11話 試食
トイレ休憩の時間、速攻で会社の自販機に駆け込む。ちなみに俺は甘いコーヒーしか飲めない。
「がっ……、ぜ、全滅……!?」
加糖コーヒーが全て売り切れていた。
くっ、俺にこの眠気と戦えというのか……!
「いえ普通に無糖コーヒーにガムシロップ加えればいいじゃないですか」
しれっとユウネが透明化を解除している。
会社員のコスプレをしている。
ガコン。
ユウネはコーヒーを買って、開けて、ガムシロップを投入する。
「はいどうぞ」
「ごくごく。美味ぁ!?」
「特製のガムシロップです」
「待て、これ異世界の素材を使ってるな?」
「はい」
「喉に流れるこの不思議な感覚……今なら掴めそうだ! 魔力操作!」
ぐるぐるぐる。
自分の中の魔力が、自分の意思で動いているのが分かる!!
カバンから『魔力操作大全』を取り出し、魔力を流す!
キタ! 本が一瞬輝き、中の文字が日本語になった!
「うおおおお!!!」
「うるさいぞ紐之! 休み時間はもう終わってるぞ!」
「あっハイ」
せっかく『魔力操作大全』を読もうとしたのに、やってきた上司に水を差された。はいはい今行きますよっと。
◇ ◇ ◇ ◇
もぐもぐ。
試食品だが、はっきりいって微妙。
いや、違うな。
ユウネの料理が美味すぎて、それと比較して霞んでいるというだけの話。
一般的な商品としてのレベルには到達している。
しかし、味が微妙だな。
仕事だから食うが。
ただ食べるだけでなく、評価項目が1商品につき50項目くらいある。それが16商品。
けっこう大変だ。
一口食っただけで、それを評価しないといけない。
まぁ、俺たちの評価はあくまで参考程度のデータなのだが。
俺は早く魔力操作がしたい。
こんな仕事さっさと終わらせ美味ぁぁあ!!?
「え? 何だこのハンバーガー」
「当社秘伝の冷凍技術で、解凍後も本格的な味わいとなっております」
値段がクソみたいに高いが。
まぁ、物好きの金持ちには受けるだろうか。
値段以外の項目は満点、っと。
「……」
評価シートは、商品ごとにその担当者に渡すことになっている。担当者の女性は終始ニコニコだ。何というか、笑顔が顔に張り付いているような、不自然さがあった。
「……」
担当者へ評価シートを渡すと、それに目を通すことなくクリアファイルにしまい込む。
何だこの人。まるでアンドロイドみたいな……いや、失礼だったな、多分仕事モードの顔なのだろう。そりゃ張り付いたような顔にもなるわな。
俺はそそくさと、次の商品に向かう。
うっ、マズ……さっきのハンバーガーの後に食べると妥当な評価が出来ないぞ。




