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第46話 アユちゃんは見た その2

唐突に始まります。

のあちゃんと別れて温泉に突入です。




 ♨マークの暖簾をくぐると靴を脱いでから男女に分かれてます。言いたかないですが安普請。大急ぎで形だけ作った感じです。まあ、1と0では比較対象にはなりませんよね。あれば御の字かあるだけましか、そんな感じです。

 肩まで掛かる髪をまとめて湯浴み着に着替えます。靴棚はベニヤで作ってありましたが、脱衣室には温泉で良く見る鍵付き棚です。

 アユちゃん服と商売道具を放り込んで、色々積んである中からテキトーに湯浴み着取って着ます。胸がフリフリしていて、割と大きいのも目立ちません。

「あっ、ポケットがある」

 フリフリの胸の間がポケットになっています。一応音声レコーダーを持って行く事にしました。まだオフです。

 一度知りたい事を整理して、温泉に突入です。

 単純炭酸泉って臭くないのが良いよね。

 おおよそ三〇人位のおっちゃんおばちゃん、じっちゃんばっちゃんです。まあ、女が多いよね~。男性陣は肩身が狭そうです。

「あれ? 若い子だね」

「この時間若い子は来ないんだけど」

「お嬢ちゃん、どこから来たの?」

「うーんと、ロイター通信からと答えるのがフェアですね」

「イギリスの通信社の?」

「そうです。今はカナダ資本ですけどね」

「ふーん、それで医療研究を調べに来たの?」

「いえ、中級ダンジョンを調べに来たんですが、こんな事になってました」

「そりゃ儲けたね」

「ホントです。後、みなさんが非常にオープンなのに驚きました」

「ああ、ウチらにも、一切口止めはして来ないね」

「研究者のみなさんは、レクチャーしたくてたまらない感じでした」

「俺らにも、きちんと研究内容を教えてくれるな」

 うんうんうなづき相ます。

「それで、音声レコーダー、オンにして良いですか?」

「何が聞きたいの?」

「みなさんの病気とか、どんな関係で参加したのかとか、そんな感じです。ここの最大の謎は物流ですが、どうも、証拠を示さないと、お答えいただけないようで」

 みなさんそれぞれ見回して、やがてうんうんうなづきました。

「そん位の事なら良いよ、スイッチ入れな」

 お胸のポケットから取り出して、スイッチオン、男性陣の視線が向くのは致し方ない事でしょう。

「寒いので入りますね」

 じゃじゃっと汗だけ流して男性陣女性陣の間に入ります。レコーダーは手に持ってます。

「ああ~」

 やっぱ出るよね~。みんなそんな顔。

「大変な道を来たので堪えます」

「やっぱそんな道かい?」

 チョイチョイ小突かれてます。

「広いのは災害復旧したとこばかり。狭いしうねるし、予約通りにSUV、まあライトバンですね、それでくれば、今頃民宿でヘタってます」

「山奥とは聞いてるけど、そんなにかい?」

 やっぱり小突かれてますが、どっちも応じません。バックレればどうしようもありませんからね。

「ダンジョンの中に入ると、そんなの全く感じませんが、標高1600メートルですよ」

「「「「「そんなに高いの!」」」」」

「高いんです。聞いても教えてくれないみたいですしぃ、もう良いですけどぉ、もう少し取りつくろいましょうよぉ。自衛隊さんも笑ってたし、こっちの方が呆れちゃいます!」

 アユちゃん呆れ顔、みなさんバックレてます。

「ロイターさんって言ってたけど、鮎川桃子さんじゃないのかい? 春まで釣り番組二本持ってた」

「鮎川桃子は引退しました。これまでの応援、ありがとうございました」

「何で?」

「社長との路線対立です。アイドル路線を押して来たので拒絶しました」

「アンタ美人だし可愛いからね、あたしゃどこのアイドルかと思ったよ」

「釣り船のアイドルはやってましたけどね。元は釣具メーカーさんに声を掛けていただいたので、社長とメーカーさんの対立になってしまって」

「ああ、居辛いねぇ」

「最後はケンカになって辞めるって啖呵切りました。まあ私の事は良いんです!」

「それじゃあ、何て呼べば良い?」

「契約上鮎川桃子は名乗れないので、本名生駒歩美でやってます」

「アユちゃんかい?」

「親しい方はそう呼ばれます。って、だから私の事は良いんです!」

「それで、アユちゃんは何から聞くんだい?」

「いつここに来ましたか?」

「9日の土曜だ」

「俺は月曜だ」

「昨日です」

「アラ、散けているんですね。えっと、それじゃあ、一般的な慢性疾患を抱えている方は手を上げてください」

 半分よりは多い感じ。まあ6割って所でしょう。

「その方は、9日土曜日ですか?」

 口々にそうだと肯定の声です。まあ、色々な言い方がある物ですね。英語ならYesでくくれるんですがね。

「その方は、誰から依頼されましたか?」

「家族だよ。身元がしっかりした人がいるってね、たいてい公務員の家族だよ。俺の場合は娘だよ」

「皆さんも同じですか?」

「似た様なモンさ」

「そうそう」

 うなづき相うのは比較的元気そうな人達ですね。

 いかにも気だるげな人達は見回すばかりですよ。

「それじゃあ、後の方は大学病院の先生の紹介ですか?」

「俺はそうだよ」

「私もです」

 見回すとやっぱりうなづかれます。

「俺は抗がん剤投与が終わった所でね、まずは1月、ダンジョンで取れた物を食べて経過観察。1月後からは、ダンジョンで暴れながら経過観察だそうだ」

「病気は違いますが、治療方針は同じですね」

「病気を伺っても?」

「ギラン・バレー症候群よ」

「えっと、何か感染症の後遺症でしたか?」

「そうらしいわ。体が怠くて手足が痺れるの。手の上げ下げも必死よ。血液浄化療法がイマイチ効果がなくて、免疫剤の大量投与を薦められたんだけど、大量とか言われると怖くて。そしたらここを紹介してくれました」

 確かに話すのも大変そうです。結構重い方かもしれませんね。

「僕はALSで家族、父さんの進めで来ました。父さん国会議員なんだ」

「ALS、ホーキング博士が掛かった病気ね。ええと、うんと、筋萎縮性…側索硬化症、だったかしら」

「難しい病気かい?」

「まだ、完全に治せる治療法は発見されてないって」

「進行速度はそれぞれですが、最終的には呼吸困難で……」

 アユちゃん最後は濁しました。一般的には呼吸停止で死亡、心筋停止で死亡、どちらかですね。

 でも、ここでただ一人の少年の表情は明るいです。

「ここの組合長さんが、ダンジョンで闘えば、症状だけは必ず改善するって!…ううんと、長くなるから、組合長さんに聞いて!」

「庭田組合長、あのゴッツいラガーマンね」

「目もだいぶ良くなったって!」

「なるほど、取材のしがいがありそうですね」

 勿論アユちゃん、無計画では来てません。ちゃあんと組合長のプロフィールだって調べてます。

 代表2戦目初先発のゲームでアクシデント、眼窩底骨折。練習復帰もタックルに行けず、スッパリとラグビーを引退。社会工学科を大変優秀な成績で卒業し院ヘ。前期を終えた所で、『博士論文に相応しい事例がないから作って来る』と休学。故郷で合同会社を設立。

 アユちゃんまさかの後輩でした。全然被ってませんが。アユちゃんは卒業したての22歳。卒論後、暇だろうと歌のレッスン入れられて、ついにブチ切れました。

 まあ、そんな縁で、『バカみたいに優秀。送って来てる論文でこっちが勉強させられる。現時点、十二分博士号は可能』指導教授が同じだった助教の言葉です。

「ここで不自由はありませんか?」

「出られないのを置いとけば、驚くほど自由だよ」

「朝昼晩、食事と検査があるけどそれだけ。ただ定時なんだ」

「チャッチャと強くなりたいのに、データが集まるまで待ってって。早く無双したい!」

「協力金がビミョーなんです」

「詳しく伺っても?」

「1日12,500円で、食費が2,500円。ランドリーが300円。テントと言っても個室にベットにテレビ、ちゃんと病院の個室レベルよ。食事も立派だし妥当かなとも思うんですが、店閉めているので、そちらの経費を差し引きすると片手は軽く切るくらいになるんです」

「それでも参加されたと言う事は難病ですか?」

「難病と言えば難病。癌だし難病だけど難病指定はないんです」

「ううん、もう少し突っ込ませていただいても?」

「多発性骨髄腫瘍の再発。進行抑制薬はあって効いたんです。でも、それじゃあ夫の子供は産んであげられない」

「すいません。不勉強なようです」

「俺聞いた事があるよ。俺もガンだからさ。サリドマイドを始めとした催奇性の高い薬が多いとか」

「なるほど。サリドマイド事件のサリドマイドですか。催奇性が強くて、妊娠中は使えませんね。確か、妊娠初期こそ障害が強いはずですね。あってます?」

「あっているわ。他にも薬はあるんです。でも、副作用が強過ぎてだめでした。その結果の説明受けた時にここの話を聞いて、飛びつきました。全く海とも山ともつかないとは言われましたが、年齢的に最後のチャンスになりそうで。でも、妊娠出産まで考えると…閉店かな…」

「お店はどのような?」

「割烹居酒屋よ。常連さんには頭が上がりません」

「なるほど、ここで料理はされないので?」

「それは掛け合っている所です。組合長さんには快くOKいただきました。でも官僚さんがちょっと待ってって。だめと言うよりも、想定外みたいですね。もっとも、機材も食材も当てが無いですが」

「昨日、のあに頭下げてたのはそれかい?」

「そうです。もしかしてお父様ですか?」

「そうだよ。俺みたいのからあんなのが生まれるとは思わなかったなぁ」

 遠い顔してます。お父さんもおしゃべさんみたいですし、頭が良くないって思ってそうです。

「まあ、ここは手持ち無沙汰でいけないね。観光名所もこうも季節感が無いと疲れるよ」

「ああ、それはあるね」

「なるほど。皆さんは如何ですか?」

「確かに頭がバカになった気がすることがあるな」

「そうそう。何て言うか、頭が理解を拒否するみたいな」

 皆さんうなづいてます。

「ここ何て桜並木の隣にもみじ林でしょ。振り向いたとたんにポカンてなるよ」

 神様達、不評ですよ~。

この迷作誕生過程もあって、かなり社会派のこの作品、アイも変わらず読者様に投げっぱなし。

最低限フォローすると、

ギランバレー症候群は書いたまま

ALSはひろくパーキンソン病と言われる物の一つです

多発性骨髄腫は字の通り全身性の骨髄のガン。根治の難しいガンの一つです

サリドマイドは睡眠薬です。多発性骨髄腫の進行抑制剤としてのサリドマイドの発見で、5・10年生存率が劇的に上昇しました。サリドマイド事件は社会的な問題になりました

以上です。

これ以上は自力で調べて下さい。


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