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第25話 信仰の地にて

ストックが余り無いので週2回、ストックが無くなるまでですが。




 ダンジョンは、交通の便の良い地に、ある程度まとめた村や地域に、紛争地帯には各戸に、そして僻地に発生しました。

 それらは遠慮したように、それでいて傍若無人に発生しました。

 クレムリンの赤の広場に発生しました。

 北京、天安門広場に発生しました。

 片隅に。

 片隅とは言え、特大ダンジョンです。100メートル×120メートルもの朱色の鳥居です。控えめに言っても目立ちます。

 権威主義的には許すべからざる存在です。

 大統領(ツァーリ)はチェチェンの狂犬を見て無視しました。

 共産党総書記は寝てる間にダンジョンに喰われました。


 では、宗教界隈はどうでしょう。

 イランの宗教指導者は異端認定してダンジョンに喰われました。

 メッカには、ムハンマドが最初の掲示を受けたヒラー山があります。その登山口の傍に中ダンジョンができました。メッカの玄関口、ジッダのキング・アブドゥルアズィーズ国際空港には、特大ダンジョンが片隅に、空港の邪魔にならないように発生しました。メッカ市内にも、所々に小ダンジョンが発生しました。聖地エルサレムの岩のドームの近くにも、小ダンジョンは発生しました。聖地カアバ神殿を管理するワッハーブ派は、それこそ異端認定する気満々でしたが、天敵イランの宗教指導者が先に異端認定したので、一旦見送り、情勢を見守る事にしました。

 これが彼らを救いました。

 やがて、アズハル学院が声明を出します。「ダンジョンはアッラーの祝福である」と。イランの結果を見てとか、日和ったとか言ってはいけません。スンナ派はダンジョンを認めたと言う事が大事なのです。シーア派に対しても大きな影響力を持つのがアズハル学院です。始めにイラン大統領が、次にインドネシア大統領がこれを支持し、イスラームの標準となりました。

 しかし、原理主義はやはりダンジョンには否定的で、過激派ともなると、現実よりもイスラーム原理哲学の方が勝ちます。大抵は異端認定してダンジョンを攻撃、ダンジョンに喰われて行きました。中東・アフリカと随分と平和になりました。泥のモスクと並んで立つ大ダンジョンはその象徴でしょう。

 シリアは革命や独立闘争なので、宗教的過激派がいなくても内戦は続きます。

 

 キリスト教はどうでしょうか。

 正教は、ロシア正教でモスクワの首座主教が喚いていますが、大統領(ツァーリ)の力が落ちると、こちらも相手にされなくなりました。それ以外の正教会は概ね無視を決め込んでいます。

 まあ、ヨーロッパでのダンジョン発生は、チェチェンの狂犬の破滅とセットでしたし、少々教会の前にできたからと言って怒るわけにも行きません。それに、ガス・石油の存在が報告されているのです、異端認定などしよう物なら、暴徒が列を成して教会を襲うでしょう。とりあえず無視です。

 ウクライナの首都キーウでは、首座主教が「ダンジョンは主の愛です」と奇跡認定、積極的な活用を呼びかけています。まあ、1戸に1ダンジョンですからね。商売上がったり以外は問題ありません。戦闘にも積極的に活用しています。

 バチカンは、宣言通り国内にダンジョンが発生しなかった事に安堵しています。ダンジョンに付いては、審問委員会を設けて先送り。正直、聖職者による性的加害問題が内部的に大き過ぎて、身動きが取れません。

 ヨーロッパは、戦争と資源が直結しています。どこも概ね好意的に迎えられました。農家が頭を抱えたのは世界共通で、信仰とダンジョンに、大きな軋轢は生まれませんでした。

 ただフランスでは、焼け落ちたノートルダム大聖堂の再建現場を飲み込んでダンジョンが発生。この評判が大変悪いです。さらに、パリ、シャルル・ド・ゴール広場の凱旋門に、すっぽり収まるようにダンジョンが発生。この評判が、それはもうすこぶる悪いです。暴動が起きて、物が投げ付けられましたが、ここだけはダンジョンが溢れませんでした。さすがに、どこかの英雄神のお遊びで殺してしまうのは忍びなく、見逃されました。その英雄神は神様達からフルボッコです。もう青息吐息で存在を保つのに必死です。

 アメリカでは、大地ではなくダンジョンを開発しろと言うアマテラス様に反発、いくつかの教会や牧師がダンジョンを襲撃、返り討ちにあっています。が、それは少数派。ここでも、アゾフスタリ製鉄所後での惨劇は衝撃的過ぎました。教会は、概ね無視しました。

 中南米では、カトリックではあるものの、先住民の神話や信仰も色濃く、思想的にダンジョンを受け入れ安く、教会は、概ね好意的にダンジョンを受け入れました。先住民との闘争を戦争と宣言して、今までの農家の行為も命令したものと、大統領と軍がダンジョンに喰われたブラジルも、宗教的対立ではありませんでした。

 アフリカ・太平洋・オーストラリア・フィリピンなどのアジアも、概ね中南米のような感じで、比較的好意的に受け止められました。何より、チェチェンの狂犬の二の舞は御免です。アフリカなどでは、水、食料など大歓迎されました。


 ヒンズー教はダンジョンを歓迎しました。まあ、アニミズムの延長みたいな宗教ですから相性抜群です。さらに、インド・パキスタン・ネパールを異常熱波が襲っている最中でもあり、ヒンズー色濃いインド・ネパールは、積極的にダンジョンを利用して熱波を乗り越えようとします。

 でも、ヒンズー教と言えばカーストです。ダンジョンが発生して起きたのは、カースト間の階級闘争です。囲い込みや敵対カーストの保持するダンジョンへの攻撃です。別段指導者がいるわけでもなく、それが悪い方に振れます。カーストごとまとめてアウト、ダンジョンに喰われました。

 イスラム教圏の中でポツンとヒンズー教の島バリ。ここはカーストが緩く、特に混乱もなく収まっています。

 混乱から抜け出ると、ヒンズー教にダンジョン神なるものが発生して、カーストを超えた信仰対象として、ダンジョンの傍には、祭壇や神殿が築かれました。


 仏教は、すなわち、教義道徳付きのアニミズムで、ダンジョンとは最良の相性を持ちます。

 実際、タイ・カンボジア・ラオスなど、混乱なく受け入れられ、「お母さん、お魚取ってきた」と言う言葉がそこら中に飛び交います。

 ただ、ミャンマーは別です。市民が軍政府に対する武器としてダンジョンを用い、完全な内戦状態に陥りました。しかし、軍政府もダンジョンへの攻撃はしないので、内戦は長期化しそうです。

 韓国は仏教国ではありませんが、儒教と並んで韓国文化に根ざしています。ダンジョンが発生した時、儒教道徳にキリスト教文化が短期間で混ざり込んだ歪さを、今回は仏教が救いました。

「仏教は山間部にこもる事で命脈を保った。棲み分けたのだ」

と声明を出します。左右の対立が激しい韓国では、囲い込みや排除が起きそうでしたが、この声明が救いました。大統領の交代期と言うのも、今回はリーダシップの不在が普段の治安の良さを生かしました。そう、別に独占する必要はないのです。

 日本は、まあ、日本です。しかも、アマテラス様が降りて案内してくださったのです。それはそれは盛り上がりました。ダンジョンの傍には小さいながらもお社が作られました。御神体は当然アマテラス様、その写真が祀られました。死者が出ていないか確認する為に作られた事務所は社務所です。ここまでならまあ普通。いつの間にか、巫女装束の玲子様の写真も置かれるようなり、賽銭箱がないと叱られるようになりました。これまずいと皇室は声明を繰り返しますが、1年後、婚約報告会見をのじゃ語会見で乗り越えるまで続きました。まあ、あまり先の事を書くと鬼が笑います、このくらいで。



「おばあちゃん、お芋取ってきたよ。釣れてる」

「あんまりじゃな。しかし、このショップアプリの僻地バナーは良いの。釣り竿は格安、釣りのやり方も教えてくれる。鍋も、明日には買えるじゃろ」

「帰ろ、みんなに配らないと、暗くなっちゃうよ」

「ダンジョンランプが明るいから暗くなっても大丈夫じゃが、帰るとするか。皆に配らんとな。一人1尾とはいかなんだが、まあ、スープにするには十分じゃ」

「魚籠上げるね。わあ重い!」

「ハッハッハ、腕を上げたじゃろ」

 椅子にしていたクーラーボックスに魚を移すと、手早く背負子にくくります。

「芋も少しかせ」

「おばあちゃん、また腰やっちゃうよ」

「何、少しくらいなら大丈夫じゃ」

 ひょいと籠にジャガ芋を移すと背負子にくくります。

「ホイサ、では帰るとするか」

「うん」

 ダンジョンから出ると、ダンジョンに向けて手を合わせます。

「ここにマニ車が欲しいね」

「そうじゃの」

 二人の後ろには、壮大壮麗な山々が広がります。

 シェルパ族の村に、最早ダンジョンは欠かせません。

 男達はトレッカーに雇われて出稼ぎです。これからドルがどこまで役に立つか分かりませんが、稼げる時に稼がないといけません。

「あっ、おばあちゃん、お父さんから電話があった」

「ホイ? どうやってじゃ?」

「サガルマータ(エベレストのネパール名)行きのキャンプにダンジョンができて、ダンジョンスマホをいじってたら、あたし達のダンジョンスマホのリストが出てきたって」

「ホイ、そんな事もできるんじゃな」

「みんなにも聞いてみよ」

「そうじゃな」

 山岳信仰色濃いチベット仏教の村々に、ダンジョンは早くも根付いたようです。

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