17 Cランク
「これはボクのー!」
「何言ってるのよ! 私のに決まってるでしょ!」
がたごとと馬車が行く。
引いているのは薄緑っぽい馬―〈グラスホース〉というらしい。
そういえば〈グラス~〉だと薄緑、〈フォレスト~〉だと濃緑、〈ケイブゴブリン〉は茶色だった。
それにしても《テイミング》あるんだろうか?
あると便利だな、と現実逃避しつつ引っ張られている。
流石に依頼者の子供たちに教育的指導するわけにもいかない。
〈スォーロ〉までの隊商の護衛依頼だったはずなのだが、なんでこんな事になっているんだろう?
まあ、ろくに敵が出ないからなんだが。
おかげで精神集中の名目の元と《ファイブヴァーチャーズ》や属性魔法の熟練度は溜めれたが横着せず、1人で来たほうがよかったかなと少なからず後悔している。
「ははは、二人とも困らせては駄目じゃないか。それに依頼主はパパだぞ。今は私のに決まってるじゃないか」
…訂正、すっごく後悔している。
もう少しの辛抱だ、頑張れオレ、負けるなオレ……
丘を越えると、道の先に大きな都市が見えてきた。
―――
なんだかんだあって、〈リシカ〉へ戻ったのは黒熊を倒してから更に10日後の事だった。
ギルドの中はがやがやと慌しく動いていた。
「――まだ見つからんのか。第十四次捜索隊の編成、早くしろ!」
「動ける人員が足りません。もうしばらくお待ちください」
「何かあったんですか?」
「?!! ……いえいえ、何でもありません。買取ですか?」
「それもあるが、とりあえずこれから」
ことっと中品質の〈ソウル:フォレストベア〉を出すと、一瞬目を見開いて驚いた。
「?! ……品質に問題はありませんね。それではこれが〈Cランク認定試験許可書〉です。なくさない様気をつけてください」
受け取ってすぐ〈アイテムポーチ〉に大事にしまう。
買取窓口で買い取ってもらう予定のものを出すとその量に目を丸くしていた、一部防具に回すから全部ではないんだが…
査定中に、ドロップ品で一つ何に使うかわからず戻ったら聞こうと思っていた物をものを思い出したので、聞いてみる事にした。
「すいません、これ何に使えるんですか?」
「あ、はい。拝見し、ままままままま…………」
「あの?」
「ま、〈満月石〉?! 〈フルムーンベア〉の?! いったいどこで?!」
「いや、襲ってきたのを倒して剥ぎ取ったんだけど?」
買取窓口さんが物凄い表情で硬直している。
周りも少し騒がしい。
「そんな馬鹿な」「嘘だろ」「信じられん」「いやむしろ」「もふもふ」「かわいいは最強」「キシャー」
驚愕からなんとか立ち直った買取窓口さんが恐る恐る聞いてくる。
「…流石に夜にではありませんよね?」
「ああ、日中だけど」
「それならば納得です、ナットクデス……」
どこか遠い目をしながら自分に言い聞かせてるようだった。
話を聞くと成長度によって〈ニュームーンベア〉、〈ムーンベア〉、〈フルムーンベア〉に変化するB級モンスターで、夜間月が出ている間はダメージ回復速度が異常化し、特に〈フルムーンベア〉はほぼ無敵状態になりA級に分類されるという。
〈満月石〉は防具や装飾品の材料になるそうだ。
査定が終わり代金を受け取ると防具屋へ向かった。
防具屋でも似たようなやり取りを行い、〈満月石〉と〈満月熊の皮〉を組み合わせる事で自動修復する装備が出来るというのでそれを注文した。
5日ほど掛かるというので、その間金稼ぎに勤しんだ。
ボロボロにしたから最低品質の皮だったのに出来上がりは見事なものだった。
ただ、毛の色がほぼ同じ―正確には真っ黒ではなく目を凝らして何とかわかる程度の物凄く濃い緑―なので、ちょっと膨れているが着てない状態とパッと見変わらないのが難点だ。
〈満月石〉の欠片があまったからと、チョーカーをおまけでくれた。
中央に丸く磨いたビー玉くらいの金色の石が付いている。
後で〈コンパネ〉で調べたら〈MP自然回復上昇(微)〉が付いていた、大事にしよう。
ギルドに行くといつもより空気が湿っぽい感じがした。
ちょうど〈スォーロ〉までの馬車の護衛依頼が出ていたのでそれを受けた。
―――
依頼完了書を貰い、すぐに〈スォーロ〉のギルドへ向かった。
中に入ると、例によって厳つい奴らが野次ってきた。
大都市な分馬鹿も多いのだろう、と無視して斡旋所へ向かい、完了書を出した。
「…坊主盗んだのか?」
疑わしそうな目つきでこちらを見ながらそんな事を言ってきた。
普通そう思っても確認とるのが先だろうに、職員の質が悪いのか此処?
探索拠点の予定なのにな…そう思いつつ答える。
「閉口一番そう言うのがこのギルドの礼儀なんですか?」
「ぐっ!! ……調べてくる。そこで待ってろ、逃げんじゃねぇぞ!」
程なくして苦虫を噛み潰したような顔で報酬を持ってきた。
「ほらよっ!」
「あと、ついでにこれ」
「まだ、何か…〈Cランク認定試験許可書〉だと?! ……本物だ……」
手元の道具ですぐに確認を取り、目を丸くしている。
完了書も同じ仕組みにすればいいのに、コストパフォーマンスの問題だろうか?
「…………Cランク認定試験の説明をします。〈グラスGラビット〉〈マウンテンサーペント〉を30体ずつ退治してきてください。
討伐証明部位はそれぞれ耳と牙です。何処にいるか探すのも試験の内ですのでここでは説明いたしません」
「わかった」
用事はもうないので、ギルドを出て書店を探す。
ようやく見つけたが、中級以上はCランクでないと売れないと言われた。
ついでにモンスターの生息区域とか載っているのが無いか聞いたら、図鑑と地図を出された。
結構な値がしたが、他にも使える事はあるだろうと買っておく。
読めないがインベントリから使えばどうにかなるだろうと行動すると、〈コンパネ〉に図鑑とMAPの項目が現れた。
場所は判ったし、さて向かうか。
―――
人間の腰ほどの深さのある草原、オレは完全に埋まって飛び上がらないと先が見えないそんな場所。
そこに顔を突っ込んでもぐもぐしているのが遠目からでも見ることが出来る緑色の兎―〈グラスGラビット〉、体長は3mはあるだろうか。
遠くからでも見渡せるから《クリエイトキャットゴーレム》は止めて置こう。
これだけ大きければ新は戦えただろうか?
(いや、無いな。ふわふわの毛で覆われている時点で奴に正気は無い)
ある意味失礼な事を考えていると耳がこちらへ向いた、気付かれたようだ。
視界が悪いので今は《リンクスアイズ》を使っている。
熟練度上げの成果と〈満月石のチョーカー〉などのおかげで、常時起動していても消費と回復量が同等になったので問題は無い。
ドムドムと地面を踏み鳴らすと、ひょこひょこと他の個体が湧いて出て、総勢6体で突っ込んできた。
「眠りの霧よ、敵を包め《スリープミスト》、麻痺の霧よ、敵を包め《パラライズミスト》、毒の霧よ、敵を包め《ポイズンミスト》」
進行方向に発生させると3体倒れた、内1体は後続に踏まれた際に起きて向かってきているが。
毒で少しむせたみたいだが、効果あったかは今のところ判らない。
「魔力の弾丸、散りて敵を撃て《マナブレット》!」
ジャンプして一気に距離を詰めてきた先頭の2体を撃ち落とす。
散弾化し威力は分散するが、面で抑えれるので使い勝手が良い。
受身も取れず落下する〈グラスGラビット〉の1体に近づき、頭部に《マナショック》を打ち込む。
ボフッという音と共に目玉が飛びで、耳から血を噴出した。
残る2体が近づいてきたのでそちらへと向かい、放ってきた蹴りを〈ツディーヌの森〉で身に付けた三次元機動―木がないので代わりに魔力の足場―で回避し後頭部にとりつく。
振り払おうと動くが、自分の体を支えるくらいにはStrはあるのでそうそう落ちない。
見かねたもう一匹が叩き落そうと蹴りを放ってきたが、避けてそちらにとりつき、再使用制限時間が切れた《マナショック》を打ち込んだ。
後頭部にまともに蹴りを入れられた1体は悶絶している。
受身取り損ねた1体が立ち上がってきたが、悶絶した1体と合わせて同じように片付け、痺れている2体に止めを刺して全部回収する。
高く売れる〈ソウル〉は無かったが実力は読めた、次は《ミスト》系がなくても良いだろう。
草原を見渡し、次なる獲物へと向かった。
―――
黒熊を倒した後〈ツディーヌの森〉で身に付けたのは二つ、一つは三次元機動。
もう一つは部位破壊。
正確には部位破壊のために三次元機動を身に付けたのだが。
〈CG・グリーン〉だけで〈フォレストベア〉を倒せるようになったある時、倒したのを良く見ると引き裂かれた部分から宝石のようなものが見えた。
抉り出してみると〈ソウル:フォレストベア〉、それが埋まっていたのはちょうど心臓に当たるところだった。
もしかしてと思い《リンクスアイズ》で観察しながら、〈CG・グリーン〉に倒させていると偶に止めを刺したときに全身のマナが凝縮する場合がありその時にはソウルが出来ていた。
そして、魔法で攻撃した場合、あたった部分を中心にマナが薄れるのが見えた。
すぐに戻るが、そうすると全体的に薄まっていき、倒れる頃にはほとんど無くなっていた。
つまり、それが〈ソウル〉ができる仕組みなのだろうと判断した。
ならば、魔法を使い一瞬で倒したらどうなるだろうと次に考えた。
幸い《マナショック》がある。
〈フォレストベア〉程度ならマナを薄れさせるどころではなく、消し飛ばして肉体にまで直接影響を与える。
では、何処を狙えばいいか。
弱点と考えれば心臓と脳だが、胴部は体の厚みの分マナが濃くなっているので、頭部を狙うのが良いだろう、
そして幾度と無く繰り返し、予想は当たり成功を収めた。
最初は〈CG・グリーン〉に抑えてもらっていたが、その内縦横無尽に動いて自力で狙えるようになった。
―――
〈草原大兎の耳〉と〈山岳大蛇の牙〉を30ずつ揃え、ギルドへと戻った。
〈マウンテンサーペント〉は山肌に擬態していたが、《リンクスアイズ》に見抜けないわけが無い。
角材くらいの太さでそれほど大きくなく、大抵1体で居たため楽に狩れた。
広い山岳のあちらこちらに分散していたため、倒しに行くまでが一番時間かかった。
「……規定数ありますね、Cランク認定試験成功です。
おめでとうございます。更新いたしますので、ギルドカードをお渡しください」
ギルドカードを渡すと更新加工をしに奥へと向かった。
待っていると後ろの方が騒がしくなった。
「お帰りなさい、ベルクハントさん。今回は何処まで?」
「おうよ。〈シクー湖〉までちょっとな」
「あんな所まで?! 流石ベルクハントさん」
こっちには関係なさそうだ。
まだ戻ってこないな、更新に手間取っているのだろうか?
「…………あ、れ? マオ、か?」
「うん?」
振り向くと、丸々とした巨体が立っていた。
鉄板に柄を付けただけの様な代物を背負い、金属鎧に身を包み、おっさんくさい顔に驚愕の表情を浮かべたまま固まっていた。
(……誰だ、こいつ?)




