第38話 タンザニア政変? その2
『いらっしゃいヒナタ、歓迎するよ』
生物学博士のサイダ・カロリ、ヒナタの共同研究者です。師事もしていますよ。専門の環境生態学が丸被りですからね。ゴロンゴーザ国立公園のリカオン再導入プロジェクトにも携わる、アフリカ第一線の…オバチャンです。今はここに居を構えて研究中です。
『ヒナタのおかげでしばらく美味しい物が食べられるね』
『そうだよヒナタ、良くやった』
『それほどでもあります』
所長の奥さんで台所を一手に引き受けます。そんでやっぱりオバチャンです。大阪のオバチャンみたく飴玉はくれませんが。
『でも、肉も食いたいのよ、どこかのダンジョンに良い肉ないのかい?』
『マサイ族の村には、穴ウサギはいるんです。ここには出ないんですか?』
『いないんだよ。スロープの上に出るネズミがモルモットだから、肉はあるにはあるんだよ。でも食いでがない』
『6階にね、カピバラとイリエワニもいるんだよ。ちっちゃいけどね。湿原地帯でね。でね、ピラニアがいるのよ。男ども怖がっちまって、まったく意気地のない』
『いや、それは怖いでしょ』
『臆病者が来たよ』
『好き勝手言いくさって…。ヒナタこのビニール袋の白いのは何だ』
『塩よ。「藻塩」じゃ通じない。「海藻塩」ハーブソルトの海版。美味しいけど、まだまだね。あっお魚、塩干ししてるから加減みて』
『分かったよヒナタ、その塩もかしな』
奥さんは袋を受け取るとおもむろに開いて指をツッコミます。
『ふむ、ただの海塩よりは美味いね。ちょっと渋苦いね。後、香りが良くないよ』
『どれ』
博士が続きます。
『んんん、風味は違うけど安っいハーブソルトね』
『『『それじゃ俺も』』』
レンジャーさん達も参戦です。
『うん、美味しいけどちょっと渋えぐい』
『美味しいけど、香りってより臭い』
『美味いッスよ。海藻の旨味は出てるッス。でも、灰汁まで出てるは…違うッス。火が通り過ぎてえぐ味苦味が出てるッス』
『君達の舌が博士より肥えてるのは分かった。はあっ、先は長いわね』
『ゆうじゃないかヒナタ』
博士が臨戦態勢に移りますが、ヒナタは取り合いません。手をヒラヒラとさせて『また美味しい物持って来るから』と、これで博士はご機嫌です。チョロいですね~。
『レンジャーさん達、火山灰取りに来た人いる?』
『一組いるぞ』
『渡したの?』
『手土産持って来たからね』
『なら良いのよ。でも、何ももらわずに渡したらダメよ』
『勿論だ! ヒナタ、その辺りは君の方がお人好しが過ぎるだろう』
『うう、何も言い返せない』
アフリカの人達って、非情にシビアで、現実的ですよね。お人好しがカモネギ背負ってる日本人とは違います。神話由来の寓話でも、人の裏をかく事を教えますし。
兎に角気合いを入れ直して告げます。
『たまたま、色々な正解の高いの情報を集められるルートがあるの。その情報によると、表札(神額)と同じグループがダンジョンの管理する力を持ってるの。『お前に何かやらん』って引きずり出すと、ダンジョンに喰われるわ』
『ダンジョンの占有だな』
『そうね。でね、対価も無いのに持って行くヤツには、『はいはい、落ち着こうね。ここは我々が管理してるから、ちゃんと対価を持ってくれば歓迎するよ。今日はもう帰ろうか、明日またおいで』、と言って追い出してもダンジョンは動かないわ』
『『『『『『何だってぇ!!』』』』』』
『うるさい!』
『どう言う事!』
『どう言う事かは知らないわ。実際にそれでダンジョンに喰われて無いだけよ』
驚愕です。結構このトラブルでダンジョンに喰われたケースは多いのです。それが回避出来れば、ダンジョン開発が現実味を帯びて来ますよ。
『実際に、私自身の知り合いがこれでダンジョンを回してるわ。そこから始まって、もう百件以上知られた確立?された情報よ』
『確定ね。その知り合いの名前は?』
『庭田栽由、この名前でダンジョンスマホで検索すると色々な情報が手に入るから、おすすめよ』
『ちょっと前に、上級ダンジョンとかで話題になってた人?』
『そうよ。その後も、何かとんでもない動画で話題だった人』
『「組合長の戦闘動画:参考にはなりません」シリーズッスか』
『そうよ』
『あの無茶苦茶な人か』
『無茶苦茶…何となく意味が分かる』
「unreasonable」
「mixed-upッス」
『分かった。無茶苦茶な、物理的な理不尽ね』
『そんな感じッス』
『どう無茶苦茶なんだい』
『100キロくらいで走り回る穴ウサギを片手で捕まえてた』
『身の丈より大きい穴ウサギを正面から体当たりでぶっ飛ばしたッス』
『10頭くらいのヨコスジジャッカルにたった一人で無双しやがった』
『何かネコ科の動物を手懐けるように踏ん縛って、5階へ連れてってペットにしてた』
『クーガーね。ペットにはなっても、捕食習性は消えなかったから、7階に戻したって言ってたわ』
『あれもわけ分からんぞ。中型の家禽をバールで捕まえて、カウボーイロープで縛って首落として、そのままロープ振り回して血抜きしやがった』
『どこの蛮族よ』
アフリカの生物学博士から蛮族認定いただきました。
『それ、弾丸穴ウサギバージョンもあるッス』
『イノシシ?蹴り倒してたのも凄かった。正面から回し蹴りで首の骨へし折ってた』
『そいつは人間かい? どうやったらイノシシの首の骨が折れるんだよ』
今度は人類外認定いただきました。まあ普通、イノシシが吹っ飛んでも首の骨は折れません。イヤ、マジで!
『そいつ曰く、『銃に何か頼るな。銃で倒しても、結局火薬の力だ。ダンジョンで強くなりたいなら、蹴り付け殴り付ける事を恐れるな』、だそうよ』
『確かにその物のだけどねぇ、…はあっ、人間辞めたくはないねぇ』
『同感です』
『ひどい言われようね…』
体はゴツイですが、普段はシュッとして紳士的ですけどね。体動かすと、どこのバーバリアンかって感じですが。
『まあ、その凶人は置いおくとして、ダンジョン開発が出来そうなのは分かった。それの中心にここや他の所の火山灰が座りそうなのもな』
『それよ。火山灰性モルタルの試験がやりたいの。「耐圧性」とか「振動耐性」とか「水密性」とか「蓄熱性」とか「放熱性」とか、本格的なやつ』
『どうやってだ?』
奥さんは難しい話は遠慮するよと厨房へ。勿論、塩やお魚持ってです。
『それよ。ここに型持ち込んで固めてから持ち込むか、火山灰で持ち込むか』
『ヒナタ、それは両方やる、だよ。持ち込むのも、検査会社と大学とにね』
『そうか、その方が良いのか』
『他の所の火山灰も試験して、ダンジョンによって違いが無いかも調べないとね』
『そうなのよ。その伝手が無いの』
『大学は引き受けるよ。でも他はねぇ』
『検査会社は問題無いでしょうけど、他のダンジョンはねぇ』
『正面からもらいに行ったら?』
『それじゃあ、こっちで検査料とか負担することになるわ』
『それはそうかもな。日本には火山灰が取れるダンジョンはないのか?』
『今の所、聞いた事が無いわね。日本だと国中にコンクリートインフラが出来てるからね、「石灰石」が取れるようになってるみたい』
『なるほどな』
『なら、ここみたいに、資材会社が近くに無い所のダンジョンに、火山があるって事ッスか』
『そうだと思う』
『つまり、資材会社に頼るって選択肢はないんだね』
『その様だな』
みんなうなずいています。
『何でここなのかな?』
『曲がり形にも道があるからだと思うわ』
『ヒナタが回ってる範囲じゃそうなるわな』
『町に出来なかったのは何でッスか?』
『地球の開発は抑えたいからじゃないかい』
『多分そうじゃないかな。人口はかなり減ったはずだし、気安く開発はさせたくないんだと思う』
『なあ、ダンジョンって大丈夫なのか?』
『それは所長も言ってたけど、付き合って行くしかないの』
『今ここにいるのは土着信仰ばかりだが、パトロールに出てる奴らにはムスリムもいる。正直、殺気立ってて怖い』
『それかぁ』
ヒナタが天を仰ぎます。
自分が信仰する神様じゃなく、悪魔と定義しているモノが現れて、勝手に作ったのがダンジョンです。それなのに、ダンジョンからは神性を感じてしまう。一神教にとっては、信仰の根幹を破壊しています。一神教がメインの国の世情が荒れているのは、この事から来る情緒不安定が原因の一つではあるでしょう。
ミックスにミックスを重ねた宗教がほとんどで、思考回路もそれに合致する物を持っている日本人には、中々理解できませんが。宗教が思考方式や言語に大きく影響しているのは周知の通りです。簡単に解決する問題ではありません。
『どうにか何ないッスかね』
ヒナタはお手上げポーズで、
『それはもっと人生経験豊富な人に聞いて』
とかわします。
博士に視線が集中しますが、
『アタシはただの研究バカだよ?』
の声に、
『所長の方が人生経験は豊かよね』
とヒナタ、やんのかオラァのポーズを博士が取りますが、ヒナタもレンジャーさん達も取り合いません。ただのポーズだとばれてますからね。
正直、多神教にとってのこの現実と、一神教にとってのこの現実は、あまりにも違っていて、理解が追い付かないのです。仏教ほどではなくてもこの辺りの土着信仰も、ミックスを重ねた宗教で、分かり安く言えば、宗教哲学とか知った事じゃないのですよ。ご存知ですか、サウジとかUAEとか、大学卒業者の学位の9割近くがイスラム哲学なのです。まあ正直、このご時世では言葉は通じても会話は成立しないかな、ダンジョン回りでは。ムスリムは、信仰と宗教哲学が一直線です。
とは言え、ダンジョンを活用した原理主義テロ組織が出た以上、一般教徒にも適応してもらいたいところです。
『まあ成るように成るでしょ』
『それで閉めるのかい』
『だって分かんないもの』
『分かんないッスね』
『分からないよ』
『分からんなぁ』
『しょうがないねぇ。私にも分からないよ』
みんなお手上げです。こればっかりはね、相手もありますし。
『ヒナタは今日は帰るのかい?』
『ダンジョン覗いてダンジョンに泊まって行くつもり。あっ、小母様! 夕飯お相伴になります』
『ああ、あがって行きな。でも、ちゃんと時間に帰ってこないとなくなるよ』
『分かってまぁす。それじゃあ行って来ます』
『『いっといで』』
『『いってらっしゃい』』
『いってきな』
また手をヒラヒラとやって颯爽と出て行きます。
見ての通り逃げました。
だって分からないです。
そのクセ、オッチャン(実はヒナタより年下)はイスラム発言止めないし。
弱りました。
弱りました。結果、逃げました。
少なくとも、この形では、一神教は語れません。
次話を、傍若無人に暴れ廻ろうとするヒナタは、何とか女バーバリアンルートを回避。最終部と合わせて調整中です。




