざけるな。その蒸気と傷の回復……お前も何かのマーガの星の民か?」


 鋭い瞳が俺を射抜く。怒りと殺意に染まった光。

 年は俺とそう変わらないはずなのに、その眼差しは幾度も修羅を潜ってきた者のそれだった。


 まあ、疑うのも当然か。


 目の前で蒸気を撒き散らしながら傷口が勝手に塞がる美男子なんて、普通いるわけがない。マーガの星の民――そう断じられても仕方がない。


「……ったく、ここで見逃してくれたほうが、楽だと思うんだがな。色んな意味で」


 ため息交じりにそう告げると、背後から鋭い叫びが響いた。


「カイル!? カイル! やだ、息が……止まっ、いやあああ!」


 紺色の美女が、必死に金髪の兄さんへ呼びかけている。

 その声に、胸がずしりと重くなる。


 ……下らんことを考えている暇は無い。

 とにかく、あいつを急いで『あの野郎』の元へ運ぶのが先決だ。



 ◇ ◇ ◇


 俺は深く息を吐き、再び糸を繰り出した。


 この場を発つ準備を整えるため、周囲に目を走らせる。

 倒れた金髪の兄さん、泣き叫ぶ紺色の髪の美女、そして少し離れた場所に佇む仮面の何者か。全員まとめて、俺の銀糸で引っ張り上げるしかない。


 三人を繋げ、移動を可能にするために、指先から糸をさらに奔流のように解き放つ。胸の奥で、苦しげに呼吸する金髪の兄さんを横目に見て、心の中で呟く。


 ……もう少し頑張ってくれよ。


「……ここは一旦任せるぞ『剛剣』! こいつらを送ったら速やかに戻って来る!」


 声を張り上げた瞬間だった。

 横手の倉庫が轟音を伴って吹き飛び、土煙と破片が空を舞う。

 その衝撃と同時に、俺は銀糸を躍らせ、周りの面々を一気に夜空へ舞い上げる。


 煙の中から姿を現したのは、俺よりも一回り大きい、巨漢の剣士。

 肩に担がれた大剣の重みに、地面が軋む。



 ディオン・バルザス。

 ギ・ガ・マーガの星の民であり、俺の戦友。



 俺の星と似た名前の、ギ・ガ・マーガの星の民。


 星局曰く『マーガの星同士が対峙した際になる、シリアスモード。そのシリアスモードになると、マーガの星の民は身体能力や反射神経等が向上するが、このギ・ガ・マーガに至っては、その向上値が異常なほど上昇する星』


 言い換えたらブチ切れたら一番おっかない星。

 何だかんだ、俺が知りうる限りの星の中で『現時点、戦闘に於いて最強の星』である。


 その大きな剣を担ぎ、マーガの戦場に立った時点で戦場の形を変える星。

 そして俺と同い年の16歳なのだが、むしろその年の子が居てもおかしくない見た目である。



「ぶはぁ……流石に疲れたぞ銀糸……いや、銀パンツ」



 息を大きく吐きながら、俺の姿をそう評してきたディオン。


「……ディオン、絶対に無理はするなよ」


 釘を刺すように言葉を投げると、彼は不敵に口元を歪め、手で俺たちを払う仕草をした。その無言の合図は、早く行けという促しだ。


「……早くいけ、そこの金髪、いよいよやばいぞ。

 さて……テオブルグの剣士の小僧、選手交代じゃな」


 金髪の兄さんの顔色はさらに青ざめている。

 このままでは命の灯が消えるのも時間の問題だ。


 俺は糸を広げ、三人をまとめて夜空へ走らせた。

 夜風を切り裂き、銀糸が描く軌跡に沿って目的の場所へ急ぐ。


 そこにいる。

 このマーガの星、青年の命を救える唯一の存在――イリョ・マーガの星の民が。


 ◇ ◇ ◇

 あとがき


 第三部開始します。


 そして読んで下さってありがとうございます。

 更にコメント、フォロー等してくれたら、マーガの星の恩恵により、明日の世界がほんの少し平和になるかもしれません。

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