第24話 技官達の宴
時は少し遡んじゃ。
と言う訳でダンジョン一斉発生前です。どう言う訳だ?
山崎が持つダンジョンスマホに表示される、『特許申請受理 申請特許を登録します』の文字に、自然と安堵の溜め息が重なりました。
あれから、偽・燃油の燃油化と、ハイドレートのガス化に成功すると、当然総理に報告しました。すると、お誉めの言葉と共に無理難題をいただいたのです。
「量産化に掛かる基礎技術も、山崎君と岩木君なら開発出来るでしょう」
いやいやいや、ラボとインダストリーは別物ですよ。ラボで取った特許が、生産開始までに切れてしまう何て事も、結構とまでは言いませんが、それでも、ままある事です。
「特に重要なのは、ハイドレートの連続ガス化です。可能なら、直にパイプラインに流し込める技術です。一つの可能性に過ぎませんが、戦争が終わります」
そう言われれば否やはありません。やるしかありませんよね。
ここのガスハイドレートは、メタンの他にブタン2%、エタン1%、プロパン10%、ヘリウム2%が含まれていて、それはそれで大変重要なのですが、今回は、メタンハイドレート1択です。ここのメタンハイドレートは、ほぼ純粋のメタンですから、実験には最適です。
ハイドレートのガス化自体は難しくありません。昇華・融解の他に、一定以上の衝撃力で魔石とハイドレートをぶつけてやれば、一瞬にして気化、ガス化します。一瞬です。これが問題です。
ここのハイドレートは女性の握り拳ほどで全て同じ大きさです。砕いても良いですが、なるべく工程は少ない方が良いです。そうなると、その大きさが一瞬で二千倍以上になるのです。爆発的な膨張力と可燃性。小さな爆弾です。それを連続発生させるとなると、大量に扱うわけで、静電気による引火が怖いです。大爆発ですよ大・爆・発!
水の中で反応させてみたり、偽・燃油の中で反応させてみたり、試行錯誤します。反応時の温度を変えたりもしています。
結果、「「ここにある有り合わせの道具では砕くしかない」」です。
今度は連続性の確保が難しく、さっきは使わなかった道具が出てきます。沸騰させた水の中で反応させる、とか定番はやりました。と言うか、
「失敗するはずだが、これやってる間に考えるぞ」
「了解」
のやり取りで、作業が進んだのです。
そこで、「「コンクリ用のバイブレーターって積んでたよな。あれを改造すれば行けそうだけど、無理やり借りて来たのに絶対怒られるぞ。それより、この卓上IHクッキングヒーターに直置きってどうよ」」て、なりました。
悪くなさそう。そんな気がしましたが、外れです。「「振動が足りないか、渦電流が悪さしている。と、仮定して、高周波のマイクロ波って電子レンジ? さすがに無いて」」、と二人して愚痴ると、
「電子レンジありますよ」
と森山先生です。
「「何でそんな物があるんですか!」」
「いや、長丁場を覚悟してましたし、電源の発電機は良いヤツですよ? なら、美味し物食べたいじゃないですか」
森山先生が指差す先には、レトルトご飯にレトルトカレー何かの箱があります。箱です箱!
「ちょうど良い。夜食と言うにも遅いですが、腹ごしらえしましょう! 人間、腹が減るとろくな事しませんよ!」
森山先生のスタッフ達により、アッと言う間に夜食の準備が進行します。二人の後輩の技官や、未だに定期的に顔を出すゼミから拉致って来た学生さんも、手を出す隙がありません。
ぐううう
結構な数のお腹から大きな音がします。
「ほら、腹が減っては戦は出来ぬ。と言います。食べましょう!」
そう言いながらコーヒーの用意をするのが、おそらく森山流なのでしょう。スタッフ達が誰も手伝いません。
電子レンジ、炊き出しかと言いたくなるプロパンガスコンロ、山崎達が用意していた卓上ガスコンロも使って一気に用意します。実験は少し細工して続行中。にらみながらの食事となります。
「いやに手際が良いですね、この方々は秘書ではない…」
「はい、研究所の方のスタッフです。内は屋外が多いですから」
「メタンハイドレートの採掘研究をしてらっしゃる……」
「森山先生、私達よりも本職じゃないですか」
「面白そうに見てましたよ。あちゃーと言うのがあれば口出しして来る人達ですから、楽しかったんじゃないですかね。ささ、食べましょう食べましょう」
そう言ってカレーをパクつく森山先生のこの研究所は、日本海のメタンハイドレート研究をリードしている所で、魚群探知機でメタンハイドレートの昇華気泡を探知するなど、正に、インダストリー的研究所です。もっと大きな幅広い研究もしていて、政治・外交のシンクタンクでもあります。
元々この先生、ジャーナリストで自分で立ち上げたシンクタンクの所長さんです。それが何の因果か参議院議員、激動の人生をパワフルに走り回ってらっしゃいます。
「ばれましたか。楽しかったんですがね」
「この後は手分けしましょうか。実験用バイブレーターは持って来てますから」
「電子レンジはコンビニ用のみたいですけど、もしかして、改造済みですか」
「ええ、弁当温め以外は付属のタブレットでやってください」
「勘ですけどね。バイブレーターでもマイクロ波でも出来るでしょう。でも、多分、用途が違います。あくまで、勘、ですよ。勘」
「ああ、そんな気ぃするわ」
「周波数変えて、昇華分離するガスを選べそうですよね」
「所で、電子レンジ、周波数帯も弄れるでしょ。そこまでやるならラボ用で良さそうだけど」
「ああ、いくら良い発電機と言っても、産業対応まではしてないので、ラボ用だとブレてエラーが出ます」
「そうなんですか」
「ええ、そうなんですよ。周波数や電圧の安定は小型発電機では難しいみたいです」
「知らなかった」
「昔は、リチウムイオン電池の充電も出来なかったりしましたから、相当に良くなったんですけどね」
「それで良い発電機って森山先生が強調されていたのか」
「ええ。多分、そちらの発電機だと、電子レンジは動かないと思います」
「そう何だ」
「わはは、貴男方の経歴で知ってらしたら、こっちがびっくりしますよ!」
やっぱりこの先生は元気です。
「さて、腹もくちました。本当は、寝ろと言いたい所ですが、今日の所は貫徹です。何とか、ハイドレートの連続ガス化を実現してください!」
「では、研究所の方でバイブレーターによる実験をお願いします」
「ええ、マイクロ波の方はお任せします」
そうやって再開された実験は、予想通りの成功とつまずきを重ねながら前進し、ようやく形になったので、ダンジョンスマホから特許申請して見ると、
「振動係数による反応速度の変動値くらい載せろ」
まさかのダメ出しです。
何とか測定して、変動予測値出して、実証実験して、再申請です。
「圧力変動値がないと実用できんぞ。やり直し」
突っ返されました。
「お前らの言う所の魔石の燃費計算がないようだが?」
「消費電力の計算はどうした。産業特許ナメんな」
都合7度突っ返されて、冒頭に至るのです。
もう基礎技術ではなく、実用産業技術です。技術の神様達が、あまりの早さに驚いて、「一丁揉んだれ」とウォーミングアップして待ち構えた結果です。気圧計やら水銀柱式血圧計で反応圧を計算したり、安定した反応に対流が必要だと判明すると金魚のエアポンプで供給したり、神様達は大いに楽しんだようですね。
これだけやって、まだダンジョン発生時間になっていません。天才の呼び名に誤りなしです。森山先生や研究所の道具箱の、「何でそんな物があるかなぁ」
と言うチョイスに、随分と助けられましたが。
「「何でそんな物持ってるんですか、おかしいでしょう!」」
「それで何とかしてしまう貴男方も、随分とおかしな人達ですねぇ」
撃沈です。撃沈ー!
そして冒頭の続きです。
特許申請完了の文字に溜め息を吐いた面々は顔を見合わせます。そして、やがて笑い出しました。ランナーズハイか何かでしょう。
周りの自衛官がギョとしてますが、気にしません。
「飲めない方はいらっしゃいますか」
いないようです。
「秘書を叩き起こして何か買いに行かせましょう。今ならリクエストを受け付けますよ! ただ、おごると言えないのが議員のつらい所です」
30分ほどして宴会が始まりました。
総理への報告を忘れていますが、この頃の総理は、「1兆2千億円が1兆2千億円が」とうなされながら、病院に運ばれる途中です。報告しても無駄だったでしょう。
後、一部自衛官が宴には参加しています。実験中、一番ひどい目を見た人達です。
「大丈夫、傷は浅いぞ」
と言う言葉は、後送される将兵に掛ける言葉で、決して、
「頑丈だね、もう一回頼むよ」
と言う意味ではないはずですがね。




