表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/21

20 サンクリフ

 〈霊峰サンクリフ〉に行けばなんとかなる。

 そう思っていた時期がありました。


「というか大きいな…」


「おう…」


「そうでござるな…」


 遠目で見て嫌な予感がしたのだが、近づいて改めてわかった。

 大きい、大きすぎる。

 エベレストよりも遥かに高く、しかも裾野が広い富士山型。

 闇雲に探しては何十年かかるかわからない。

 空には遠目からでも見えるような物が飛んでいるので空から探すのも無理だろう。

 しかし、千里の道も一歩から。

 探さなければ始まらない。

 とりあえず、『なぜなにLost Eden』にのっていた〈全てを知ると言われた者〉が最後に立ち寄った村へと向かった。



―――



「あん? あん人に用事だべか?」


 第1村人に話しかけて聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

 よほど驚いた顔をしたのだろう、第1村人がぎょっとした顔で若干引いていた。

 気を取り直して、聞いてみる。


「〈全てを知ると言われた者〉ですよね?」


「んだ。言い伝えられてる格好で来るべ」


「いつ来るんですか?」


「いつっつうてもその時々で違うわな。まあ大体年1ぐらいだべ。この間来たばっかだから当分来ないべ」


「そう、ですか」


 がっくしという感じで肩を落としていると第1村人が言葉を続けた。


「そんなに合いたいなら自分から行くと良いべ」


「?! 何処に居るか知ってるんですか?」


「んだ。そこから森に入ってずーっと行った川を遡った所に住んでるって言ってたべ。

 流石にモンスターでるだがあんたら冒険者だべ? なら大丈夫だべ?」


「ありがとうございます!」


「…いやー、さすがにここまで簡単にわかると思わなかったな」


「…拙者も同感でござる」


 何があるかわからないので十分準備を整えてから森に入った。


 川を見つけるのに一月、遡っていくのに更に二月かかった…



―――



「こ、ここか……」


 森に入れば巨大な狼に襲われ、川に着けば巨大な魚が飛び出てきて、それを狙った巨大な熊に巻き込まれ、周辺の生命を喰らう鹿に出会い、ドラゴンを食べる巨大梟に恐怖し、やっとここまでたどり着いた。

 川の終点には谷があり、大きな瀧が天から落ちている。

 川には簡素な橋が架かっており、その両岸には森が開けた広場があり、もさもさとした住居らしきものがいくつも並びもじゃもじゃとした何かがうごめいていた。


「!?」


 一瞬身構えたが、襲ってくる様子は無い。

 よくよく見ると色の着いた雪男のような感じで、頭頂部に三角の耳が付いていた。

 その中の1体がこちらに気付き、声を上げた。


「マー」


 その声につられ、次々ともじゃもじゃがこちらを見つめ声を上げる。

 そして、橋の上の人物も振り向きこちらを見てきた。

 先ほどまではいなかったように見えたが、完全に気配を消していたのだろうか?

 魔法使いが良くつけているようなつば付きのとんがり帽子に、体を包むマントを羽織っている。

 釣竿を引き上げ、その人物もまた声を上げた。


「〈トロール〉たちどう……黒きものと白きもの、これも運命か……

 ようこそ、異界からのお客人。あなた達の来訪を歓迎しましょう」



―――



 釣竿の人物に促され、もさもさの家の中へと入った。

 外見とは違い、中は中々のものだった。

 全員が席に着いたので話を始めることにした。


「ベル…ポンだ」


「シロでござる」


「マオです。〈全てを知ると言われた者〉を探しに来たのですが、あなたが〈全てを知ると言われた者〉ですか?」


「そう、そう呼ばれたこともあったね。

 私はヌクス・ロー・ハニ、かつて世界が滅びるきっかけを作った者だよ」


「ヌクス・ロー・ハニ?! じゃあこれの作者?!」


 『なぜなにLost Eden』を取り出すと満足げにうなずく。


「万が一に備えて仕込んでおいたけど、役に立ったようだね」


「では、〈彼方へとつながる道を作る術〉とは…」


「ご期待通り異界とこちらをつなぐものだよ」


 喜びに沸き立つが、一つ見過ごせない事があった。


「…万が一とはどういうことでござるか?」


「奴らがそちらの世界を見つけてしまったということだよ」


「奴ら?」


「そう、神々の奴ら。あの狂乱ぶりを目にしたら流石に本当のことは言えなくてね…色々とごまかしたのさ」


「つまり、どういうことですか?」


「んー…まあ、単純に言うとその本に書かなかったことだよ。あまりにも馬鹿馬鹿しいというか、そんな理由で。

 世界を滅ぼしかけたのがただの犬猫論争だった、なんてね」


「はあ?」


「かつて、異界から呼び寄せられたのは一匹の黒い子猫と白い子犬だった。

 闘神と聖神は白犬を可愛がり、隠神と魔神は黒猫を可愛がった。

 挙句、どちらが可愛いかで言い争い、掴み合いの喧嘩になって、気が付いたときには黒猫も白犬も寿命で死んでいたということさ。

 教えた術式は嘘入りでこの世界内でしかつながらない筈なんだが、流石に気付いたかな」


「えー…」


 狼とか居なかったっけ、この世界。

 というかそんな理由で世界崩壊とか…


「…そんな理由で巻き込まれたと」


「たぶんね。見たところ長生きしそうだし、それもあったのではないかな?」


 このまま戻ってもまた引っ張られるかもしれない。

 そうだ、同じ神なんだから猫神の姐さんに相談してみよう、そうしよう。

 遠い目をしながら丸投げの結論を出し、本題に入る。


「まあ、とりあえずそれらの話は置いておくとして、その術教えてもらえますか?」


「いいよ、ちょうどよかったし」


 ちょどよいとはなんだろう?

 ふと考え込もうとしたが、声をかけられ中断される。


「ところで〈魔術士〉はいるかい?」


 手を上げると近づいてきた。


「じゃあ、行くよ。我が内の知、かの者の内へ《インプリント》!」


「へっ?…ぎゃぁぁぁああーーーーー!!!」


 頭に載せられた手から物凄い電流が全身に走ったような気がした。

 永遠にも感じる時が過ぎ、気が付いたときには自分の知識ではないものが頭の中に浮かんでは消えた。


「ああ、まだ目がチカチカする…」


「ちゃんと移ったか確認してくれないかな?」


 言われて〈コンパネ〉を開く。

 覚えていない魔法がいくつも載っていた。

 その中の一つが《ファラウェイ》―彼方と此方をつなぐ魔法。


「大丈夫です」


「そうか。よか…った…」


 返事を聞くと、途端に倒れた。


「大丈夫でござるか?!」


「ああ…心配…しないで……こうなるのは…決まっていたこと…だから…」


 体が端からさらさらと崩れていく。


「まさか、今の魔法で?!」


「そう…とも言え…る……違う…とも言え…る…

 あの本…に…不老不死と書いた…が…嘘…だ…

 ただ…この術を…伝えるため…に…延命してい…た…

 伝えた…から…消え…る…

 嘆く…ことは無い…

 どうせ…もうすぐ…寿命だった…」


「ハニさん?!」


「…ああ…ポチ…タマ……迎えに…来てくれた…んだ…ね…

 待たせ…て…ごめ…ん…

 …今行く…か…ら……」


 全てが砂のようになり風にさらわれる様に消えた。

 後には着ていた装束だけ残る。

 呆然となったが、これだけでも弔おうと家を出ると、もじゃもじゃも崩れ落ち消えていくところだった。

 辺りを散策すると、石造りの墓が2つ並んでいた。

 そこに新たに墓を作り、装束を納めた。



―――



「…さて帰るか」


「…そうだな」


「…そうでござるな」


 詠唱を確認するために今一度〈コンパネ〉を開き、《ファラウェイ》を確認する。

 しばし、時間が流れる。


「…………どうしたでござるか?」


「――ない」


「はあ?」


「MPが足りない…」


 風が通り抜けた。

 とりあえずレベル上げが必要だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ