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Strain:After tales  作者: Ak!La
52/53

第52話 秘密の修行

「はい。最初はグー、じゃんけん、ぽん」

「ぽん」

「ぽん!」

 翌日の事務所。リアンの目の前で少年二人がじゃんけんをしている。ザカリーの方が僅かに先に出した────が、結果はルーカスの負けだ。

「だー! なんで! もう十回連続で負けてる!」

「ルー、分かりやすい……」

「インチキだ!」

 ルーカスは憤慨している。困った様子のザカリーは、リアンを見上げる。

「これ……なんの意味があるんですか?」

「ん? あぁテストだよ。簡単な。……まぁ結果は俺の思ってた通りというか……」

「?」

 リアンは二人の間に屈むと、ルーカスの方を見る。

「何で負けたと思う?」

「……えー、ザックがおれの頭読んでるから……」

「うーん、半分正解かな」

「え?!」

 そしてリアンはザカリーの方を見る。

「ルーカスが次に何を出すか、分かって出してるだろ」

「……まぁ……」

「なんで?!」

 ルーカスは不思議で仕方ないようだ。だがリアンにはそのからくりが分かる。

「じゃあ次は俺。はい、じゃんけん、ぽん」

 二人ともグー。ザカリーは眉を顰めた。

「……おじさんは分かりません」

「だろうな。だって初めてやったし」

「どういうこと?」

 疑問符を浮かべるルーカスに、リアンはにこりと笑うとザカリーに言う。

「ルーカスの癖が分かってるだろ」

「何となく……」

「じゃんけんだけじゃない。君はある程度ルーカスが次に何をするか分かるはずだ」

「…………」

「そうなの? なんかすげー超能力とか?」

 やや興奮気味なルーカス。リアンは首を横に振る。

「いや。君とよく一緒にいるから、君の行動の僅かな癖をザカリーは学習して予測してるだけだよ」

「えー?」

 と、ルーカスはハッと何かを思い出したようだ。

「……そう言えば! ザック、あいつらの攻撃わかってるみたいだった」

「へえ。初めて見る動きでも対応出来るのか」

「あのときは……必死で」

「なるほど」

 これはまだテストが必要そうだ。と思いつつリアンは質問を続ける。

「君は、ある程度一緒にいる人間なら次の行動が分かる?」

「……ふだんそんなに考えてないです」

「そっか……」

「────あ。ザック時々おれがころぶ前に助けてくれるよ」

 ルーカスがそう言う。リアンは頷いた。

「危機的状況や、じゃんけんみたいな勝負ごとの時には無意識に使えてるってことかな……まだちょっと経験が足りないみたいだけど」

「…………」

 ザカリーは困った顔をしている。今何をしているのか、よく分かっていないようだった。リアンは言う。

「君のそれは特殊能力だよ」

「……?」

「誰にでも出来ることじゃない。今はまだ芽って感じだけど、もっと能力が上がれば君はどんなことだって数秒先の未来を予測できる」

「…………そうなんですか?」

「君のおじいさんがそうだった。……あの人はほんとに思考読んでる感じだったけど」

 父親の方は分からない。そういう感じではなかった。だとすると、この子はかなりの逸材だ。身体能力自体も高いようだし……。

「……体育の成績、良くないんだっけ?」

「ザックは五段階の二だよ」

 ルーカスが答える。リアンは困惑する。

「えぇ……なんで」

「わからないです……」

「あいつらたおした時みたいなら、ぜってー飛び箱も十段いけるって」

「むりだよ……」

 体の動かし方を分かっていないのか、それとも単に普段は無意識にセーブしているのか。体力や筋力がないのは確かなようだし、まずはそこからだ。

「よし分かった……」

「何がですか」

「鍛える余地がいーっぱいあるってこと」

「ね! おじさん! おれは! おれはなんかないの?!」

 ルーカスがだんだんと跳ねながら言う。彼は恐らく、運動が得意なほうだと思うが……。

「……うーん、ごめん。これから見出す……」

「えー!」

 ローエン的には何だ。彼の戦闘センスと言えば……単純なフィジカルしか思い浮かばない。あと彼の才能と言えば……料理が上手い。

「……ルーカス君、家庭科得意?」

「カンケーねーじゃんそれ!」

「ないね、ごめん」

 ふう、と息を吐く。そしてぽんと手を叩いた。

「よし、じゃあ早速修行を始めよう」

「え! まじで! なんかすげー技とか?!」

「何を想像してるんだ……」

 やれやれ、と首を振ったリアンは外を勢いよく指差した。

「まずは事務所のブロックの周りを十周走る!」

「えー!」

「えーじゃない、基礎体力がなきゃ何も出来ないぞ」

「えー!!」

 千里の道も一歩から。こうして、少年たちの秘密の修行は始まったのだった。



「……えぇ? ナサリオファミリーが?」

 スラムの駐在所にて。相談に訪れたリアンを、そこにいたフィンリーが迎えた。

 彼女はすっかり元の調子だ。リアンは頷いた。

「タレコミがあってさ。ほら、前に密売人を捕まえたじゃんか。アレの仲間が最近よく固まってウロウロしてるって……」

「なんかフンワリしてへんか。……まー、それについてはウチらも調査は続けてるけど……」

「あと、AFTを目の敵にして、つけ狙ってるっぽい」

「……あ?」

 目を眇めるフィンリー。リアンはもっと可愛らしい受け答えは出来ないものかと彼女に思う。

「────襲われたんか?」

「いや。まだ実害は出てないんだけどね。そういう噂を聞き及んだというか……」

「なんかフンワリしてへんか?」

「噂なんてそんなもんだよ」

 疑いの目が刺さる。すごく痛いが、それをリアンは顔には出さない。

 フィンリーは「ふぅん」と受付カウンターに肘をついた。

「なんで狙われるんや?」

「こうなってるからだろ。警察がいるようになって、動き辛くなって……折角の無法地帯がなくなろうとしてる。これって犯罪者的にはすっごくマズイことだよ」

「犯罪者目線な意見をどうも。まぁそれもそうか。ウチらは縄張り(シマ)荒らしってこと……」

「そういうこと。……なぁ、どうしよう。このままだとあの子たちに危険が及ぶかも」

 活動をやめる訳にはいかない。これでは完全に反社と対立構図になる。それは大変よくない状況だ。彼らは何でもやる。

「うーん。言うてもな……ダミヤくんとも相談した方がええで」

「……殲滅するしかない?」

「アホか。そんなんしたらまた新しいのがやって来るだけや」

 そうだった。そもそもスラムにはアルダーノフファミリーがいて、それがいなくなったが為にナサリオファミリーが来たのだった。

「じゃあ……」

「現実的なのは……そうやな。AFTをウチらが護りつつ、奴らが妨害でけへんレベルまでプロジェクトを大きくする。それが一番ええと思うけど?」

「……本当にマフィアを分かってる? あいつら何でもするよ」

「ウチを誰や思てんねん。────心配なんやったら、うちかダミヤ君があの子らの護衛につくわ。それでええやろ」

「それは確かに安心だけど……」

「どうせじっとしてても暇なんよね」

 はぁー、とフィンリーは目を伏せてため息を吐く。駐在所に籠っているのは彼女の性分に合わないらしい。

「────で」

 フィンリーは片目を開けてリアンを見上げた。

「……アンタ最近、なんかコソコソしてへんか」

「俺がコソコソしてるのはいつもの事だろ」

「いやー……ちゃうわ。ウチらに隠し事しようっていうコソコソやわ。ウチは鼻が利くねんで」

「…………」

「さっきのなンかフンワリした情報も……なぁ?」

「違うって。情報提供者が匿名希望なの。よくあるんだよこの界隈じゃ……」

「フゥン」

 目が怖い。だが逸らさない。

「…………ホンマに、ローエンの居場所、知らへんねんな?」

「知らないよ。俺だって頑張って探してる」

()()()()、ねぇ」

 フィンリーは体を起こすと、伸びをする。

「アンタは、頼まれたモンは何でもあっちゅー間に突き止められるモンや思てたわ。買い被りすぎやったか?」

「……俺にだって限界はある」

「そぉか? ウチらが初めてローエンらしき情報を持ってった時……アンタ何日で見つけた?」

「…………」

「実はもうとっくに見つけて会うてるんとちゃうん」

 疑いの目。彼女に隠し通す必要はあるのかと、リアンはそう思う。だがローエンは言うなと言った。それを安易に破ろうとも思わない。

「────俺だって、会えるものなら会いたいよ。色々訊きたいことがあるし……」

「…………」

「一人じゃ色々大変だし」

 それは本音だ。嘘じゃない。顔を曇らせるリアンに、フィンリーはもう一つため息を吐いた。

「……分かったわ。ほな、アイツの居場所が分かったら真っ先に知らせてや。もっかいぶっ飛ばさんと気が済まん」

「…………分かったよ」

 それに関してはリアンの知ったことではない。フィンリーと顔を合わせて目一杯殴られろ、と胸の中で毒を吐いた。自分の苦労を思えば、それくらい願ったってバチは当たらない。

「ほんで? 用は終わり?」

「……まぁ。とりあえず例のマフィアのことだけ相談しようと思って……」

「そか。ええと、この後は? AFTの活動行くんか」

「うん」

「あー……護衛いる?」

「いや。今日は教会で会議みたいだから大丈夫」

「そか……必要やったらいつでも呼んでや。ウチでもダミヤくんでも、他のでも」

「分かった。ありがとね」

 そう言ってリアンは駐在所を後にした。



「じゃあ、第何回目かの活動会議を始めます」

 教会である。壇上に立ったアントニオは、集まった皆にそう告げた。

 リアンは皆の一番後方に座っている。相変わらず集団で座る場所が左右に分かれている。リアンから見て右手の座席にはアランが一番前にいて、その横にジェイがいる。後ろにはアマリアがいて、シェリルとメア、そしてレノとラビがその横に並んでいた。左手の一番前にはブルーノやローレルたち初期メンバーが一列に並んでいて、その後ろにソニアとリノ、そしてライリーとルーシーが並んでいた。会議の時にはそういうものとしてこの並びが定着している。

「ええと……病院の件は少し形は変わったけど、協力してくれる方が見つかりました。……どうぞ」

 アントニオが促すと、壇の脇に控えていたルイが静かに歩いて来た。

「皆さん初めまして。ルイ・ハドックと申します。フィリアスさんの紹介でご縁を頂きました。よろしくお願いします」

 90度のお辞儀をするルイ。メンバーが僅かにザワザワしている。無理もない。第一印象としては“白衣を着たマフィア”……だ。相変わらず派手なシャツを着ている。口を開けば真面目な医師なのにあれは何だとリアンは思う。スラムの人々の怖がるのではないか? 人の趣味にとやかく言うつもりはないが、やや不安ではある。

「……ということです。えと、皆んなの紹介はおいおいで良いですか?」

「はい。時間もないでしょう。続けて下さい」

 ルイはそうあっさりとした回答をすると、壇を降りてリアンの隣に座った。

「……こちらにフィリアスさんのご子息がおられると聞いていたのですが、今日はおられないのですね」

 小声で彼がそう言うので、リアンは思わずドキリとする。そうか、アルベールが息子のことを彼に話していてもおかしくはなかった。

「あぁ……まぁ、そうスね……今はいないです」

「そうですか。お会い出来ると思っていたんですが……」

 がっかりした様子のルイ。恐らくだが彼が思っているほどローエンは高尚な人間ではない。リアンは逆に彼がここにいなくて良かったと思った。いや、いずれは戻ってくる手筈なのだから、それまでに随分と期待させてしまっては悪いか?

「……あの。ローエンはその……あなたが思ってるよりロクでもないです」

「はは。随分と慕われているようですね」

「いや……」

 何故そうなる。もういい。放っておこう、とリアンは口を噤んだ。

 壇上ではアントニオが会議を進めていた。

「じゃあ次の議題に。警察署────駐在所の次に何を作りたいか、何をしたいか、改めて議論しよう。意見がある人はどうぞ」

 すると、ソニアが手を挙げる。

「……ソニア」

「トニーからは何かないの?」

「俺……は、そうだな……スラムの人が働ける商業施設とか考えてたけど……」

 と、彼はチラリとルイの方を見る。

「そういうのはスラムに建てるのは現実的じゃない……働く場所を提供するのは、社会生活を送れるようになるために必要なことだと思うけど、金を落とす人がいない場所での商業は上手く回らない」

「そうだね」

「まずは俺たちのカフェで雇うとか……そういうことを考えたんだけど」

 と、そこで手を挙げたのはアランだった。

「反対。あそこスラムから通うにゃ遠いんだよ。見窄(みすぼ)らしい格好で街を歩かせるのか? そもそもイメージがどうなんだよイメージが」

「……意外な意見だな」

「何が。俺たちを店員として雇わないから、そういうの気にしてるんだと思ってたよ」

 アランは腕を組んでため息を吐いた。アントニオは目を細める。

「……働く気があったのか?」

「金が貰えるならね。料理なら俺もちょっと出来るし。親父のこと昔は手伝ってたから────」

「……? 料理屋なのか?」

 アントニオに言われて、アランはムッとする。

「酒場だよ。スラムの北側にある。……今はゴロツキの溜まり場になってるけど」

 と、その目は恨めしそうに今はいない誰かを思い浮かべているようだった。

「……今もやってる商業施設……」

「そんな大層なものじゃない」

 アントニオはしばらく考え込むと、顔を上げた。

「……その酒場……俺たちに助けさせてくれないか」

「あん?」

 アランは怪訝な顔をする。変な言い回しだ。アントニオは拳を握る。

「元々はそうじゃなかったんだろ? お前の家。……だったら、元に戻そうぜ。ゴロツキの溜まり場っていうのは、俺たちの目指すものの中では正すものだ」

「バカ言うな。アレはマフィアの連中だよ。下手に刺激すりゃ店がどうなるか……」

「じゃあ諦めるのかよ」

「…………」

 アランは葛藤しているようだった。リアンは考える。アランの実家は、かつてあの神父と……ローエン、あるいは自分たちの会合場所だった。当時は神父が経営の支援をしていた。他に客はちらほら入っていた記憶がある。もっとも、会合時は貸切だったが。正常に回っている店だった。

 それが、十年前のあの日崩れて────それが、アランがローエンを恨む理由のひとつであったはずだ。

 これは使える流れでは? とリアンは思う。後押ししたいが、この決断を下すべきは今壇上に立つ青年と、その前に座る青年たちであるはずだ。自らの意思で進んでこそ、意味がある。

「なんとか……したいよ。元の、平和だったあの頃みたいに……」

 アランは呻くようにそう言葉を絞り出した。そういう言葉が彼から出て来るのは、リアンには意外だった。彼は闘争を望む性分だと思っていたからだ。だが、実際のところは違ったのかもしれない。

 アランは顔を上げると声を張る。

「でも、そんなのどうするんだ。あいつらをどうやって追い出す」

「それは……これから考えるんだよ」

 そしてアントニオはリアンの方を見た。

「……出来るよね?」

「────うーん。そうだな、出来ないことはないと思うけど」

 そう答えて、リアンは立ち上がる。皆の視線が集まった。

「まずは機を見て、現場を見に行かないか?」



#52 END

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