第32話 勇気、怪物を知る
「うわぁ、ホント凄いなこの人」
『国立競技場跡』ダンジョンの6階安全地帯で、小鳥遊勇気は、ダンジョンスマホ片手にオニギリをパクついています。ダンジョンスマホで買ったヤツです。コンビニの安い方のオニギリより美味しくない。一昔前のコンビニオニギリはこんな感じ。とりあえず、米の味がびみょーですね。
で、何見てるかって、『組合長の戦闘動画2:参考にはなりません』です。SNSで『#内のダンジョンは上級かもしんない』と言う話題の動画を編集した物で、彼らの企業ホームページの特集動画です。
2メートルの大男がバールと一間棒持って暴れてます。パワーファイターですが俊敏で、ラグビー独特のステップを踏みます。この大男よりも大きなウサギのアタックをフェイント誘導して華麗にカウンターアタック、バールの釘抜きを頭に叩き込みます。これで『ブヒィ!』とウサギは死んじゃいます。そのままカメラの方に突っ込んで行きフレームアウト。カメラを向けた時には大山ネコ?(後にクーガーと判明)を倒してます。
勇気は考えます。
俺に同じ事が出来るだろうか。
……無理じゃねー。
勇気が身に付けた歩法だと、こんな大きなウサギにはどうしても斜め後ろに避けてしまいますからね。どうしたって距離が離れてカウンターは側面までしか届きません。長物を使っていない勇気では、一撃何て無理ゲーです。
「タイトルはウソじゃ無いか」
『参考にはなりません』ですからね。
まあ、あんな、多少なら当たったって平気、みたいな戦い方が出来る人間、あんまりいないでしょう。それこそ、プロレスラーとかラガーマンとか、当たる事も仕事の内、みたいな職業じゃないと無理じゃないかなー。
更に参考にならない動画は続きます。
大男が言う30キロのウサギ、さっきのヤツですが、そいつがトップスピードで突っ込んで来るのを、『オリャ!』てこっちも突っ込んで吹き飛ばし、追撃して仕留めます。
こいつ人間か?
『ちゃんと物理学で考えよう。いくら30キロの物体でも、飛んでいる時に下や横から当たってやれば大した事はない。ウサギはデカくなった分遅くなった。時速45キロ位だろう。しかも、空気抵抗で減速しながらだ。なら、下からぶつかってやれば弾ける』
確かにお相撲みたいな態勢からぶつかってましたが。
『そりゃ2メートル、130キロならそうだろうけど』
『普通の男で170の65キロってとこだろう。なら、体を低くして、拳を合わせて頭に当てて、ロケットのつもりで思い切りぶつかってやれば吹き飛ばせる。怪我も少ない。関節がどこも決まって無いし筋肉も伸びて無い。関節やら筋肉は、この状態なら壊れ難い。スポーツ工学と言う。但し、プロテクターはしろよ。お薦めはアメフトのプロテクターだ』
『これもお蔵入りね』
『何でだ!』
『人間技じゃないもの』
確かにそうですね。勇気もあんな無茶はしたくありません。
動画は続き、栽由が蛇をバールで押さえています。
「マムシだ!」
ヤバいですね。蛇は厄介ですよ!
しかも毒蛇、マムシです!
「ヤバいな、こんなの出るのか」
勇気は自分の足元に目をやります。
編み上げの安全靴です。まあ、ブーツですね、脛半ばの。
猟師さんに付いて山に入った時の事を思い出しました。
『茂みに入るとマムシを踏んじまう事もある。安全靴なら大抵は大丈夫なんだが、マムシが大きいと、安全靴より上に噛み付く時がある。そうなったら、ナイフで切って毒を絞り出すんだ。膝下で血を止めるのも大事だな』
幸い、動画のマムシは大きくありません。あれなら安全靴より上に噛み付かれる事は無さそうですね。
「もっと長い長靴の方がいいのかな」
動画では、栽由がお爺さんとマムシをイジってますよ。具体的には、口開けて、牙出さして、毒の確認です。皮はぎナイフ大活躍です。
『確かに毒を持っとらん様じゃ』
『はあ、何とか飼育環境を整えないとな』
『組合長、こいつ飼うの?』
『6階より上に行ったらどうなるか実験しないと』
『そうじゃぞ。五キロのウサギは、2階で完全にペットのウサギと化しとる。百キロ近い速さで走り回ったりしとらん。マムシは毒を持つのか確かめねば』
『『メンドー』』
『とりあえず、6階のシャモでも噛ませて見るか』
『それがええ』
画面が変わって丘陵地帯。林も川も見えます。
「8階か?」
勇気は自分の8階デビューを苦い思いで振り返ります。
一人で潜入するも、自然界より二回りほども大きなミーアキャットの群れを前に、スゴスゴと引き下がるしかありませんでした。
動画はボディカメラです。
「一人か?」
小高い丘に巣を構えるのはジャッカルでしょうか。ズンズン進む人物を取り囲むとゆっくりと回ります。何頭いるのか画面には常に三頭は映ります。ゆっくりと輪が縮みます。チラチラ見える武器は棒のようですね。折れないんでしょうか。
輪がゆっくりと閉じられ、ジャッカル達が一斉に飛び掛かって来ました。
『ドウリャ!』
どうやら両手で左右に一間棒を持っているらしく、両側に輪を描くように振り回し、弧を描くよう前に出ます。正面左右を叩き落とし振り向きざまにヤクザキック、そのまま流れるように野球スイングしてバックステップを踏み距離を取ります。
刹那の攻防で四頭を叩き伏せ、一頭を蹴り飛ばし、一頭を吹き飛ばしました。仕留めたのが一頭、動けないのが一頭、戦力大幅ダウンが三頭、小幅ダウンが一頭です。
無傷は四頭、警戒厳にダイヤモンドを組みます。動けない一頭を大幅ダウンが囲み、その前に小幅ダウンが陣取りました。
『おお、健気だな。そう言うの好きだぜ、倒しちまうがな!』
今度はこちらから仕掛けました。
左右の構えからダイヤモンドの正面にアタック。下からの跳ね上げを避けそこねたジャッカルが、グルングルン飛んで行きます。そしてその場でジャンプ、開脚蹴りで左右のジャッカルを迎撃、そのまま大根斬り、正面後方を撃破します。更に、振り下ろした棒を支えに左へドロップキック、奇襲しようとした手負いの一頭を迎撃、そのまま棒を叩き付けて仕留めます。後は蹂躙戦にしかなりません。
「無茶苦茶だ」
『ワヤなヤツじゃな』
『間合いが魔法みたいに変わってる……』
『組合長無茶苦茶だよ!』
ちゃんと仲間がいたようですね。
いや、でないと叱られますから。まあ、これは勇気の知らない事ですね。
『ちゃんと撮ったか?』
『いつでも助けられるように準備してたのに、カメラ何か向けてるわけ無いだろ!』
掛け合いは続いていますが、動画はそろそろ終わりです。
「ジャッカル九頭相手に無傷か」
皇后様と殺ったら皇后様の圧勝でしょう。でも、乱戦なら栽由が圧倒するかもしれない。勇気にはそんな風に感じれました。
「怪物だな。いつか行ってみようかな」
まずはここで結果を残してから、そうじゃないと会いには行けない。そんな資格は無い。
「まだまだ未熟だな、気合入れ無いと」
勇気は怪物を知りました。
負けていられません!
吾、ダンジョンの先駆者たらん!




